【完結】この運命を受け入れましょうか

なか

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繰り返していたのは……②ルークside

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 ヴィオラを廃妃としてから、もう十日以上が経つ。
 政務、執務の二つを担っていたヴィオラ。
 そして大臣は勾留されて不在となり……当然ながら、城内の文官達は慌ただしく対応に追われていた。

「そちらの書類は別の部署にもっていけ!」
「馬鹿者……こっちも手一杯だ!」
「対応できないぞ、こんな量……」

 王宮内を歩いていると、そんな声が聞こえてくる。
 僕がヴィオラを廃妃してからずっと……ずっとだ。
 現に僕自身も、昼夜を問わずに舞い込む政務に追われて……ろくにリアと会えていない。

「ずっとリアと過ごせると思っていたのに、これでは真逆だ」

 息抜きに王宮内を歩いていた僕は、そんな愚痴をこぼす。
 王として、こんな弱音を吐いている場合ではない。

 だけど思ってしまう。
 果たしてヴィオラを廃妃して良かったのかと……

『陛下……変わられましたね。昔の貴方はヴィオラ様に相応しい方だったのに』

 以前に騎士団長に言われた言葉を思い出す。
 僕は変わったなんて……そんなはずがない、と言いたいのに。
 今の慌ただしく乱れた王宮内を見て、自らの失態による惨状に自信を持って否定できないでいた。

「これも……全てルーク陛下のせいだぞ」

「馬鹿、声が大きいぞ」

 ふと、聞こえてきた僕の名前。
 文官達の執務室近くで、僕は足を止めて耳をすませる。

「騎士団長だって提言なされていただろう。ヴィオラ様がリア様を害した罪を再調査すべきと」

「確かにそうだが……」

「加えて、肝心のリア嬢も聖女と称賛されてはいるが、王宮入りしたころと、魔力などは変わっていない。大臣達が過度に期待する意味が分からない」

「とはいえ大臣、貴族達の後押しもあってはルーク陛下の決定も致し方なしだろう」

「だとしてもだ。多大な貢献をなされた王妃を簡単に廃妃などと……おかげで迷惑を被るのは我ら官民だ。この仕事量を見ろ」

「まぁ……今や貴族達の傀儡のようになった王を見れば、この国の生末は明るくないだろうな」

 聞こえてきたのは、文官達の愚痴話。
 明確に僕の失態を嘲笑うものだ。
 頭に血が上って、鼓動がバクバクと動く。
 
「……くそっ」

 熱湧く感情と共に、僕は迷わず愚痴話をしていた文官達の前まで向かう。
 途端に、彼らは顔を青ざめて立ち上がった。

「へ、陛下!」
「まさか……今の話を聞いて」

「……」

「へ……陛下?」

「…………」

 出て行けと、叫ぼうとした思考が……途端に冷静な考えに制止される。

 僕は王として間違ってなどいないと、本気で言えるのかと自問した。
 リアに執心して、大局を見失ってはいないだろうか。
 そんな疑問が溢れて、止まらない。

「…………くだらない話をしてないで。仕事をしろ」

「は、はい!」

 文官達を諌めようとした言葉を収めて、僕は踵を返す。
 僕が間違ってなどいないと、この王宮内の現状で言えるはずがない。
 そんな冷静な思考が、間一髪で文官への怒りを鎮めた。

「馬鹿にされるだけの現状なのは、確かだからな」
 
 ヴィオラが不在となるだけで、ここまで王宮が荒れるなんて。
 もっと、上手くいくと思っていた十日前までの自分が情けない。
 リアの隣に居たいからと、あんなに短絡的な思考で物事を決めるべきじゃなかった。
 
 いや、悔いても仕方ない。
 今はこの抜けた穴を埋めるために、王として僕が皆を率いていかなくては……

「そういえば……」

 ふと、以前に僕の執務室に置かれていた書置きを思い出す。
 忙しくて忘れていた。
 思い出したと同時に、部屋に戻って内容を改める。
  
   ーーーー
 
 五十三回目。

 ようやく気付いた……なぜ、こんなにも思考がーーーのか。
 記憶のーーはーーと会った時からだ。


 この時間逆行の理由はーーーーーーーー
 なら、止めるには一つだけ。

 魔力を込めて残すには、回数を重ねるしかない。
 これを見たなら、大臣の執務室……書棚の下を見ろ。
 必ずだルーク、同じ轍を踏まぬためーーー
 
   ーーーー

 やはり、良く分からない。
 ただ最後から二行目、大臣の執務室を見ろと言う指示に……僕は従う事にした。
 名指しされているからこそ……見なくてはならぬ気がしたのだ。


