【完結】五年苦しんだの、次は貴方の番です。~王太子妃は許す気はありません~

なか

文字の大きさ
27 / 35

26話

「事実を知りながら黙認していただと? な、なにを根拠に言っている。馬鹿馬鹿しい」

 ハーヴィン陛下はルアンスに鋭い視線を向ける。
 その口調は穏やかではあるが、何処かばつが悪そうに拳を握っていた。

「父上、貴方がここに来た事で僕の疑惑は確信に至りましたよ」

「なんのことだ」

「そもそも今夜、僕らが庭園にて集まる事を知るのは日中に妃室にいた者達だけです。それを知る手段があるとすれば妃室前に監視を付けるしかない」

「余は偶然、この場に来ただけだ」

「この時間は執務室に居るはずの父上が、偶然この庭園にてフィリア妃に会い。僕との待ち合わせ前に来たのですね」

「おかしな疑いはよせ。ルアンス……余の息子で世継ぎを任せられるのはお前だけだ。お前を立派な王にしたいんだ。こんな事で王家を乱すな」

 ルアンスはわざと妃室で騒動を起こして、妃室を監視する者をあぶり出したのだろう。
 おかげで、私も謎だった人物の特定ができた。

「ハーヴィン陛下、おかしな疑いだと貴方はおっしゃいましたが……先程の発言で私も確信できました」

「なにを言って……」

「私が一年前から準備をしていた。それは誰にも話した事はありません……一体どうして知っているのですか?」

 先程のハーヴィン陛下の言葉をなぞるように問いかける。
 陛下は狼狽えたように視線を迷わせた。

「い、意味の分からぬ言葉だ!」

「私も動機が分かりませんよ。どうして……その立場にありながら、そんな方法で私に真実を伝えたのか」

 ハーヴィン陛下が全てを知りながら、私に真実を教えていたなら……
 その動機はなに、なぜそんな方法をとったの?
 分からないが、今まで手に入れた情報から……ある仮説だけは立てられた。

