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11話
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『馬鹿だよな、あの女』
『ほんっとうに都合の良い女』
暗闇の中で彼らの声が響いて止まらない。
逃げようと走ってもその場を動けなくて、足がもつれて上手く走れない。
『平民がでしゃばるなよ』
『出ていけ』
嫌だ。
否定しようとしても声は出ず、ただ聞こえてくる罵声に心が締め付けられる。
嫌な汗と、手足に力が入らない。
気付けば、私は崖に落ちていくように下へ下へと落ちていく。
自分が死んでしまうと思い、どうしようもない無力感に襲われた。
「…………!」
「…ディ!」
……この、声は。
「リディ!」
声が聞こえて目を開くと月明かりが優しく差し込む寝室で、私の肩をゆするようにアルが居た。
「ア、アル?」
「良かった。凄くうなされていたから心配で」
気付けば、自然と頬に涙が流れていた。
忘れた……いや、忘れたいと思っていた記憶が夢の中に出てきてまで私を苦しめていたのだ。
「ご、ごめん……アル」
「リディは何も悪くないよ。悪くない、本当に」
あぁ、駄目だ。
あれだけ鮮明に思い出してしまうと、身体が震えてしまう。
アルにもうこんな姿を見せたくはないのに、涙もポロポロとこぼれて止まらない。
「大丈夫? リディ」
「ち、違う。ごめんね、これは違くて」
心配をかけないために、理由にもなっていない言葉を吐いてしまう。
頭の中にこびりついてしまった記憶が私の思考を邪魔するのだ。
「…………」
「あの、本当に大丈夫だから。起こしちゃったね」
「……リディ、覚えている?」
「へ?」
アルは寝台に腰掛けて、私を見つめながら呟く。
なにを言いだすのか、私は耳を傾けた。
「昔、君の家に泊めてもらった事あったよね。僕はその時に家を離れた寂しさで泣いていると、君が一緒に居てくれた」
「そ、そうなの?」
すっかり忘れていた幼き頃の思い出を、アルは宝石箱を開く子共のように。
大切に愛おしそうな瞳で語り続ける。
「私がいるから、大丈夫って言って。一緒にいてくれて……本当に安心できたんだ」
おもむろにアルは両手を開き、微笑みながら私を手招いて口を開いた。
「だから、寂しい時は頼ってよ。僕も君にもらった優しさを返したい」
「え……で、でも」
夜の仄暗い中、月明かりに横顔が照らされるアルを見ると凛々しくてかっこよくて。
差し伸べられた両手に恥ずかしくて、身体を動かせない。
なのに、アルは微笑みながら呟く。
「おいで、リディ」と。
まるで、アルだけ大人になったようだ。
語り口は幼き頃のように私を呼び、それに抗う事が出来ずに私は身体をアルへと傾けた。
ふわりと香る匂い。
私よりも硬くて、大きい身体に寄り添うとギュッと抱きしめられる。
暖かくて、優しくて……嬉しい。
「大丈夫だよ、リディ……君の近くには僕がいるから」
そっと耳元で囁かれる言葉、夜闇の中で私の髪を優しくすく彼の手。
どれもが心を爆発させるほどに緊張するはずだったのに、何故か今だけは心の奥底から安心できた。
「アルは、昔の事いっぱい覚えてくれているのね」
「僕は君より三つ上だから、よく覚えているんだ。それに……代えがたい君との大切な思い出ばかりだから……」
「……アル」
思わず私の髪を撫でてくれていた彼の手を取る。
私自身の手を絡めていくと、返すように彼もキュッと握ってくれるのだ。
夜闇の中、思わずお互いに視線を合わせるとドクドクとどちらのか分からない鼓動が聞こえだす。
「…………」
「…………」
お互いに見つめ合い、沈黙の時間が流れる。
何かを言い出したい気持ちが溢れているが、それを言い出せば関係が変わる。
その事に二人とも、一歩が踏み出せないでいる事を自覚した。
沈黙に耐え切れずに、意気地のない私は逃げるように呟いてしまう。
「あのね、私達って幼馴染……だよね?」
「…………」
「アル?」
「今は……ね」
ポツリと呟いたアルはおもむろに顔を近づけると。
私の頬にそっとキスを落とした。
突然の事に私は固まっていると、彼の紅の瞳と視線が合う。
その表情は幼い頃のアルとの記憶にはなくて、初めて見る大人びたアルの凛々しい表情だった。
「この話はお終い。リディは安心して寝て」
「…………う、うん」
ね、寝ようとしてもアルの表情を思い出してしまう。
あんな表情を見せてくれている彼が、今も抱きしめてくれているのだから心は落ち着かない。
ドクドクと脈打つ鼓動の中、彼の胸に顔をうずめると同じく激しい鼓動が聞こえてくる。
(大人びていても、アルも同じ気持ちなんだ)
そう思った瞬間に、何故か安心感が襲ってきて。
悪夢で眠れなかった分を取り返すように……私は深い眠りへと落ちていった。
アルに抱きしめられて、安心感に包まれると私はまた勇気を貰える。
今の私にはアルがいてくれる。
学園で私を笑う彼らと会ってもきっと大丈夫だと思えた。
だから、明日起きればアルに相談しよう。
私が学園に戻り、全てを告発すべきかどうかを。
いつまでもお世話になっている訳にはいかない、私は自分の足で立たなければならない。
