鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人

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lv.20 遺跡内部へ

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   [Ⅰ]


 襲い掛ってくるヤグルを倒しつつ、俺達は廃墟の街に足を踏み入れた。
 とりあえず、城塞の前にいたヤグルは粗方片付いたが、この分だと、遺跡の中にも相当数がいそうだ。
 今回の旅で、ラグリアの木クズをどれだけ持って来ているか知らないが、それが尽きる前に調査を終えないと、ヤバそうな感じである。
 まぁそれはともかく、中は廃墟も良いところであった。
 人が住んでいる形跡なんて微塵もない。
 好き放題に伸びたイネ科のような雑草や雑木に埋もれ、全容を把握するのは難しい状態である。
 だが、1つだけ目を引くモノがあった。
 それは何かというと、この廃墟の中心にある、大きな灰色の建造物であった。
 マヤ文明の神殿を彷彿とさせるピラミッドのような石組みの建造物で、高さもそこそこある。20mは優にあるだろう。
 この廃墟の中で、その建造物だけは、原型を留めた状態で残っているのである。
 というか、存在感が凄い。道中、ニーサさんが言ってたが、このアラトリアの遺跡は、謎の遺跡群として、この辺りでは有名なようだ。
 いつ頃までここに人々がいて、そしてどんな文明を持っていたのか、全然わからないとの事であった。
 一説には、マティスの祖先がここに居たのではないか、と云われてはいるそうだ。
 とまぁ、そんなよくわからない遺跡だが、もしかすると、ある存在なら知っていてもおかしくはない。
 それは勿論、あのペンギン野郎だ。
 今度、暇が出来たら訊いてみるとしよう。
 それはともかく、遺跡の中に入ったところで、ロイアスさんはそのピラミッドみたいな建造物を指さした。

「皆、とりあえず、あそこへ向かうぞ。マティス公が行った事前調査だと、あの辺りが怪しいみたいなんでな」

 その言葉を号令に、俺達は廃墟の街を慎重に進み始めた。
 周囲からは蝉のような鳴き声が若干聞こえる。
 その所為か、無人にも拘わらず、あまりひっそりとはしていない。
 ただ、腐臭が風に乗って運ばれてくるので、近くにヤグルはいるようだ。
 あまり遭遇しないのは、焚いてるラグリアの木クズのお陰だろう。
 また、陽当たりが良い場所なので、まぁまぁ暑かった。が、周囲に広がる湖の影響か、外気はヒンヤリとした気温であった。
 湿度もそこまでではなく、割とカラッとしている。
 この地方は今、初夏の終わりのような時季なので、雨季が来ると、湿っぽいジメジメした感じになるんだろう。梅雨到来といったところか。
 マティス公はそれが為に、事態の収拾を急いでるようだ。
 目の前にいるヤグル共は、ラグリアを燃やした時の香りくらいしか、忌避効果のある有効な手段がないからである。
 つまり、雨が降る日には、あまり効果が無いのだ。
 しかし、幾ら晴れの日にラグリアの木を燃やしていたとしても、現れる時は現れるのである。
 今もまさしく、そんな感じであった。
 出くわしたヤグルの集団が俺達をロックオンし、襲い掛かってきたからだ。
 まぁとはいえ、神官達によるエルファナの加護もあり、なんなく戦いを終えられたので、大した事ではない。が、しかし……コレが何回も続くと、神官達も流石にしんどいだろう。

「コジローさん、お見事です。鮮やかな剣の技ですね。王都アーレスにいる魔法剣士ランスロットも鮮やかでしたが、貴方様も負けておりませんよ」

 ニーサさんが労いの言葉を掛けてきた。
 というか、魔法剣士ランスロットって誰や。

「そんな大層なモノでもないですよ」

 答えにくい話題だから、お茶を濁しとこう。
 ちなみにだが、ニーサさんは道中、やたら俺の素性を根ほり葉ほり聞き出そうとしてくるので、困っていたりする。
 どうも、俺の剣裁きに違和感を覚えたようで、妙に突っ込んで訊いて来るのである。
 その為、少々ウザったく感じる神官なのであった。
 できれば、穏便に済まして欲しいところである。

