6 / 30
第6話 モブサブのミラディス到着!
⑥
しかし工房か。諸々を考えたら個人工房がベストなんだが、そもそも何の信用もない平民がいきなり買えるもんなのか?
最悪、土地そのものか庭付きの物件を買って自作すればいいと思ってたが、よく考えたら法律的に問題がある可能性もある。
エルダスはどういう想定でこの街を勧めたのか。確認しておくべきだったな。
「アルゴスさんも宿でしたよね」
「ん、ああ。住むところが見つかるまではな」
「それじゃあこっちの方ですね。行きましょうか」
一つ頷くと、街の奥、湖のある方へ馬車が動き出す。ガタゴトと車輪が鳴らすのは大通りに敷き詰められた石のブロックだ。前を見ればゲームの頃の記憶通りに木造の家々が建ち並んでいて、ハースグロウの時とはまた違った妙な心地を覚える。
建物の土台だけ石なのは、耐久性が理由だったか。あの割と急な三角屋根に使われている瓦も、たしか同じ理由でモンスターの甲羅を使ったものだったはずだ。市壁の上から見ると綺麗な赤がずらっと並んでいて、スクショを撮りたくなったのを覚えている。
「相変わらず凄い人です。自分の足で歩くとなると大変ですね」
「だな。必要な時以外は使いたくない道だ」
セフィアも来たことがあるらしいな。まあ商人として成功した貴族なら当然か。ここにはあらゆる物が集まるって話だからな。
何せ、複数の迷宮がある土地だ。街の中央にある大迷宮の他にもいくつか小さな迷宮があるから、一攫千金を狙う商人や傭兵、さらには彼らを相手にする職人と多様な人が集まる。
人が集まればそれだけ物が必要になるし、迷宮からも色んな資源が手に入る。なんなら大迷宮のある湖も特殊な鉱石が採れたはずだ。最初のストーリーの中盤から終盤にかけてお世話になる素材だったから、嫌になるくらい拠点と湖を往復した覚えがある。
エルダスたちのことを考えたら、当時のNPCもどこかにいるんだろう。彼らにゲームの頃の記憶があるなら、工房探しも手伝ってもらえたかもしれないな。
あ、いや、そうか。セフィアに聞けばいいのか。元貴族って違いはあるが、最悪、調べるとっかかりになる情報でもあれば十分だしな。
「一つ聞いていいか?」
「なんですか?」
「この街で家を探すのに必要な手続きはあるか?」
もう少しあれこれ具体的に聞いた方がいいんだろうが、本当に何も知らないからな。常識の類いもさっぱりだし、質問攻めになるのは避けたい。
「そうですね。せいぜい住民登録くらいでしょうか。この街なら傭兵ギルドか教会に届け出れば大丈夫です」
教会っていうと、聖命会か。ゲームの頃の通りならだが、ユグクロのシンボルだった聖命の樹ユグロトを信仰してる宗教だ。
そういえばこの街は傭兵ギルドと聖命会で治めてるって設定だったか。
「もしかしてですけど、伝手は何も無いんですか?」
「ああ。急な話だったのはあるが……」
「つまり、あのマスターエルダスにそれだけ腕を信頼されてるってことですね。凄いです!」
そうなる、のか?
エルダスの場合、世俗に若干疎いだけの可能性があるのがな。基本的には鍛治一筋の人間、いやドワーフだし。
「それじゃあ、その、明日にでも私がお店探しでお世話になった方を紹介しましょうか?」
「いいのか?」
助かるが、自分の店の用意なんかもあるだろうに。
「はい! どうせ使用人、じゃなくて従業員との合流は明後日ですし」
「なら、甘えさせてもらおう」
「任せてください!」
妙に張り切ってるのは、ワイバーンの時の恩返しだとでも思ってるんだろうか?
だったらどうして、もじもじしてたのかは気になるが……。
まあ、まだ大学生くらいの歳に見えるしな。勝手なイメージ、貴族令嬢なら誘う側に回ることも少なさそうだと思えば、誘い慣れてないだけな可能性が高そうだ。
アルゴスの見た目だと歳の近い異性ってことになるから、尚更に。
「何にせよ、今日はゆっくり休みたいところだな」
「長旅でしたからね。正直、へとへとです」
幌馬車での旅となると異性を誘うよりよほど慣れてないだろうしな。
俺も体力的には問題ないが、精神的には少し疲れた。体ばかり若返っても、心がついてこない。
昔よく読んでたラノベだと心が体に引っ張られるなんて話もあったから、そのうち馴染むのだろうか?
