【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか

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10話

 流石にエミネから嫌われそうなので亜人種は無しという事で……邸宅の離れた場所で土葬させて頂いた。
 残念だが、きっと良い土壌となってくれるだろう。

「と、いうわけで大熊の調理を開始します」

「本当にやるんですか、これ……見た目は熊ですが、魔物ですよ?」

「もちろんやるわ! これが楽しみでもあるのだから」

 魔物とは人を主食としている生物の名称ではあるが、ある共通の身体構造がある。
 それは消化器官はあっても排泄器官はないという事だ。
 彼らは食した生物を全て、余すことなく自らの栄養として身体の力とする、だから馬鹿げた巨体を維持できるのかもしれない。
 
「人間を襲う理由も諸説あるけれど、他のどの生物よりも魔物にとって力の源となるからと言われているわ」

「あまり聞きたくない雑学ですね……」

 とはいえ排泄器官が無い他には、多くの生物と同様だ。
 血抜きをすれば赤い液体が流れ落ちていく。

「血抜きのため、頑丈な木に吊るしますか」

「こんな大型の魔物を吊るすのなんて、お嬢様ぐらいでしょうね。旦那様が見られたら発狂なさいますよ」

「父の前では流石にその場では食べるのはやめますよ」

「食べるのをやめるべきと提言したいのですが」
 
 エミネの小言に付き合いながら、一定の時間を置いて大熊を下ろす。
 その後は内臓を取り、剥皮など……まぁ色々あるけれど流石にエミネには見せられないので屋敷に戻っていてもらう。
 作業がひと段落すれば、残ったのは立派なお肉たちだ。

「エミネ、これなら貴方も食べられる見た目になっているでしょう?」

「そ、そうですけど。流石に魔物だと知っていて食べる気にはなりませんよ」

「あらそう……なら私だけで美味しく頂くとしますか」

 肉を適当な大きさに切り出して、冷水に漬けて流水でさらに血抜きを行う。
 野生の肉などの臭みの大きな原因は血だ。
 だから流水から流れた水が濁らなくなるまで何度も行う。

「これ……どれくらいする気ですか?」

「半日ほどよ」

「えぇ、普通に肉を買いに行った方がいいのでは?」

 エミネにドン引きされるが、美味しい肉を味わうためには仕方のない作業だ。
 雑味を消すための労力と思えば良い。

「洗い終わったら、茹でた鍋に投入する」

 事前に購入していた大鍋に水を並々と入れて煮立たせた。
 そこに肉を投入。
 浮かび上がる灰汁をすくっていく。

「最後の雑味や臭みの元。これをすくい、また肉を流水で洗い流して……」

 時刻はすっかり夜で、エミネはウトウトとしかけている。
 外も寒くなってきたのでそろそろ仕上げといこう。

 鍋にオニオン、キャロット、ニンニクなどを投入して炒める。
 肉も焼いて焼き色が付けば赤ワインも流しこむ。
 水とトマト、ローリエも投入して灰汁を除きながらコトコトと煮込んでみれば。

「魔物熊肉の赤ワイン煮込みの完成ね」

 大きな肉から香ばしい香りが周囲に立ち込める。
 これが魔物の肉だなんて誰も思わないだろう。

「これが、魔物の肉なんですね」

 どうやらエミネもすっかり起きたようで、その見た目にゴクリと喉を鳴らす。

「私は食べるけれど、貴方はどうするの?」

「い、いえ。いりません……魔物の肉など、身体が呪われてしまいますから」

 魔物の肉は悪しきものであり、取り込めば呪われる。
 そういった信仰があるのは知っているため、決して無理強いはしない。
 私はスプーンを熊肉に刺し込む。

「っ!」

 驚くほどに軽く切れた肉、ホロっと崩れた肉を口に運ぶ。
 長い時間の下処理を終えて完璧に雑味を除いた肉。
 美味しくないはずがなかった。

「はぁ……」

 口の中で溶けていくような肉、そしてこの肉特有の旨味がソースと絡まっている。
 やはりこの大熊、いや、魔物肉の味は動物の肉とは格段に違って美味しい。
 不味い訳がなくて、スプーンを持つ手が止まらなかった。

「あぁ、お嬢様が魔物を食している」

 エミネの嘆きを聞き終わる頃には、もう用意していた大熊肉を三分の一は食べ終えていた。
 残りは明日に取っておこうかしら。

「ふぅ……大満足ね。エミネは本当に食べなくていいの?」

「た、食べるはずがありません! 身体が呪われてしまいます!」

 そうは言っているが、先程からぐうぐうとお腹を鳴らしているのも気になるのだ。
 とはいえ無理に食べさせることは出来ないだろう。

「はぁ……本当に美味しかった。以前に食べた飛竜といい勝負ね」

「飛竜って、今思えば食べ切ったのですか?」

「流石に一食では無理よ? 実はこの辺境伯領には何度も来ていたの。夜中に走って飛竜を持ってきたなぁ」

「え?」

「寒地の利点としてね、殴って洞窟を掘って、そこに冷凍保存しておいたの……この屋敷の近くでも同じの作らないとね」

「あぁ……もう聞くのやめときます。想像も嫌なので」

 もはやエミネは話を変えたいのか、別の話題を切り出した。

「私に行動を止める権利はありませんが、お嬢様の行っている事が他の方々に知られるような行動だと思った際は忠告させて頂きます。旦那様にもそう指示されていますので」

「えぇ、その時は頼むわ。もちろん私も充分に気を付けるから」

 エミネとそんな会話を交わしつつ、すっかり夜となって綺麗に輝く星々を見つめる。
 新たな生活、アロルドと暮らしていた時とは天と地の差がある幸福度。
 三年間の我慢の末に手に入れた自由を、今から謳歌していこう。


   ◇◇◇


 引っ越して一ヶ月が経った。
 エミネの話では、どうやら付近の村で噂が流れているらしい。

「白面が魔物狩りをしている」
「謎の白面が、魔物を駆除してくれている」

 そんな噂が飛び交っていると、買い出しに行ったエミネが聞いていたらしい。
 以前の救出劇で白面を見られたせいだろう。
 ただあれから私は誰にも見られず、魔物の相手をしていたはずなのに。

「実際、この地域での魔物被害だけが格段に減っているらしいですから」

「あぁ……なるほど」

「食べ過ぎですよ。最近は白面に対して辺境伯が正式に調査を始めるとまで言われていますから、気を付けてくださいね」

「分かった。気を付けるわ」

「それとこれは……旦那様の遣いの方から頂いた言伝なのですが」

 ふとエミネは苦虫を噛み潰したような表情で、そっと私に告げる。
 予想していたが、最悪な報告を……

「アロルド伯爵がお嬢様を捜すために人員を雇っているそうです。言いづらいですが……アロルド伯爵とロ―ザ様の夫婦関係がすでに破綻しかけているとか」

 やはり……というべきか。
 アロルドとローザの夫婦生活など、上手くいくはずがないと思っていた。
 だから彼は私を絶対に求めると思っていた。

「ここに来て正解ね」

 アロルド……貴方は今頃、相当暗い生活を送っているのだろう。
 でもね、私は貴方の元へ戻る気は無い。
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