死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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皇帝陛下の愛し方

85話・紡いだ幸せ

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 シルウィオside

 それは、突然に記憶の奥底から蘇った。

 いつも通りに眠りに落ち、おぼろげな意識の中で見た夢。 
 ぼんやりとした意識の中、目の前に広がるのは大勢が争う光景だ。
 
『陛下! ……後は頼みます!』
『我らの家族を……帝国を……』

 戦い、倒れていく騎士達の言葉の意味が分からない。
 だが……どこか覚えのある感覚。

『我らがカルセインへ侵攻する軍を止めます! 陛下は儀式の場へ!』
『行ってください! 陛下!』

 思い出してきた。これは、俺が経験した事だ。
 厳密に言えば、カーティア達と同じ……前世の記憶というものだろうか。
 奥底に眠っていた記憶が、泡のように浮上してくる。


 見える戦場はカルセイン王国の領地であり。
 そして今は、我が帝国軍がカルセインへ侵攻する他国の軍を止めている状況だ。
 
 当時……帝国はヒルダの存在を把握しており、件の計画を阻止するために動いていた。

 しかし、公卿ジェラルドが暗躍するヒルダの存在を知った時にはすでに手遅れだった。
 ヒルダは多国籍軍を香油で操り、カルセインへと集中的に侵攻して壊滅的な被害を与えていた。
 ……その渦中の中、カルセイン王国の現王シュルクが時間を逆行させようと画策しているという報告をジェラルドより受けたのだ。

 もはや、荒廃が進み争いが止まぬ世界。
 未来は地獄ならばと帝国軍はその計画を信じ、陰ながら支え……実行させる判断を下した。

『このままカルセイン王国の防衛を続けよ、ジェラルドの情報網は確かだ。……己が家族を救うためにも、ここを通すな』

『『『はっ!!!!』』』

 指示を出せば、騎士達は怯むことなく死地へと向かう。
 彼らの覚悟は当然だ。

 当時の世界は、各国が侵略や略奪を繰り返し、憎しみや争いが広がって収拾のつかない状況。
 絡み合った争いの火糸は解けず、炭になるまで燃えていた。

 いずれ家族さえ焼き尽くす戦火を止めるには、カルセイン国の時間を逆行させる秘術に賭けるしかなかったのだ。

『陛下! 別働隊にて儀式の場を防衛へ向かいましょう!』

 争いの中。
 公卿ジェラルドの提案に頷き、早急に別働隊を組んで諜報員が手に入れた儀式の場へと向かう。
 
 カルセイン王国領を走れば、悲惨な光景が広がっていた。
 各地で他国軍による略奪が繰り返され、悲鳴が絶えず聞こえる。
 あまりの惨劇に、帝国を案じて騎士の皆が怯えた表情を浮かべていた。

『急襲! 敵軍が両翼より迫っております!』 
『後方からも……我らの軍を抜けた敵軍が!』

 裏でヒルダが率いる多国籍軍は、この機に帝国軍を潰そうと猛威を振るう。
 だが……止まる道も、退避する道も帝国には無い。
 このまま迫る軍を放置すれば、時間を逆行させる機会を失うのだから。

