【完結】冷遇された私が皇后になれたわけ~もう貴方達には尽くしません~

なか

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15話

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「セドア様、ご説明をしてください」
「彼女を虐げてポーションを作らせていたとは、どういう事ですか!?」

 セドア様は、一斉に非難の嵐へと呑まれていく。
 その中で他国の使者が一人、私へと駆け寄ってきた。

「ラシェルさん、でしたよね? 貴方が傷付けられたとは……本当なのですか?」

「ええ。この傷は、セドア様につけられました」

「っ!!」

 私は前髪をたくし上げ、かつてセドア様に押し倒された際、傷ついた額を見せる。
 この時のため、未だに治癒魔法を使っていなかった。

「先程の話は本当でしょうか。もしも事実ならば、私は自国の王にこの事を報告しなければなりません」

「事実です。これが、証拠になるかわかりませんが……」

 額の傷を、治癒魔法で見えるように治す。
 途端に他国の方々は目を見開いた。
 恐らく、私がポーションを作った人物だと理解してくれたのだろう。

「治癒魔法を使えるということは、確かに……光の魔力を持っておられるのですね」

「はい。そして私はセドア様に脅迫されて、ポーションを作る事を義務付けられておりました」

 真実を告げた途端、私に駆け寄っていた方が突然跪いた。

「知らずに、貴方のポーションの恩恵を受けていたなんて……私はなんと恥知らずなのでしょうか」

 突然の懺悔に驚いてしまうが。
 なんと、他の方もセドア様を責める言葉を止めて、私へと視線を向けた。

「我が国からも謝罪を……あれだけの高品質のポーションを作る方が、まさか帝国で非道な扱いをうけていたとは」

「あのポーションで多くの者が救われました。貴方はまさに救国の女神です。その方に傷をつけるのは、もはや帝国の問題だけではありません」

 空気が一転して、今度はセドア様へと皆が振り向く。
 その瞳は私に向けていた優し気なものから、激情を灯した睨みに変わっていた。

「セドア様が皇帝に即位する事。我が国から正式に抗議の声明を出させて頂きます」
「私の国もです。隣国である帝国に、非道を犯した皇帝が即位するなど……とても支持できません」

 彼らの言葉を受け、セドア様とその父君である現皇帝が視線を落とす。
 私が見せた光の魔力と傷と証言を受け、もうセドア様に味方する人はいない。

「待ってくれ……話を聞いてくれ!」

 ここにきて、セドア様が何かを言いたげに声を出す。
 ……一体何を話す気なのだろうか。

「ラシェル、聞いてくれ……俺は、お前を強く求めて酷い行為をしてしまった。だが……それは愛があるからこそなんだ」

「っ……」

 なにを話すのかと思いきや。
 こんなこととは……

「俺ではなく、クロヴィスを想っているお前が許せなかった。だから……お前の気持ちを得るために、あんな行為をしてしまった」

「なにが……言いたいのですか。セドア様」

「今までの謝罪と共に、俺にもう一度だけ……君に振り向いてもらう機会をくれないか? 今度こそ優し––」

「無理に決まっています」

「っ!!」

 なぜ、驚いた顔ができるのだろうか。
 私の気持ちを得るために酷い行為をしておいて、どうして振り向いてもらえると思っているの。

「お、俺は純粋な皇族の血を継いでいる。下民の血など混ざっていない気高き血統だ。そんな俺にこそ、光の魔力を持つお前は隣に居るべきなんだ!」

「言っておきますが。私は血統や、皇位なんて下らぬ事で……誰かを慕うなんてことはしません」

 呟きつつ、私は隣に立つクロヴィスの手を握る。

「血統など関係なく。私を優しく救ってくれるクロヴィスしか、好きになれません」

「お、俺は……そいつよりも勝っているのだぞ?」

「血統なんて下らぬものに囚われて自ら落ちぶれていく貴方に……クロヴィスに勝る所なんて微塵もないわ」

「っ……俺が、クロヴィスに……負けているだと?」

「ええ、これから全てを負けていくでしょうね。彼は必ず、貴方に代わって立派な皇帝になりますから」

 私の言葉を受け、セドア様は膝を落とす。
 そして絶望に染まった表情で、クロヴィスを見つめた。

「俺から奪うなよ、クロヴィス。お前は俺が最も欲しい彼女を持つのに。まだ俺から奪っていくのか?」

「勘違いすんな。手放したのはお前自身だ」

「違う! 俺は……」

「お前の身を滅ぼしたのは、皇位に拘って他者を見下す腐った精神のせいだ。セドア」

「あ……あぁぁ! くそ! くそぉ!」

 セドア様の断末魔が、部屋中に響く。
 もう、慰める人なんていなかった。
 当然だ。彼は信頼を一気に失ってしまったのだから。

 その惨状を見て、ルーズベル陛下が声を上げた。
 
「……全てセドアが行ったのだ。儂は何も知らなかった」

「ち、父上!?」

 陛下はここにきて、セドア様を見捨てる選択をしたようだ。
 こんな時にさえ保身に走るのは、なんとも下劣だ。

「そんな言い訳は通用しねーよ。父上」

「違う。儂は帝国のために動いていただけだ」

 クロヴィスが、逃れようとしたルーズベル陛下の首元を掴む。
 そして、怒りに満ちた表情で叫んだ。

「すでに俺を皇帝に推す貴族や平民が多くいる。俺が皇帝になれば、直ぐにでもお前やセドアに罪を償わせてやるよ」

「わ、儂は……なにもしてないだろう!」

「いいや。俺の……母上を道具のように扱い。挙句に俺を魔物と戦う武器扱いだ。一国の長であるのに人権を度外視したお前には、相応の処罰が必要だろ?」
 
「あ……」

「お前もセドアも……俺が即位した暁には、二度とラシェルに近づけないようにしてやるよ」

 クロヴィスの怒声に、身が震える。
 受けてきた扱いへの憎しみのこもった叫びが、空気を一転させて張り詰めさせる。
 他国の方々も、クロヴィスへと視線を向けた。

「ラシェル様と、五年前の戦争を止めた英雄のクロヴィス殿下。次期皇帝と皇后に相応しいかもしれませんね」
「ええ。……人道に反した方よりも、よっぽど相応しいかと」

 賛同と、支持の声が高まっている。
 クロヴィスは、次期皇帝に望まれているんだ……良かった。
 賛同の声の中で安堵の息を吐いた時、小さな呟きを漏らす者がいた。

「皆……我が国はその方が皇帝になることは反対だ」

「どうしたのですかな。ルーン国の使者の方」
「いきなり反対など、理由をお聞かせ願いたい」

 ルーン国といえば、魔法が最も栄えた大国だ。
 その使者が漏らした言葉に、皆が疑問の声を上げた
 しかしクロヴィスだけが……舌打ちを漏らした。

「……見える奴、いたのかよ」

 クロヴィス……なにを?
 意図を尋ねようとした時、その使者が言葉を続けた。

「そのクロヴィスという男が生きていると、皆は思っているのですか」

「……え?」

「その方は、生者の模倣をした……おぞましい存在ですよ」
 
 なにを……言っているの?
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