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訳ありの結婚
穏やかな時間
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その後オリバーには屋敷の中を一通り案内してもらい、昼食を挟んだ後、レインの大まかなスケジュールとともに侯爵家の仕事を色々と教えてもらった。
幽霊退治という特殊な仕事を除けば、あとはフィーナにも馴染みのあるような領地運営や屋敷の切り盛りで、その点では役に立てるのではないかと、帳簿の整理や領民からの意見書の対応などを買って出た。
するとオリバーは大喜びで、早速いくつか書類を用意すると言う。
そして、最後に図書室へと案内してもらい、読書好きのフィーナははしたなくも大喜びしてしまった。
フィーナ自身に何か趣味はないかと問われたので、もしあればと遠慮がちに聞いてみたのだが、この蔵書量だとは思わなかった。
「どの本を読んでも良いのでしょうか?」
「婚約者であるフィーナ様が、この屋敷でしてはいけないことなどありませんよ」
そんな風に言われて益々喜んでしまう自分は、なんて現金な女だろう。
だが、目に飛び込んでくる様々な本に次から次へと目移りしてしまうのをやめられない。
「どうぞ、お好きなものをお読みください。私は一旦失礼いたしますので、侍女を呼んで参りますね」
「ありがとうございます。あ、書類は後で私の部屋に置いておいてください。可能な限り早く対応しますので」
「こちらこそ、ありがとうございます!では、ごゆっくり」
流れるように一礼をしてオリバーが出ていった。
しばらくすると侍女のエルとアルが二人揃って現れ、手にはティーセットや焼き菓子を載せている。
「フィーナ様、お疲れではありませんか。少し休憩されては」
ひっつめ髪のエルがそう言ってカップにお茶を注ぐ。
「お座りになって、甘いものでもお召し上がりください」
フィーナに椅子を勧め、柔らかなひざ掛けをかけてくれた後、隣の椅子にぬいぐるみも丁寧に座らせるのはおさげのアル。
お姫様もかくやという扱いを受け、フィーナは申し訳ない気持ちで縮こまる。
「あの、でも、いくつか本を選ぼうと思って…」
「どのような本がお好みか伺ってもよろしいですか?私がお持ちいたします」
「そこまでしなくても…」と言うが、尋ねたエルも、その隣のすまし顔のアルも、フィーナをまずは休憩させないと気が済まないらしい。
ほぼ無表情で全く同じ見た目の二人なのだが、なぜかフィーナには二人の違いも、二人の言わんとすることも分かるようだ。
「では…この家の歴史書、のようなものはあるのかしら?家だけではなくて、領のことでも良いのだけど。レイン様やオリバー様が仰るような、不思議なことを私もちゃんと知りたくて」
そう言った途端、双子の動きがピタリと止まる。
「そんなに驚くことを言ったかしら?」
そう言うと、二人は益々驚いたようにフィーナを見た。
「フィーナ様は、私どもが驚いたと思うのですか?」
「え?ええ、だって驚いているでしょう?違ったかしら?」
確かに二人の顔は口の端が少し上がっているだけで、表情だけでいえば何も変わっていない。
だが、フィーナには二人が驚いているように見える、正しく言えば「感じる」というか…とにかく二人の機微が伝わってくるのだから思ったままを口にする。
「いえ…旦那様以外に伝わったことがなかったので…少々驚きました」
「そうなの?」
少し笑った(正確には表情は変わっていないが)エルが、一礼して部屋の奥へと向かった。
おそらくフィーナのお願いした本を持ってきてくれるつもりなのだろう。
残ったアルに寒くないかと聞かれ、フィーナは首を横に振る。
「むしろ二人は寒くない?もし寒いようなら、用意してもらっておいて悪いけど、いくつか本を借りて別の部屋に移っても…」
見渡したところ体を温めるものはなさそうなので尋ねると、アルは不思議そうな顔でフィーナを覗き込む。
