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戻らない君⑤ リエンネside
『おかあさま、あったよ!』
初めてそれを見た時は、心の底から恐怖を抱いたのを覚えている。
私が指輪を落としてしまい、運悪くそれが本棚の下に転がってしまった。
手が届かなくて困った時に心配そうに見ていた娘が、その本棚を持ち上げたのだ。
それも片手で、まだ三歳にも満たない子が。
『おかあさまのだいじなもの、セシーリアがみつけたよ』
褒めてほしいというような瞳を向ける娘が怖かった。
自分の娘に思えなかったのだ。
心臓が痛み、罪悪感すら感じた。
こんな子に産んでしまったのは自分自身であり、この子はいずれ自分の境遇を知って私を恨むのではないか?
『おかあさま、いかないで』
だから泣いているあの子を置いて、私は家族を捨てた。
魔物憑きに産んでしまった罪悪感から逃れるためだった。
それからずっと後悔していた私だが、幸運にも辺境伯様の存在を知った。
娘と同じ魔物憑きであり、学者がこぞって研究している事を耳にはさんだのだ。
だから私財の全てを投じて研究支援を行った。
『本当に––––まで、あと少しなのね』
『えぇ、ですがもう王家は費用を捻出できないようです。幸運にも辺境伯様は王家に従順になった。魔物憑きを殺す手段を探すよりも、利用した方が得と判断したんです』
『まさか、研究を止める気? 殺傷研究だけでなく、他まで全て?』
『えぇ、王家の判断です。新たな魔物憑きは増えておらず、研究の必要はないと』
駄目、駄目よ。
あと少し、あと少しまで来たの。
あの人間でもない存在の娘を野放しにしたままではいけない……あの子を王家の管理下に置いて研究を続けないと。
私は安心できないのだから。
◇◇◇
「リエンネ、どういうことか説明をしてもらおうか」
今、私の前に座っているかつての元夫が怒りの表情を浮かべていた。
彼の隣にはレーヴ公爵も険しい顔で座り、私の隣では恐怖で縮こまったアロルドが居た。
「ローザ殿がセシーリアの屋敷へ向かったと報告を聞いて調べてみれば……君が関わっているとはな、リエンネ」
元夫であるノベールの声からは怒りが感じ取れた。
拳を握り締めて、私を睨みつけている。
「ローザ殿は王家の調査組織まで連れて行っている。この理由は分かっているな」
「えぇ、もちろん分かっておりますわ。でもそれを……レーヴ公爵もいる場で説明してもいいのかしら?」
私の言葉にノベールはたじろぐ。
彼の隣に座っていたレーヴ公爵は神妙な顔をしながらも、まずはノベールへと頭を下げた。
「ノベール伯爵。まずは娘がご迷惑をおかけしている事に謝罪をしたい。関わらぬように再三注意していたのですが」
「アロルド殿のこと、そして娘殿の管理はレーヴ公爵。貴方が一任しているはず。謝罪で済む話ではないはず」
「……仰る通り、申す言葉もない」
ノベールにしては珍しく強気な言動ね。
それほどまでにあの子が大事のようだけど、彼のやり方はあの子を少しも助ける気が無いものだわ。
「ノベール、しっかり説明なさいよ。セシーリアについて明かせばいいじゃない」
「リエンネ! いい加減にしろ。セシーリアに一切関わってこなかったお前が、あの子に迷惑をかけるな……」
「迷惑? 違うわ……私は貴方よりも娘を救うために動いているのよ」
「救うためだと?」
ノベール、貴方はあの子を育ててくれていた。
その苦労を労わりたい気持ちはあるけれど、貴方は根本的な解決をまるで考えていない。
「えぇ、そうよ。魔物憑きで異常な力を持っている娘は適切に管理しないといけないの」
「っ!」
「どういう事ですかな」
慌て出すノベールに対して、話に喰いついてきたのは黙って聞いていたレーヴ公爵だった。
彼は身を乗り出すように私へと問いかける。
「セシーリア殿が……あの辺境伯殿のような力を有していると?」
「えぇ、そうよ」
「……なんということだ。セシーリア殿が」
「だからこそ、アロルド殿はあの子を戻したがっていたのよ。そうでしょう?」
「え? な、なんの話を?」
アロルドだけは魔物憑きという言葉すら知らぬ様子だった。
詳細を教えるか迷う。
元々彼は公爵と会うための手段でしかなかった、騒動を起こせば必ずレーヴ公爵と会える。
