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三章
109話 新しい人⑧
アイゼン帝国。
その玉座の間に招かれた者が受ける待遇は二つのみ。
功績を授かる者と、裁きを受ける者。
そして本日、招かれたのは、以前に不躾な行為を働いたレイル王国の第一王子殿下––ディッグ。
加えて彼が連れてきた、リーシアを虐げていた姉のエリーと、その夫であるローレン伯爵だ。
彼らは当然、裁きを受ける理由にて招かれていた。
「シルウィオ皇帝陛下……そしてカーティア皇后様。仰せつかった通りに、ローレン夫妻をお連れいたしました」
ディッグ殿下は、怯えきった表情を浮かべて私達を見つめる。
その足は跪いているのに、今にも倒れそうに震えていた。
「ぜ、前回の非礼。今一度、謝罪の機会を頂きたい。父からアイゼン帝国、そしてカーティア皇后様の過去もお聞きしました。お、俺はなんという無礼を……」
今更、レイル王国の現国王にアイゼン帝国について聞いたらしい。
それを聞かせた現国王は、私達には謝罪金を持たせたディッグ殿下だけを送ってきた。
つまりは、ディッグ殿下は王位継承権を失い。
好きに裁いてくれという、現国王の判断だ。
「ど、どうか。謝罪をお聞きくだ––」
「必要ない。黙れ」
ディッグ殿下の嘆願は虚しく、シルウィオの一声によってかき消される。
途端に静まり返った玉座の間……張り詰めた空気の中で、シルウィオは隣に座る私の髪をかき撫でた。
「今日は、俺が全て下す。いいな、カティ」
「分かりました。シルウィオ」
シルウィオの言葉と、私の同意の声を受けて周囲の騎士達が表情を険しくする。
今からはシルウィオだけの判断ということは、何が起こっても……異を唱える事は許されないという事だ。
「エリーといったか、貴様がリーシアの返還を求めたのは事実か?」
シルウィオは私の髪を撫でた後、踵を返してエリーの元へ歩む。
途端に彼女が畏怖を表情に灯した。
「虚言は許す気は無い。正直に言え」
「い、いえ……わた、私はなにも知らな」
––––バチッ!!
「っ!!」
ディッグ殿下から私達はすでに証言を受けており、エリーの虚言は直ぐに分かる。
だからシルウィオは魔法で発生させた稲妻で、彼女の頬を掠めさせた。
「あ……ぇ?」
「虚言は許さない。二度も言わせるな」
有無を言わせぬ雰囲気と、静かなのに怒気が込められた声色。
頬から一滴の血を垂らしたエリーは、すぐさま頭を下げた。
「わ、私が……私がディッグ殿下に提言いたしました! 知財であるリーシアを取り戻すべきだと!」
「そうか。奴の非礼に貴様らが関わっているのなら、処罰は共に行う」
「そ、そんな!」
エリーが絶望の表情を浮かべた時だった。
今まで沈黙していた彼女の夫、ローレン伯爵が立ち上がった。
「異議を申し立てる! 私どもは正式な権利にのっとり、リーシアの返還を要求しただけだ」
「……権利だと?」
エリーの夫。
無関係で巻き込まれたような彼に、同情をしていたが……
彼が続けた言い分は、あまりにもこちらの腸を煮えくり返すものであった。
「我がローレン伯爵家は、エリーとの結婚時に、リーシアの身柄も共に渡された。盲目の彼女はいわば債務そのもの。それを今まで世話をしていた我が家には、彼女の所有権が生じるはずだ」
「所有権……ですって……?」
リーシアを債務扱いし、所有権があるとの言葉。
まるで物のような言い方に、私は怒りから思わず立ち上がる。
だが、ローレン伯爵は気にせずに言葉を続けた。
「我らとしては、所有権のあるリーシアの返還を要求するのは正当な権利だ。我らだけ債務を負い、アイゼン帝国はリーシアという知財を独占しようというのなら、あまりに横暴だろう」
もう、許せない。
そう思った私が声を出そうとした瞬間……玉座の間へと、歩いてくる音が聞こえた。
ハッと視線を向ければ、それはまさにリーシアであった。
グレインが手を取って支えて、彼らの前まで歩いていく。
「リ、リーシア……来たのね。私達家族を助けるためにも、さっさとこっちに戻ると言いなさい!」
