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三章
88話 制裁の国
カーティアside
なにやら、最近はシルウィオの様子がおかしい。
表情は相変わらず無表情のままだけど、ウキウキしているのだ。
執務室にこもり、一人で何かを一心不乱に書いている。
「……怪しいよね、リルレット」
「うん、お母様……」
長女のリルレットと共に、執務室を覗き込み、微笑むシルウィオを見つめる。
腕には二歳の息子のイヴァを抱きつつ、様子をうかがう。
「やっぱり聞くべきかな、リルレット」
「で、でもお父様が一人でなにかしてる時って……ほとんどリル達へのサプライズだから、気付いてない振りの方がいいよ」
「そう……だよね」
今までもシルウィオは一人でこそこそと、サプライズでプレゼントを用意したり。
子供達の遊具を作ったりとしてくれていた。
だけど、決まって私達に何かしてくれる時は……いつも以上にホワホワしているので家族の皆は決まって察している。
それに気付いていないのは、彼だけだ。
「でも、今回は地図まで開いているから。何をしてるのか気になって」
「うーん、リルも気になるけど……」
「あーう。おかたま……おあよ~」
「あ……イヴァ、起きたの? おはよう」
腕の中で起きてしまったイヴァをあやしつつ、リルレットと共に相談をしていると。
通路から、足音を響いてくる。
視線を移せば、長男のテアがこちらを見つけて走って来ていた。
「お母様! お姉様も! ここに居たんだ!」
テアは無邪気に私達の名を呼ぶ。
必死に静かにとジェスチャーで伝えるが……やはり気づかれてしまったようだ。
「カティ……お前達も」
シルウィオは執務室の扉を開き、私達を見て声を漏らす。
そして、子供達の頭をそれぞれ撫でつつ。
私の手を引いて招いてくれた。
「ちょうどいい。来てくれ」
「?」
子供達と共に執務室へと向かえば、彼が大きな世界地図を見せてくる。
そこに描かれていたのは……アイゼン帝国から各国へと結ぶ線。
「シルウィオ、これ……?」
「お父様……リル分かっちゃった!」
「世界地図だ! テアにも見せて!」
「おとたま、ぎゅう~して~」
それぞれが反応を返せば、シルウィオは頬を緩めながら胸を張った。
「旅行に行く」
「っ!!」
「政務の休みは作った。一か月……このルートなら皆で多くの国を回れる」
「えー! やったー!」
「みんなで行けるの? リル……お母様とお父様との旅行久々だ~」
「うーー?」
テアやリルが喜びの声を上げ、旅行に諸手を挙げて喜び。
それを見たシルウィオも嬉しそうに頷いている。
だけど……
「ね、ねぇ。シルウィオ」
「どうした、カティ。喜んでくれるか?」
ワクワクとした様子のシルウィオだけど。
私には一つの懸念点が残っていたため、ひそひそと話す。
「私も、シュルク陛下から聞いたよ。前回の時間でヒルダと関わった、危険思想を持った人がいると」
「あぁ……それは俺が……」
「旅行を計画してくれて本当に嬉しいけど。子供達を……そんな人達がいる所に連れていくの、私は反対だよ?」
バサリと、世界地図が落ちた。
シルウィオは目を見開き、私と子供達を交互に見てから……小さく呟いた。
「……奴らがいるせいで。カティ達と旅行に行けない?」
「シ、シルウィオ?」
「カティが……喜んでくれない」
呟きつつ、シルウィオの瞳が鋭さを増していく。
まるで初めて会った時のように、怒気が混じる鋭利な視線へと変わっていた。
「すまない、カティ。リル、テア、イヴァ……三日だけ待ってくれるか?」
「え? ど、どうしたの?」
「直ぐに終わらせる。俺が……間違っていた」
