『春よ、君を守りたし ―中華恋絵巻―』の番外編

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王宮、揺らぐ玉座にて

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都にて広がった真実の声は、ついに王宮の奥深くへ届いた。
重く閉ざされた玉座の間で、若き王・景耀(けいよう)は玉座に座し、黙然と外の騒ぎに耳を澄ませていた。

「……杜若が戻ったか」

低く、震えるような声だった。

傍らに控えるのは、宦官・嘉仁。

「はい、陛下。しかも、民衆の支持を集め、広場で堂々と姿を現しました」

「……それに、黎花までもが共にあったと?」

嘉仁の表情はわずかに歪む。

「陛下、あの者らは叛逆者。都を混乱に陥れようとしております。すべて、私が粛清いたします」

だが、王は手を上げ、制した。

「杜若は、私にとって唯一無二の将だった。黎花は……我が家族だ。……私の目が、本当に正しかったのか……?」

「陛下。お忘れなきよう。あの将は、戦を拒み、勝手に軍を引いた男。黎花様は、その男に囚われたのです」

「……囚われたのではなく、共にあったのだろう」

王の呟きに、嘉仁の目が細くなる。

「陛下。お迷いになれば、国は割れます」

「私には、真実を見極める義務がある。嘉仁、お前には――退いてもらう」

その瞬間、嘉仁の顔から血の気が引いた。

「陛下……それは、私を……処すと?」

「処すとは言っておらぬ。だが、真実を、直接彼らから聞く。王たる者、恐れてはならぬ」

王は、重い腰を上げ、玉座を降りた。

「明日、黎花と杜若に謁見を命じる。――決着を、つける」



翌日、王宮・鳳凰殿。

黎花と杜若は、数年ぶりに正式な謁見の場に立った。

「景耀さま……」

黎花が頭を下げる。

「王よ。私は、貴方を欺いたことはない。ただ、偽りの命に背いたのみだ」

杜若も、真っ直ぐに言葉を紡いだ。

王は、じっとふたりを見つめていた。

「杜若。そなたが戦を止めた日、私は裏切られたと思った」

「私も、王の怒りに深く傷つきました。しかし、それでも私は――民を、都を守りたかった」

杜若の声に、一切の偽りはなかった。

黎花もまた、王に向き直る。

「景耀さま。私の目には、嘉仁の陰謀がはっきりと映っておりました。それを見抜けなかった私もまた、罪人です。ですが、今ならまだ……」

王は、そっと手を上げた。

「もう、よい」

重苦しい空気のなか、王はゆっくりと椅子に身を預けた。

「私は……そなたらを失っていた。そして、都の声も、民の声も、届かぬ場所に自らを閉じ込めた」

「景耀さま……」

「嘉仁を、投獄せよ」

その命が下されると同時に、王宮に激震が走った。



その夜、杜若は城壁の上に立っていた。

黎花が、隣に立つ。

「……終わったのかもしれぬな」

「まだ、始まったばかりです。これからは、真の再建です」

杜若は静かに頷いた。

「私は戦を止めた。……だが、愛もまた、戦いだな」

「ふふ、あなたがそんなことを言う日が来るなんて」

黎花は、月の光の下で微笑んだ。

「貴女がそうさせた。……黎花、共に歩もう。戦のない未来を、共に」

「ええ。春のように穏やかな日々を――あなたと、ずっと」

ふたりの影が、月明かりの中で一つに重なる。

玉座をめぐる闘争は終わった。
だが、その先には、また新たな物語が始まる。
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