『このまま突き進み、シュルク王を防衛する。逆行の秘術を止められれば、この世は死に向かうだけだ』

『はっ!!』

『皆! 我らが陛下を護り通せ! 帝国騎士の威信にかけて!!』

 俺を常に護ってくれていた護衛騎士グレインの声に、周囲は奮い立って剣を振り上げた。



 その後は、迫った敵軍と争いつつ儀式の場を防衛するために突き進む。
 徐々に失っていく帝国騎士達は、皆が俺に道を託していった。


『陛下……後はお願いします』
『我らが家族を、どうか』

『……あぁ』

 時間を逆行させれば、家族も国も救える。
 それだけが帝国が奮い立ち進軍できる旗であり、希望であった。

 しかし、度重なる襲撃と後方からの追撃に騎士は疲弊していく。
 それを止めたのは、一人の男が下した苦渋の判断だった。

『陛下……後方から迫る敵は、私達にお任せください』

『……っ、ジェラルド』

 後ろを見れば、ジェラルドはすでに傷ついた騎士達をまとめあげて殿を申し出ていた。
 声を上げた本人も……腹を貫く槍が突き刺さり、か細い息を吐く。

『死兵は……ここで最後の花を咲かせますよ』

『ジェラルド……お前……』

『私も直に尽きる命です。しかし……時間の逆行さえ果たせば、皆が救われます』

『……』

『お願いします、行ってください! 私の妻と娘達には、戦でなく……平和な日々を送らせたいのです。カルセインの儀式が成功すれば、叶う運命はあるはず』

 その願いと覚悟を、断れるはずが無かった。
 
『……公卿ジェラルド、今までの貢献……感謝している』

『あり難き、お言葉です』

 もう、後ろは見ない。
 再び馬を走らせれば、ジェラルドのかすれた声が聞こえた。

『……すまない。帰る約束を守れなかった父を……許してくれ』

 涙声が混じって聞こえた、家族に向けた声。
 その後に聞こえた雄叫びは、残った者が奮い立つ最後の叫びだった。




 その雄叫びに、傍で馬を走らせていたグレインは静かに嗚咽を漏らした。

『ジェラルド様……貴方が騎士に拾ってくれたのに、俺は……』

『グレイン……下を向くな』

『はい……はい……』

 殿を務めたジェラルドを残し、儀式の場へと辿り着く。
 しかし……地獄の中にある目的地など、地獄に変わりない。

 儀式の場は、僅かなカルセイン王国軍が大勢の敵軍をかろうじて食い止めている状況だった。

『向かうぞ。皆の託した道だ。決して立ち止まるな』

 剣を振り上げ、馬の手綱を引く。
 俺の人生がいくらつまらぬものであろうと。
 皇帝として皆の想いを無駄にする訳にはいかぬ、ここで引く選択などない。

『託された命、ここで咲かせよ』

『オォォォ!!!!』

 地面を揺らす程の雄叫びを上げ、万を超える敵軍へと馬を走らせた。
 カルセイン王国軍は混乱しつつも、帝国の意図を組み取り友軍として協力する。

 現場がよく分からぬ儀式の場から見れば、帝国軍が攻めてきたように思えるだろう。
 それほど戦場は入り乱れていた。
 乱れる戦火の中、儀式の場へは一人も通さぬために……奮い立つ。


 ……


 幾ら時が経ったかも分からぬまま。
 倒れていく仲間達の声を浴びながら、力を振り絞り続けた。
 

 ……


 ようやく、剣を振るう相手が居なくなった時。
 傍にはもう、グレインしか残っていなかった。

『陛下……ご無事……ですか』

『あぁ』

 視線を向ければ、多くの傷を受けながらもグレインは後ろで立ち続ける。
 常人ならば死に抗えぬ傷の中。荒い息を吐き、最後まで護衛騎士としての任を果たしてくれていた。

『グレイン、もう大丈夫だ』

『すみませ……ん。少し、横になります』

 糸が切れたように彼は倒れた。
 傍へ寄れば、息を漏らしながら小さく笑っている。

『休んでも……良いでしょうか。陛下……』

『……あぁ』 

『良かった……もう……目も、見えなかった……から』

 俺も……静かに腰を下ろして空を見つめる。
 大勢の死体が転がる惨劇の中で、グレインは言葉を出した。

『陛下……俺、貴方に感謝してるんです』

『……』

『平民だと馬鹿にされた俺を……実力で判断して、護衛騎士にしてくれたこと』

『……グレイン』

『貴方のおかげで、家族は……豊かに暮らせました……ありがと……ざ、います』

『俺も……お前に幾度も助けられた。感謝している』

 かけた言葉を最後に……グレインは涙を流し、震える声で呟いた。

『へいか……あとは……たの……ます』

『……あぁ』

『母さん、最後に……会いたかっ……たな……ごめ……ん』

 グレインは俺の手に触れながら……力なく首を傾ける。
 か細かった呼吸は、静かに消えていった。

『お前も、俺に託していくのか』

 返答は望んでも返ってこない。
 誰にも興味がないはずだったのに。
 支えてくれていた者が居なくなったことに、胸が痛んだ。


 だが……彼らの想いを紡がれ、多くの犠牲のおかげで目的は達成した。
 その証として、儀式の場から天へと眩い光が広がり……空を覆いつくし始める。
 
『皆……よくやってくれた』

 膨大な魔力の波が、この世界に広がっていく。
 時空が歪み……落ちた木の葉が止まる。
 カルセイン王家、シュルクは……時間逆行をやり遂げたのだろう。
 
『……』

 自然と手を伸ばし、膨大な魔力に自身の魔力を干渉させていた。
 このまま時間を逆行させたとしても……同じ道を歩めば意味がない。
  
 
 だが、魔法とは……代償や想いによって結果を変えるもの。
 ならば、俺の魔力を好きなだけ差し出してでも……賭けることにした。


 神がいるのなら、願う。
 俺に命を預け、託して紡いだ者達が幸せになる運命へと導いてくれ。

 どうか……このつまらなく、悲惨な末路を迎える人生を変え––

 止まった時間が反転していく。
 その中で……記憶も薄れて消えていった。




   ◇◇◇◇◇◇



 逆行した先で、俺は全てを忘却していた。
 玉座に座り……ただつまらぬ人生に悲観して、帝国は変わらぬ運命を迎えるはずだった。

 だが、それを変えてくれたのは。
 微笑みながら声をかけてくれた、彼女だった。

『初めまして、シルウィオ様。カーティアと申します』

 全て思い出した今なら分かる。
 彼女こそが、俺が願った存在なのだと。
 
 帝国を幸せにして。
 俺のつまらぬ人生を……変えてくれた女性。

 そして俺は……彼女を護るために力を得たのだろう。
 力の源は最後に願った神のおかげか、託してくれた多くの騎士のおかげかは……分からない。


 ただ、今は。
 この答えのない運命に……感謝し続けるだけだ。






   ◇◇◇

 