「シルウィオ?」
「お前達が安全に旅行できるようにするのが……俺の役目だ」
呟きを漏らし、シルウィオは颯爽と執務室を出て行ってしまった。
「お父様……どうしたのかな?」
テアの呟きに、私は笑みをみせながら答える。
「みんなのために……いっぱい頑張ってくれるみたい」
「?」
こんな時のあの人は、決まって私達のために頑張ってくれるから。
首を傾げたテアに微笑みつつ、私は言われた通りに三日。
彼の帰りを待つ事にした。
◇◇◇◇◇◇
皇帝––シルウィオは執務室から出て、真っ直ぐに玉座の間へと向かう。
そして……玉座へ座り、久しく無かった怒気のこもった声を漏らす。
「ジェラルド、グレイン」
僅かな呟き。
しかし……呼ばれた二人は短い時間でシルウィオの前へ集い、真剣な表情で跪いた。
「陛下、どうしました?」
「掃除だ、頼めるか」
「……仰せのまま、ご命令ください陛下」
「我らが力、全て陛下と帝国のためですから」
一切の迷いもなく答えた二人。
そこには、皇帝への疑念など一切ない。
なにより……仕えるべきシルウィオが頼るという、二度とないであろう機会を断る二人では無く。
シルウィオの命に従うまま、転移魔法によって各々が移動していった。
□□□
アイゼン帝国より、馬車で五日の距離にある国。
フーチヤ国。
その国の国教である、未来視教では……表立って言えない儀式が行われていた。
生贄の義。
未来視教の教祖は、未来を見通す魔力を持つ。
その能力によって信者を増やすが……教祖が、その力をより強くするためには他者の命と引き換えにするしかなかった。
「た、助け……」
「私達は、なにも罪を犯してはおりません!」
「子供もいるのです! お願いいたします! せめて子供だけでも!」
無作為に集められた、数十人の生贄。
それを見て……教祖は祈りながらも大きなため息を吐く。
「馬鹿者どもが、貴様らの犠牲は……我が未来視の礎となれるのだ。光栄に思わんか」
「教祖、数が揃いました」
「あぁ……これでまた一歩。未来を見通す力を高められる」
教祖は微笑み、並ぶ人質たちを見つける。
老人、大人、子供、男、女。誰もが分け隔てなく……教祖には力の糧でしか無い。
「我の力は、今は五日後を見通すのみ。だが……此度の生贄でさらに遠き未来まで見通せるはずだ!」
「教祖、ぜひ生贄にも力となれる喜びを味合わせるため。一か月振りに、力をお使いください」
「あぁ、良かろう!」
教祖は瞳を閉じ、手を合わせる。
幾つかの呪文を唱えた後、未来を見通す力を発動……したはずだった。
「あ……あれ? なにも見えんぞ! お、おい! なにも見えん!」
「……」
「お、おい! 誰か聞いているか!? なにも見えないんだけど……」
未来視を解き、周囲を見つめた時だった。
転がるのは、自身が従えていた信者達。そして生贄達を縛っていた縄は解かれていた。
「は!? 一体何が……」
「流石に、今日来るとは思わなかったでしょ?」
「は?」
聞こえた声に視線を上げれば、胸に鋭い痛みが走る。
剣が心臓を貫き、目の前には……見知らぬ騎士の姿があった。
「だ、だれ……だ?」
「申し訳ないけど、教える時間は無いよ。もっと未来視とやらを使っておけば良かったね」
「あ……ぁ……」
剣を抜きとり、人質たちを逃した騎士––グレインは手元の紙を見つめてポツリと呟く。
「この国は、あと二人か……」
△△△
オクシネス王国。
その国の現王は、色欲により狂っていた。
「おい、今日の女を連れてこい」
集められた女性達を見て、王は吟味しつつ唇を濡らす。
「抵抗するなよ、お前達は俺の物だ」
この国では、他国にも知らせず、密かに国民へと強いる政策があった。