そして今、娘の話に協力を持ちかける事が出来た以上、彼はもう必要はない。
元夫だからセシーリアが帰ってくる望みもあったが……まるで愛されていないようだもの。
「……まぁでも、使い道はあるか」
呟きながら、アロルドへと視線を向けて「話を合わせろ」と小声で囁いた。
彼は動揺しながらも、口裏を合わせるようにレーヴ公爵へ頷いた。
「そ、そうでした。セシーリアを連れ戻す理由はリエンネ殿が言っている通りです」
「えぇ、あの子は今は人間でもない魔物憑きです。だからこそ、しっかりと人間の管理下に置くべきです」
「お前は実の娘になにを言っているか分かっているのか!」
父親としての怒りを滲ませて詰め寄るノベールだけど。
残念ながら、もうレーヴ公爵の意志は固まったようね。
「リエンネ殿の言う通りだ」
「っ! レーヴ公爵……」
「ノベール伯爵、貴方が実の娘について隠している事は国家の平和を脅かす事でもある。なれば早急に管理下に置いて然るべき対応をとるべきだ」
「ま、待ってください。セシーリアはただ静かに暮らしたいだけであり……」
「ノベール、いい加減に諦めてちょうだい。あの子の力は、ただ静かに暮らすだけに使っていいものじゃないでしょう? しっかりと管理して、皆のために使わないといけないの」
ノベールが睨みつけてくるが構いはしない。
アロルドは困惑しつつも私へと問いかけてきた。
「セ、セシーリアが帰ってきてくれるのですか?」
「えぇ、上手くいくはずよ。なにせ王家の者まで出向いてきているもの」
「っ!」
「レーヴ公爵、これからは私達が王家と共同してセシーリアを管理しましょう。元夫であるアロルド殿が居れば身内としても話を通しやすいですわ」
「なるほど、だからアロルド殿と共に居た訳か」
レーヴ公爵は納得しつつも、協力的な姿勢を見せる。
これでいい、私の目的は順調に進んでいる。
セシーリアとはいえ、国家を相手して好きにできるはずがない。
「分かってくれるかしらノベール。貴方は父親としてあの子を隠しているだけ。人間でもないあの子に不幸な人生を負わせるのは間違っている」
「……ふ、はは」
ふと、小さな笑い声が聞こえ出す。
何事かと視線を向ければ、笑っていたのはノベールだった。
「何がおかしいの?」
「リエンネ、お前は間違っている」
「ノベールなにを言っているの? 私が間違っているですって?」
「あの子は誰よりも幸せだよ。娘に合わせる顔もなく、こうして遠回りな手段しかできない君よりもずっと幸せなはずだ」
「っ! なにを言っても無駄よ。どうせあの子は王家の管理下になる。後は私に任せておきなさい」
「なにより間違っているのは、その浅はかな考えだ」
なにを言っているのか意味が分からない。
だがその不穏な笑みに、レーヴ公爵や、まだ理解できていないアロルドさえ黙って見つめる。
ノベールはただ笑いながら、私達へと言葉を告げた。
「あの子を国の管理下になどできるはずがないさ、絶対にね」
そんなはずがない……と言いたいのに、ノベールの笑みは自信に溢れていた。
「君も、アロルド殿もずっと勘違いしている。君たちはずっと前からセシーリアに許されているだけだ」
「なにを言って……」
「あの子を管理するなど馬鹿げている。本当にそれをすれば……あの子は自由を守るために君たちを徹底的に潰しにかかるだろう。もう容赦はしてくれない」
ノベールの言葉に、そんなはずがないと告げたかった。
だけど誰よりも娘の事を傍で見ていた彼の説得力のある気迫に、返事もできずに私達は固まった。
そんなはずがない。
あの子は……きっとすぐに王家の管理下になるはず、そのはずだ。
初めてそれを見た時は、心の底から恐怖を抱いたのを覚えている。
私が指輪を落としてしまい、運悪くそれが本棚の下に転がってしまった。
手が届かなくて困った時に心配そうに見ていた娘が、その本棚を持ち上げたのだ。
それも片手で、まだ三歳にも満たない子が。
『おかあさまのだいじなもの、セシーリアがみつけたよ』
褒めてほしいというような瞳を向ける娘が怖かった。
自分の娘に思えなかったのだ。
心臓が痛み、罪悪感すら感じた。
こんな子に産んでしまったのは自分自身であり、この子はいずれ自分の境遇を知って私を恨むのではないか?