 不思議な感覚だった。
 これが……前世を思い出すという事なのだろうか。


 眠りから覚めて、瞳を開けば。
 目の前で……愛しい妻が微笑みながら俺を見つめていた。

「起きた。今日はよく寝てたね、シルウィオ」

「カティ……」

「おはよう」

 前世の悲惨から打って変わった幸せな光景に感情が抑えられず。
 俺の頬を撫でる彼女を思わず抱きしめた。

「ちょ、シルウィオ……いきなりどうしたの?」

「……暫く、こうしていたい」

「っ……本当にどうしたの?」

「……」

 想いのまま彼女を抱きしめていれば、
 寝台へと駆けてくる二つの影が俺とカティへと抱きついた。

「おかさまと、おとさま! あさからなにしてるの! テアもいれて!」

「お父様ずるい! リルもお母様に甘えたい!」

「ほら、リルレットもテアも起きてるから。一緒に朝食を食べよう」
 
「あぁ……リル、テア。おはよう」

「おはよ! おとさま!」
「お父様、今日はお寝坊さんだねー!」

 愛しい我が子達の頬を撫でれば、二人は笑ってくれる。
 それだけで、一日を過ごす活力となった。
 
 カティの少し服らんできたお腹にも手を当て、朝の挨拶をする。
 三人目となる家族と会えるのが、今から楽しみで仕方がない。


 
 家族で庭園へと出れば、テーブルの上には朝食が用意されていた。
 その周囲をノワールが駆けており、その背でコッコ一家が楽しそうに鳴いている。

「あー! てあものわーるにのりたいー!」

「駄目だよテア、ちゃんと朝食を食べてから。それにノワールとコッコちゃんも朝食だからね」

 コッコ達にもご飯を与え、俺達も朝食を摂る。
 こんなに賑やかで平和な日々を送れるなど……誰が想像できただろうか。
 夢で見た光景が、目の前の幸せがより一層大切なものだと痛感させてくれた。

「皆さま、おはようございます。陛下……今日の執務のお話を」

「ジェラルド……」

「あー! じぃじ! 今日のお勉強はなにするの!?」

 朝の挨拶へとやって来たジェラルドは、元気そうに駆け寄ったリルレットの頭を撫でた。
 そんな彼を見て、自然と問いが漏れた。

「ジェラルド……家族は元気か?」

「え? は、はい。週末の休みは家族達にねだられて、帝都を回る予定なのですよ」

「そうか」

 幸せそうな笑みを浮かべる姿に安堵の息を漏らせば。
 追随するように、もう一人がやって来た。

「陛下! 皆様! おはようございます!」

「ぐーう! 今日もとっくんしたい!」

「テア様。今日も剣の稽古ですか?」

「うん!」

「ありがとうね、グレイン。いつもテアの稽古に付き合ってもらって」

 カティの言葉に、グレインはテアを抱き上げながら首を横に振った。

「大丈夫ですよ。むしろさせてください! 俺がテア様の稽古をつけたと聞いたら。母さんも家族も泣いて喜んでましたよ。偉大な息子だ! って大騒ぎで」

 和やかな時間、穏やかで平和な今。
 笑顔の妻と子供達、そしてかつて俺に運命を託した者達を見て……思わず笑みがこぼれた。

「シルウィオ……やっぱりなにかあったの?」
 
 尋ねたカティの頬を撫で、首を横に振る。
 悲惨な夢の内容など知る必要はない。
 愛しき妻も、子供達も……皆が笑っていてくれればいいのだから。

「なんでもない」

「なら……いいけど」

「だが、今日はずっとカティと一緒にいたい」

「……いいよ」

「あと……手も、握っていたい」

「もう、本当にどうしたの?」

 カティは笑いながらも、手を握ってくれる。
 こうして彼女は、俺だけでなく帝国さえも救ってくれたのだ。


 この幸せは、決して当たり前のものではない。

 前回の人生からジェラルドやグレイン、多くの者が託して紡いでくれて。
 今世で、彼女が導いてくれたものだから。
 これからも俺は護っていこう。



 俺の愛する家族を、頼れる戦友と一緒に。








   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 
 いつも読んでくださり、ありがとうございます。

 前半、辛いお話となってしまい申し訳ありません。
 それでもシルウィオの前回の人生をお届けしたかったのは、
 帝国の皆の覚悟があったからこそ、今作の幸せへと紡いだ物語である事をお伝えしたかったからです。
 
 今回のお話をお届けできたのは、読んでくださる皆様のおかげです。
 辛いお話でも最後まで読んでくださり、幸せを見届けてくれる事を嬉しく思います! 


 次回からは、リルレットやテア達が少し成長した明るいお話を投稿予定となります!
 カーティアとシルウィオの幸せを、これからも見守ってくださると嬉しいです。
 
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