【完結】五年苦しんだの、次は貴方の番です。~王太子妃は許す気はありません~

なか

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14話

 ルアンスの元へ届いていた書簡。
 差出人もなく、明らかに私を止めるように告げている文言。
 その文には以前までの余裕はなく、切羽詰まったがゆえに急遽として書いたような印象を受けた。

「これは……」

「本来ならば僕が書簡を届けた人物を特定すべきと思ったが…………君の手腕に、黙っているよりは情報を共有した方がいいと思ってね。忙しい中ですまない」

「いえ、感謝しています。明確に私を止めようと第三者が動いていると知れた方が、こちらも動きやすいですから」

「そう言ってくれると助かる」

 しかし、この書簡が今朝に届いていたというが……
 謎の人物の真意が掴み取れない。
 一転して私を止めるのは、真実を明るみにして欲しくない意思にもくみ取れた。

「まるで分からないわ。どうして今になって……私に真実を伝えながら。それを追求する矢先に止めようとしているなんて」

「その通りだ、フィリア妃。でも一つだけ。この書簡にて分かった事がある」

 『分かったこと』?
 私の気付かぬ何かを、ルアンスは包み隠す事なく教えてくれた。

「前回の謁見から、この書簡を届けた人物は心変わりしたといっていいはずだ。明らかに調査が国家全体に波及するのを望んでいない」

「……なるほど」

「調査が国を巻き込んだものとなるのを知っているのは、あの謁見の間に居た人物に絞られると思う」

 言われてみれば、そういった推測もできる。
 あくまで推測の域をでないが、今得られる情報にて辿り着くのはその答えのみだ。

「フィリア妃、協力者だと思っていた人物は……別の意図を持っている。それは念頭に置いてほしい」

「分かっております……でも調査を止めはせず、今からより重要な証拠を掴みに行く所です」

 私の言葉にルアンスは頷く。

「……僕は王家側の人間で信頼はないだろう、君が付きとめる証拠を聞く事は控えておくよ。それが……君にとっても最善だろうから。ただ調査の際は幾らでも僕の名を好きに使ってくれ」

 やはりルアンスは、とても聡くて冷静な方に思えた。
 あくまで王家だけではなく、私の意に沿って考えてくれている彼に思わず問いかける。

「どうして、ここまで協力を? 貴方はどちらかといえば……兄に庇う方が利はあるはずでは?」

「そう思えるだろうね。でも王家は少し……複雑なんだ」

「複雑?」

 問いかけに対して、ルアンスは椅子の背もたれに体重を預ける。
 迷うような視線をした後に呟いた。

「我が王家には、僕は兄より前に出てはならない。そうした複雑な決まりがある。貴族でもよくある事だろう、跡取りより前に出るなと制約が課されるのは」

「……」

「仕方ない事だと割り切っていても。民の声援を浴びる兄に、自らの制約を呪う事は……多々あった。それでも王太子として責務を負う兄を尊敬していた」

「その尊敬を裏切ったエリクを許せないのですね」

「あぁ、僕が諦めた居場所に兄は居たはずだ。だけどそれを粗末にして、軽率な行動をした兄に……激しい怒りがある。僕が欲した地位にいたはずなのに……なのに兄は」

 拳を握りしめ、思いの丈をぶつけたルアンス。
 彼の真意に少し触れて、ここまで協力的だった理由も分かった気がした。

「ありがとう、ルアンス。そこまで言ってくれれば貴方の真意は充分に伝わったわ」

「っ。すみません……つい、感情的になってしまった。ひとまず僕はこれで失礼します。貴方の調査を止める訳にはいきませんし、僕なりに書簡の件は調べます」

 そう言って、ルアンスは「いつでも頼ってほしい」と言い残して部屋を去る。
 残された書簡、協力者から一転した謎は残されたままか……

「とはいえ、情報が無さすぎる。こちらに調査を向けても徒労に終わるなら……今は目の前の問題を進めていかないとね」

 呟く私に、リューグがコートを肩にかけてくれる。
 これから外に調査に出向く私への配慮だろう。

「行きましょうか、リューグ。まずはカミラの全貌を明らかにするわ」

「承知いたしました。ご命令があれば……なんなりと」

 謎はあるが、やる事は変わらない。
 エリク達の不義は正直、私が関わらずとも証拠は集まっていくはずだ。
 あの二人は杜撰だから……

 だから私は、まずカミラの秘密を暴くとしよう。
 彼女も愛息同様に不義を犯したのか。
 王妃という立場を逸脱して、愛息にここまで協力した理由も含めて……

「私に『子が産めない』と偽った事実を暴いて。もろとも処罰の場に上がってもらうわ」

 上がる口角を抑えながら、私はコートを羽織り。
 リューグと共に、城を後にした。


   ◇◇◇


「こ……これが。我が家の帳簿です。フィリア王太子妃様」

 私がハーヴィン国騎士団と調査に向かったのは、まどろっこしい遠回りはせず……カミラが横領をしていたロット伯爵家の元だ。
 手っ取り早く証拠を集めていくためにも、自ら出向かせてもらった。

「ロット伯爵、今の私はシルヴァン王家代表として調査をしております。どうか王太子妃の敬称はおやめください」

 私自ら出向いたのは、以前に王家よりシルヴァン王国の共同調査としたため。
 これにより、 王太子妃としての肩書きではなく、私自身がシルヴァン王家の者として調査ができる。

「すでに騎士達によって帳簿類は回収しております。貴方に横領していたカミラについて……教えてくれますか?」

「……」

「全て正直に話してください。全て調べれば分かる事ですよ?」

 カミラと関係のあったロット伯爵家に真っ先に向かったのは、証拠を隠蔽する事を避けるため。
 どんな貴族家であろうと多くの使用人を抱える以上……淫らな関係があれば隠し通すのは不可能。

 つまり、カミラとロット伯爵が関係を持つなら、真実を知る者が複数人いるはず。
 そして迅速な対応のおかげか、考えは上手く講じた。

「フィリア様、想定通り。カミラ王妃が慈善事業の相談として、この屋敷に何度も訪れていたと使用人から証言がとれました。二人のみでの会合だったようです」

 リューグの報告を受け、ロット伯爵は一気に顔面を蒼白にさせる。
 怯えている所で悪いけれど、私は貴方に時間をかけている暇はないの……だから。

「真実を話してもらうわよ。一つも隠す事は許されないと理解しなさい」

「は、はい……」

 ロット伯爵に、カミラについて全てを白状してもらう。
 そして……もう一つ、聞きたい事が出来てしまった。

「……」

 先程、ロット伯爵に渡された帳簿。
 カミラが横領していた証拠となる物的証拠で、入金と出金の詳細が書かれている。

 そこまでは分かっていた。
 だけど不可解な出金記録に目を奪われた。

 それは、このロット伯爵が横領の資金にて……我がシルヴァン王家騎士の鎧を購入していたのだ。
 ちょうど一年前……私に真実を告げてくれたあの騎士が嫌でも重なる。
 少なくとも、このカミラが何か関わっているのは確実だ。


「全部聞かせなさい。貴方は……カミラに何をしていたのか。なにを聞いたのかをね」


 まだ疑問だらけだが……幸いな事に、私が追うものは……カミラの不義だけではない。
 謎の人物まで特定できる可能性が含まれている。
 もしこちらに真実を教えてくれた誰かが敵対しているなら……上等ね。
  
 まとめて突き止めてみせよう。
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