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戻らない君② アロルドside
こんなはずじゃなかった。
そんな言い訳を心の中で、もう何度考えたか分からない。
「アロルド殿、契約通りに君とは我が娘と結婚をしてもらう。そして今後は伯爵家の利益の五割をレーヴ公爵家に支払ってもらう」
「……」
「我が公爵家に迷惑をかけたのだから、当然の謝罪金としてほしい。ちなみに君とローザの離婚も許さない。婿である君だからこそ、謝罪金に税がかからぬのだから」
俺は確かにローザを愛していた。
だが貧相な生活を送りながらも、共に過ごす覚悟なんてなかった。
けれどもう状況は俺の考えを許してはくれず、淡々と縛り付けられるように未来が決まっていく。
「最後にこの契約書に署名を。君が我が公爵家との信頼を喪失させた責任として謝罪金を向こう二十年を払うというものだ」
レーヴ公爵は俺が考えていた計画、その制裁に支払い期間の延長と額の引き上げを加えた。
約二十年、伯爵家は年利の五割を支払う。
どんな冗談だ、俺の人生は破滅したも同然じゃないか。
「レ、レーヴ公爵……か、考えなおしてください。このような支払い量では、貴方の娘のローザが不幸になってしまいますよ?」
苦し紛れの言葉、ローザを盾にした浅はかな反論。
レーヴ公爵は表情一つ変えずに言葉を返した。
「ローザを幸せにするのは、夫である君の役目だ。その覚悟があって娘の純潔を奪う愚かな行為を犯したのだろう?」
「っ……そ、それは……」
「大した覚悟もなく、その場の激情に駆られたロマンスで後先も考えない行動をするのは未熟だな。責任感もなく、取り返しのつかない状況になって初めて、そんなはずがないと君は言うのだろうね」
心の内を見透かしたような言葉。
レーヴ公爵の鋭い眼光が俺の心臓を射抜き、動悸が激しく高鳴る。
「情けない事だ。欲に駆られた行動、その先に起きる事すら予想もできぬ男というのは」
呆れたようなため息が耳を通り抜ける。
言い返す余地はなく、提示された契約書を突き返すことも今の俺にはできない。
「……」
自らの運命を不幸にしてしまう契約。
それを自分自身で署名していると、自然と手が震える。
目元が熱くなる、悔しくなる、苦しくなる。
俺はこんな人生を送るために生きていたのか?
「署名を確かに確認した。では後は正式に夫婦となったローザと自由に過ごしてくれ」
「ロ、ローザは来ているのですか?」
「当たり前だ。君たちは正式に夫婦となったのだからね。ちなみに式などは期待しないでくれ。我が公爵家としては君との結婚は決して祝い事ではないのだから」
レーヴ公爵が退室して、外の馬車が走っていく音が聞こえる。
同時に聞こえてくるヒールの音、動悸が激しくなって動けない。
「アロルド……」
ローザを愛していると言っていた俺が、裏ではセシーリアに迫っていた。
その事実を知っている彼女は唇を震わせて、俺の眼前に迫る。
「ねぇ、アロルド……貴方は私を愛してくれているのよね? だってずっとそう言ってくれてたもんね?」
「も……もちろんだ。色々と勘違いさせてすまない。俺は君を愛して––––」
パンッツ!!