どうしたのだろう、どんどん彼女たちの表情が分かっているような気がする。
「…フィーナ様は、私どもが人形であることを信じておられないのでしょうか?」
「え?うーん…いいえ、レイン様がそう仰るのなら、そうなのかしら、とは思っているわ」
「では、気持ち悪い、怖い、などとは思われないのですか?」
「そんなこと思わないわ。だって二人とも人にしか見えないし、それにとっても優しいもの。あ、もしかして、寒さの感じ方が違うのかしら?だったごめんなさい、私の感覚で物を聞いてしまって…不快だったかしら?」
意図したつもりはなかったが、聞き方が傲慢だったかもしれないと不安になる。
すると、アルはどこか安心したように笑った後、フィーナにお茶を勧めてくる。
「私どもは暑さや寒さ、疲れといったものを感じませんので、お気になさらないでください。それに、フィーナ様のお身体が一番大切です」
「大げさだわ…でも、ありがとう。嫌だと思うことがあったら言ってちょうだいね」
「フィーナ様がお望みであれば」
フィーナの空っぽだった心の器に、温かなミルクが注がれたような心地だった。
こんな労りの言葉をかけられたのはいつぶりだろうか。
そして、しばらくすると、エルが数冊の本を抱えて戻ってきたので、フィーナは二人の言葉に甘えてしばらく読書に没頭した。
こんなにも穏やかな時間を過ごすのもどれくらいぶりだろうか、とフィーナは時折目を細めた。
******
「で、こんなところで寝てしまったのか、私の婚約者殿は」
それから数時間後。
日はすっかり傾いて、外には夜の帳が下り始めた午後6時。
もうすぐ夕食の時間だというのに部屋にいない婚約者を探していたところ、もしかしてまだ図書室にいるのではとオリバーに教えられて来てみれば、当の本人は人の心配などよそに健やかな寝息を立てていた。
「「こんなにも気持ちよさそうに寝ているフィーナ様を起こすことなど出来ません」」
「なんだ、お前たち…フィーナに甘すぎないか」
普段あまり人に執着しない二人の熱の入りように、レインは怪訝な顔をする。
たしかに愛らしい寝顔だが、このまま夕食を逃しては、それはそれで可哀想だろう。
フィーナの眠る横、行儀悪くも机の上に腰を下ろすと、穏やかな顔を覗き込んだ。
「ん?これはじいさんの手記だな。こんなつまらん物を読むなど、やはり変わり者だな」
下敷きとなっている見覚えのある本に、レインは苦笑する。
それは先々代が残した備忘録のようなもので、侯爵家として携わった依頼内容とその解決方法が記載されているが、小説のように起承転結があるわけではないし、今となっては効率の悪い方法が記されているだけなので、レインから見ても面白みのあるものではない。
「フィーナ様が、旦那様のお役に立つために家のことを知りたいと仰ったのです」
「私がいくつか見繕ってお渡しいたしました」
「フィーナが?」
見れば、彼女の脇に寄せられた本には付箋がいくつも貼ってある。
そのどれもがこの家の歴史や手記、領地のことなどが記されているものだった。
「そうか…じいさんの手記以上につまらんものだろうに」
言いながらも、レインの顔には安堵にも似た笑顔が広がる。
出会った時から変わった娘だとは思ったが、どうやら変わっているだけではなく、面白い娘でもあるようだ。
「フィーナ様は、私どものことを怖いとは思われないそうです。むしろ、とても優しいのだと仰ってくれました」
エルと違い普段は澄ましていることの多いアルが、珍しく饒舌だ。
「私たちの違いや表情が分かる方も、旦那様以外では初めてです」
机上の食器や道具類を片付けつつ、付箋の貼られた本を片割れに渡しながらエルが申し添える。
この後フィーナの自室に運んでやるつもりなのだろう。
「ほう…そうか…それはまた稀有な」
(痛みを知る人間は、人の痛みも分かるのだと言うが…)
レインはまだあどけなさの残る少女の顔には似つかわしくない、痛々しく傷ついた手を眺めながら思う。