毎年、数十人の女性達を捕え……一年間を現王の玩具とする政策。
逆らえば処刑、誰かに漏らせば処刑。
そうして圧政を強いて、国王は自身の肉欲を満たしていた。
「お前にする」
「お願いします……私には夫が……」
「黙れ、玩具が口答えするな……」
現王は舌打ちしつつ、壁に立て掛けられていた絵画を見つめる。
たった一度……他国との交流会で見た、一人の王妃の絵。
今は、アイゼン帝国の皇后となっている、カーティアの肖像画であった。
「あぁ……あの時、無理やりにでもさらっておけば……」
肖像画を見つめ、国王は嘆きの言葉を漏らす。
もう手に出来ぬ……宝物を願うように。
「せめて……せめて、我が国へ訪れれば……さらってでも、我が女にするのに……カーティ––ウグっ!?」
言葉の途中。
突然、王は背後から手を回されて……頬をナイフによって裂かれた。
「あ……あぁぁぁ!! だ、だへだぁ!?」
「貴様が、我らが帝国の華の名を呼ぶなど……許さん」
大きな体躯の男性が、王を見下ろす。
年老いてなお、眼光の鋭さが衰えぬ公卿––ジェラルドの姿に、王は助けを呼ぼうと思ったが。
口を抑えられて、その刃を向けられる。
「お前は多くを苦しめた……その罰は、死ぬことではない」
「や……やめへ……お、おへは」
頬が裂かれ、上手く喋れないまま。
ジェラルドの持つ刃の切っ先が王の……最も失い難い、欲望の源へと向けられた。
「や、やめ……お、おねがひしま」
「黙れ」
「あ…………あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
城中に響く叫びを聞きながら、ジェラルドは紙を見ながら頷いた。
「これで……最後ですな」
◇◇◇
リバイル国の大臣は、広間へと描いた魔法陣を見つめ。
周囲に従えた魔術師たちへと頷く。
「……私が思い出した前回の記憶で分かった。真に我らが従うべきはヒルダ様であると」
「……」
「そのヒルダ様は、今世では……憎きアイゼン帝国により。その命を落とされた」
リバイル国の大臣は、怒気を強めた声と、恐ろしいまでの気迫で、周囲の魔術師を焚きつけるように叫んだ。
「だが! 儀式の準備は整った! 今ここに! 前回の時間軸からヒルダ様を呼び出すのだ!」
「ぉぉお!!!!!」
「……貴様ら、死にたいのか?」
焚きつけ、雄叫びを上げる魔術師達であったのに。
突然聞こえた呟きは、まるで脳裏に焼き付くようにハッキリと届いた。
「仕事を増やすな。どいつもこいつも……煩わしい」
儀式の場へ、一人の男が入って来ていた。
銀色の髪をなびかせ、紅の瞳には憤怒がこもる……見つめられるだけで、背筋が凍えて身体を震わせる威圧を放つ。
皇帝––シルウィオの来訪に、大臣を含め、多くが動揺した。
「話を聞く時間はない、さっさと消えろ」
「き、貴様がヒルダさ––」
勢いで叫んだ魔術師の一人の胸が、鋭い雷光によって貫かれて……絶える。
「や……やれ! 全員でかかれ!」
「殺せ! 我らがヒルダ様の仇!」
叫び、意気揚々と戦おうと息まいた魔術師達であったが。
その命は……一分の時も稼げず、絶えていった。
「あ……あぁぁ。噓でしょ……?」
一人残された大臣に、シルウィオは腰に差した剣を抜き。
その切っ先を首元へと当てた。
「や……やめ……」
「貴様らの生死など、どうでもいいが。……俺の愛するカティを愚弄したクズを呼び出す事を、許すはずがない」
「や、やめてくれぇぇ!」
「うるさい、消えろ」
……
血塗られた剣を拭き取り、シルウィオは小さく頬を緩めた。
シュルク陛下より渡されていた危険思想者のリスト、その全てにチェックが付き終わったから。
