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第4話 期待
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「そう。僕は精霊の王、エンリケ。よろしくね、ラミス」
ラミスは口をパクパクと意味もなく動かすことしかできない。
どうしてそんな存在が自分を助けたのか、抱えて飛んでいたのか。
わけが分からなくて、手に持ったままだったクッキーの袋に指を入れる。老紳士の眉が一瞬動いたが、一つ頷くばかりで何も言われない。
「あ……」
しかし指先に触れたのは硬いクッキーではなくて、柔らかく湿った何かだった。よく考えなくても、池に飛び込んだのだから当然だ。
「貸してごらん」
「は、はい」
言われるがままに渡してから、慌てる。陛下と呼ばれるような相手に何を渡しているのかと。しかも、国を挙げて信仰しているような、神に等しい存在の王だ。そもそも自分はどうして彼の御前でクッキーを食べようとしていたのか。
いくらラミスでも、そこまでの不敬、普段ならするはずがない。
「し、た、大変失礼いたしましたっ!」
「ふふ、大丈夫だよ。これでよし。一つ食べて確かめるといい」
「……はい」
実質これは命令なのだから、とラミスは返してもらった袋から一欠片を取り出す。触った感触は水に濡れたものではなくて、硬い。
何をしたのかは分からないが、相手は精霊の王だ。考えても仕方ない。
エンリケや老紳士をちらちら見ながら、口に入れる。
(美味しい……)
たしかに、彼女に覚えのある味だ。
「僕も一つもらっていいかい?」
「はい……じゃなくて、えっと、砕けちゃってますし!」
「知ってる。君のことは、ずっと見ていたからね」
ますます意味が分からなかった。意味が分からないままに、袋を差し出してしまう。
エンリケはニコリと笑みを浮かべると、クッキーの欠片を一つ取り出して、じっとブルーベリーの視線を向ける。
「あの、やっぱり、割れたクッキーだなんて……」
「ふふ」
クッキーを口へ運んだエンリケは目を瞑り、口の端を緩める。ラミスには、彼がたかだかクッキーをめったに味わえない珍味かのようにじっくり味わっているように見えた。
「うん、美味しいね、凄く」
胸が高く鳴った。口角が高くなるのを感じる。
思い出したのは彼女がまだ幼い頃、彼女の初めて作ったお菓子を食べた使用人や両親の言葉。
あの時はバウマフィン伯爵も、美味しいと綻んだ顔を見せてくれた。
(ああ、そうでしたわ。こうして喜んでもらえるのが嬉しくて、お菓子作りにはまったんでしたわ……)
すっかり忘れていた。いつしか、お菓子を作ることだけが目的になっていた。
久しぶりに満たされた気がした。
「昔、君は自分の作ったクッキーを捧げてくれたね。初めて食べたそれが忘れられなくて、君に興味を持ったんだ」
ラミスにとっては、そんなこともあったという程度の話だった。
「あれって、ちゃんと届いていたんですのね……」
「全部ではないけどね」
頬の緩むのを自覚した。長らく感じていなかった感情だ。
もっと作ったら、また食べてもらえるのだろうか。喜んでもらえるのだろうか。
そんな夢想をした。
「……その、私を連れてきたのは、またお菓子を作ってほしかったからですか?」
ラミスは口をパクパクと意味もなく動かすことしかできない。
どうしてそんな存在が自分を助けたのか、抱えて飛んでいたのか。
わけが分からなくて、手に持ったままだったクッキーの袋に指を入れる。老紳士の眉が一瞬動いたが、一つ頷くばかりで何も言われない。
「あ……」
しかし指先に触れたのは硬いクッキーではなくて、柔らかく湿った何かだった。よく考えなくても、池に飛び込んだのだから当然だ。
「貸してごらん」
「は、はい」
言われるがままに渡してから、慌てる。陛下と呼ばれるような相手に何を渡しているのかと。しかも、国を挙げて信仰しているような、神に等しい存在の王だ。そもそも自分はどうして彼の御前でクッキーを食べようとしていたのか。
いくらラミスでも、そこまでの不敬、普段ならするはずがない。
「し、た、大変失礼いたしましたっ!」
「ふふ、大丈夫だよ。これでよし。一つ食べて確かめるといい」
「……はい」
実質これは命令なのだから、とラミスは返してもらった袋から一欠片を取り出す。触った感触は水に濡れたものではなくて、硬い。
何をしたのかは分からないが、相手は精霊の王だ。考えても仕方ない。
エンリケや老紳士をちらちら見ながら、口に入れる。
(美味しい……)
たしかに、彼女に覚えのある味だ。
「僕も一つもらっていいかい?」
「はい……じゃなくて、えっと、砕けちゃってますし!」
「知ってる。君のことは、ずっと見ていたからね」
ますます意味が分からなかった。意味が分からないままに、袋を差し出してしまう。
エンリケはニコリと笑みを浮かべると、クッキーの欠片を一つ取り出して、じっとブルーベリーの視線を向ける。
「あの、やっぱり、割れたクッキーだなんて……」
「ふふ」
クッキーを口へ運んだエンリケは目を瞑り、口の端を緩める。ラミスには、彼がたかだかクッキーをめったに味わえない珍味かのようにじっくり味わっているように見えた。
「うん、美味しいね、凄く」
胸が高く鳴った。口角が高くなるのを感じる。
思い出したのは彼女がまだ幼い頃、彼女の初めて作ったお菓子を食べた使用人や両親の言葉。
あの時はバウマフィン伯爵も、美味しいと綻んだ顔を見せてくれた。
(ああ、そうでしたわ。こうして喜んでもらえるのが嬉しくて、お菓子作りにはまったんでしたわ……)
すっかり忘れていた。いつしか、お菓子を作ることだけが目的になっていた。
久しぶりに満たされた気がした。
「昔、君は自分の作ったクッキーを捧げてくれたね。初めて食べたそれが忘れられなくて、君に興味を持ったんだ」
ラミスにとっては、そんなこともあったという程度の話だった。
「あれって、ちゃんと届いていたんですのね……」
「全部ではないけどね」
頬の緩むのを自覚した。長らく感じていなかった感情だ。
もっと作ったら、また食べてもらえるのだろうか。喜んでもらえるのだろうか。
そんな夢想をした。
「……その、私を連れてきたのは、またお菓子を作ってほしかったからですか?」
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