【完結・アルファ版】絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~

嘉神かろ

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第3話 親子の夢!


「ふっ!」

 ん?
 斬った、よな?

 手応えが――

「うわっ!? なんじゃこりゃ!?」

 なんだ? て、うわつ、本当になんだこれ!?

「アルゴス、これ、お前がやったんだよな? 石の床がすっぱり切れてるぞ」
「です、ね……」

 これは、何が原因だ?
 剣か? 俺か?

 ていうかやばい、人が集まってきた。めちゃくちゃ目立ってる。
 最悪だ。

「なんの騒ぎだ?」
「マスターエルダス。いや、アルゴスのやつが……」
「あん?」

 エルダスが無言でじっと俺のしでかした跡を見てる。
 凄く気まずい。

 これは、あれだ。やらかした所にちょうど上司が来て、皆の前で怒られる数秒前の空気だ。
 いや、まんまその状況だろこれ。例えじゃなくて。

「それは、どこに卸すやつだ?」
「え、衛兵隊です」
「なら全然ダメだ。出来が良すぎる。作り直せ」
「は、はい!」

 よ、良かった。怒鳴られはしなかった。
 一回クエストで人が怒鳴られてるの見たことあるけど、めちゃくちゃ怖そうだったんだよな……。

 とりあえず、この剣はそのままでいいらしい。ちょうどいい依頼がきたら数に入れるんだとか。

 幸いここの人らはネガティブな視線を向けてくることはなく、むしろ腕を上げたなって褒めてくれた。
 むず痒いし、アルゴスの評価が上がったって思うとついニヤけそうになる。

 よし、気を取り直して、新しいのを作ろう。
 今度は他の工程も含めて、うんと手を抜くぞ。


 どうにかその日の就業時間内に基準内のロングソードを五本作り終えた。
 なかなか加減が難しくて、けっきょく他の完成品に合わせたんだが、最初からこうすれば良かったな。

「ふぅ」
「よう、お疲れ、アルゴス。この仕事が終わったらみんなでお前の無事を祝う飲み会をしようぜって話になったんだ。予定空けといてくれよな」

 うっ、主役となると目立つやつだ。
 飲み会はまあ、いいとしても、主役は正直勘弁願いたい。

 しかし断わる方が悪目立ちしそうだし、反感も買いかねない。
 仕方ない、社交辞令で返すか。

「いいんですか!? 嬉しいです! もちろん空けときますよ!」

 あー、社畜時代もよくこうして上司の誘いを受けてたな。そのせいで余計に休めなかった。
 なんなら翌日の半休がまるまる潰れたこともあったな。

「おいっ、アルゴス。ちょっと来い!」
「おっと、マスターがお呼びだ。そんじゃあまた明日な」

 声をかけてくれた先輩に頭を下げ、エルダスに付いていく。
 向かってるのは、エルダスの家だな。工房の裏手にある庭から直接繋がっているはずだ。

 エルダスは何も言わないまま玄関をくぐり、リビングの椅子を勧めてくる。この世界のドワーフは人間より少し背が低いだけだから、建物の中でも特に動きづらいということはない。
 実際にはそれだけが理由じゃないんだけどな。

「飲め」
「あ、ありがとう」

 そう、たしかアルゴスは、仕事中以外はエルダスに敬語を使っていなかった。

 これは、コーヒーか。……コーヒー?

「どうした、飲まないのか?」
「……気付いて、いたんですね。俺がアルゴスじゃないってこと」
「まあな」

 やっぱり。
 アルゴスは、コーヒーが苦手だ。それはエルダスもよく知っているから、このタイミングで出されるはずがない。

「いつからですか」
「確信を持ったのはお前がやたら出来のいいロングソードを作った後だ。作るところを少し見ていた」

 そういえば、一瞬ちらっと覗かれた。嘘だろ、あれだけで分かったのか。

「さすが、ですね」
「当たり前だ。俺がいつからアルゴスのことを見てたと思ってる」

 それもそうか。
 だってこの人は、アルゴスの育ての親なんだから。

 道ばたに捨てられてたアルゴスを拾って、ここまで育てた。名前が似てるのはそれが理由だ。
 伝説の鉱石で神話級の剣を作りたいって夢だって、エルダスが密かに抱き続けているものを、養父への憧れから追いかけ始めたのがきっかけだった。

「なあ、お前は、誰だ。どうしてアルゴスそっくりの姿で、アルゴスと同じ声で、アルゴスのように振る舞う?」

 どうするべきか。どこまで話すべきか。
 悩みながらエルダスの目を見ると、少し、潤んでいるように見えた。

 ……全部、正直に言おう。転生だけはぼかすけど、それ以外は、全部、アルゴスの夢を代わりに叶えたいことまで。
 信じてもらえないかもしれないけど、ここでエルダスに嘘を吐くよりずっといい。

 意を決した俺の話を、エルダスは静かに聞いてくれた。

「――というわけなんです」
「……アルゴスは、もう死んだと思った方がいいんだな?」
「少なくとも、俺が知ってる限りだと」
「そうか……」

 彼はやはり、何も言わない。
 瞑目して、少しばかり俯いている。

 いや、よく見れば、目の端が光っている。
 当然か。実の我が子のように可愛がっていたんだから。

「……お前が、アルゴスのことを真剣に好いていたのも伝わった。じゃなきゃ詳しすぎるからな。その気持ちも、ありがたい」

 エルダスはゆっくりと目を開いて、俺を真っ直ぐ見つめる。
 それから深々と頭を下げた。

「息子のために、感謝する」
「……いえ、俺がしたくてしてることですから」
「……そうか」

 彼は少し唸ると、何かを決めたように一つ頷いた。

「アルゴスの、お前の夢はここにいたら叶わない。立地もそうだが、うちの工房の商売は知っただろ?」
「はい、それは正直、思っていました」

 注文を受けて、その通りに作る大量生産。質を求めるものじゃない。高ランクの鉱石も入りづらいし、これでは神話級の剣なんて作れるはずがない。

「もしお前が本気で夢を叶えるなら、少し遠いが、迷宮都市に行くのがいいだろう。ちょうどそっち方面に行くっつってる将来有望な傭兵どもがいる。紹介してやれるが、どうする?」

 ここを、アルゴスの故郷を離れて迷宮都市へ……。
 将来有望、新進気鋭な傭兵となると、未来の顧客もつけてくれるということだろう。
 繋がりを作れるかは分からないが、ありがたい好意だ。その傭兵たちに売るだけでも生活はできる。

 エルダスにここまでされて、断わる選択肢なんて、あるはずがない。

「ありがとうございます。そのご厚意に甘えさせてください」
「ああ、任せとけ。……叶えてくれよ、息子の夢をよ」
「ええ、必ず、何が何でも」
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