『おかあさま、いかないで』
だから泣いているあの子を置いて、私は家族を捨てた。
魔物憑きに産んでしまった罪悪感から逃れるためだった。
それからずっと後悔していた私だが、幸運にも辺境伯様の存在を知った。
娘と同じ魔物憑きであり、学者がこぞって研究している事を耳にはさんだのだ。
だから私財の全てを投じて研究支援を行った。
『本当に––––まで、あと少しなのね』
『えぇ、ですがもう王家は費用を捻出できないようです。幸運にも辺境伯様は王家に従順になった。魔物憑きを殺す手段を探すよりも、利用した方が得と判断したんです』
『まさか、研究を止める気? 殺傷研究だけでなく、他まで全て?』
『えぇ、王家の判断です。新たな魔物憑きは増えておらず、研究の必要はないと』
駄目、駄目よ。
あと少し、あと少しまで来たの。
あの人間でもない存在の娘を野放しにしたままではいけない……あの子を王家の管理下に置いて研究を続けないと。
私は安心できないのだから。
◇◇◇
「リエンネ、どういうことか説明をしてもらおうか」
今、私の前に座っているかつての元夫が怒りの表情を浮かべていた。
彼の隣にはレーヴ公爵も険しい顔で座り、私の隣では恐怖で縮こまったアロルドが居た。
「ローザ殿がセシーリアの屋敷へ向かったと報告を聞いて調べてみれば……君が関わっているとはな、リエンネ」
元夫であるノベールの声からは怒りが感じ取れた。
拳を握り締めて、私を睨みつけている。
「ローザ殿は王家の調査組織まで連れて行っている。この理由は分かっているな」
「えぇ、もちろん分かっておりますわ。でもそれを……レーヴ公爵もいる場で説明してもいいのかしら?」
私の言葉にノベールはたじろぐ。
彼の隣に座っていたレーヴ公爵は神妙な顔をしながらも、まずはノベールへと頭を下げた。
「ノベール伯爵。まずは娘がご迷惑をおかけしている事に謝罪をしたい。関わらぬように再三注意していたのですが」
「アロルド殿のこと、そして娘殿の管理はレーヴ公爵。貴方が一任しているはず。謝罪で済む話ではないはず」
「……仰る通り、申す言葉もない」
ノベールにしては珍しく強気な言動ね。
それほどまでにあの子が大事のようだけど、彼のやり方はあの子を少しも助ける気が無いものだわ。
「ノベール、しっかり説明なさいよ。セシーリアについて明かせばいいじゃない」
「リエンネ! いい加減にしろ。セシーリアに一切関わってこなかったお前が、あの子に迷惑をかけるな……」
「迷惑? 違うわ……私は貴方よりも娘を救うために動いているのよ」
「救うためだと?」
ノベール、貴方はあの子を育ててくれていた。
その苦労を労わりたい気持ちはあるけれど、貴方は根本的な解決をまるで考えていない。
「えぇ、そうよ。魔物憑きで異常な力を持っている娘は適切に管理しないといけないの」
「っ!」
「どういう事ですかな」
慌て出すノベールに対して、話に喰いついてきたのは黙って聞いていたレーヴ公爵だった。
彼は身を乗り出すように私へと問いかける。
「セシーリア殿が……あの辺境伯殿のような力を有していると?」
「えぇ、そうよ」
「……なんということだ。セシーリア殿が」
「だからこそ、アロルド殿はあの子を戻したがっていたのよ。そうでしょう?」
「え? な、なんの話を?」
アロルドだけは魔物憑きという言葉すら知らぬ様子だった。
詳細を教えるか迷う。
元々彼は公爵と会うための手段でしかなかった、騒動を起こせば必ずレーヴ公爵と会える。
そして今、娘の話に協力を持ちかける事が出来た以上、彼はもう必要はない。