「これで、カティ達と旅行に行ける……」
一人呟きながら、シルウィオの怒りは収まり。
転移魔法によって、自身の愛すべき家族の元へと戻った。
◇◇◇
「もう安全だぞ……カティ」
夜中に城へと帰ってきたシルウィオは、私を抱きしめながら呟く。
三日待てと言っていたけど、僅か一日でシルウィオ達は帰ってきた。
変わらず規格外な帝国の強さに、笑ってしまう。
「シルウィオ……身体は、無理してない?」
「俺は、カティや。子供達と旅行に行ければ、それだけで嬉しい」
「ありがとう……シルウィオ」
あぁ……カルセイン王国は大パニックだろうなと、笑ってしまう。
まさか僅か一日で、危険思想だと調査していた者達が絶えるなど……誰が予想しただろうか。
「でも……シルウィオのおかげで旅行に行けるよ。ありがとう」
「カティ……褒めてほしい」
「ふふ。分かってるよ」
彼の頭へと手を伸ばして撫でれば、これまた嬉しそうにするのだから可愛いらしい。
彼は庭に住む、犬のノワールよりも……二人きりの時はワンコなのだから。
「カティ達との旅行。楽しみだ」
「私もだよ。計画してくれて……ありがとう」
「あぁ、その言葉で充分だ」
抱きしめながら、二人の時間を過ごす。
彼がいれば……もう危険な事なんてない。
つくづく、私は幸せ者だと改めて実感しながら……彼へと口付けを交わした。
なにやら、最近はシルウィオの様子がおかしい。
表情は相変わらず無表情のままだけど、ウキウキしているのだ。
執務室にこもり、一人で何かを一心不乱に書いている。
「……怪しいよね、リルレット」
「うん、お母様……」
長女のリルレットと共に、執務室を覗き込み、微笑むシルウィオを見つめる。
腕には二歳の息子のイヴァを抱きつつ、様子をうかがう。
「やっぱり聞くべきかな、リルレット」
「で、でもお父様が一人でなにかしてる時って……ほとんどリル達へのサプライズだから、気付いてない振りの方がいいよ」
「そう……だよね」
今までもシルウィオは一人でこそこそと、サプライズでプレゼントを用意したり。
子供達の遊具を作ったりとしてくれていた。
だけど、決まって私達に何かしてくれる時は……いつも以上にホワホワしているので家族の皆は決まって察している。
それに気付いていないのは、彼だけだ。
「でも、今回は地図まで開いているから。何をしてるのか気になって」
「うーん、リルも気になるけど……」
「あーう。おかたま……おあよ~」
「あ……イヴァ、起きたの? おはよう」
腕の中で起きてしまったイヴァをあやしつつ、リルレットと共に相談をしていると。
通路から、足音を響いてくる。
視線を移せば、長男のテアがこちらを見つけて走って来ていた。
「お母様! お姉様も! ここに居たんだ!」
テアは無邪気に私達の名を呼ぶ。
必死に静かにとジェスチャーで伝えるが……やはり気づかれてしまったようだ。
「カティ……お前達も」
シルウィオは執務室の扉を開き、私達を見て声を漏らす。
そして、子供達の頭をそれぞれ撫でつつ。
私の手を引いて招いてくれた。
「ちょうどいい。来てくれ」
「?」
子供達と共に執務室へと向かえば、彼が大きな世界地図を見せてくる。
そこに描かれていたのは……アイゼン帝国から各国へと結ぶ線。
「シルウィオ、これ……?」
「お父様……リル分かっちゃった!」
「世界地図だ! テアにも見せて!」
「おとたま、ぎゅう~して~」
それぞれが反応を返せば、シルウィオは頬を緩めながら胸を張った。
「旅行に行く」
「っ!!」
「政務の休みは作った。一か月……このルートなら皆で多くの国を回れる」
「えー! やったー!」
「みんなで行けるの? リル……お母様とお父様との旅行久々だ~」
