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夜空に咲く、黒き花
しおりを挟む夜の都が、まるで息を潜めていた。
誰もが祭の訪れを待ち望みながらも、
その裏で、燃え盛る“破滅の花”が、静かに開花の時を待っていた――。
⸻
春灯祭。
毎年この夜、都は万の灯りに包まれ、民は花火と舞に酔いしれる。
だが今年は、どこか違った空気が流れていた。
「都の一角に不審な動き。花火の台座が通常と異なる構造をしています」
沈懐風の報告に、黎翔は即座に地図を広げた。
「この地点……民家に囲まれた空き地か。花火の打ち上げには広すぎる」
「爆薬の仕込みである可能性が高いと、火薬師から報告がありました」
「紫雲閣の仕業だな。奴ら、祭の混乱に乗じて都を燃やす気か」
瑠璃はその場に割って入った。
「ならば、私がその場に向かいます」
「危険すぎる。瑠璃、ここは――」
「民の前で、私は皇后として在らねばなりません」
その言葉に、黎翔も沈懐風も反論できなかった。
⸻
夜が深まり、春灯祭が始まった。
宮廷の前では舞が舞われ、後宮では祝宴が開かれ、都中に華やかな灯りが揺れる。
だがその灯火の中、瑠璃は密かに侍女たちを引き連れ、問題の花火台座の元へと向かっていた。
そこで彼女が見たもの――それは、台座の下に埋められた夥しい数の火薬樽。
「……ここを爆発させれば、都の半分が炎に包まれる」
その瞬間、黒衣の男たちが現れる。
「ようこそ、偽后様」
現れたのは、閻震玄。元重臣であり、紫雲閣の首魁。
「貴女一人が死ねば済む話だ。我らの焔は、再びこの国に“恐怖”の秩序をもたらす」
「秩序ではない。それは“支配”です」
瑠璃は毅然と立ち向かうが、侍女たちは刀を突きつけられ、動けずにいた。
そのとき、
「一歩でも近づけば……この火薬、今ここで爆ぜるぞ」
屋根の上に姿を見せたのは、蘇白明だった。
「貴様……生きていたか」
「お前の言葉は全部“過去”の話だ。今のこの国は、瑠璃を“未来”として見ている」
閻震玄は嘲笑した。
「ならば、その未来ごと燃やしてくれる!」
その刹那、ひとりの侍女が閻震玄に飛びかかり、刀を奪おうとした。
彼女の名は花澄――蒼蓮に仕え、白明に希望を託した少女だった。
「やめてください! もう誰も……誰も殺させない!」
花澄の叫びに、瑠璃が駆け寄る。
「火薬を止めて! 今すぐ水を――!」
白明が一斉に兵を呼び込み、火薬に水を浴びせ始める。
火の粉が舞い、混乱の中で閻震玄は逃げ出そうとするが――
「止まれっ!」
その声とともに、沈懐風が矢を放った。
閻震玄の肩に矢が突き刺さり、その場に倒れこむ。
⸻
翌朝、都はかつてない静寂に包まれていた。
黎翔は紫雲閣の残党を徹底的に掃討するよう命じ、都の治安回復に努めていた。
一方、瑠璃は後宮の者たちを集めて話をした。
「私たちは、ただ飾られる者ではありません。
この国のために、命を預かる存在です」
その言葉に、後宮の女たちは涙しながら頷いた。
そして、蒼蓮からの文が届く。
“私は、母の影ではなく、私自身として国を見つめ直す。
もはや剣ではなく、言葉と信義で帝国と向き合いたい”
白明はその文を読みながら、ふと空を見上げる。
(夜空に咲く花は……黒ではなかった。守ったんだ。未来を)
その横で瑠璃は、小さく囁いた。
「焔はもう、必要ない」
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