「そうだ、姉の言う通りに従え。君の所有権はこちらにある。私達に不利益だけを与えてアイゼン帝国に住むなど許さん」
エリーとローレン伯爵が好き放題に叫ぶ中。
リーシアは黙って深呼吸を繰り返す。
その背をグレインが押すと、覚悟が決まったように彼女は口を開いた。
「エリーお姉様。ローレン様。私は……貴方達に不利益がないようにしてきたはずです」
「何を生意気な……散々、我が屋敷に居ついておきながら」
「私が小説を書いて稼いだ資産で、充分な額を送付したはずです」
その通りだ。
リーシアはアイゼン帝国の民になったと同時に、資産を充分に送っている。
不利益を被ったなんて言い分は通らないはずだ。
「だ、だとしてもだ。私達に所有権があるのは変わらない。今まで育ててきてやった恩はないのか?」
「お、恩なんてない……私の目が見えぬのは家の恥だからと屋敷から一度も出さず。たまに会えば暴力を振るわれた日々だったのですから」
「っ……」
ローレン伯爵は、リーシアの吐いた事実に言葉を詰まらせる。
同時に、それを聞いていたグレインの瞳が、少し鋭くなっていた。
「わ、私は姉なのよ。リーシア! 助けなさいよ。貴方の家族なのだから!」
「……」
エリーは最後の頼みとばかりに、リーシアの肩を掴む。
だが、リーシアは意を決したように瞳を開く。
盲目の彼女が、目も見えぬ中で見せた瞳は……翡翠色に輝き。
その覚悟が伝わってくる。
「貴方達を救う優しさで、私に優しくしてくれたアイゼン帝国の皆様が不利益を被るのなら。私は優しさなんて必要ない」
「っ!!」
「私はずっとここに居たい。この願いは、絶対に譲りません」
リーシアは弱気で、何処か自己犠牲の精神がある女性だった。
でも、今しがた彼女が見せる強い意志は……勇ましさすら感じた。
「リ、リーシア! 家族を見捨てるの!? グ、グレインも! 私に少しでも情があるのなら助けて!」
「そうだ。せめて我らの裁きだけでも免罪されるように、君から説得するんだ!」
エリーとローレン伯爵が必死に叫ぶが。
リーシアの手を取ったグレインが、シルウィオを見つめた。
「申し訳ありません。陛下……直ぐに下がります」
「あぁ。行け」
その言葉を聞いた瞬間、グレインはリーシアを横抱きにして連れていく。
惚れ惚れするような姿に、私は思わず息を吐いた。
「ま、待ちなさい! まだ話は終わってな––」
「黙れ」
エリーが叫びかけた時。
途端に雰囲気が重くのしかかる程、怒気が込めらた一声が響いた。
シルウィオの紅瞳が、騒いでいた彼らを睨んだ。
「誰が、貴様らに騒ぐ許可を与えた」
その怒気に、エリーが後ずさる。
ローレン伯爵も怯えた色を瞳に見せ始めたが……今も威勢を消さずに異を唱える。
「リーシアが拒否しようと、私達は彼女の所有権を有していることを考慮し、免罪を要求する––」
「先程から貴様は、我がアイゼン帝国の民を……物のように扱っているのか」
「え……? っ!!」
ひときわ、怒りが込められた言葉。
同時に眩い光が走り、ローレン伯爵の腕へと稲妻が走るのが見えた。
そして……玉座の間へと、痛みに悶えた叫びが響き渡る。
「アイゼン帝国の民への愚弄を……俺の前で行うか」
「あ、あぁぁ!! た、たすけ」
「い……いやぁ!」
叫ぶローレン伯爵、そして怯えるエリー。
二人の喚く声の中で、ハッキリと……シルウィオの声だけが聞こえた。
無表情のまま、冷たい眼差しで彼らへと告げる。
「舐められたものだ……アイゼン帝国皇帝である俺の前で、我が子らである民への愚弄。許すはずもない」
その宣告。
シルウィオの言葉に、もう異を唱える者は誰もいない。
だが、周囲には全く別の大きな驚きが広がっていた。
なぜなら、シルウィオは確かに民を我が子らと言って、民のために怒りを示している。
過去は恐怖されていた彼が、初めて発した民を想っているという本音……私や近しい人しか知らなかった事実。
それを聞いた周囲の騎士、文官達は瞳を大きく開き。
シルウィオの皇帝としての優しさを知り、驚いているのが、私には分かった。