そんな乾いた音と共に、頬に痺れるような痛みが走る。
直ぐにローザが俺に平手を打ったのだと分かった。
「私、私は貴方が愛してくれるって言っていたから。言っていたから一緒にいたの……」
「ローザ……違う、違うんだ。セシーリアとのことは誤解で」
「でももう、貴方の愛しているは信じられないよ。私は貴方に全てを捧げる気だったのに、貴方は違うの?」
大粒の涙を流すローザは、膝から崩れ落ちるように床にしゃがんだ。
「なのに、なのに貴方は……セシーリアを求めていたのよね?」
「待ってくれ、誤解だと言っているだろう? 伯爵家の経営のためにも、彼女が必要だと言っていたはずだ!」
「だったらどうして私に相談もしてくれないの? セシーリアに隠れて話して、夫婦となるはずだった私に断りもなく!」
「っ!」
「同じ屋敷に過ごす貴方達が、白い結婚とはいえ私がどれだけ心配だったか貴方に分かる? どうして私が連日貴方に会いに来ていたのか、この不安を考えてくれた事もなかったの?」
ローザの叫びに近い金切り声は、今は耳障りにすら思えてしまう。
まるで全て俺が悪いかのような言い分だ、そもそも君がレーヴ公爵の娘なら、少しは説得をしてくれたっていいじゃないか。
「……もういい。一度互いに頭を冷やして、また落ち着いて話し合おう」
「……うっ……うぅ」
泣き崩れるローザ、そんな彼女に慰めの言葉をかける余裕はなかった。
今ここで謝罪をすれば、俺が間違ってしまっていると伝えてしまえば……この先の夫婦生活の序列が決まってしまう。
そんな恐れから、なにも言わずに部屋を出る。
「どうすればよかったっていうんだ。俺は、俺が幸せな人生を望んで、なにが悪いんだ」
そんな言葉を吐きながら、もぬけの殻となったセシーリアの部屋を通り過ぎる。
簡素でなにも無くなった部屋に、彼女はもう居ない喪失感が心に響く。
もう戻ってこない、そう思って私室に戻れば……
「くそ……くそっ!」
私室に置かれていたのは、俺の資産を蓄えていた金庫だった。
しかしそれは開かれており、中にあったはずの資産は消えていた。
その理由はレーヴ公爵が来年分の謝罪金を前金として受け取っていたからだ。
「どうすればいいんだ、俺はこれから謝罪金を払い続けて……貧しく生きていけというのか?」
こんな、こんなはずじゃなかった。
俺は一時の選択を間違えただけで、ここまで不幸な人生を歩まねばならないのか?
そんなの、そんなの平等じゃない。
「セシーリア……俺は君と、君と初めから愛し合っていれば……こんな事にならなかったのか?」
床に膝を落としながら、俺はただ虚しく……空虚な呟きを漏らすしかなかった。
そんな言い訳を心の中で、もう何度考えたか分からない。
「アロルド殿、契約通りに君とは我が娘と結婚をしてもらう。そして今後は伯爵家の利益の五割をレーヴ公爵家に支払ってもらう」
「……」
「我が公爵家に迷惑をかけたのだから、当然の謝罪金としてほしい。ちなみに君とローザの離婚も許さない。婿である君だからこそ、謝罪金に税がかからぬのだから」
俺は確かにローザを愛していた。
だが貧相な生活を送りながらも、共に過ごす覚悟なんてなかった。
けれどもう状況は俺の考えを許してはくれず、淡々と縛り付けられるように未来が決まっていく。
「最後にこの契約書に署名を。君が我が公爵家との信頼を喪失させた責任として謝罪金を向こう二十年を払うというものだ」
レーヴ公爵は俺が考えていた計画、その制裁に支払い期間の延長と額の引き上げを加えた。
約二十年、伯爵家は年利の五割を支払う。
どんな冗談だ、俺の人生は破滅したも同然じゃないか。
「レ、レーヴ公爵……か、考えなおしてください。このような支払い量では、貴方の娘のローザが不幸になってしまいますよ?」
苦し紛れの言葉、ローザを盾にした浅はかな反論。
レーヴ公爵は表情一つ変えずに言葉を返した。
「ローザを幸せにするのは、夫である君の役目だ。その覚悟があって娘の純潔を奪う愚かな行為を犯したのだろう?」
「っ……そ、それは……」
「大した覚悟もなく、その場の激情に駆られたロマンスで後先も考えない行動をするのは未熟だな。責任感もなく、取り返しのつかない状況になって初めて、そんなはずがないと君は言うのだろうね」
心の内を見透かしたような言葉。
レーヴ公爵の鋭い眼光が俺の心臓を射抜き、動悸が激しく高鳴る。
「情けない事だ。欲に駆られた行動、その先に起きる事すら予想もできぬ男というのは」
呆れたようなため息が耳を通り抜ける。
言い返す余地はなく、提示された契約書を突き返すことも今の俺にはできない。
「……」
自らの運命を不幸にしてしまう契約。
それを自分自身で署名していると、自然と手が震える。
目元が熱くなる、悔しくなる、苦しくなる。
俺はこんな人生を送るために生きていたのか?