「貴方がなぜ隠れて真実を伝えてきたのか、それがカミラ達の供述から分かりそうです」

「馬鹿馬鹿しい、余はそんな世迷い言を聞く気はない。もういい……余は部屋にもど––––」

「陛下はルアンスを妾の子とは民に公表せぬまま、王太子にしたかったのでは?」

 立ち去ろうとした陛下の足が止まる。
 ルアンスも目を見開いて私を見つめ、二人共に私の言葉を待っていた。

「陛下は妾を愛しており、その子供も寵愛したかった。しかし事実を知ったカミラ王妃からすれば、ルアンスの台頭など許す事はできない」

「……」

「カミラから、ルアンスを王太子とすれば、妾の子である事を明かすなどと脅されていたのでは?」

 これは私の仮説だった。
 しかし去ろうとしていたハーヴィン陛下の足は止まり、沈黙のまま聞き入れている。

「だから陛下は、カミラ王妃やエリクの立場を落としたかった。妾の事実を隠したまま……」

「……」

「それに最適なのが、私だったのですね? 私が一年前にエリク達から受けていた謀略を告発すれば、貴方にとっては二人の立場を失くす最大の機会だった」

「妄言はやめよ。余はなにも知らぬ」

「貴方はそこまでして妾の存在と、ルアンスがその妾の子である事を隠したかったのでしょう?」

「……」

「だけど陛下にとって誤算だったのは、私が一年の準備の末に民にまで問題を公表してしまった事。王家内で静かに問題を終わりにしようとしていた算段が狂ってしまった」

 私の言葉に対して、ハーヴィン陛下はため息を吐く。
 そして振り返り、諦め混じりの瞳で呟いた。

「そうだな。余は妾の存在を隠蔽したまま……ルアンスに全ての地位を譲りたかった」

「っ!」

「フィリア妃、本来は一年前にさっさと告発すれば良いものを……大きな誤算だ。まさかあれほど迅速に国民に真実を公表するとは」
 
 ハーヴィン陛下は言葉を続けた。

「余は一年前に、フィリア妃へ真実を知る機会を与えた」

「そこで告発するのを待っていたのですね……」

「ただの王女に出来るのは涙混じりの告発のみだと思っていた。余はその告発に対してカミラ達を守るという優位的立場となりたかった」

「謁見の間で不問に拘ったのは、カミラ達に恩を売るためだったのですか?」

「あぁ、告発に対してカミラ達を裁けば……遺恨が残り、向こうも余の隠したかった妾の存在を騒ぐだろう」

「……」

「しかし余が告発からカミラ達を守る立場となり……その対価を要求する予定だった。ルアンスを王太子とする事や、妾の存在を死ぬまで隠す事をな」

 あの謁見で不問にしようとした事こそが、ハーヴィン陛下にとって最大の狙いだったのだ。
 カミラ達を救う立場となり、ルアンスを王太子とする交渉を円滑に進めるための。

「だが誤算だった。余の想定以上にフィリア妃。お前は騒動を迅速に広げ……驚く速さで民に公表してしまった。王家であっても火消しはできぬほど」

「貴方にとって、査問会などでカミラが聴取される事になれば……過去の妾の事実が明るみになりますからね」

「あぁ。本当に想定外であり、誤算だったよ。フィリア妃」

 私の仮説を素直に認めているハーヴィン陛下。
 全てを白状した陛下は、だからこそ出来る懇願を私へ行った。

「フィリア妃、全てを知り、全てを白状した今だからこそ……心から頼みたい」

 ハーヴィン陛下が両膝を落として、私を見上げる。
 一国元首であるはずの陛下の姿に目を疑う。

「これは全て……余の愛する息子。今は亡き妾……愛する彼女の血を継ぐルアンスを守るための行動だったんだ。余の過去の清算でもあった!」

「……」

「このまま査問会が開けば、ルアンスが妾の子である事実は必ずカミラが白状してしまう。そうなれば……ルアンスの立場は消えゆく。この子の未来が閉ざされる」

『ルアンスを守るためだった』
 そう告げるハーヴィン陛下が、懇願するように私へ告げた。

「改めて願う。ルアンスを守るためにも……証拠類を余に預けて欲しい。査問会を開く訳にはいかない」

「父上……全て、僕のためだったというのですか」

 頭を下げて懇願するハーヴィン陛下を見て、ルアンスが瞳を見開いて呟く。
 自らを愛してくれていたが故の行動に対して、ルアンスは私へと視線を向けた。

「…………フィリア妃。僕からも頼みたい事がある」

 ルアンスの言葉、その心情がどこにあるのか。
 次の言葉で全てが分かった。

「父の頼みを断ってほしい。それこそが……我がハーヴィン国のためだから」
感想 238

あなたにおすすめの小説

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

『愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私は離縁状を置いて旅に出ます。これからは幸せになります――そう思っていました。』

まさき
恋愛
夫に名前すら呼ばれず、冷たく扱われ続けた私は、ある朝、ついに限界を迎えた。 決定打は、夫が見知らぬ女性を連れて帰ってきたことだった。 ――もういい。こんな場所に、私の居場所はない。 離縁状を残し、屋敷を飛び出す。 これからは自由に、幸せに生きるのだと信じて。 旅先で出会う優しい人々。 初めて名前を呼ばれ、笑い、温かい食事を囲む日々。 私は少しずつ、“普通の幸せ”を知っていく。 けれど、そのたびに――背中の痣は、静かに増えていた。 やがて知る、自らの家系にかけられた呪い。 それは「幸せを感じるほど、命を削る」という残酷なものだった。 一方その頃、私を追って旅に出た夫は、焦燥の中で彼女を探し続けていた。 あの冷たさも、あの女性も、すべては――。 けれど、すべてを知ったときには、もう遅くて。 これは、愛されていなかったと信じた私が、 最後にようやく“本当の愛”に気づくまでの物語。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

「静かで、退屈な婚約者だった」と切り捨てられたので、最後くらい全部言って去ることにしました

桃我タロー
恋愛
「静かで、退屈な婚約者だった」 婚約破棄のその日、王太子は広間でそう言い捨てた。 三年間、失言を隠し、場を整え、黙って支えてきたのに。 どうやら私に必要だったのは婚約者ではなく、“便利な人”という役割だけだったらしい。 しかも隣には、つい三日前まで殿下の従兄に求婚していた令嬢まで立っていて――。 ならばもう、黙っている理由はない。 これは、最後まで笑って終わるつもりだった令嬢が、自分の声を取り戻す話。

6年前の私へ~その6年は無駄になる~

夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。 テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。

婚約破棄した王太子が今さら謝っても、私はもう戻りません

エスビ
恋愛
公爵令嬢ではなく侯爵令嬢オルタンシアは、卒業祝賀会の夜、王太子レオニードから一方的に婚約を破棄される。 隣にいたのは、可憐で儚げな男爵令嬢シェリル。 “真実の愛”を掲げた断罪で、オルタンシアは冷酷な悪女として扱われてしまう。 だが、王都を離れたことで、少しずつ明らかになっていく。 王宮が乱れたのは、彼女がいなくなったから。 “可哀想な令嬢”の訴えには、都合よく歪められた嘘が混じっていたこと。 そして王太子が愛していたのは、相手ではなく、自分に都合のいい夢だったことを――。 傷ついたまま終わるつもりはない。 もう誰かに選ばれるのを待つのではなく、自分で未来を選びたい。 そんな彼女の前に現れたのは、静かに寄り添い、必要な時だけ手を差し伸べてくれる辺境公爵ゼノン・アルケディウスだった。 これは、婚約破棄された侯爵令嬢が、 王太子も“真実の愛”も見限って、 自分の足で人生を選び直す物語。 強引なやり直し要求も、今さらの謝罪もお断り。 選ぶのは、もうあなたではなく――私です。