「うーー?」
テアやリルが喜びの声を上げ、旅行に諸手を挙げて喜び。
それを見たシルウィオも嬉しそうに頷いている。
だけど……
「ね、ねぇ。シルウィオ」
「どうした、カティ。喜んでくれるか?」
ワクワクとした様子のシルウィオだけど。
私には一つの懸念点が残っていたため、ひそひそと話す。
「私も、シュルク陛下から聞いたよ。前回の時間でヒルダと関わった、危険思想を持った人がいると」
「あぁ……それは俺が……」
「旅行を計画してくれて本当に嬉しいけど。子供達を……そんな人達がいる所に連れていくの、私は反対だよ?」
バサリと、世界地図が落ちた。
シルウィオは目を見開き、私と子供達を交互に見てから……小さく呟いた。
「……奴らがいるせいで。カティ達と旅行に行けない?」
「シ、シルウィオ?」
「カティが……喜んでくれない」
呟きつつ、シルウィオの瞳が鋭さを増していく。
まるで初めて会った時のように、怒気が混じる鋭利な視線へと変わっていた。
「すまない、カティ。リル、テア、イヴァ……三日だけ待ってくれるか?」
「え? ど、どうしたの?」
「直ぐに終わらせる。俺が……間違っていた」
「シルウィオ?」
「お前達が安全に旅行できるようにするのが……俺の役目だ」
呟きを漏らし、シルウィオは颯爽と執務室を出て行ってしまった。
「お父様……どうしたのかな?」
テアの呟きに、私は笑みをみせながら答える。
「みんなのために……いっぱい頑張ってくれるみたい」
「?」
こんな時のあの人は、決まって私達のために頑張ってくれるから。
首を傾げたテアに微笑みつつ、私は言われた通りに三日。
彼の帰りを待つ事にした。
◇◇◇◇◇◇
皇帝––シルウィオは執務室から出て、真っ直ぐに玉座の間へと向かう。
そして……玉座へ座り、久しく無かった怒気のこもった声を漏らす。
「ジェラルド、グレイン」
僅かな呟き。
しかし……呼ばれた二人は短い時間でシルウィオの前へ集い、真剣な表情で跪いた。
「陛下、どうしました?」
「掃除だ、頼めるか」
「……仰せのまま、ご命令ください陛下」
「我らが力、全て陛下と帝国のためですから」
一切の迷いもなく答えた二人。
そこには、皇帝への疑念など一切ない。
なにより……仕えるべきシルウィオが頼るという、二度とないであろう機会を断る二人では無く。
シルウィオの命に従うまま、転移魔法によって各々が移動していった。
□□□
アイゼン帝国より、馬車で五日の距離にある国。
フーチヤ国。
その国の国教である、未来視教では……表立って言えない儀式が行われていた。
生贄の義。
未来視教の教祖は、未来を見通す魔力を持つ。
その能力によって信者を増やすが……教祖が、その力をより強くするためには他者の命と引き換えにするしかなかった。
「た、助け……」
「私達は、なにも罪を犯してはおりません!」
「子供もいるのです! お願いいたします! せめて子供だけでも!」
無作為に集められた、数十人の生贄。
それを見て……教祖は祈りながらも大きなため息を吐く。
「馬鹿者どもが、貴様らの犠牲は……我が未来視の礎となれるのだ。光栄に思わんか」
「教祖、数が揃いました」
「あぁ……これでまた一歩。未来を見通す力を高められる」
教祖は微笑み、並ぶ人質たちを見つける。
老人、大人、子供、男、女。誰もが分け隔てなく……教祖には力の糧でしか無い。
「我の力は、今は五日後を見通すのみ。だが……此度の生贄でさらに遠き未来まで見通せるはずだ!」
「教祖、ぜひ生贄にも力となれる喜びを味合わせるため。一か月振りに、力をお使いください」
「あぁ、良かろう!」
教祖は瞳を閉じ、手を合わせる。
