『春よ、君を守りたし ―中華恋絵巻―』前日譚

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第十七章

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筆は誰のために

文政庁の会議室。
そこには、筆録制度改革の草案を前に、十数名の高官たちが集っていた。

「官筆の透明化? ……おまえは、筆録官を皆“官吏”ではなく“記者”にでもするつもりか」

「記録は真実を映す鏡であるべきです。民の目に触れぬ筆では、やがて官そのものが腐ります」

景融の静かな言葉が、場の空気を刺す。

改革案には以下の要点が記されていた。
• 筆録内容の一部公開制度
• 地方筆録官の任免を中央審査へ移行
• 貴族や資産家との癒着調査のための独立部署の設置

それは、保守派にとって明確な“挑戦”だった。



その数日後、杜若は外郭筆録官として、文政庁の公開記録制度準備に携わることとなった。

(……景融さまが始めたこの道。私も共に歩めることが嬉しい)

けれど、改革の嵐は予想以上に早く吹き荒れた。

「……筆録官ごときが、“制度”に口を挟むなど思い上がりも甚だしい」

「女官一人が、景融さまに取り入って制度を揺るがしていると噂されていますよ?」

陰口、圧力、帳面の受け取り拒否――
庁内の空気は確実に変わっていた。

ある夜、杜若は景融に会いに彼の執務室を訪れた。

「……ねえ。私たちは、正しいことをしているのでしょうか」

「それは誰にもわからない。だが“今よりもましな未来”を信じて書く。それが筆の矜持だと、私は思う」

景融はそう言ったが、彼の目の下にはかつてないほど深い隈ができていた。

杜若は、静かに告げた。

「……あなたは、今、自分の心を削って筆を書いている」

彼は笑った。

「君がそれに気づくようになったことが、一番うれしい」

そして、真剣な眼差しで彼女を見つめる。

「私が変わるのは、君がいたからだ。だが……私が変わることで、君を巻き込むのなら」

「巻き込まれても構いません。私は、“筆を愛した人”のそばにいたい」

その言葉に、景融の手がわずかに震えた。

けれど、その優しさは――次の試練の前触れでもあった。



その翌日。
文政庁の内密の報告書が、密かに李元台の元に届けられる。

《杜若――筆録補官。出自不詳にして改革案の草案にも関与。景融との関係、私情の混入の疑いあり》

(第十七章 了)
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