【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか

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一巡「後悔」

7話

 セレリナが自死をしてから数日が経ち、父からの呼び出しを受けた。
 病に伏せて退位した父上と会うのは久しぶりだ。

 以前はセレリナについて、顔を合わせるたびに苦言を呈されていたが。
 罪が発覚した以上、以前のようにはいかないはず……
 そう思い、父の待つ病室へと向かった。

「失礼します。父上」

「このっ! 大馬鹿者が!」

「っ!!?!」
 
 病室に入った瞬間、怒声を浴びる。
 鬼気迫る表情で父は俺に詰め寄った。

「ち、父上! なにを……」

「レオン! セ、セレリナが自死を選んだのだぞ! なんてことをしたのだ!」

 父の言葉に、迷いなく答える。

「ご安心ください父上。セレリナは自分の罪を認め、自死を選んだだけですよ」

「あ……ぁあぁ」

 膝から崩れ落ち、俺の足にすがる父。
 こんなに取り乱した様子は見た事がない。
 
「父上、どうしたのです! 病気でお辛いのでしょう? はやく寝台に……」

「黙れ! レオン!」

「っ!?」

「わ、私が病に伏せていた間に……なんて事をしてくれたのだ」

 なにを言っている。
 取り乱す父の真意が読み取れない。

「父上、説明してください。何が……」

「セレリナは……国民に愛されていたのだ! 皆が無実を信じていた状況でセレリナが自死したとなれば……もはや国民達の反感は止められん!」

「な……証言も出たのです! セレリナの罪は明白です! 犯罪者が死んだところで、なにも変わりせん! 民も納得します!」

「納得だと!? 今も国民達が再調査を要望しているではないか! もしも無実だった場合……王家は簡単に崩れ去ってしまうのだぞ!」

 父が俺の胸倉を掴み上げて叫ぶ。
 周囲の使用人達は止めることはなく……皆が、父の言葉に賛同して俺を睨む。

「ち、父上! お考え直しください! 前王妃アンネッテを殺害したのはセレリナで間違いありません!! 母上も此度の結果を望んでくれておりました!」

「ミランダが望んでいただと? 馬鹿を言うな! ミランダは今日も、セレリナの死を弔うために貴族たちが開いた会合に出席しているのだぞ、あり得るか!」

「な……母上が……?」

 俺と同じくセレリナに疑惑を向け、証言まで取ってきた母がセレリナの死を弔っている?
 この数日、母を見かけないと思っていたが。なぜ俺に相談もなく……
 考え込む間もなく、父は言葉を続ける。

「それにお前は……今更出てきた証拠に一切の疑い持たないのか? もしも再調査が実施されれば、真実は覆るやもしれぬのだぞ」

「え……?」

 戸惑いの声を漏らした瞬間、父の表情は沈む。
 ……心の底から呆れたように、視線さえ向けてくれなくなった。

「お前はセレリナのなにを見てきたのだ。彼女が王妃となり、どれだけお前を支えてくれていたか……それを知っていれば、こんな事には……」

「何を言っているのです? 王妃になってからのセレリナは、俺を支えてなど……」

「嘆かわしい……我が息子が、これほど節穴だとは」

 大きなため息を吐いた父は、寝台に座る。
 そして、病室に居た者達へと手を振って人払いをする。
 病室には、俺と父だけになった。

「それでも……お前は私の一人息子だ。守ってやりたい親心はある」

「そんな、父上……俺は大丈夫です。なにも間違ってなど」

「いいから聞け!」

 父の眼光は鋭いまま俺を射貫く。
 そして外に聞こえぬよう、耳元で俺に囁いた。 

「もう、ここまで手遅れの状態になったならば、王としてお前がすべき判断は一つだ」

「父上?」

「決して非を認めるな。王に間違いなどあってはならない。絶対にセレリナの罪を再調査する要望は受け入れるな。何があっても罪を事実として押し通せ。国民の反感が冷めるまで、確固たる意志で耐えるのだ」

「っ!!」

「王家を守るためには、もはやこれしかない。上に立つ者として一度の失態もあってはならんのだ。分かったな?」

「はい……承知いたしました、父上」

 父から聞く、立場を守るための教え。
 ……言う通りだ。
 俺はこれまで通り、間違っていないと確固たる意志を持ち続けよう。


 父からの教えを受けた後、病室を出る。
 そういえば……ミランダは、どうしてセレリナの死を弔っているのだ。
 母も望んでいた結果のはず……また会った際には真偽を聞かねば。

「レオン陛下」
 
「っ!」

 考えふけっていた時、大臣のスルードが俺へと声をかける。
 そして、なにやら束となった書類を手渡してきた。

「これは……?」

「セレリナ様の罪の再調査を願う、民からの嘆願書です。貴族たちからも多く集まっております」

「……」

「もはや、再調査の要望を無視する事は反感を生むだけです。お認めください」

 淡々と言い放つスルードだが。
 俺は……それらの書類を手に取って、ビリビリと引き裂いた。

「っ!?!! 陛下!」

「認めぬ。セレリナの罪は確実だ、再調査など必要ない」

 これでいい。
 父の言う通り、非を認めるような事だけはしてはならない。
 王として……間違いない選択をするんだ。

「陛下、この僅か数日で王宮からの人材流出は二割に及んでおります」

「なっ……」

「このままでは、流れは止みませぬ、どうか……冷静なご判断を」

「だ、黙れ! 新たに雇えばいい! そんな事で王家が判断を迷う訳にはいかぬ!」

「本当……それでいいのですね。民だけでなく、貴族からも怒りの声が上がっているのですよ」

「っ!! 皆の怒りなど直ぐに冷め、直に俺が正しいと思うはずだ!」

 言い放ち、スルードへと背を向ける。
 その時後ろから……僅かな声が聞こえた。

「陛下、きっと後悔されますよ」
 
 忠義の厚い彼から漏れ出た怨嗟がこもる声。
 聞こえぬふりをして、その場を歩き去った。
 


   ◇◇◇



 その夜、私室へと戻り使用人へ指示を出す。

「いつもの紅茶を」

 好みの紅茶を手配するが、使用人は困惑した。

「……どうした?」

「あ、あの……茶葉を切らしております」

「仕入れていないのか? 貴様」

「申し訳ありません……あの茶葉はセレリナ妃が仕入れてくださっていたので、失念しておりました」

「……は?」

「いつも陛下のため、セレリナ妃が仕入れに向かってくれていたのですよ」

 俺のため……?
 その言葉が信じられない。

 セレリナが、そんな事をするはずがない。
 彼女は……王妃になってから俺には尽くしてこなかったはず。

「セレリナ妃は、最後まで……学園時代から恋していた貴方のために陰ながら尽くして……」

 使用人が思い出しながら嗚咽を交え漏らした言葉が……信じられなかった。




 学園時代から、俺に恋していた?
 あり得ない。
 だって……

『セレリナには、学外に別の想い人がおります……』
『ですが、レオン様が近づくため……セレリナは貴方を嫌うようになり……』

 今は亡きアンネッテ。
 誰よりもセレリナを知る君が……言っていたはずだ。

 アンネッテが、ウソを吐いていたというのか?
 そんなはずが……



 俺は間違っていない
 そう思いたくとも……新たな真実に、その考えは容易く揺らぎはじめた。
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