「それはそうと、ニーサさん……加護の魔法を使う回数が増えてきそうですが、大丈夫ですか?」

「まだまだ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 と言って、ニーサさんは微笑んだ。

「そうですか。ヤグルは、首や手足を落として動きを封じるか、燃やすか、今みたいに加護の魔法で対処するかしか、方法がないですからね。数が少ない場合は、加護の魔法は温存しておいた方が良さそうですよ。まぁとはいえ、とっとと原因を突き止めて、撤収するのが一番ですがね」

 この加護の魔法は、そこまで血液を消費しないが、積もり積もって圧し掛かるのは確実だからだ。
 それもある為、あまりここに長居するのは得策ではないのである。

「そうですね。しかし……こんなにヤグルがいるとは思いませんでした。なぜこんなにいるのでしょうね。嫌な感じです」
「確かにね……何もなけりゃあいいんですけど」

 火のない所に煙は立たない。
 たぶん、どこかに火元があるんだろう。

   *

 話は変わるが、魔法を使うには血液が必要と、俺は前に記述した。
 だが、それはどうやら、俺が見たエールペンデュラムスの表記であり、ここの神官や魔導師達はそういう風に考えていないようである。
 ちなみにこれは、同行しているニーサさんの証言に基づくモノだ。
 実は道中、ニーサさんから加護の魔法について色々と訊いてみたのである。
 それによると、エルファナの神官達は、加護の魔法を使うと、体力を消耗するという風に考えているらしいのだ。
 つまり、魔法を使った際に現れる諸症状、眩暈や脱力感に倦怠感は、血液ではなく、体力が奪われての事と考えているそうである。
 とはいえ、明確にそうだというわけではなく、あくまでも、そういう風に云われているレベルの話だそうだ。
 また、神官達も魔法を習得する際には、エルファナと契約を結ぶらしいが、それは秘匿とされている部分らしく、絶対に口外する事は許されていないそうである。
 その為、どういう風に魔法を習得しているのかまでは聞けなかったのだ。
 そこは残念なところであった。
 もしかするとエルファナ教は、日本の密教のように、秘密主義の宗教なのかも知れない。
 その他にも、ニーサさん曰わく、加護の魔法を使うには資質が必要とも言っていた。
 そして、使い過ぎは命に関わるというのは、エールペンデュラムスの記述とも共通している。
 なので、ニュアンスの違いだけの可能性も大いにあるだろう。
 だが何れにしろ、魔法に関しては認識の違いがあるので、その辺は後日、ペンギンに確認する必要があると思った一幕であった。
 シュレンの記憶があるので、ここの常識は少しならわかるが、知らない事の方が圧倒的に多い。
 こと、魔法に関しては命に拘わるので、少し慎重にいった方が良さそうである。
 というわけで話を戻そう。

   *

 ヤグルを掃討したところで、ロイアスさんの声が響いた。

「よし、行くぞ。このまま中央の古代遺跡の中へ入る。グローの準備をしておくんだ」

 まぁそんなこんなで、少々の戦闘をしながら、俺達はその後、マヤの神殿を思わせる建造物へと辿り着いたのである。
 それにしても、大きな建造物だ。
 形としては四角推型だが、横幅は50m以上あるだろう。
 しかも、正面の入口が開いたままとなっている。
 見た感じだと、扉そのものがないような造りであった。
 おまけに、数人が並んで通れるほどの幅や高さもあるのだ。なかなか広い間口である。
 また、元は何の施設だったのかわからないが、入り口部分の壁面には、悪鬼と戦う人々の絵が彫られていた。
 ここから考えるに、元は宗教施設だったのかもしれない。
 恐らく、神殿のようなモノだったんだろう。
 まぁそんな事はさておき、目的の建造物へと来た俺達は、そこでグローに火を灯し、調査の準備を始めた。
 ちなみに火は、ラグという原始的なライターのような道具で行う。
 簡単に言うなら、オイルライターである。筒型で大きさも握り拳大あり、武骨な感じだ。
 おまけに、なかなか着火しない微妙なライターだったりする。が、この辺りじゃ一応、旅の必需品といったところだ。
 準備が整ったところで、ロイアスさんの声が聞こえてきた。

