23 / 31
影の皇子、暁に歩む
しおりを挟む黎明の空を仰ぎ、都に向かって一人の男が歩き出す。
“蒼蓮の影”と呼ばれた彼は、己の過去と存在理由を携え、
真実を求めて玉座のもとへ向かう。
その一歩が、再び帝国の運命を大きく揺るがすことになるとは、
誰もまだ知らなかった。
⸻
後宮・鳳華殿の庭に、瑠璃は立っていた。
黎凰を抱きながら、朝陽のぬくもりを浴びるその姿は、
どこか神々しく、凛とした気高さに満ちていた。
「あなたが歩む未来に、争いの種を残してはなりません……」
その言葉に応えるかのように、黎凰が小さく手を動かす。
瑠璃は静かに頷いた。
「さあ、私はこの国の母として、次なる試練を迎えましょう」
⸻
その日、密かに設けられた対面の場。
瑠璃と沈懐風、白明が護衛のもと、都外れの離宮へと向かう。
離宮にはすでに、黒衣に身を包んだ一人の青年が立っていた。
「……あなたが、“影の皇子”?」
「私は名を持たぬ者。だが、生まれたときから、命を狙われ続けてきた」
その声音に、敵意はなく、ただ深い哀しみと諦念が滲んでいた。
瑠璃は一歩、彼の前へ進み出た。
「私は皇后・瑠璃。あなたの存在を否定するために来たのではありません」
「それでも、この国は私を殺そうとした。母を奪い、名を奪い、ただ“影”として隠した」
「それは確かに、この国の過ちかもしれません」
瑠璃は真っ直ぐに彼を見据えた。
「だからこそ、私は聞きたい。あなたは、この国を“壊したい”のですか?」
青年は静かに、首を横に振った。
「私は……“認められたい”だけだった。生きていてよかったと、誰かに言ってほしかった」
瑠璃はそっと手を差し出した。
「ならば、その答えを得るために、生きてください。私たちと共に、真実の国を築きましょう」
青年の瞳に、初めて光が差し込む。
「名も、居場所もない私に……そんな未来が、あるのですか?」
「名なら、私が与えましょう。居場所なら、黎翔様が与えてくれます」
その言葉に、沈懐風も白明も深く頷いた。
「彼は決して、血だけで人を裁く男ではない。むしろ、最も血に縛られぬ男だ」
「だが、証がいる。彼が“脅威”ではないことを、都に示さねば」
白明が告げると、青年は静かに右袖を捲った。
その腕には、蒼蓮の母系にしか現れぬ“青龍の痣”があった。
「……これが、私の“存在の証”です」
⸻
その夜、瑠璃は黎翔に全てを語った。
「影の皇子は、今なお国を恨んでいます。けれど、その心には深い孤独もある」
「ならば、朕が向き合おう」
黎翔の目は揺らがなかった。
「そやつが真に“弟”であるなら、受け入れよう。朕の手で」
「……ありがとうございます」
瑠璃は黎翔の隣に座り、黎凰を寝かせながら静かに言った。
「争いの種を憎んで終わるのではなく、未来の芽として育てられるなら――それが私たちの務めです」
黎翔は頷いた。
「よい名を与えよう。“黎月”――黎の家に生まれ、月影の中に生きてきた者」
「黎月……」
⸻
翌朝、宮門の前に立つ一人の黒衣の男。
その背には、もう影はなかった。
彼の名は、黎月。
かつて“蒼蓮の影”と呼ばれた青年は、今――黎翔と瑠璃の決断により、
帝国の新たな一員として歩み出す。
未来を揺るがす存在としてではなく、未来を照らす光の一端として。
その姿に、黎凰が小さく手を伸ばした。
そしてまた、新たな物語が始まる。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる