【完結】王妃はもうここにいられません

なか

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君だけは認められない・終 田口side

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   ◇◇◇  ◇◇◇


「っ!!」

 覚醒した意識の中で、周囲に視線を向ける。
 白い室内に、暖かな寝具。
 機械的な音が鳴り、口元に当てられた呼吸器に戸惑う。

「なんだ、どうなって」

 確かにクドスとして生きて、亡くなったはずだ。
 なのに今、俺は田口として目覚めたのだとすぐに分かった。

「っ、田口さん。起きたんですね」

「え?」

 俺が起き上がった姿に、巡回していた看護師が気付いて医者を呼んでくれた。
 徐々に思い出す記憶と共に、医者から多くを説明された。

 あの日、堂本を犠牲にしてしまった後悔で死を選んだ俺––––田口は、奇跡的に死を免れた。
 薬の大量服用による自殺をしたが、俺の両親が心配で見に来た際に発見され、直ぐに病院に運ばれたために一命をとりとめた。
 とはいえ一か月、意識を失ったままだったと医者に聞かされる。

「ひとまず、会社の方では病欠となっております。部長さんが起き上がれば連絡をくださいと言っておられましたが、どうなさいますか」

「……お、俺から連絡しておきます」

「分かりました」

 どういうことだ、俺は確かにクドスとして前世の記憶を思い出していた。
 あれは死んだからだと思っていたのに、俺は生きている。
 なら今までの全ては……ただの妄想? 意識を失っていた際の願望だったとでもいうのか?
 
 困惑している中、病室に置かれたスマホを開いた。
 メッセージアプリを開けば、数少ない友人達から心配の連絡などがあった。
 その中に、目を疑うメッセージが届いていた。

『田口さんのおかげで、全部うまくいきましたよ』

『堂本さんの残していたデータを改ざんして、私の名前と田口さんに書き換えておきました』

『休んでいるみたいですけど、そろそろ出社してきていいですよ』

『堂本さんに商品アイデアを全て盗まれたと、私達で公表しましょう。これで……全部が私達のですよ』

『いつまで休んでいるんですか。もう、私だけでも盗まれたと証言しますね』


 鼓動が高鳴る。
 かつて自らが自死した理由、自らの犯した罪はそのままだと思い出す。

 嫉妬の末に堂本が突き落とされるのを見過ごして、彼女の努力を知って後悔していた日々。
 あの人生に戻ってきたのだと、今になって実感した。

「とめ……ないと」

 クドスとして生きた、あの記憶が俺を奮い立たせた。 
 後悔していたってなにも変わらないと、クドスとして過ごしていた人生が教えてくれた気がしたのだ。

「え? 田口さ、ま、まってください!」

 看護師が呼び止める声を無視して、俺は病院を抜け出す。
 一か月も倒れていたせいか足はふらついて、意識はもうろうとしながらも……会社へと向かう足は止まらなかった。

「た、田口……お前!? なにが」

 会社にたどり着いて、戸惑う声の中で真っ先にあの後輩のデスクへと向かう。
 彼女は俺を見て、ギョッとした表情を見せた。

「え、田口さん。なんですか、その服」

 入院服のままの俺に、皆が困惑する中で……部署の皆へと叫んだ。
 後輩へと指さして……

「堂本を突き落としたのは、こいつだ」

「な、なにを言って! ふ、ふざけないで!」

「もし、堂本の商品アイデアをこいつが盗まれたと証言していたなら嘘だ。データの履歴……会社に残されたデータのバックアップを遡って見てほしい」

 後輩が俺の傍に来て、瞳に怒りをためて囁く。

「なにを言っているんですか、貴方も共犯ですよね……堂本さんが突き落とされるのと黙って見ていたこと、ばらされたいんですか?」

「問題ない。俺が全て話すからな」

「え? なんで、どうしたんですか。急に……」

「分かったんだ。心まで汚いまま生きている方が、きっとずっと後悔するって」

 ざわざわとする部署の人間の前で、俺は全てを明かした。
 取り乱す後輩だったが、部長が即座に会社のデータのバックアップなどを確認する。

「や、やめて! 駄目!」

 巧妙に消されていたようだったがデータ復元などを行えば、後輩が改ざんする前のデータを掘り起こせた。
 そうなれば、俺の証言を皆が信じ始める。

「ち、違います。これは……なにかの間違いで」

 もはや言い逃れる事もできずに、彼女を疑う目線は一気に増えていく。
 商品アイデアが盗まれたと彼女が吹聴していた事が、そもそも信じられてもいなかったのだろう。

 元々、目論見は外れて信頼などされていなかった。
 砂上の楼閣のように、あっけなく崩れる杜撰な計画だったと今になって分かる。

「ど、どうして証言するの! あと少しで、私だって、私も!」
 
 狂乱して、俺を責める言葉を吐いた後輩だったが……
 その罪はデータの改ざんに加えて、堂本を突き落とした事による殺人未遂となった。
 俺の証言もあったが、元々警察は後輩を犯人として調査を進めていたようだ。

 流石は国の機関というべきか、杜撰な計画はあっけなく全て明るみにされ、その犯行も白日の元となった。
 後輩の顔はニュースにまで流されて、その犯行方法は具体的に全てが晒されていく。
 獄中にいる彼女は、二度と平穏には暮らせないだろう。


「……俺も、同じだな」


 俺も同様に、殺人未遂を隠していた罪に問われている。
 それは事実であり、言い訳をする気も無い。

「田口……」

 警察の元へ出頭を求められていた俺に、部長が声をかける。
 心配の瞳を向けられたことに胸が痛むが、俺に同情など要らなかった。

 犯してしまった罪、自らの決断を償うだけだ。
 そこに後悔はない。
 だが……気掛かりなのは、今も気を失っているという堂本についてだった。

「部長、もし堂本が起きれば……伝えてくれますか」

「なにを伝えればいい」

「申し訳ないと伝えてほしい。俺が全て、全て俺が悪かったと……」

 許してもらえるとは思ってはいない。
 だが、それでも。
 この贖罪の気持ちだけは伝えたかった。

「すまなかったと伝えてください。堂本に……」

 これで、彼女の意識が目覚めた際、これ以上の迷惑をかけぬ決断は出来たはずだ。
 俺はこの現実でも、後悔のない選択を出来たはずだ……それで良い。

 
 そんな中、数日後に俺の元へある一報が届いた。

『堂本が意識を取り戻した』

 記載された一文に、俺はただ謝罪の気持ちのまま、自らの罪を償うために拘置所の壁に身を預けた。
 
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