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20話
「理解いただけましたか? 私は貴方達の条件など呑むつもりはないの」
医師を捕らえた今、交渉を受け入れるはずがない。
「ま、まさか……ここまで対策を……」
「テルモンド公爵、娘の不義を不問としたい親心は理解できるけど、少し舐め過ぎよ」
「ま、待って欲しい。確かにロザリンは不義を犯した……しかし我がテルモンド公爵家の娘だ。不義などで捕えられてみろ」
テルモンド公爵は私へと、必死な言い訳を、恥ずかし気もなく披露していくのだ。
「このままでは民に不安を与えるだろう。王家共に貴族への不信も募り、このハーヴィン王国の安寧が崩壊す––––」
「黙りなさい、テルモンド公爵」
「っ!」
「証拠隠滅は、我がシルヴァン王家への明確な敵対行為。よって我が国の法によって貴方は裁きます」
「え……?」
「何を驚いているの、娘だけの問題から我が祖国に敵対したのは貴方です。だからシルヴァン国の厳罰にて貴方を裁きます。二度と国に戻れると思わないで」
私が告げた言葉に、テルモンド公爵の表情が驚愕に染まっていく。
「う、嘘だろう? 私はただ娘を守るための交渉をしようとしていただけで……ま……待て。待ってくれ」
「幕引きの優雅さも失った貴方に、貴族としての価値などないようね。惨めだわ」
本心で告げた怒りを交えた言葉。
尊厳が傷つけられたのか……テルモンド公爵の顔が赤く染まる。
「や、やめろ……嘘だろ。まさか本気か!?」
本当に情けなくて、優雅の欠片もない貴族の落ちぶれ方ね。
テルモンド公爵が許しを乞うが、リューグが捕らえる。
「ま、まて! 放せ! 我がテルモンド公爵家の財も君のシルヴァン王家に渡す! それでそちらに利益は出るだろう!? だから許してくれ!」
「大人しくしろ」
「放せ! 騎士如きが間に入るな。今から私はフィリア妃と、改めて健全な交渉を……」
「黙らせなさいリューグ」
抵抗を続けるテルモンド公爵が交渉を望むが、リューグは無表情のまま腕を回す。
ゴキっと鈍い音が部屋に響いた。
途端にテルモンド公爵の絶叫が響く。
「肩を脱臼させました。落ち着けば嵌めておきます」
「ありがとう、リューグ」
「あ……あが……やめ、あぁ……」
話し合いを円滑に進めるため、抵抗の余地をなくす判断をしたようだ。
助かる事ね。
さて残すは、不義という罪を犯したロザリンだけだ。
「さて……ロザリン」
「ひっ!」
「貴方、全てを知っていたのよね。外にいる医師か、エリクから聞いていたからこそ不義を働いたのでしょう?」
「ええ、そうよ……私の、なにが悪いというの!」
ロザリンは瞳を潤ませて、またもや被害者のように振る舞う。
まるで睨まれた子ウサギのような仕草。
自然とそれが出来るのは、まさに男を虜にする魅力なのだろう。
「私はただ……ただエリクを愛したかったの。好きになった人を愛する事が、そんなに悪いことなの?」
「……」
「好きだったの。昔から一緒で、ずっと好きだった。政略で私達は離れる事を余儀なくされたけど、私は彼の真実を知ったからこそ。彼に寄り添うと決め––––」
「もういい」
ただ感情に任せて禁断の愛を犯すなど、令嬢としての尊厳も無い行為だ。
その怒りが、冷ややかな声となってロザリンへと言葉を告げる。
「あまりに稚拙過ぎて、話していられないわ」
「っ! なにも知らないくせに……貴方は彼の何も知らないくせに……」
「ロザリン、貴方は何か知っているとでもいうの」
「彼はね、心に大きな傷を抱えているの。それを知った私は……悲しむ彼に寄り添って、ただ心の支えになってあげたかったの」
「心に大きな傷?」
私の問いかけに対して、ロザリンは自分だけは知っているとでもいいたげに微笑む。
「教えてあげないわ。これは彼と私だけの秘密だもの」
「教えなさい」
「嫌よ。貴方だけには教えない。こんな状況でも私は……彼への愛を誓って、絶対に話さない」
「あっそ……ではリューグ、ロザリンの身柄も捕らえて。全て白状させるわ」
「承知いたしました」
リューグが一歩前に出る。
だが、ロザリンはその瞬間……隠し持っていた小さなナイフを取り出した。
「近づかないで……私だって奥の手ぐらい、残しているのよ」
抵抗の意志を示したロザリン……
しかし彼女は予想外にも、その鋭い切っ先を自らの喉元へと向けた。
「私を捕らえるというのなら……私はここで死ぬわ。不義の証人である私が死ねば事実は有耶無耶になる……民に残るのは貴方に責められ、精神を病んで自殺した私の噂のみ」
「……」
