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焔に散る誓い
しおりを挟む焔は、ただ物を焼くだけではない。
過去も、誓いも、誰かの想いも――
それを越えた先にしか、新しき春は訪れぬ。
⸻
紫雲閣の兵が蒼蓮に刃を向けたとき、空気が凍りついた。
だが次の瞬間、白明はその場に飛び出し、蒼蓮を庇って剣を抜いた。
「蒼蓮を討とうとする者は、この俺が斬る」
その気迫に、一瞬ひるんだ紫雲閣の兵たち。
だが即座に剣を構え、白明に襲いかかる。
数は五対一。
しかし白明の剣筋は冴え、地を舞うように敵の隙を裂いた。
「っ……! 退け!」
蒼蓮は必死に叫ぶが、兵たちは耳を貸さない。
「焔の王に従うことこそが、我らの義。もはや貴方は不要!」
「それが、お前たちの正義か……!」
白明の剣が二人目の兵の喉を裂いた瞬間、遠くから味方の援軍が駆けつけてくる。
「蒼蓮様、ご無事ですか! 救援が遅れました!」
ようやく紫雲閣の刺客は撤退するも、白明は深手を負ってその場に倒れ込んだ。
⸻
目を覚ました白明の傍らには、蒼蓮が静かに座っていた。
「……死ぬなよ、白明。貴様が死ねば……俺は、また独りになる」
「言ったろ……“戻る”と」
かすかな微笑みに、蒼蓮は目を伏せる。
「俺は……間違っていたのかもしれない。
正統も誇りも、剣に語らせるべきじゃなかった」
白明は弱々しく首を横に振った。
「間違いじゃない……道を選んだことに、間違いなんてない。
ただ……誰のために、その道を歩くかが問題なんだ」
蒼蓮は深く息をつくと、懐から和平の書状を再び取り出した。
「この文を……黎翔に渡してくれ」
「必ず」
⸻
都では黎翔が戦支度を進めていた。
南の砦に展開する部隊、補給路の確保、そして民の避難誘導。
その背後を、瑠璃が静かに見つめていた。
「朕は……間違っていないか?」
「いいえ。あなたは、民を守るために剣を執っている。それ以上の正義はありません」
黎翔はふと笑みを浮かべた。
「強くなったな、瑠璃。初めて会った日とは、まるで別人だ」
「私も、ようやく“皇后”になれた気がします」
「ならば、この国を共に守ろう」
その手を、瑠璃はしっかりと握った。
⸻
一方、後宮では新たな火種が芽吹こうとしていた。
幽閉されていた女官の一人が毒を盛り、自死したのだ。
遺された文には、こうあった。
「後宮を焼き払え。焔の王が都を覆い尽くす」
紫雲閣の計画はなお生きていた。
瑠璃はすぐさま沈懐風を呼び出す。
「急ぎ、後宮のすべての動線を封鎖してください。
彼らは“火”で終わらせようとしています」
「御意!」
⸻
その夜、白明が都へと戻ってくる。
和平の書状を携え、瑠璃と黎翔の前に現れると、二人は無言で彼を迎えた。
「蒼蓮は……戦を望んでいません。
ただ、“焔の王”を名乗る者が、彼を裏切った」
「紫雲閣の残党……」
瑠璃は書状を受け取ると、静かに読んだ。
そして、黎翔を見上げて言う。
「戦う相手が変わりましたね。敵は蒼蓮ではなく、“焔”を広げようとする者たちです」
「ならば――都を、民を、守らねばならぬ」
黎翔は剣を手に取り、白明に命じた。
「白明、蒼蓮の身辺を守れ。あいつはまだ、国に必要な男だ」
「心得ました」
そして瑠璃は白明に近づき、そっと言った。
「ありがとう。貴方が彼を信じてくれたおかげで……この国はまだ、救われようとしています」
白明は、ただ静かに頷いた。
⸻
その夜、都の外れで小さな炎が灯った。
それは紫雲閣の者たちが潜む屋敷。
「焔の王など、名ばかりだ」
声を上げたのは、かつて都の重臣だった男――閻震玄。
「都に正義は不要。ただ“恐れ”だけが、民を統べる」
彼らの手には、都を焼き尽くす“火薬”が握られていた。
「祭の夜、花火に見せかけて――一気に爆ぜさせるのだ」
そして、その時はすぐに迫っていた。
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