【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか

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白きガーベラ②

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ローザside

「お嬢様、お客様が参りました」

 使用人の声掛けに私は来客者の名前も聞かずに「通してください」と答え、ドキドキと高鳴る嬉しい気持ちを抑えながら必死に平然を装う。
 私は来客者よりも早くに客室へと足早に駆けていき、使用人達に紅茶と茶菓子を用意してもらうようにお願いをしてソファに座って待ち続ける。
 今日は久々に会える日、私はこの日を楽しみにしていたのだ。

 コンコンと扉がノックされ、客室の扉が開かれて客人が部屋へと入ってくる。

「久しぶりね、ローザ」

「デイジー……うん、久しぶりだね」

 彼女が私の向かいのソファに座ると同時に暖かい湯気を放ち、心地よい甘い香りを放つ紅茶が茶菓子と共に置かれる、タイミングの良さに使用人に目配せして感謝しているとデイジーは紅茶を呑んだ後に口を開く。

「ローザ、何も抱えてはいない?」

「大丈夫だよデイジー、私はもう何かしでかそうだとか他人を貶めてやろうなんて考えてないよ」

「そうですね、一応…聞いておきました」

 あの卒業式の告発から約二年が経過した、私は犯した罪を両親にも告げて仕出かしてしまった罪を償うと申し出た、今までの人生で騙してきていた事を両親に告げるのは怖かったけど……優しい2人は私を許してくれて家族で償うと言ってくれた。
 落馬した騎手への謝罪と慰謝料を払い、また学園に対しても今後は寄付金を送る事を約束し、私は数年の間は屋敷で謹慎という事になっている。
 その経過を学園からの講師が月一で聞き取りに来てくれる事になったのだけど、意外な事にデイジーが名乗り上げてくれた、そのおかげでデイジーは月に一度は私の元へとやってきてくれる、時間を見つけては個人的にと月に三度も来てくれた事もあった。

 約束通りに友達として会いに来てくれて、他愛のない会話をするこの時間が今や私には至福の時間となっていた。

「デイジーは講師となって二年目でしょう?学園の講師としての研修期間は終わったけど忙しくはないの?」

 私の質問にデイジーは笑みを浮かべながら首を横に振った。

「いえ、私は講師を辞めましたよ」

「え?ど、どうして?」

「アメリア学園長との約束で講師となるはずだったんですけど、意外なライバルと言いますか……私よりも適任者がいましたから、優しくて生徒想いの彼女が……」

 嬉しそうにデイジーは微笑み、紅茶を一口飲んだ。



   ◇◇◇

【誰よりも優しい貴方】

「き…緊張する……」
 
 私は落ち着くために何度も深呼吸をして呼吸と気持ちを抑えようとしたが、やはり緊張には勝てずに慌てていると私を指導してくれている講師の方が笑いながらも口を開いた。

「大丈夫だよ、誰だって最初は緊張するし慌てるものよ…失敗してもいいからしっかりと生徒達と向き合ってきなさい」

「は、はい!」

 返事をする声は裏返っており、自分でもどうしてここまで緊張に弱いのだろうと心の中で悲観してしまう…憧れの彼女を夢見て前に進んでいるつもりでも実は何も進めていないのかもしれない。
 
––––貴方がいてくれたから、友達でいいてくれたから…私は立っていられたの。


 憧れの彼女に言われた言葉を思い出し、胸に留めているブローチに手を触れる。
 アメジストの紫色が太陽の光に輝き、私に自信をくれる…友達で、親友で…大事なデイジーがくれた勇気に背中を押されたような気がした。
 くよくよしてもいられない!私は決めたのだ、この学園の講師となってデイジー達と過ごしたこの学園を守っていくと……私と同じように苦しんでいる者がいれば……デイジーのように私が救ってみせるって決めたじゃない。

 
「覚悟は決まりました、行きましょう!」

 私の声に講師の方も頷き歩き出す、この先にいる生徒達の元へと。
 もう、私は怖くない…貴方が隣にいてくれたから。



 これでいいよね?デイジー。
 







   ◇◇◇
ローザside



「それで、モネが講師となりました…今も生徒達に頼られて嬉しそうに話していましたよ、あの弱気だったモネが生徒達を指導して、時には間違いを正すために𠮟責もしています」

 嬉しそうに友達について報告する彼女を見ていると羨ましいとさえ思ってしまう、モネさんは本当にデイジーと心の底から繋がっているようだ。
 デイジーは紅茶を含み、嚥下すると思い出したように少し困った表情を浮かべて話し出す。