幾つかの呪文を唱えた後、未来を見通す力を発動……したはずだった。
「あ……あれ? なにも見えんぞ! お、おい! なにも見えん!」
「……」
「お、おい! 誰か聞いているか!? なにも見えないんだけど……」
未来視を解き、周囲を見つめた時だった。
転がるのは、自身が従えていた信者達。そして生贄達を縛っていた縄は解かれていた。
「は!? 一体何が……」
「流石に、今日来るとは思わなかったでしょ?」
「は?」
聞こえた声に視線を上げれば、胸に鋭い痛みが走る。
剣が心臓を貫き、目の前には……見知らぬ騎士の姿があった。
「だ、だれ……だ?」
「申し訳ないけど、教える時間は無いよ。もっと未来視とやらを使っておけば良かったね」
「あ……ぁ……」
剣を抜きとり、人質たちを逃した騎士––グレインは手元の紙を見つめてポツリと呟く。
「この国は、あと二人か……」
△△△
オクシネス王国。
その国の現王は、色欲により狂っていた。
「おい、今日の女を連れてこい」
集められた女性達を見て、王は吟味しつつ唇を濡らす。
「抵抗するなよ、お前達は俺の物だ」
この国では、他国にも知らせず、密かに国民へと強いる政策があった。
毎年、数十人の女性達を捕え……一年間を現王の玩具とする政策。
逆らえば処刑、誰かに漏らせば処刑。
そうして圧政を強いて、国王は自身の肉欲を満たしていた。
「お前にする」
「お願いします……私には夫が……」
「黙れ、玩具が口答えするな……」
現王は舌打ちしつつ、壁に立て掛けられていた絵画を見つめる。
たった一度……他国との交流会で見た、一人の王妃の絵。
今は、アイゼン帝国の皇后となっている、カーティアの肖像画であった。
「あぁ……あの時、無理やりにでもさらっておけば……」
肖像画を見つめ、国王は嘆きの言葉を漏らす。
もう手に出来ぬ……宝物を願うように。
「せめて……せめて、我が国へ訪れれば……さらってでも、我が女にするのに……カーティ––ウグっ!?」
言葉の途中。
突然、王は背後から手を回されて……頬をナイフによって裂かれた。
「あ……あぁぁぁ!! だ、だへだぁ!?」
「貴様が、我らが帝国の華の名を呼ぶなど……許さん」
大きな体躯の男性が、王を見下ろす。
年老いてなお、眼光の鋭さが衰えぬ公卿––ジェラルドの姿に、王は助けを呼ぼうと思ったが。
口を抑えられて、その刃を向けられる。
「お前は多くを苦しめた……その罰は、死ぬことではない」
「や……やめへ……お、おへは」
頬が裂かれ、上手く喋れないまま。
ジェラルドの持つ刃の切っ先が王の……最も失い難い、欲望の源へと向けられた。
「や、やめ……お、おねがひしま」
「黙れ」
「あ…………あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
城中に響く叫びを聞きながら、ジェラルドは紙を見ながら頷いた。
「これで……最後ですな」
◇◇◇
リバイル国の大臣は、広間へと描いた魔法陣を見つめ。
周囲に従えた魔術師たちへと頷く。
「……私が思い出した前回の記憶で分かった。真に我らが従うべきはヒルダ様であると」
「……」
「そのヒルダ様は、今世では……憎きアイゼン帝国により。その命を落とされた」
リバイル国の大臣は、怒気を強めた声と、恐ろしいまでの気迫で、周囲の魔術師を焚きつけるように叫んだ。
「だが! 儀式の準備は整った! 今ここに! 前回の時間軸からヒルダ様を呼び出すのだ!」
「ぉぉお!!!!!」
「……貴様ら、死にたいのか?」
焚きつけ、雄叫びを上げる魔術師達であったのに。
突然聞こえた呟きは、まるで脳裏に焼き付くようにハッキリと届いた。
「仕事を増やすな。どいつもこいつも……煩わしい」