「困るわよね? 一国の王女が公爵令嬢の精神を追い込んで自殺させたなんて醜聞が広がるのは!」
「本気なの?」
「私を捕らえるというなら、本気で死ぬわよ。私は……私はエリクへの愛を誓う。彼との秘密を白状させられるなら……ここで死んだっていいもの」
大層な抵抗の意志だ、死すら覚悟するとは。
でも正直ね……医師を捕らえた今、私にとってロザリンはどうでもいい。
だから躊躇わず、彼女へと近づこう。
「な、なにをして! 私は……私は本気よ!」
「愚かなことね。どうせ不義の証拠は貴方が居なくとも見つかるのに」
ロザリンの手が震えた。
彼女の瞳に涙がにじみ、それでもナイフを握る指が強張っている。
そこまでの覚悟なら、彼女の背を押してあげないとね。
「しかし、自死してまで抵抗の意志を示した……その勇気には敬意を表します!」
「っ!」
認める言葉に、彼女は許されたと思ったのか安堵の息を吐くが……
なにを勘違いしているのか。
「なので敬意を持って、貴方の死に向きあいましょう!」
「え……」
「どうしたの? 早く死になさい。私は止めませんから」
「ざ、罪悪感はないというの!? わ、私が本気で死ねば、貴方が私の死を招いた事に……」
「あははは! 罪悪感? あるわけないでしょう」
そっと、ロザリンの手元に私自身の手を添える。
震える彼女の手先、強張る指に力をかけていき、私はロザリンへと囁いた。
「犯した罪の責任を取る気もないなら、さっさと死になさい。惨めな命の幕引きすれば?」
「え……っ!! や、やめ!?」
私が少しずつ、添えた手に力を込める。
私の力により、鋭い切っ先がロザリンへと近づき、薄皮に刺さり始めた。
「死ぬと言ったのは貴方よね? ロザリン」
「な、やめ……」
「どうしたの、私は貴方の覚悟に敬意を表して助けているだけよ?」
「あ……あぁ……や、やめ」
「怖いの? でも貴方が言った事よね? 最後に示した覚悟ぐらいはやり遂げてはいかが? それすらも出来ないの?」
苦悶の表情で、恐怖に歪むロザリン。
そんな彼女の耳元で小さく囁いた。
「言っておくけど、貴方の死には……何の意味もないから」
告げた言葉に、ロザリンの瞳が大きく見開く。
震えた手先、大量の汗を流しながら……彼女は怯えた瞳で私を見つめた。
「ねぇロザリン……これは、貴方が始めた事よ?」
私は彼女の手に力を込めて押し、その切っ先を更に近づけさせた。
医師を捕らえた今、交渉を受け入れるはずがない。
「ま、まさか……ここまで対策を……」
「テルモンド公爵、娘の不義を不問としたい親心は理解できるけど、少し舐め過ぎよ」
「ま、待って欲しい。確かにロザリンは不義を犯した……しかし我がテルモンド公爵家の娘だ。不義などで捕えられてみろ」
テルモンド公爵は私へと、必死な言い訳を、恥ずかし気もなく披露していくのだ。
「このままでは民に不安を与えるだろう。王家共に貴族への不信も募り、このハーヴィン王国の安寧が崩壊す––––」
「黙りなさい、テルモンド公爵」
「っ!」
「証拠隠滅は、我がシルヴァン王家への明確な敵対行為。よって我が国の法によって貴方は裁きます」
「え……?」
「何を驚いているの、娘だけの問題から我が祖国に敵対したのは貴方です。だからシルヴァン国の厳罰にて貴方を裁きます。二度と国に戻れると思わないで」
私が告げた言葉に、テルモンド公爵の表情が驚愕に染まっていく。
「う、嘘だろう? 私はただ娘を守るための交渉をしようとしていただけで……ま……待て。待ってくれ」
「幕引きの優雅さも失った貴方に、貴族としての価値などないようね。惨めだわ」
本心で告げた怒りを交えた言葉。
尊厳が傷つけられたのか……テルモンド公爵の顔が赤く染まる。
「や、やめろ……嘘だろ。まさか本気か!?」
本当に情けなくて、優雅の欠片もない貴族の落ちぶれ方ね。
テルモンド公爵が許しを乞うが、リューグが捕らえる。
「ま、まて! 放せ! 我がテルモンド公爵家の財も君のシルヴァン王家に渡す! それでそちらに利益は出るだろう!? だから許してくれ!」
「大人しくしろ」
「放せ! 騎士如きが間に入るな。今から私はフィリア妃と、改めて健全な交渉を……」
「黙らせなさいリューグ」
抵抗を続けるテルモンド公爵が交渉を望むが、リューグは無表情のまま腕を回す。
ゴキっと鈍い音が部屋に響いた。
途端にテルモンド公爵の絶叫が響く。
「肩を脱臼させました。落ち着けば嵌めておきます」
「ありがとう、リューグ」
「あ……あが……やめ、あぁ……」
話し合いを円滑に進めるため、抵抗の余地をなくす判断をしたようだ。
助かる事ね。
