【完結】五年苦しんだの、次は貴方の番です。~王太子妃は許す気はありません~

なか

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21話

 カランと、金属音が響く。
 床に落ちたナイフを見て、私はロザリンに添えた手を離して拾い上げた。

「覚悟もないくせに、死ぬ事を脅しに使うなんて……幕引きも出来ぬまま、哀れな程に惨めね」

「くっ……う、うぅぅぅ……あぁぁぁ!」

 両手で顔を押さえて、恥辱による情けなさを感じたのか。
 ロザリンは泣きわめいて、その場で駄々をこねる小娘のように振る舞う。

「私情に流される貴族令嬢に……覚悟ある最後を期待した私が馬鹿だったわ」

「あ……ひぐ……どうして、私はただエリクのため……」

「さて、泣いている所で悪いけれど……」

 泣きじゃくるロザリンの顎を掴み、無理やりこちらに視線を向けさせる。
 華美な姿から一転、泣きじゃくって顔を歪めているロザリンに情けなさを感じつつ、問いかけを漏らした。

「エリクのこと、答えなさい」

「は……はは。なにも、なにも知らないのね。貴方……」

 生意気な言葉だが、エリクについて知らぬのは事実だ。
 それゆえに言葉を返せないでいると、ロザリンは薄い笑みのまま呟いた。

「あのね……子供ができないっていうのは、本当なのよ」

「それは、どういう意味」

「貴方とエリクが愛し合っていても子供など出来るはずがない、いくら願ってもね」

 その言葉に、嫌でも思い当たる言葉が重なる。
 以前にエリクに襲われかけた際に、彼が発していた言葉だ。

『本当だ。幾ら望もうと、俺と君が交わって子などできない』

 あの時、強情に嘘を突き通しているのだと思っていた。
 しかし幾ら願っても子が出来ないと言う言葉には、私に非があるという訳ではなく。
 エリク自身に問題があると解釈もできるのだと。

「っ……そう言う事ね。子供が出来ないとは……私ではなくエリクに原因があるのね」

 思わず呟いた言葉に、ロザリンは泣きながら呟いた。

「エリクはね、私にだけ相談してくれたの。その意味は……私を愛してくれたから、それは事実なのよ。だから……それだけ私の方が愛されていたの」

「そう、私には興味がないことよ」

「わ、私は貴方よりも王太子妃に相応しかったの。それだけは、エリクに認められた確かな事実なのよ」

 それが今、ロザリンを支えている僅かな自尊心の源なのだろう。
 でも私にとっては滑稽な言葉だった、だって……

「今の私にとってエリクの愛なんて、なんの価値もないけどね」

「うるさい……私は、貴方よりも愛されて……私だって、私だって彼の隣にいる資格は、あったのに……」

「良かったわね。これからずっと隣に居れるわよ。落ちぶれた先でね?」

「う、うるさい。うるさい! 私が、私の方が愛されて……私だって、王太子妃に……」

 亡き喚くロザリンを見つめながら、外で待っているシルヴァン王家騎士に合図をする。
 彼らはロザリン、テルモンド公爵を拘束してくれた。

「や、やめてくれ! 頼む!」
「私が……私が愛されていたのに、私だって……王太子妃になれたのに」

 それぞれ好き勝手に騒いでいるが、こちらは粛々と移送用の馬車へ彼らを連れ込む。
 その中に居る……五年前に私に診断を下した医師にも視線を向けた。

「さて、王城に着けば。貴方の知っている事も全て話してもらうわ。いいわね?」

「……」

 苦虫を嚙み潰したような表情のまま、医師は黙って俯く。
 今は黙秘としているようだけど、城に着けば相応の手段で白状してもらう事としよう。

「王城に戻るわ。馬車を走らせて」

 告げた合図。
 しかし、シルヴァン王家騎士が手綱を握る馬車が走り出さない。
 どうしたのかと思えば、御者をしていた騎士がこちらに声をかけた。

「フィリア妃、ハーヴィン王家の馬車が……来ております」

「え?」

 言われて馬車から降りれば、本当だった。
 ハーヴィン王家の意匠が施された馬車がテルモンド公爵家の屋敷前に停まる。
 そこから出て来たのは……エリクだった。
 護衛らしき騎士は数人だけで、お忍びで来たのは明白だ。

「フィリア……ロザリンの元へ向かったと聞いて……直ぐに来て良かった」

「エリク、なんの用だというの」

 以前の謁見にて会った以来のエリク。
 やつれた表情で顔色も悪く、酷く体調が悪そうだ。
 そんな彼はよろめくように私の前に立ち、両膝を落とした。

「なぁ、フィリア……ここに来たという事は、もう全てを知ったのだろう?」

「そうね。医師から私の身体についても聞けそうですし……貴方がロザリンに告げていたという真実も、大方察しができました」

「……」

 沈黙のまま、エリクは顔を上げて私を見つめる。
 その眼が私を射貫いて、訴えかけるように声を張り上げた。

「フィリア、お前が真実を知った今、怒りを抱く気持ちは当たり前の事であって、俺には言い訳のしようもない」

「そうですね、言い訳なんてされても不愉快なだけですから」

「だが、だが頼む。せめて……せめてロザリンだけでも無罪としてくれないか」

「……は?」

 抑えようとしていた感情が、瞬く間に心を燃え上がらせる。
 なのにエリクはそれに気付く事は無く、まるで正義を謳うような表情で私に訴えた。

「ロザリンを巻き込んでしまったのは俺の責任だ。彼女はただ俺を支えようとしてくれていたんだ」

「……」

「君の怒りが収まらないのは知っている。だが……だが彼女を巻き込んだのは俺で、彼女まで責めるのは間違っている!」

「っ!!」

 なにを言っているの、この男は……
 愛なんて言葉に絆されて、まさかこんな言葉を吐くなんて。
 呆れるほどの情けなさに……私は一歩前に出る。

「ロザリンまで責めないでやってくれ。君がこの国に友好のために来てくれたのなら、彼女だけは慈しみを持って許して欲しいんだ!」
 
「……」

「俺は幾らでも裁いてくれていい、いくらでも罰してくれ! だが俺の身勝手でこれ以上の被害者を増やしたくない。それは……君だって同じはずで」

「黙ってくれる?」

 思わず伸びた手が、平手となってエリクの頬を打つ。
 大きな音が鳴り響き、エリクが徐々に痛みを感じて顔を歪めていた。

「貴方がすべきは、我がシルヴァン王家への謝罪。そして私自身を虐げた事への謝罪のみ」

「っ!」

「その責務すら果たさず、まるで正義を謳うようにロザリンの無罪を求めるとは……馬鹿にしているの?」

「ち、ちが。俺はもちろん……謝罪の気持ちはあって……ただ、ロザリンを救おうと」

「貴方の懇願などなんの価値もない。そんなもの……不愉快なだけよ」

「そんなこと……言わないでくれ……頼む。フィリア」

 私の告げた言葉に、エリクの表情に諦めが宿っていく。
 一歩も譲歩する気は無い、貴方達が犯した罪を裁かれるまで、私は絶対に手を緩めはしない。
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