儀式の場へ、一人の男が入って来ていた。
銀色の髪をなびかせ、紅の瞳には憤怒がこもる……見つめられるだけで、背筋が凍えて身体を震わせる威圧を放つ。
皇帝––シルウィオの来訪に、大臣を含め、多くが動揺した。
「話を聞く時間はない、さっさと消えろ」
「き、貴様がヒルダさ––」
勢いで叫んだ魔術師の一人の胸が、鋭い雷光によって貫かれて……絶える。
「や……やれ! 全員でかかれ!」
「殺せ! 我らがヒルダ様の仇!」
叫び、意気揚々と戦おうと息まいた魔術師達であったが。
その命は……一分の時も稼げず、絶えていった。
「あ……あぁぁ。噓でしょ……?」
一人残された大臣に、シルウィオは腰に差した剣を抜き。
その切っ先を首元へと当てた。
「や……やめ……」
「貴様らの生死など、どうでもいいが。……俺の愛するカティを愚弄したクズを呼び出す事を、許すはずがない」
「や、やめてくれぇぇ!」
「うるさい、消えろ」
……
血塗られた剣を拭き取り、シルウィオは小さく頬を緩めた。
シュルク陛下より渡されていた危険思想者のリスト、その全てにチェックが付き終わったから。
「これで、カティ達と旅行に行ける……」
一人呟きながら、シルウィオの怒りは収まり。
転移魔法によって、自身の愛すべき家族の元へと戻った。
◇◇◇
「もう安全だぞ……カティ」
夜中に城へと帰ってきたシルウィオは、私を抱きしめながら呟く。
三日待てと言っていたけど、僅か一日でシルウィオ達は帰ってきた。
変わらず規格外な帝国の強さに、笑ってしまう。
「シルウィオ……身体は、無理してない?」
「俺は、カティや。子供達と旅行に行ければ、それだけで嬉しい」
「ありがとう……シルウィオ」
あぁ……カルセイン王国は大パニックだろうなと、笑ってしまう。
まさか僅か一日で、危険思想だと調査していた者達が絶えるなど……誰が予想しただろうか。
「でも……シルウィオのおかげで旅行に行けるよ。ありがとう」
「カティ……褒めてほしい」
「ふふ。分かってるよ」
彼の頭へと手を伸ばして撫でれば、これまた嬉しそうにするのだから可愛いらしい。
彼は庭に住む、犬のノワールよりも……二人きりの時はワンコなのだから。
「カティ達との旅行。楽しみだ」
「私もだよ。計画してくれて……ありがとう」
「あぁ、その言葉で充分だ」
抱きしめながら、二人の時間を過ごす。
彼がいれば……もう危険な事なんてない。
つくづく、私は幸せ者だと改めて実感しながら……彼へと口付けを交わした。
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妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
婚約破棄された翌日、王家の紋章が私の腕に現れました
あめとおと
伯爵令嬢エレノアは、王都の舞踏会で婚約者から突然の婚約破棄を告げられる。
理由は「平凡で地味だから」。
さらに彼は新たな恋人を伴い、人前でエレノアを侮辱した。
失意のまま屋敷へ戻った翌朝――。
エレノアの左腕に、見たことのない黄金の紋章が浮かび上がる。
それは王家の直系だけに現れるという“継承の紋章”だった。
混乱する彼女のもとへ現れたのは王国騎士団。
そして告げられる。
二十年前に失踪した第一王女には、生後間もない娘がいたこと。
その娘こそがエレノアだと。
突然始まった王家での生活。
優しい祖父である国王、過保護な王族たち、そして王国随一と名高い騎士団長。
一方、エレノアを捨てた元婚約者は、自分が取り返しのつかない失敗をしたことを知る。
婚約破棄から始まる、王家認定シンデレラストーリー。