今年18になると聞いているが、年齢のことを考えても酷く痩せている。
献身的な双子のおかげか顔色は幾分マシになっているようだが、子爵家の娘だというのに肌にも髪にも艶がなく、初めて会った時には徹夜明けのオリバーか?と思うようなくまを目の下に拵えていた。
オリバーに見せてもらった釣書にはどこにも書かれていない苦労をしてきたのは明白だ。
(昔は違ったように思うが…)
昨日は大きな仕事を片付けたばかりでかなり疲れていたため忘れていたが、レインはフィーナに会ったことがある。
「だから色々画策して嫁にって申し込んだんでしょうが!」とオリバーには怒られたのだが、初恋だとか一目惚れだとかではないのだから、忘れていたのも無理はないだろう。
だが、今はこの奇妙な娘をもっと知りたいと思っている自分がいる。
(あの双子に早々に気に入られるとは、面白い…)
頬にかかる髪をそっと除けてやりながら、レインは思う。
貧相な見た目とは裏腹に、彼女はいつでも凛とした態度で自分の前に立つ。
吸血鬼、などと言われる得体の知れない男の前に。
自信がなさそうなところはあるが、いつだって言うべきと思うときにはその背を伸ばし、しっかりと発言する強さをレインは好ましいと思った。
「おい、そのぬいぐるみはどうした?」
エルが見覚えのあるクマのぬいぐるみを持っているのに気づき、咄嗟に声が低くなる。
「オリバー様に頼んで預かったものだそうです。確かに何か入ってますね。危なくはなさそうですが」
「それも、旦那様のお役に立ちたいのだと。喋らせたいのだと仰ってました」
「初日から張り切りすぎではないか?」
侯爵家の婚約者となったのだ。
もっとふんぞり返ったり、我儘して過ごしたりしても良いだろうに。
いや、実際にされたら追い出すかもしれないが。
「最近の令嬢というのは、こういうものなのか?」
そんなものを知る者などここにはいないので、問への返答はどこからもない。
だが答えはなくとも、フィーナだから、という答えは自分の中で既に出ている。
初日から奮闘する健気な婚約者を、あと10分だけ寝かせてやろうとレインはそっと彼女の髪を撫でた。
幽霊退治という特殊な仕事を除けば、あとはフィーナにも馴染みのあるような領地運営や屋敷の切り盛りで、その点では役に立てるのではないかと、帳簿の整理や領民からの意見書の対応などを買って出た。
するとオリバーは大喜びで、早速いくつか書類を用意すると言う。
そして、最後に図書室へと案内してもらい、読書好きのフィーナははしたなくも大喜びしてしまった。
フィーナ自身に何か趣味はないかと問われたので、もしあればと遠慮がちに聞いてみたのだが、この蔵書量だとは思わなかった。
「どの本を読んでも良いのでしょうか?」
「婚約者であるフィーナ様が、この屋敷でしてはいけないことなどありませんよ」
そんな風に言われて益々喜んでしまう自分は、なんて現金な女だろう。
だが、目に飛び込んでくる様々な本に次から次へと目移りしてしまうのをやめられない。
「どうぞ、お好きなものをお読みください。私は一旦失礼いたしますので、侍女を呼んで参りますね」
「ありがとうございます。あ、書類は後で私の部屋に置いておいてください。可能な限り早く対応しますので」
「こちらこそ、ありがとうございます!では、ごゆっくり」
流れるように一礼をしてオリバーが出ていった。
しばらくすると侍女のエルとアルが二人揃って現れ、手にはティーセットや焼き菓子を載せている。
「フィーナ様、お疲れではありませんか。少し休憩されては」
ひっつめ髪のエルがそう言ってカップにお茶を注ぐ。
「お座りになって、甘いものでもお召し上がりください」
フィーナに椅子を勧め、柔らかなひざ掛けをかけてくれた後、隣の椅子にぬいぐるみも丁寧に座らせるのはおさげのアル。
お姫様もかくやという扱いを受け、フィーナは申し訳ない気持ちで縮こまる。
