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26話
「事実を知りながら黙認していただと? な、なにを根拠に言っている。馬鹿馬鹿しい」
ハーヴィン陛下はルアンスに鋭い視線を向ける。
その口調は穏やかではあるが、何処かばつが悪そうに拳を握っていた。
「父上、貴方がここに来た事で僕の疑惑は確信に至りましたよ」
「なんのことだ」
「そもそも今夜、僕らが庭園にて集まる事を知るのは日中に妃室にいた者達だけです。それを知る手段があるとすれば妃室前に監視を付けるしかない」
「余は偶然、この場に来ただけだ」
「この時間は執務室に居るはずの父上が、偶然この庭園にてフィリア妃に会い。僕との待ち合わせ前に来たのですね」
「おかしな疑いはよせ。ルアンス……余の息子で世継ぎを任せられるのはお前だけだ。お前を立派な王にしたいんだ。こんな事で王家を乱すな」
ルアンスはわざと妃室で騒動を起こして、妃室を監視する者をあぶり出したのだろう。
おかげで、私も謎だった人物の特定ができた。
「ハーヴィン陛下、おかしな疑いだと貴方はおっしゃいましたが……先程の発言で私も確信できました」
「なにを言って……」
「私が一年前から準備をしていた。それは誰にも話した事はありません……一体どうして知っているのですか?」
先程のハーヴィン陛下の言葉をなぞるように問いかける。
陛下は狼狽えたように視線を迷わせた。
「い、意味の分からぬ言葉だ!」
「私も動機が分かりませんよ。どうして……その立場にありながら、そんな方法で私に真実を伝えたのか」
ハーヴィン陛下が全てを知りながら、私に真実を教えていたなら……
その動機はなに、なぜそんな方法をとったの?
分からないが、今まで手に入れた情報から……ある仮説だけは立てられた。
「貴方がなぜ隠れて真実を伝えてきたのか、それがカミラ達の供述から分かりそうです」
「馬鹿馬鹿しい、余はそんな世迷い言を聞く気はない。もういい……余は部屋にもど––––」
「陛下はルアンスを妾の子とは民に公表せぬまま、王太子にしたかったのでは?」
立ち去ろうとした陛下の足が止まる。
ルアンスも目を見開いて私を見つめ、二人共に私の言葉を待っていた。
「陛下は妾を愛しており、その子供も寵愛したかった。しかし事実を知ったカミラ王妃からすれば、ルアンスの台頭など許す事はできない」
「……」
「カミラから、ルアンスを王太子とすれば、妾の子である事を明かすなどと脅されていたのでは?」
これは私の仮説だった。
しかし去ろうとしていたハーヴィン陛下の足は止まり、沈黙のまま聞き入れている。
「だから陛下は、カミラ王妃やエリクの立場を落としたかった。妾の事実を隠したまま……」
「……」
「それに最適なのが、私だったのですね? 私が一年前にエリク達から受けていた謀略を告発すれば、貴方にとっては二人の立場を失くす最大の機会だった」
「妄言はやめよ。余はなにも知らぬ」
「貴方はそこまでして妾の存在と、ルアンスがその妾の子である事を隠したかったのでしょう?」
「……」
「だけど陛下にとって誤算だったのは、私が一年の準備の末に民にまで問題を公表してしまった事。王家内で静かに問題を終わりにしようとしていた算段が狂ってしまった」
私の言葉に対して、ハーヴィン陛下はため息を吐く。
そして振り返り、諦め混じりの瞳で呟いた。
「そうだな。余は妾の存在を隠蔽したまま……ルアンスに全ての地位を譲りたかった」
「っ!」
「フィリア妃、本来は一年前にさっさと告発すれば良いものを……大きな誤算だ。まさかあれほど迅速に国民に真実を公表するとは」
ハーヴィン陛下は言葉を続けた。
「余は一年前に、フィリア妃へ真実を知る機会を与えた」
「そこで告発するのを待っていたのですね……」
「ただの王女に出来るのは涙混じりの告発のみだと思っていた。余はその告発に対してカミラ達を守るという優位的立場となりたかった」
「謁見の間で不問に拘ったのは、カミラ達に恩を売るためだったのですか?」
「あぁ、告発に対してカミラ達を裁けば……遺恨が残り、向こうも余の隠したかった妾の存在を騒ぐだろう」
「……」
「しかし余が告発からカミラ達を守る立場となり……その対価を要求する予定だった。ルアンスを王太子とする事や、妾の存在を死ぬまで隠す事をな」
あの謁見で不問にしようとした事こそが、ハーヴィン陛下にとって最大の狙いだったのだ。
カミラ達を救う立場となり、ルアンスを王太子とする交渉を円滑に進めるための。
「だが誤算だった。余の想定以上にフィリア妃。お前は騒動を迅速に広げ……驚く速さで民に公表してしまった。王家であっても火消しはできぬほど」
「貴方にとって、査問会などでカミラが聴取される事になれば……過去の妾の事実が明るみになりますからね」
「あぁ。本当に想定外であり、誤算だったよ。フィリア妃」
私の仮説を素直に認めているハーヴィン陛下。
全てを白状した陛下は、だからこそ出来る懇願を私へ行った。
「フィリア妃、全てを知り、全てを白状した今だからこそ……心から頼みたい」
ハーヴィン陛下が両膝を落として、私を見上げる。
一国元首であるはずの陛下の姿に目を疑う。
「これは全て……余の愛する息子。今は亡き妾……愛する彼女の血を継ぐルアンスを守るための行動だったんだ。余の過去の清算でもあった!」
「……」
「このまま査問会が開けば、ルアンスが妾の子である事実は必ずカミラが白状してしまう。そうなれば……ルアンスの立場は消えゆく。この子の未来が閉ざされる」
『ルアンスを守るためだった』
そう告げるハーヴィン陛下が、懇願するように私へ告げた。
「改めて願う。ルアンスを守るためにも……証拠類を余に預けて欲しい。査問会を開く訳にはいかない」
「父上……全て、僕のためだったというのですか」
頭を下げて懇願するハーヴィン陛下を見て、ルアンスが瞳を見開いて呟く。
自らを愛してくれていたが故の行動に対して、ルアンスは私へと視線を向けた。
「…………フィリア妃。僕からも頼みたい事がある」
ルアンスの言葉、その心情がどこにあるのか。
次の言葉で全てが分かった。
「父の頼みを断ってほしい。それこそが……我がハーヴィン国のためだから」
ハーヴィン陛下はルアンスに鋭い視線を向ける。
その口調は穏やかではあるが、何処かばつが悪そうに拳を握っていた。
「父上、貴方がここに来た事で僕の疑惑は確信に至りましたよ」
「なんのことだ」
「そもそも今夜、僕らが庭園にて集まる事を知るのは日中に妃室にいた者達だけです。それを知る手段があるとすれば妃室前に監視を付けるしかない」
「余は偶然、この場に来ただけだ」
「この時間は執務室に居るはずの父上が、偶然この庭園にてフィリア妃に会い。僕との待ち合わせ前に来たのですね」
「おかしな疑いはよせ。ルアンス……余の息子で世継ぎを任せられるのはお前だけだ。お前を立派な王にしたいんだ。こんな事で王家を乱すな」
ルアンスはわざと妃室で騒動を起こして、妃室を監視する者をあぶり出したのだろう。
おかげで、私も謎だった人物の特定ができた。
「ハーヴィン陛下、おかしな疑いだと貴方はおっしゃいましたが……先程の発言で私も確信できました」
「なにを言って……」
「私が一年前から準備をしていた。それは誰にも話した事はありません……一体どうして知っているのですか?」
先程のハーヴィン陛下の言葉をなぞるように問いかける。
陛下は狼狽えたように視線を迷わせた。
「い、意味の分からぬ言葉だ!」
「私も動機が分かりませんよ。どうして……その立場にありながら、そんな方法で私に真実を伝えたのか」
ハーヴィン陛下が全てを知りながら、私に真実を教えていたなら……
その動機はなに、なぜそんな方法をとったの?