さて残すは、不義という罪を犯したロザリンだけだ。
「さて……ロザリン」
「ひっ!」
「貴方、全てを知っていたのよね。外にいる医師か、エリクから聞いていたからこそ不義を働いたのでしょう?」
「ええ、そうよ……私の、なにが悪いというの!」
ロザリンは瞳を潤ませて、またもや被害者のように振る舞う。
まるで睨まれた子ウサギのような仕草。
自然とそれが出来るのは、まさに男を虜にする魅力なのだろう。
「私はただ……ただエリクを愛したかったの。好きになった人を愛する事が、そんなに悪いことなの?」
「……」
「好きだったの。昔から一緒で、ずっと好きだった。政略で私達は離れる事を余儀なくされたけど、私は彼の真実を知ったからこそ。彼に寄り添うと決め––––」
「もういい」
ただ感情に任せて禁断の愛を犯すなど、令嬢としての尊厳も無い行為だ。
その怒りが、冷ややかな声となってロザリンへと言葉を告げる。
「あまりに稚拙過ぎて、話していられないわ」
「っ! なにも知らないくせに……貴方は彼の何も知らないくせに……」
「ロザリン、貴方は何か知っているとでもいうの」
「彼はね、心に大きな傷を抱えているの。それを知った私は……悲しむ彼に寄り添って、ただ心の支えになってあげたかったの」
「心に大きな傷?」
私の問いかけに対して、ロザリンは自分だけは知っているとでもいいたげに微笑む。
「教えてあげないわ。これは彼と私だけの秘密だもの」
「教えなさい」
「嫌よ。貴方だけには教えない。こんな状況でも私は……彼への愛を誓って、絶対に話さない」
「あっそ……ではリューグ、ロザリンの身柄も捕らえて。全て白状させるわ」
「承知いたしました」
リューグが一歩前に出る。
だが、ロザリンはその瞬間……隠し持っていた小さなナイフを取り出した。
「近づかないで……私だって奥の手ぐらい、残しているのよ」
抵抗の意志を示したロザリン……
しかし彼女は予想外にも、その鋭い切っ先を自らの喉元へと向けた。
「私を捕らえるというのなら……私はここで死ぬわ。不義の証人である私が死ねば事実は有耶無耶になる……民に残るのは貴方に責められ、精神を病んで自殺した私の噂のみ」
「……」
「困るわよね? 一国の王女が公爵令嬢の精神を追い込んで自殺させたなんて醜聞が広がるのは!」
「本気なの?」
「私を捕らえるというなら、本気で死ぬわよ。私は……私はエリクへの愛を誓う。彼との秘密を白状させられるなら……ここで死んだっていいもの」
大層な抵抗の意志だ、死すら覚悟するとは。
でも正直ね……医師を捕らえた今、私にとってロザリンはどうでもいい。
だから躊躇わず、彼女へと近づこう。
「な、なにをして! 私は……私は本気よ!」
「愚かなことね。どうせ不義の証拠は貴方が居なくとも見つかるのに」
ロザリンの手が震えた。
彼女の瞳に涙がにじみ、それでもナイフを握る指が強張っている。
そこまでの覚悟なら、彼女の背を押してあげないとね。
「しかし、自死してまで抵抗の意志を示した……その勇気には敬意を表します!」
「っ!」
認める言葉に、彼女は許されたと思ったのか安堵の息を吐くが……
なにを勘違いしているのか。
「なので敬意を持って、貴方の死に向きあいましょう!」
「え……」
「どうしたの? 早く死になさい。私は止めませんから」
「ざ、罪悪感はないというの!? わ、私が本気で死ねば、貴方が私の死を招いた事に……」
「あははは! 罪悪感? あるわけないでしょう」
そっと、ロザリンの手元に私自身の手を添える。
震える彼女の手先、強張る指に力をかけていき、私はロザリンへと囁いた。
「犯した罪の責任を取る気もないなら、さっさと死になさい。惨めな命の幕引きすれば?」
「え……っ!! や、やめ!?」
私が少しずつ、添えた手に力を込める。
私の力により、鋭い切っ先がロザリンへと近づき、薄皮に刺さり始めた。
「死ぬと言ったのは貴方よね? ロザリン」
「な、やめ……」
「どうしたの、私は貴方の覚悟に敬意を表して助けているだけよ?」
「あ……あぁ……や、やめ」
「怖いの? でも貴方が言った事よね? 最後に示した覚悟ぐらいはやり遂げてはいかが? それすらも出来ないの?」
苦悶の表情で、恐怖に歪むロザリン。
そんな彼女の耳元で小さく囁いた。
「言っておくけど、貴方の死には……何の意味もないから」
告げた言葉に、ロザリンの瞳が大きく見開く。
震えた手先、大量の汗を流しながら……彼女は怯えた瞳で私を見つめた。
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