「あの、でも、いくつか本を選ぼうと思って…」
「どのような本がお好みか伺ってもよろしいですか?私がお持ちいたします」
「そこまでしなくても…」と言うが、尋ねたエルも、その隣のすまし顔のアルも、フィーナをまずは休憩させないと気が済まないらしい。
ほぼ無表情で全く同じ見た目の二人なのだが、なぜかフィーナには二人の違いも、二人の言わんとすることも分かるようだ。
「では…この家の歴史書、のようなものはあるのかしら?家だけではなくて、領のことでも良いのだけど。レイン様やオリバー様が仰るような、不思議なことを私もちゃんと知りたくて」
そう言った途端、双子の動きがピタリと止まる。
「そんなに驚くことを言ったかしら?」
そう言うと、二人は益々驚いたようにフィーナを見た。
「フィーナ様は、私どもが驚いたと思うのですか?」
「え?ええ、だって驚いているでしょう?違ったかしら?」
確かに二人の顔は口の端が少し上がっているだけで、表情だけでいえば何も変わっていない。
だが、フィーナには二人が驚いているように見える、正しく言えば「感じる」というか…とにかく二人の機微が伝わってくるのだから思ったままを口にする。
「いえ…旦那様以外に伝わったことがなかったので…少々驚きました」
「そうなの?」
少し笑った(正確には表情は変わっていないが)エルが、一礼して部屋の奥へと向かった。
おそらくフィーナのお願いした本を持ってきてくれるつもりなのだろう。
残ったアルに寒くないかと聞かれ、フィーナは首を横に振る。
「むしろ二人は寒くない?もし寒いようなら、用意してもらっておいて悪いけど、いくつか本を借りて別の部屋に移っても…」
見渡したところ体を温めるものはなさそうなので尋ねると、アルは不思議そうな顔でフィーナを覗き込む。
どうしたのだろう、どんどん彼女たちの表情が分かっているような気がする。
「…フィーナ様は、私どもが人形であることを信じておられないのでしょうか?」
「え?うーん…いいえ、レイン様がそう仰るのなら、そうなのかしら、とは思っているわ」
「では、気持ち悪い、怖い、などとは思われないのですか?」
「そんなこと思わないわ。だって二人とも人にしか見えないし、それにとっても優しいもの。あ、もしかして、寒さの感じ方が違うのかしら?だったごめんなさい、私の感覚で物を聞いてしまって…不快だったかしら?」
意図したつもりはなかったが、聞き方が傲慢だったかもしれないと不安になる。
すると、アルはどこか安心したように笑った後、フィーナにお茶を勧めてくる。
「私どもは暑さや寒さ、疲れといったものを感じませんので、お気になさらないでください。それに、フィーナ様のお身体が一番大切です」
「大げさだわ…でも、ありがとう。嫌だと思うことがあったら言ってちょうだいね」
「フィーナ様がお望みであれば」
フィーナの空っぽだった心の器に、温かなミルクが注がれたような心地だった。
こんな労りの言葉をかけられたのはいつぶりだろうか。
そして、しばらくすると、エルが数冊の本を抱えて戻ってきたので、フィーナは二人の言葉に甘えてしばらく読書に没頭した。
こんなにも穏やかな時間を過ごすのもどれくらいぶりだろうか、とフィーナは時折目を細めた。
******
「で、こんなところで寝てしまったのか、私の婚約者殿は」
それから数時間後。
日はすっかり傾いて、外には夜の帳が下り始めた午後6時。
もうすぐ夕食の時間だというのに部屋にいない婚約者を探していたところ、もしかしてまだ図書室にいるのではとオリバーに教えられて来てみれば、当の本人は人の心配などよそに健やかな寝息を立てていた。
「「こんなにも気持ちよさそうに寝ているフィーナ様を起こすことなど出来ません」」
「なんだ、お前たち…フィーナに甘すぎないか」
普段あまり人に執着しない二人の熱の入りように、レインは怪訝な顔をする。
たしかに愛らしい寝顔だが、このまま夕食を逃しては、それはそれで可哀想だろう。
