【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか

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二巡「変化」

16話

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 出て行ってしまったミランダ達を見送った後、私をジッと睨んでくる子犬を見つめる。

「さて、誰が殺されるんでしたっけ? 悪魔さん」

「……面白くねぇ、こんなはずじゃなかったのに」

 子犬の姿をした悪魔は牙を見せて唸って悔し気だ。

「では、約束通り名前を教えなさい。悪魔なんて呼ぶ所を聞かれると面倒なのよ」

「……」

「はやく」

「ム、ムトだ……」

「ムト……可愛いらしい名前ね」

「うるせぇ。こうなったら絶対にお前が絶望するのを見届けてやる、絶対にだ!」

 どうやら常に着いて来ると決めたようで……私が歩き回る後ろを走って来るムト。
 ウロウロされるのは面倒だが、子犬の姿の愛くるしさで悪態を吐かれる程度なら、まぁ許せる範疇か。

「おい、さっきからウロウロと歩くな……歩く速度を落とせ!! 疲れるだろうが!」

 まぁ……基本は無視でいいだろう。
 さて、次に行くべき場所は決まっており、私はムトを連れて歩いていく。

 一度目の人生、レオンは王命を使ってまで私の斬首刑を決めたのだ。
 今は彼らが動揺してその方法に気付いていないが、身の安全のためにも先手は打っておかねばならない。
 
「まず、ゴルド様の元へ向かわないとね……」

「おい、ミランダやレオンを放っておいてもいいのか? レオンが王命を使えば、お前は再び斬首刑にまで持っていかれるだろうなぁ。楽しみだ」

「……分かっているわ。だから、先手をとっているのよ」

「は? 病に伏せた父王に会ってどうなる!? 」

「まぁ、見てなさい」

 ムトのを無視して歩く。
 だが、ムトはふわりと浮いて私の肩に乗ってきた。

「なにしてるの……」

「この姿は疲れる。ちょっと乗せろ」

「重いのだけど……」

 ちょうど子犬と同じ重みが肩にかかるが、それを表情に出す訳にはいかない。
 私以外には見えていないようなので、ここで反応を示せば疑問に思われる。
 面倒な存在だ。

 歩いていれば、大臣のスルード様と出会った。

「っ!? セレリナ様! 良かった……先程、衛兵たちお話を聞きました。もしや陛下に投獄されたのかと不安でしたが、ご無事でしたか?」

「ええ、大丈夫です」

「良かった! あんな証言では、貴方の信頼が覆るような証拠にもなりまぬ。私は信じておりましたよ」

 正直に言えば、今はミランダと繋がっている者が誰か分からない。
 だから、スルード様でさえ完全に信用する訳にはいかない。
 それでも、安堵の息を吐く彼には疑心を抱くのはためらう優しさを感じた。

「スルード様、ゴルド様とお話できますか?」

「え……ゴルド様と? か、掛け合ってみます!」

 レオンの父で、病床に伏せている前国王。
 いま、ミランダとレオンを止めるには、彼の力は必要不可欠だ。

「面会の許可が出ました」

 スルード様が面会を取り次いでくれた。
 病室へと入れば、ゴルド様が寝台から身を起こしていた。

「セレリナ、すまない。我が愚息が……また君へ愚行を犯しているようだな」

 開口一番、ゴルド様は謝罪の言葉を口にする。
 取り返しのつかない場面でなければ、王家とはいえ非を認めるのだろうか。

「ゴルド様、その件も含めてお話があります」

「な……なんだ?」

「私は、今までも……そしてつい先程も、無実の罪でレオン様に責められておりました」

「っ……すまない、我が息子の不始末だ……」

「さらにはミランダ様も私を疑い、酷い言葉をかけてきたのですよ」

「な! ミ、ミランダが!?」

「えぇ」

「そんな……こ、心から謝罪する! どうか二人を許してやってくれないか!」

 ゴルド様は身を起こして頭を下げる。
 視線も厭わずに謝罪をする前国王の姿に、病室の皆が動揺していた。

「レオンには、きっとセレリナへの想いが残っているはずなのだ! 私が責任をもって説得する、だからどうか、もう少しだけ待ってやってくれないか!」

「……」

「二人はお似合いで、素晴らしい国王夫妻になると私は思っているのだ。どうか……頼む!」

 私はこれまで、ゴルド様の謝罪により溜飲を下げていた事もあった。
 レオンの恋情にだって、過去のように戻って欲しいと願った事もある。
 事実、彼の前回の記憶では憎しみの中にほのかな恋情があり、万が一にもその恋情が花を咲いてやり直す機会はあったかもしれない。


 だが。


「ゴルド様。もう、手遅れなのです」

「なっ……」

 もう許容できない所までミランダとレオンは踏み込んでしまっている。
 それに、我慢した末の結末がレオンの見た悲劇なのだ。
 私は……民が暗躍に巻き込まれぬためにも、毅然と振る舞う必要がある。

 我慢を美徳としていた自分では、国も民も救えないのだから。

「どうしても。レオンを許して……くれないのか?」

「ええ。昨夜レオン様が私を妃に繋ぎ止めるため、夜這いをしかけてきたのですよ?」

「っ!?!!」

 途端に、ゴルド様は絶句する。
 わなわなと身体を震わせ、自身の息子に怒りを巡らせて額を紅潮させる。

「レオン様やミランダ様の非道に対する責任を王家が見逃すなら、私は直ぐにでも王妃を降ります」

「な! ま、待ってくれ! レオンのため……君は王妃にいて欲しい!」

 ゴルド様が必死に言葉を吐くが、私は断固として譲る気は無い。

「もう、彼を支える気はありません」

 王妃を辞める。
 その行為に、微塵のためらいもない私は、聞き耳をもたない。

「レオン、あの馬鹿が……私は何度も謝罪しろと……くそっ」

 ゴルド様は絶句しながら、レオンへの悪態を吐く。
 その表情は絶望という言葉がよく似合い、自身の息子の進退に、必死に悩んでいた。

「さぁ、どうしますか?」
 
 問いかけた言葉に、ゴルド様は苦悩の呻きを漏らした。
 



「本当に全部潰す気かよ……お前……」

 選択を迫る私へ、肩に乗ったムトが小さく呟いた。
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