その玉座の間に招かれた者が受ける待遇は二つのみ。
功績を授かる者と、裁きを受ける者。
そして本日、招かれたのは、以前に不躾な行為を働いたレイル王国の第一王子殿下––ディッグ。
加えて彼が連れてきた、リーシアを虐げていた姉のエリーと、その夫であるローレン伯爵だ。
彼らは当然、裁きを受ける理由にて招かれていた。
「シルウィオ皇帝陛下……そしてカーティア皇后様。仰せつかった通りに、ローレン夫妻をお連れいたしました」
ディッグ殿下は、怯えきった表情を浮かべて私達を見つめる。
その足は跪いているのに、今にも倒れそうに震えていた。
「ぜ、前回の非礼。今一度、謝罪の機会を頂きたい。父からアイゼン帝国、そしてカーティア皇后様の過去もお聞きしました。お、俺はなんという無礼を……」
今更、レイル王国の現国王にアイゼン帝国について聞いたらしい。
それを聞かせた現国王は、私達には謝罪金を持たせたディッグ殿下だけを送ってきた。
つまりは、ディッグ殿下は王位継承権を失い。
好きに裁いてくれという、現国王の判断だ。
「ど、どうか。謝罪をお聞きくだ––」
「必要ない。黙れ」
ディッグ殿下の嘆願は虚しく、シルウィオの一声によってかき消される。
途端に静まり返った玉座の間……張り詰めた空気の中で、シルウィオは隣に座る私の髪をかき撫でた。
「今日は、俺が全て下す。いいな、カティ」
「分かりました。シルウィオ」
シルウィオの言葉と、私の同意の声を受けて周囲の騎士達が表情を険しくする。
今からはシルウィオだけの判断ということは、何が起こっても……異を唱える事は許されないという事だ。
「エリーといったか、貴様がリーシアの返還を求めたのは事実か?」
シルウィオは私の髪を撫でた後、踵を返してエリーの元へ歩む。
途端に彼女が畏怖を表情に灯した。
「虚言は許す気は無い。正直に言え」
「い、いえ……わた、私はなにも知らな」
––––バチッ!!
「っ!!」
ディッグ殿下から私達はすでに証言を受けており、エリーの虚言は直ぐに分かる。
だからシルウィオは魔法で発生させた稲妻で、彼女の頬を掠めさせた。
「あ……ぇ?」
「虚言は許さない。二度も言わせるな」
有無を言わせぬ雰囲気と、静かなのに怒気が込められた声色。
頬から一滴の血を垂らしたエリーは、すぐさま頭を下げた。
「わ、私が……私がディッグ殿下に提言いたしました! 知財であるリーシアを取り戻すべきだと!」
「そうか。奴の非礼に貴様らが関わっているのなら、処罰は共に行う」
「そ、そんな!」
エリーが絶望の表情を浮かべた時だった。
今まで沈黙していた彼女の夫、ローレン伯爵が立ち上がった。
「異議を申し立てる! 私どもは正式な権利にのっとり、リーシアの返還を要求しただけだ」
「……権利だと?」
エリーの夫。
無関係で巻き込まれたような彼に、同情をしていたが……
彼が続けた言い分は、あまりにもこちらの腸を煮えくり返すものであった。
「我がローレン伯爵家は、エリーとの結婚時に、リーシアの身柄も共に渡された。盲目の彼女はいわば債務そのもの。それを今まで世話をしていた我が家には、彼女の所有権が生じるはずだ」
「所有権……ですって……?」
リーシアを債務扱いし、所有権があるとの言葉。
まるで物のような言い方に、私は怒りから思わず立ち上がる。
だが、ローレン伯爵は気にせずに言葉を続けた。
「我らとしては、所有権のあるリーシアの返還を要求するのは正当な権利だ。我らだけ債務を負い、アイゼン帝国はリーシアという知財を独占しようというのなら、あまりに横暴だろう」
もう、許せない。
そう思った私が声を出そうとした瞬間……玉座の間へと、歩いてくる音が聞こえた。
ハッと視線を向ければ、それはまさにリーシアであった。
グレインが手を取って支えて、彼らの前まで歩いていく。
「リ、リーシア……来たのね。私達家族を助けるためにも、さっさとこっちに戻ると言いなさい!」
「そうだ、姉の言う通りに従え。君の所有権はこちらにある。私達に不利益だけを与えてアイゼン帝国に住むなど許さん」