「署名を確かに確認した。では後は正式に夫婦となったローザと自由に過ごしてくれ」
「ロ、ローザは来ているのですか?」
「当たり前だ。君たちは正式に夫婦となったのだからね。ちなみに式などは期待しないでくれ。我が公爵家としては君との結婚は決して祝い事ではないのだから」
レーヴ公爵が退室して、外の馬車が走っていく音が聞こえる。
同時に聞こえてくるヒールの音、動悸が激しくなって動けない。
「アロルド……」
ローザを愛していると言っていた俺が、裏ではセシーリアに迫っていた。
その事実を知っている彼女は唇を震わせて、俺の眼前に迫る。
「ねぇ、アロルド……貴方は私を愛してくれているのよね? だってずっとそう言ってくれてたもんね?」
「も……もちろんだ。色々と勘違いさせてすまない。俺は君を愛して––––」
パンッツ!!
そんな乾いた音と共に、頬に痺れるような痛みが走る。
直ぐにローザが俺に平手を打ったのだと分かった。
「私、私は貴方が愛してくれるって言っていたから。言っていたから一緒にいたの……」
「ローザ……違う、違うんだ。セシーリアとのことは誤解で」
「でももう、貴方の愛しているは信じられないよ。私は貴方に全てを捧げる気だったのに、貴方は違うの?」
大粒の涙を流すローザは、膝から崩れ落ちるように床にしゃがんだ。
「なのに、なのに貴方は……セシーリアを求めていたのよね?」
「待ってくれ、誤解だと言っているだろう? 伯爵家の経営のためにも、彼女が必要だと言っていたはずだ!」
「だったらどうして私に相談もしてくれないの? セシーリアに隠れて話して、夫婦となるはずだった私に断りもなく!」
「っ!」
「同じ屋敷に過ごす貴方達が、白い結婚とはいえ私がどれだけ心配だったか貴方に分かる? どうして私が連日貴方に会いに来ていたのか、この不安を考えてくれた事もなかったの?」
ローザの叫びに近い金切り声は、今は耳障りにすら思えてしまう。
まるで全て俺が悪いかのような言い分だ、そもそも君がレーヴ公爵の娘なら、少しは説得をしてくれたっていいじゃないか。
「……もういい。一度互いに頭を冷やして、また落ち着いて話し合おう」
「……うっ……うぅ」
泣き崩れるローザ、そんな彼女に慰めの言葉をかける余裕はなかった。
今ここで謝罪をすれば、俺が間違ってしまっていると伝えてしまえば……この先の夫婦生活の序列が決まってしまう。
そんな恐れから、なにも言わずに部屋を出る。
「どうすればよかったっていうんだ。俺は、俺が幸せな人生を望んで、なにが悪いんだ」
そんな言葉を吐きながら、もぬけの殻となったセシーリアの部屋を通り過ぎる。
簡素でなにも無くなった部屋に、彼女はもう居ない喪失感が心に響く。
もう戻ってこない、そう思って私室に戻れば……
「くそ……くそっ!」
私室に置かれていたのは、俺の資産を蓄えていた金庫だった。
しかしそれは開かれており、中にあったはずの資産は消えていた。
その理由はレーヴ公爵が来年分の謝罪金を前金として受け取っていたからだ。
「どうすればいいんだ、俺はこれから謝罪金を払い続けて……貧しく生きていけというのか?」
こんな、こんなはずじゃなかった。
俺は一時の選択を間違えただけで、ここまで不幸な人生を歩まねばならないのか?
そんなの、そんなの平等じゃない。
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