元夫だからセシーリアが帰ってくる望みもあったが……まるで愛されていないようだもの。
「……まぁでも、使い道はあるか」
呟きながら、アロルドへと視線を向けて「話を合わせろ」と小声で囁いた。
彼は動揺しながらも、口裏を合わせるようにレーヴ公爵へ頷いた。
「そ、そうでした。セシーリアを連れ戻す理由はリエンネ殿が言っている通りです」
「えぇ、あの子は今は人間でもない魔物憑きです。だからこそ、しっかりと人間の管理下に置くべきです」
「お前は実の娘になにを言っているか分かっているのか!」
父親としての怒りを滲ませて詰め寄るノベールだけど。
残念ながら、もうレーヴ公爵の意志は固まったようね。
「リエンネ殿の言う通りだ」
「っ! レーヴ公爵……」
「ノベール伯爵、貴方が実の娘について隠している事は国家の平和を脅かす事でもある。なれば早急に管理下に置いて然るべき対応をとるべきだ」
「ま、待ってください。セシーリアはただ静かに暮らしたいだけであり……」
「ノベール、いい加減に諦めてちょうだい。あの子の力は、ただ静かに暮らすだけに使っていいものじゃないでしょう? しっかりと管理して、皆のために使わないといけないの」
ノベールが睨みつけてくるが構いはしない。
アロルドは困惑しつつも私へと問いかけてきた。
「セ、セシーリアが帰ってきてくれるのですか?」
「えぇ、上手くいくはずよ。なにせ王家の者まで出向いてきているもの」
「っ!」
「レーヴ公爵、これからは私達が王家と共同してセシーリアを管理しましょう。元夫であるアロルド殿が居れば身内としても話を通しやすいですわ」
「なるほど、だからアロルド殿と共に居た訳か」
レーヴ公爵は納得しつつも、協力的な姿勢を見せる。
これでいい、私の目的は順調に進んでいる。
セシーリアとはいえ、国家を相手して好きにできるはずがない。
「分かってくれるかしらノベール。貴方は父親としてあの子を隠しているだけ。人間でもないあの子に不幸な人生を負わせるのは間違っている」
「……ふ、はは」
ふと、小さな笑い声が聞こえ出す。
何事かと視線を向ければ、笑っていたのはノベールだった。
「何がおかしいの?」
「リエンネ、お前は間違っている」
「ノベールなにを言っているの? 私が間違っているですって?」
「あの子は誰よりも幸せだよ。娘に合わせる顔もなく、こうして遠回りな手段しかできない君よりもずっと幸せなはずだ」
「っ! なにを言っても無駄よ。どうせあの子は王家の管理下になる。後は私に任せておきなさい」
「なにより間違っているのは、その浅はかな考えだ」
なにを言っているのか意味が分からない。
だがその不穏な笑みに、レーヴ公爵や、まだ理解できていないアロルドさえ黙って見つめる。
ノベールはただ笑いながら、私達へと言葉を告げた。
「あの子を国の管理下になどできるはずがないさ、絶対にね」
そんなはずがない……と言いたいのに、ノベールの笑みは自信に溢れていた。
「君も、アロルド殿もずっと勘違いしている。君たちはずっと前からセシーリアに許されているだけだ」
「なにを言って……」
「あの子を管理するなど馬鹿げている。本当にそれをすれば……あの子は自由を守るために君たちを徹底的に潰しにかかるだろう。もう容赦はしてくれない」
ノベールの言葉に、そんなはずがないと告げたかった。
だけど誰よりも娘の事を傍で見ていた彼の説得力のある気迫に、返事もできずに私達は固まった。
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