分からないが、今まで手に入れた情報から……ある仮説だけは立てられた。
「貴方がなぜ隠れて真実を伝えてきたのか、それがカミラ達の供述から分かりそうです」
「馬鹿馬鹿しい、余はそんな世迷い言を聞く気はない。もういい……余は部屋にもど––––」
「陛下はルアンスを妾の子とは民に公表せぬまま、王太子にしたかったのでは?」
立ち去ろうとした陛下の足が止まる。
ルアンスも目を見開いて私を見つめ、二人共に私の言葉を待っていた。
「陛下は妾を愛しており、その子供も寵愛したかった。しかし事実を知ったカミラ王妃からすれば、ルアンスの台頭など許す事はできない」
「……」
「カミラから、ルアンスを王太子とすれば、妾の子である事を明かすなどと脅されていたのでは?」
これは私の仮説だった。
しかし去ろうとしていたハーヴィン陛下の足は止まり、沈黙のまま聞き入れている。
「だから陛下は、カミラ王妃やエリクの立場を落としたかった。妾の事実を隠したまま……」
「……」
「それに最適なのが、私だったのですね? 私が一年前にエリク達から受けていた謀略を告発すれば、貴方にとっては二人の立場を失くす最大の機会だった」
「妄言はやめよ。余はなにも知らぬ」
「貴方はそこまでして妾の存在と、ルアンスがその妾の子である事を隠したかったのでしょう?」
「……」
「だけど陛下にとって誤算だったのは、私が一年の準備の末に民にまで問題を公表してしまった事。王家内で静かに問題を終わりにしようとしていた算段が狂ってしまった」
私の言葉に対して、ハーヴィン陛下はため息を吐く。
そして振り返り、諦め混じりの瞳で呟いた。
「そうだな。余は妾の存在を隠蔽したまま……ルアンスに全ての地位を譲りたかった」
「っ!」
「フィリア妃、本来は一年前にさっさと告発すれば良いものを……大きな誤算だ。まさかあれほど迅速に国民に真実を公表するとは」
ハーヴィン陛下は言葉を続けた。
「余は一年前に、フィリア妃へ真実を知る機会を与えた」
「そこで告発するのを待っていたのですね……」
「ただの王女に出来るのは涙混じりの告発のみだと思っていた。余はその告発に対してカミラ達を守るという優位的立場となりたかった」
「謁見の間で不問に拘ったのは、カミラ達に恩を売るためだったのですか?」
「あぁ、告発に対してカミラ達を裁けば……遺恨が残り、向こうも余の隠したかった妾の存在を騒ぐだろう」
「……」
「しかし余が告発からカミラ達を守る立場となり……その対価を要求する予定だった。ルアンスを王太子とする事や、妾の存在を死ぬまで隠す事をな」
あの謁見で不問にしようとした事こそが、ハーヴィン陛下にとって最大の狙いだったのだ。
カミラ達を救う立場となり、ルアンスを王太子とする交渉を円滑に進めるための。
「だが誤算だった。余の想定以上にフィリア妃。お前は騒動を迅速に広げ……驚く速さで民に公表してしまった。王家であっても火消しはできぬほど」
「貴方にとって、査問会などでカミラが聴取される事になれば……過去の妾の事実が明るみになりますからね」
「あぁ。本当に想定外であり、誤算だったよ。フィリア妃」
私の仮説を素直に認めているハーヴィン陛下。
全てを白状した陛下は、だからこそ出来る懇願を私へ行った。
「フィリア妃、全てを知り、全てを白状した今だからこそ……心から頼みたい」
ハーヴィン陛下が両膝を落として、私を見上げる。
一国元首であるはずの陛下の姿に目を疑う。
「これは全て……余の愛する息子。今は亡き妾……愛する彼女の血を継ぐルアンスを守るための行動だったんだ。余の過去の清算でもあった!」
「……」
「このまま査問会が開けば、ルアンスが妾の子である事実は必ずカミラが白状してしまう。そうなれば……ルアンスの立場は消えゆく。この子の未来が閉ざされる」
『ルアンスを守るためだった』
そう告げるハーヴィン陛下が、懇願するように私へ告げた。
「改めて願う。ルアンスを守るためにも……証拠類を余に預けて欲しい。査問会を開く訳にはいかない」
「父上……全て、僕のためだったというのですか」
頭を下げて懇願するハーヴィン陛下を見て、ルアンスが瞳を見開いて呟く。
自らを愛してくれていたが故の行動に対して、ルアンスは私へと視線を向けた。
「…………フィリア妃。僕からも頼みたい事がある」
ルアンスの言葉、その心情がどこにあるのか。
次の言葉で全てが分かった。
「父の頼みを断ってほしい。それこそが……我がハーヴィン国のためだから」
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