フィーナの眠る横、行儀悪くも机の上に腰を下ろすと、穏やかな顔を覗き込んだ。
「ん?これはじいさんの手記だな。こんなつまらん物を読むなど、やはり変わり者だな」
下敷きとなっている見覚えのある本に、レインは苦笑する。
それは先々代が残した備忘録のようなもので、侯爵家として携わった依頼内容とその解決方法が記載されているが、小説のように起承転結があるわけではないし、今となっては効率の悪い方法が記されているだけなので、レインから見ても面白みのあるものではない。
「フィーナ様が、旦那様のお役に立つために家のことを知りたいと仰ったのです」
「私がいくつか見繕ってお渡しいたしました」
「フィーナが?」
見れば、彼女の脇に寄せられた本には付箋がいくつも貼ってある。
そのどれもがこの家の歴史や手記、領地のことなどが記されているものだった。
「そうか…じいさんの手記以上につまらんものだろうに」
言いながらも、レインの顔には安堵にも似た笑顔が広がる。
出会った時から変わった娘だとは思ったが、どうやら変わっているだけではなく、面白い娘でもあるようだ。
「フィーナ様は、私どものことを怖いとは思われないそうです。むしろ、とても優しいのだと仰ってくれました」
エルと違い普段は澄ましていることの多いアルが、珍しく饒舌だ。
「私たちの違いや表情が分かる方も、旦那様以外では初めてです」
机上の食器や道具類を片付けつつ、付箋の貼られた本を片割れに渡しながらエルが申し添える。
この後フィーナの自室に運んでやるつもりなのだろう。
「ほう…そうか…それはまた稀有な」
(痛みを知る人間は、人の痛みも分かるのだと言うが…)
レインはまだあどけなさの残る少女の顔には似つかわしくない、痛々しく傷ついた手を眺めながら思う。
今年18になると聞いているが、年齢のことを考えても酷く痩せている。
献身的な双子のおかげか顔色は幾分マシになっているようだが、子爵家の娘だというのに肌にも髪にも艶がなく、初めて会った時には徹夜明けのオリバーか?と思うようなくまを目の下に拵えていた。
オリバーに見せてもらった釣書にはどこにも書かれていない苦労をしてきたのは明白だ。
(昔は違ったように思うが…)
昨日は大きな仕事を片付けたばかりでかなり疲れていたため忘れていたが、レインはフィーナに会ったことがある。
「だから色々画策して嫁にって申し込んだんでしょうが!」とオリバーには怒られたのだが、初恋だとか一目惚れだとかではないのだから、忘れていたのも無理はないだろう。
だが、今はこの奇妙な娘をもっと知りたいと思っている自分がいる。
(あの双子に早々に気に入られるとは、面白い…)
頬にかかる髪をそっと除けてやりながら、レインは思う。
貧相な見た目とは裏腹に、彼女はいつでも凛とした態度で自分の前に立つ。
吸血鬼、などと言われる得体の知れない男の前に。
自信がなさそうなところはあるが、いつだって言うべきと思うときにはその背を伸ばし、しっかりと発言する強さをレインは好ましいと思った。
「おい、そのぬいぐるみはどうした?」
エルが見覚えのあるクマのぬいぐるみを持っているのに気づき、咄嗟に声が低くなる。
「オリバー様に頼んで預かったものだそうです。確かに何か入ってますね。危なくはなさそうですが」
「それも、旦那様のお役に立ちたいのだと。喋らせたいのだと仰ってました」
「初日から張り切りすぎではないか?」
侯爵家の婚約者となったのだ。
もっとふんぞり返ったり、我儘して過ごしたりしても良いだろうに。
いや、実際にされたら追い出すかもしれないが。
「最近の令嬢というのは、こういうものなのか?」
そんなものを知る者などここにはいないので、問への返答はどこからもない。
だが答えはなくとも、フィーナだから、という答えは自分の中で既に出ている。
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