「そういえば……とても困った友達もいて…本当に困らされましたよ、でも彼女はその困った事を押し通す力があるんでしょうね」

 苦難の表情を浮かべながらもその頬は嬉しそうに緩んでいるデイジーは話し出した。
 ワガママで強気な彼女の事を。



   ◇◇◇

【前に突き進む貴方】

「ガーランドさん、お客さんが来ているようですよ…なんでもファルムンド公国の外交官だとか」

 東の国で研究者として職務を果たしていた俺に伝えられた言葉に首をかしげる、ファルムンド王国が公国と名を変えて二年は経っただろうか、かつての自分の出身国では何か大きな改革が進んだようだが東の国で過ごしている俺には無関係な事であった。
 しかしファルムンド公国からの外交官と言えば俺の父上だろう、前に会った時はエリザと共にやってきて事情を聞かれた、自分の犯した罪を親に全て話すのは苦しかったが父上は俺の知っている厳格な性格から大きく温和になっていたことが印象に残っている、それも全ては妹のエリザの影響だろう。

 俺には過ぎた妹だ、彼女はきっと俺の事を軽蔑しているはず、講師という立場で1人の女生徒を貶めようとしたのだ、許されるはずもない……現に妹には手紙を送ってはいるが返事は返ってきたことはない。
 仕方がない事だ、俺はアメリア様の温情で東の国の研究者として過ごせている…しかし無気力に過ごしているのが現状だ、生きている、それだけで幸せなんだと思い込みながら。


 もう何も望むものなんてない、そう思っていたのに……。
 客としてやって来た外交官の顔を見て、俺は息を吞んだ……どうしてお前が…。


「エリザ……?」

 そこにいたのは…俺を嫌っていると思っていた妹であった、最後に会った時よりも大人びた雰囲気があり、落ち着いた様子に変わっていた妹は俺を見て頭を下げた。

「ガーランドお兄様……お久しぶりです」

「ち、父上はどうしたのだ?が、外交官と聞いていたのだが……」

 俺の質問に彼女はニヤリと自信あり気に笑みを浮かべる、その褒めてほしいというような笑みは小さな頃から変わっていない、いつものエリザの笑みであった。

「この二年間、お手紙の返事も出来ずに申し訳ありません……父上や多くの方々に無理を言って外交官としての知識やノウハウを学んでおりました、全てはお兄様と新しい公国へと帰るために」

 人付き合いなんて苦手な妹だと思っていた、しかし目の前にいるエリザの瞳は自信に満ちあふれている、ファルムンド公国から外交官として東の国にやって来ているという事はあの厳しい父上も認めたからこそなのだろう。
 俺のため…そう言ってくれた事に心の底から嬉しいと思う、感謝の気持ちで溢れる。


 だけど。


「エリザ……提案は嬉しいが俺がやってしまったことは許されない行いでとても帰るなんて……」

「お兄様、勘違いしないでください、私はタダでお兄様を公国へと連れ戻す気はありませんよ」

 俺の言葉を遮ったエリザは意味深な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「私がこの国にやって来たもう一つの目的はファルムンド公国と東の国で共同研究を行う提案のため、先程この国で提案が承認されて研究者としてガーランドお兄様も選ばれたわ」

「そ、それは………」

「ここからは兄妹としてではなく、ファルムンド公国から遣わされたエリザ・フィンブルとしての言葉です………ガーランド・ファルムンド、王国から公国へと変わり情勢を整えている今、貴方の力が必要…此度の研究を成し遂げて公国へと胸を張って帰ってきなさい」

「エリザ………」

「犯した罪を嘆く事は幾らでも出来る、でもそこで立ち止まるべきじゃない……帰ってきてよお兄様、私はいつまでも待っているから……」


 妹の言葉……それは俺を連れ戻すために彼女が考えてくれた最善案であり、妹としての愛情であった。
 こんな情けない俺のために出来る事を探して、前に進んでいる妹…それに比べて俺は過去の罪を言い訳に何も進んでいない…本当に、情けない。

 でも、もうこんな日々は終わりだ……妹が作ってくれた道、それを歩いていこう…立ち止まるのは止めだ。

「エリザ、必ずまた兄として国に帰ってみせる………あと少しだけ待ってくれるか?」

「ええ、もちろん待つわよ…お兄様に紹介したい私の自慢の友達がいっぱいいるんだから!」

 瞳に涙を潤ませて微笑み頷いた妹の頭を兄として撫でると遠き日に無くしたと思っていた兄妹の愛情を再び思い出す、あの小さかったエリザが俺を引っ張ってくれる程に成長している。


 それはきっと彼女だけの力ではなく、周囲の友達達の影響も大きいのだろう。

 あぁ、早く国に帰るためにも前に進まなくては……妹を成長させてくれた友達達に会ってお礼がしたい…。
 自慢気に微笑むエリザを見つめながら、俺はようやく長く止まっていた足を進め始めた。



 もう、立ち止まる事はないだろう。





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