「さて、日が暮れる前に、なるべく済ましてしまいたい。このアラトリアの遺跡は探索し尽くされた場所だが、今はヤグルもいる。油断は禁物だ。あと、見取り図も用意してあるから、順に見てゆくぞ。それとすぐに戦闘に移れるよう、用心しておいてくれ。以上だ。では行こう」

 そして、遺跡の調査が始まったのである。


   [Ⅱ]


 建造物の中は、意外にも薄暗い感じであった。
 真っ暗闇を想像していたが、どこかから外の光が射し込んでいるみたいである。
 また、壁や床に天井は、全てが石で出来ており、やや冷たい感じだ。
 おまけに、入口部が開けっ放しなので、落ち葉や土埃がそこそこ入っていた。
 その為、やや雑然とした感じの所であった。
 だが、あまり見るべきものがなさそうな建造物のように思えた。
 今、見回した感じだと、遺跡内がほぼ伽藍堂がらんどうになっており、天井部の側面に小さく空いた穴から、多少は明かりが射し込むという構造になっている。
 つまり、間仕切りみたいなのは少しあるが、全体的に、体育館のようなワンフロアに近い感じなので、見えてしまっているのが全てなのだ。
 もっと迷宮のようなモノをイメージしてたので、これはちょっと
予想外であった。
 とはいえ、それでも中は暗いので、グローがないと調べるのは大変そうである。
 寧ろ、単純構造で良かったと考えるべきところだろう。
 まぁそんな内部構造だが、お目当ての原因はなかなか見つからなかった。
 しかも、なぜかわからないが、この建物内にはヤグルが1体もいないのである。
 それが却って不気味であった。何事もなければいいが……。
 ちなみに、少し離れた所でロイアスさん達は調査中である。
 だが、今のところ、何かが見つかった気配はない。
 それは俺達にしても同様であった。
 というか、何も見当たらないんだが……本当にここが怪しいんだろうか?
 ふとそんな事を考えていると、シムとレティアが俺の所に来た。

「コジローさん……この中にはヤグルがいませんね。とりあえず、一安心です」
「本当ですね。屍と戦うのは、あまり気分の良いことではないので、私はホッとしてますよ」

 2人はそう言って肩の力を抜いた。
 というか、ここで油断するなよ。

「ヤグルは確かにいないけど……俺は寧ろ、それの方が気になるけどな」
「え? どういう意味ですか?」

 と言って、シムはキョトンとしながら俺を見た。

「これだけヤグルが徘徊してんのに、ここだけいないって、明らかにおかしいだろ。その理由の方が気になるってことだよ」
「言われてみるとそうですね。なるほど……」
「そういうところは、以前のコジローさんみたいですね。用心深い所とか」
「またそれか、レティア。今も昔も、俺は俺だよ」

 するとそこで、背後から声が聞こえてきたのである。

「コジローさんもそう思われましたか。私もそれが気になるのです」

 面倒な神官さんがお出ましのようだ。

「へぇ……ニーサさんもですか。ってどの話の事です? 昔の俺の話なら、もう勘弁してください」

 この神官はさっきから、なぜか俺の近くにいる。
 ストーカー気質があるんだろうか。怖っ。
 ニーサさんはクスリと笑った。

「うふふ、違いますよ。そうじゃなくて、ヤグルの事です。コジローさんは、どのようにお考えておられるのですか?」
「それがわかれば苦労はしませんよ。ただ……」
「ただ、なんでしょう?」
「さっき貴女も言ってましたが……なぜこの辺りに、ヤグルが現れる事になったんでしょうかね。それが気になります。ソレスさんからの話によると、このアラトリアの遺跡にヤグルが現れ始めたのは、ここ最近だそうですしね。しかも、それがわかったのは、旅の行商が街道で被害に遭ったのが発端のようです。それが引っかかるんですよ」

