華宮恋歌 ―はなのみやれんか―

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月影、裏切りを照らす

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静かなる春の終わりと共に、都に新たな気配が忍び寄る。

黎翔と瑠璃、そして皇子・黎凰の暮らしは一見安寧に満ちていたが、
その背後では、過去に断ち切ったはずの影が再び牙を研いでいた。

信じる心と裏切りの狭間で、ふたりはまた選択を迫られる。



都・鳳華殿。

夜風が白絹の帳を揺らす。
月明かりが差し込む室内で、瑠璃は黎凰を抱きながら、優しく子守唄を口ずさんでいた。

「……眠りの園に 風は踊り
 母の胸より 星は零れる」

黎凰は静かに目を閉じ、すやすやと眠りに落ちていった。

「この子が、どうか平穏な時代を生きられますように……」

瑠璃がそっと呟いたとき、扉の外から女官が慌てた様子で現れる。

「皇后様、沈懐風様より緊急の報が……」



黎翔の執務室。

沈懐風が手にする密書を、黎翔は静かに受け取った。

「……“蒼蓮、目覚める”。」

沈懐風が低く言う。

「かつての蒼蓮皇子の名を騙り、各地で民を煽る者が現れ始めました。未確認ですが、その者には“蒼蓮の血”が流れているという噂も」

黎翔は眉を寄せる。

「まさか……あのとき亡くなったはずの、第二皇子が……」

沈懐風は一枚の古文書を広げた。

「こちらは極秘裏に保管されていた産簿の写しです。蒼蓮の双子――“もう一人の子”の存在が記されておりました」

「……影として育てられた子が、生き延びていたと?」

「可能性は否定できません」

黎翔の目に、怒りとも不安ともつかぬ光が宿る。

「すべてが真であれば、そやつは朕の“弟”にあたる……」



その頃、後宮では奇妙な動きがあった。

侍女の一人・妙蘭が、誰にも見つからぬよう、宦官の通路を使いながら密かに文を運んでいた。

彼女の足は、かつて瑠璃に仕えていた女官・香蘭の元へと向かっていた。

「……今なお、お前がこの後宮に“生きている”ことを誰も知らぬのは幸いだ」

香蘭はぼろを纏いながらも、鋭い眼差しを保っていた。

「皇后は私を赦した。だが――この国がまた“過ち”を犯すなら、私は止めなければならない」

「ならば、貴女の知識が再び必要になります」

妙蘭は封筒を渡した。

「“蒼蓮の影”に関する、極秘記録が見つかりました」

香蘭の表情が強張る。

「……ついに、“あの子”が目を覚ましたのね」



瑠璃は、黎翔と共に密書を読み交わしていた。

「かつての帝が残した“影の子”……それが今、我らの前に現れるとは」

「何が真実かを見極めねばならぬ。敵か、あるいは、我らの無知が生んだ悲劇か」

「……私が、会いましょう」

「瑠璃――!」

「陛下、もし彼が本当に“血を継ぐ者”なら、対話の余地はあります。私なら、きっと揺らがずに向き合えます」

黎翔はしばし沈黙した後、頷いた。

「ただし、ひとりでは行かせぬ。沈懐風と白明に同行させる」

「ありがとうございます」



一方その頃、辺境の廃村。

ひとりの青年が、古びた皇族の印章を手に、立ち尽くしていた。

「……母上。私は、生きていて良かったのか」

風が吹き抜け、月が青年の影を伸ばす。

その顔は、どこか黎翔に似ていた。

蒼蓮の影が、ついに月の下へと姿を現したのだった。

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