エリーとローレン伯爵が好き放題に叫ぶ中。
リーシアは黙って深呼吸を繰り返す。
その背をグレインが押すと、覚悟が決まったように彼女は口を開いた。
「エリーお姉様。ローレン様。私は……貴方達に不利益がないようにしてきたはずです」
「何を生意気な……散々、我が屋敷に居ついておきながら」
「私が小説を書いて稼いだ資産で、充分な額を送付したはずです」
その通りだ。
リーシアはアイゼン帝国の民になったと同時に、資産を充分に送っている。
不利益を被ったなんて言い分は通らないはずだ。
「だ、だとしてもだ。私達に所有権があるのは変わらない。今まで育ててきてやった恩はないのか?」
「お、恩なんてない……私の目が見えぬのは家の恥だからと屋敷から一度も出さず。たまに会えば暴力を振るわれた日々だったのですから」
「っ……」
ローレン伯爵は、リーシアの吐いた事実に言葉を詰まらせる。
同時に、それを聞いていたグレインの瞳が、少し鋭くなっていた。
「わ、私は姉なのよ。リーシア! 助けなさいよ。貴方の家族なのだから!」
「……」
エリーは最後の頼みとばかりに、リーシアの肩を掴む。
だが、リーシアは意を決したように瞳を開く。
盲目の彼女が、目も見えぬ中で見せた瞳は……翡翠色に輝き。
その覚悟が伝わってくる。
「貴方達を救う優しさで、私に優しくしてくれたアイゼン帝国の皆様が不利益を被るのなら。私は優しさなんて必要ない」
「っ!!」
「私はずっとここに居たい。この願いは、絶対に譲りません」
リーシアは弱気で、何処か自己犠牲の精神がある女性だった。
でも、今しがた彼女が見せる強い意志は……勇ましさすら感じた。
「リ、リーシア! 家族を見捨てるの!? グ、グレインも! 私に少しでも情があるのなら助けて!」
「そうだ。せめて我らの裁きだけでも免罪されるように、君から説得するんだ!」
エリーとローレン伯爵が必死に叫ぶが。
リーシアの手を取ったグレインが、シルウィオを見つめた。
「申し訳ありません。陛下……直ぐに下がります」
「あぁ。行け」
その言葉を聞いた瞬間、グレインはリーシアを横抱きにして連れていく。
惚れ惚れするような姿に、私は思わず息を吐いた。
「ま、待ちなさい! まだ話は終わってな––」
「黙れ」
エリーが叫びかけた時。
途端に雰囲気が重くのしかかる程、怒気が込めらた一声が響いた。
シルウィオの紅瞳が、騒いでいた彼らを睨んだ。
「誰が、貴様らに騒ぐ許可を与えた」
その怒気に、エリーが後ずさる。
ローレン伯爵も怯えた色を瞳に見せ始めたが……今も威勢を消さずに異を唱える。
「リーシアが拒否しようと、私達は彼女の所有権を有していることを考慮し、免罪を要求する––」
「先程から貴様は、我がアイゼン帝国の民を……物のように扱っているのか」
「え……? っ!!」
ひときわ、怒りが込められた言葉。
同時に眩い光が走り、ローレン伯爵の腕へと稲妻が走るのが見えた。
そして……玉座の間へと、痛みに悶えた叫びが響き渡る。
「アイゼン帝国の民への愚弄を……俺の前で行うか」
「あ、あぁぁ!! た、たすけ」
「い……いやぁ!」
叫ぶローレン伯爵、そして怯えるエリー。
二人の喚く声の中で、ハッキリと……シルウィオの声だけが聞こえた。
無表情のまま、冷たい眼差しで彼らへと告げる。
「舐められたものだ……アイゼン帝国皇帝である俺の前で、我が子らである民への愚弄。許すはずもない」
その宣告。
シルウィオの言葉に、もう異を唱える者は誰もいない。
だが、周囲には全く別の大きな驚きが広がっていた。
なぜなら、シルウィオは確かに民を我が子らと言って、民のために怒りを示している。
過去は恐怖されていた彼が、初めて発した民を想っているという本音……私や近しい人しか知らなかった事実。
それを聞いた周囲の騎士、文官達は瞳を大きく開き。
シルウィオの皇帝としての優しさを知り、驚いているのが、私には分かった。
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