 3人は首を捻る。

「何が引っかかるんです?」
「ヤグルは屍の魔物です。つまり……こんな森の奥に、なぜ沢山の死骸があるのかという事ですよ。しかも、割と最近死んだような屍まであります。それが解せなくてね」
「言われてみるとそうですね……この辺りには町や村はありませんし。確かに変です」

 ニーサさんはそう言って顎に手をやり、考える仕草をした。

「そうなんです。ニーサさんの言われる通り、この辺りには町や村がない。おまけにソレスさんの話じゃ、この辺りには墓地もないみたいですからね。一体、どこからやって来た屍なんでしょうかね。ン?」

 俺達がそんな話をしていると、ランドとユミルの2人がこちらに来たのであった。
 ただ、2人は眉間に皺をよせ、怪訝な表情で、少し首を捻っていた。
 何かあったんだろうか?

「ランドにユミル、どうした? 難しい顔して……」
「コジローさん……なんかさ、変な床を見つけたんだよ。貴方に見てもらいたくてね」
「そうなのよ。コジローさんだったら、何かわかるかもと思って」

 こんなわけわからん遺跡を見て、俺がわかるわけねぇだろ!
 などと思いつつも、俺はフランクに答えた。

「へぇ、何を見つけたんだ?」
「じゃあ、ちょっと来てくれるかい」
「こっちよ」
「はいよ」

 俺はロイアス達の後に続いた。
 他の3人もついてくる。
 ロイアス達は、石の壁で間仕切りがしてある、奥の区画に俺を案内した。
 そこは10畳ほどのスペースがある区画で、埃や落ち葉以外、何もない所であった。
 ロイアスはそこで、区画の中央の床をグローで照らした。

「ココなんだけどさ、なぜかこの辺だけ微妙に窪んでるんだよね。特にこの紋様の辺り。しかもコレって……オヴェリウスの紋章に似てない? コジローさんてオヴェリウス出身だよね?」

 ロイアスの言う通り、オヴェリウス王家の紋章と似た印が描かれていた。
 しかし、ちょっと違うので、全く同じではないが。

「確かに、オヴェリウス王家の紋章と似てますね」
「本当ね。ちょっと違うけど、似てるわ。なんだろ、この印……」
 
 シムとレティアが首を傾げる中、俺は印の前に行き、しゃがみ込む。
 そして、印の上にある埃を手で払ったのである。
 だが見たところ、特に何も無いようだ。
 ただ単に、オヴェリウス王家の紋章と似ているというだけである。
 疑問点を強いて上げるなら、この印の周りの床が、若干窪んでいる事くらいだろう。

「確かに、オヴェリウスの紋章に似てるけど、ちょっとが違う。なんの印なんだろうね。まぁでも……ヤグルの件とは何も関係がないんじゃないか。ン?」

 すると、レティアが俺の隣に来て、印を覗き込んできた。

「この印、何なのでしょうね。オヴェリウスと何か関係あるんでしょうか? コジローさんは、どう思われます?」
「どうもこうも、似ているとしか思わないよ。というか、俺にそれを訊くか? 流石にこの遺跡の事は、俺もサッパリだぞ」
「ですよね。王家の紋章とコレは違いますから。でも、似てるんですよ。なんの印なんでしょうかね……」

 レティアはそう言って、しゃがんで覗き込む。
 するとその時であった。

 ―― ゴトッ ――

「え?」

 突如、床がフワッと動いたのである。
 いや、違う。これは……床が崩れている!

「あわわ、危ない! コジロー様!」
「ちょッ、嘘だろ!」

 俺とレティア以外の者達は、それを見るや、慌てて後ずさった。
 そこで俺も急いで立ち上がる。
 だが、あれよあれよという間に床は崩れてゆき、底が抜けたのである。

「ちょ……なんで崩れるんだよ!」
「キャァッ!」

 そして、俺とレティアは万有引力の法則に従い、床の崩壊に巻き込まれてしまったのであった。
 こんな所に落とし穴掘ったアホは誰や! と思いながら。
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