「大臣の執務室は……今は誰も使っていないか」

 文面通りに、大臣の執務室……そこに置かれている書棚へと向かう。
 古く年季の入った書棚、中には歴史書などが置かれている。

 そんな書棚を、力の限り引く。
 どうにか動かせば……なんと、再び執務室に置かれていたように魔力が込められた古ぼけた紙があった。


「まただ。なんだ……これは」

 隠されていた紙に触れれば、光が輝いて魔力が露散していく。
 そして、再び文面が浮かび上がってきた。

   ーーーー
 
 記憶通りなら、二百七回目。

 魔力を込めて残すのに、幾度もやり直している。
 そしてこれだけ巻き戻っているという事は、やはり失敗しているのだろう。

 だからこそ、また追加でこれを残す。
 大臣の執務机と、リアの寝室に置かれた書棚の下を見ろ、ルーク

 
   ーーーー
 

 再び名指しでの指示に、若干の苛立ちが募る。
 イタズラではないだろうが、あまりに意味が分からない。
 なにが伝えたいというのだ。

 ただこの壮大な仕掛けに、緊迫感は伝わる。
 ひとまず僕は、文面に書かれた通りに大臣の執務机の中を見る。


「ちっ……大臣の奴、少しは整理しておけ」

 出てくるのは予算書や、この国の改善法案など多数の書類。
 どれもが大臣の署名であり、我が王国をより良くしようと模索していたのだと分かる。
 なればこそ、彼が汚職に手を染めたキッカケが分からなかった。

「……これは」

 そんな時だった。
 執務机の一番下の棚、そのさらに奥。
 多くの書類の中に……少し変わった書類を見つける。

 なぜそれが目についたのかは、一目瞭然だ。
 他の書類と違い、それは明らかに書き殴られたような、雑なものであったからだ。
 そして……


   ーーーー
 
 ルーク陛下は目的通り、リア嬢との接触を完了。
 彼女の言葉通り、王宮への招待も陛下によって果たされた。
 馬車の横転事故については、引き続き証拠類を残さず焼却せよ。
 
   ーーーー
 

「僕と、リアとの接触が完了? どういうことだ」

 意味が分からない書面に、戸惑っていた時だった。

「なにしてるの、ルーク」

 聞こえた声に、慌てて書面を懐にしまって顔を上げる。
 リアが扉から顔をのぞかせていた。
 愛しい彼女の微笑みなのに、なぜか今は心臓がざわつく。

「捜したよ、ルーク。大臣の執務室で、なにをしていたの」

「いや……必要な書類を取りに来ただけだ」

「……そっか! ねぇ、私の話も聞いてくれる?」

 取り繕った嘘だが、リアは屈託のない笑みで信じてくれる。
 若干の罪悪感を抱きつつ、彼女の話を聞いた。

「どうした」

「私ね、前にルークが言ってくれたように……王妃様に、なってもいいかな」
 
 確かに、以前にリアには廃妃したヴィオラの代わりを願っていた。
 だが、今はすぐに国民の理解が得られないから、来年頃だと伝えていたはず。
 その事にはリアも納得していたのに、どうして急に……


「リア、前にも言ったが。まだヴィオラを廃妃したばかりの情勢では難しい。一時の時間をおいて王妃となった方が君のためだ」

「でもね、私のお父さんが色々と話をつけてくれたの。身元保証人にはあのムルガ公爵がなってくれると言っているのよ!」

 リアの父が、大臣の生家であるムルガ公爵と話し合って王妃を推薦している?
 確かに公爵が間に挟まれば、この結婚の重みもできる。
 しかし、ただの平民出身であるリアの父と、ムルガ公爵にどんな関係が……


「ルーク、私……王妃になりたいの。ヴィオラさんがまた私を害する前に、守られる立場になりたいの。私が王妃となって、正式に彼女を国外追放にでもしましょう」

「……そう、だな」

 頭がぼうっとする。
 考え事、疑問が多くてうまく判断できない。
 でも、愛しのリアと結婚して……共にいられるならそれで……

「……っ」

 ふと、懐にしまった書面を思い出す。
 僕とリアの出会いが、決定事項であったという疑いのある書面。
 そして、謎の書置き。
 
 それらが伝えたい事を知るまで、まだ時期尚早ではないか?
 そうだ、まだ答えを出すべきじゃない。


「……ごめん、リア。もう少しだけ待ってくれるか」
  
「なんで?」

「王宮が落ち着かないと式の準備もできない。どうせなら壮大にしたいだろう?」

「……」

 納得していない様子のリアだが、小さく頷いて彼女は出て行く。
 初めて不機嫌そうな彼女に、胸が痛む。
 だが魔力が込められた書置きから辿れる情報からは、彼女に疑心を抱くものばかりだ。

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