アルが、その勇気をくれたから。
『ほんっとうに都合の良い女』
暗闇の中で彼らの声が響いて止まらない。
逃げようと走ってもその場を動けなくて、足がもつれて上手く走れない。
『平民がでしゃばるなよ』
『出ていけ』
嫌だ。
否定しようとしても声は出ず、ただ聞こえてくる罵声に心が締め付けられる。
嫌な汗と、手足に力が入らない。
気付けば、私は崖に落ちていくように下へ下へと落ちていく。
自分が死んでしまうと思い、どうしようもない無力感に襲われた。
「…………!」
「…ディ!」
……この、声は。
「リディ!」
声が聞こえて目を開くと月明かりが優しく差し込む寝室で、私の肩をゆするようにアルが居た。
「ア、アル?」
「良かった。凄くうなされていたから心配で」
気付けば、自然と頬に涙が流れていた。
忘れた……いや、忘れたいと思っていた記憶が夢の中に出てきてまで私を苦しめていたのだ。
「ご、ごめん……アル」
「リディは何も悪くないよ。悪くない、本当に」
あぁ、駄目だ。
あれだけ鮮明に思い出してしまうと、身体が震えてしまう。
アルにもうこんな姿を見せたくはないのに、涙もポロポロとこぼれて止まらない。
「大丈夫? リディ」
「ち、違う。ごめんね、これは違くて」
心配をかけないために、理由にもなっていない言葉を吐いてしまう。
頭の中にこびりついてしまった記憶が私の思考を邪魔するのだ。
「…………」
「あの、本当に大丈夫だから。起こしちゃったね」
「……リディ、覚えている?」
「へ?」
アルは寝台に腰掛けて、私を見つめながら呟く。
なにを言いだすのか、私は耳を傾けた。
「昔、君の家に泊めてもらった事あったよね。僕はその時に家を離れた寂しさで泣いていると、君が一緒に居てくれた」
「そ、そうなの?」
すっかり忘れていた幼き頃の思い出を、アルは宝石箱を開く子共のように。
大切に愛おしそうな瞳で語り続ける。
「私がいるから、大丈夫って言って。一緒にいてくれて……本当に安心できたんだ」
おもむろにアルは両手を開き、微笑みながら私を手招いて口を開いた。
「だから、寂しい時は頼ってよ。僕も君にもらった優しさを返したい」
「え……で、でも」
夜の仄暗い中、月明かりに横顔が照らされるアルを見ると凛々しくてかっこよくて。
差し伸べられた両手に恥ずかしくて、身体を動かせない。
なのに、アルは微笑みながら呟く。
「おいで、リディ」と。
まるで、アルだけ大人になったようだ。
語り口は幼き頃のように私を呼び、それに抗う事が出来ずに私は身体をアルへと傾けた。
ふわりと香る匂い。
私よりも硬くて、大きい身体に寄り添うとギュッと抱きしめられる。
暖かくて、優しくて……嬉しい。
「大丈夫だよ、リディ……君の近くには僕がいるから」
そっと耳元で囁かれる言葉、夜闇の中で私の髪を優しくすく彼の手。
どれもが心を爆発させるほどに緊張するはずだったのに、何故か今だけは心の奥底から安心できた。
「アルは、昔の事いっぱい覚えてくれているのね」
「僕は君より三つ上だから、よく覚えているんだ。それに……代えがたい君との大切な思い出ばかりだから……」
「……アル」
思わず私の髪を撫でてくれていた彼の手を取る。
私自身の手を絡めていくと、返すように彼もキュッと握ってくれるのだ。
夜闇の中、思わずお互いに視線を合わせるとドクドクとどちらのか分からない鼓動が聞こえだす。
「…………」
「…………」
お互いに見つめ合い、沈黙の時間が流れる。
何かを言い出したい気持ちが溢れているが、それを言い出せば関係が変わる。
その事に二人とも、一歩が踏み出せないでいる事を自覚した。
沈黙に耐え切れずに、意気地のない私は逃げるように呟いてしまう。
「あのね、私達って幼馴染……だよね?」
「…………」
「アル?」
「今は……ね」
ポツリと呟いたアルはおもむろに顔を近づけると。
私の頬にそっとキスを落とした。
突然の事に私は固まっていると、彼の紅の瞳と視線が合う。
その表情は幼い頃のアルとの記憶にはなくて、初めて見る大人びたアルの凛々しい表情だった。
「この話はお終い。リディは安心して寝て」
「…………う、うん」
ね、寝ようとしてもアルの表情を思い出してしまう。
あんな表情を見せてくれている彼が、今も抱きしめてくれているのだから心は落ち着かない。
ドクドクと脈打つ鼓動の中、彼の胸に顔をうずめると同じく激しい鼓動が聞こえてくる。
(大人びていても、アルも同じ気持ちなんだ)
そう思った瞬間に、何故か安心感が襲ってきて。
悪夢で眠れなかった分を取り返すように……私は深い眠りへと落ちていった。
アルに抱きしめられて、安心感に包まれると私はまた勇気を貰える。
今の私にはアルがいてくれる。
学園で私を笑う彼らと会ってもきっと大丈夫だと思えた。
だから、明日起きればアルに相談しよう。
私が学園に戻り、全てを告発すべきかどうかを。
いつまでもお世話になっている訳にはいかない、私は自分の足で立たなければならない。
アルが、その勇気をくれたから。
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