だとしたら若気の至りのような失敗には気をつけよう。この世界はたぶん、地球よりずっと命が軽い。
それから宿までは、どんな家が良いだとか、何を作るのが得意だとか、主にはセフィアの質問に答えるような雑談をして暇を潰した。もちろん一方的に話すようなことはしていない。
人混みを抜けるのに時間がかかると思っていたが、彼女のおかげで冗長には思わなかった。
俺自身、自分で思っているよりも楽しんでいたらしい。
「それでは、また明日の朝にフロント前で」
「ああ。また明日な」
宿の階段を上がり、それぞれの部屋に向かう。渡された鍵と同じ番号の扉を開けば、ベッドと小さなテーブルに、同じく小さな椅子があるだけの簡素な部屋があった。一応絨毯も敷かれている。
「また明日、か」
言葉そのままの意味で、お疲れ様です以外の挨拶を交わしたのはいつ以来だったか。
もう思い出すのも難しいが、はっきり自覚できるくらいに穏やかな表情をしているのは、この部屋の掃除が行き届いていたからだけではないだろう。
しかし工房か。諸々を考えたら個人工房がベストなんだが、そもそも何の信用もない平民がいきなり買えるもんなのか?
最悪、土地そのものか庭付きの物件を買って自作すればいいと思ってたが、よく考えたら法律的に問題がある可能性もある。
エルダスはどういう想定でこの街を勧めたのか。確認しておくべきだったな。
「アルゴスさんも宿でしたよね」
「ん、ああ。住むところが見つかるまではな」
「それじゃあこっちの方ですね。行きましょうか」
一つ頷くと、街の奥、湖のある方へ馬車が動き出す。ガタゴトと車輪が鳴らすのは大通りに敷き詰められた石のブロックだ。前を見ればゲームの頃の記憶通りに木造の家々が建ち並んでいて、ハースグロウの時とはまた違った妙な心地を覚える。
建物の土台だけ石なのは、耐久性が理由だったか。あの割と急な三角屋根に使われている瓦も、たしか同じ理由でモンスターの甲羅を使ったものだったはずだ。市壁の上から見ると綺麗な赤がずらっと並んでいて、スクショを撮りたくなったのを覚えている。
「相変わらず凄い人です。自分の足で歩くとなると大変ですね」
「だな。必要な時以外は使いたくない道だ」
セフィアも来たことがあるらしいな。まあ商人として成功した貴族なら当然か。ここにはあらゆる物が集まるって話だからな。
何せ、複数の迷宮がある土地だ。街の中央にある大迷宮の他にもいくつか小さな迷宮があるから、一攫千金を狙う商人や傭兵、さらには彼らを相手にする職人と多様な人が集まる。
人が集まればそれだけ物が必要になるし、迷宮からも色んな資源が手に入る。なんなら大迷宮のある湖も特殊な鉱石が採れたはずだ。最初のストーリーの中盤から終盤にかけてお世話になる素材だったから、嫌になるくらい拠点と湖を往復した覚えがある。
エルダスたちのことを考えたら、当時のNPCもどこかにいるんだろう。彼らにゲームの頃の記憶があるなら、工房探しも手伝ってもらえたかもしれないな。
あ、いや、そうか。セフィアに聞けばいいのか。元貴族って違いはあるが、最悪、調べるとっかかりになる情報でもあれば十分だしな。
「一つ聞いていいか?」
「なんですか?」
「この街で家を探すのに必要な手続きはあるか?」
もう少しあれこれ具体的に聞いた方がいいんだろうが、本当に何も知らないからな。常識の類いもさっぱりだし、質問攻めになるのは避けたい。
「そうですね。せいぜい住民登録くらいでしょうか。この街なら傭兵ギルドか教会に届け出れば大丈夫です」
教会っていうと、聖命会か。ゲームの頃の通りならだが、ユグクロのシンボルだった聖命の樹ユグロトを信仰してる宗教だ。
そういえばこの街は傭兵ギルドと聖命会で治めてるって設定だったか。
「もしかしてですけど、伝手は何も無いんですか?」
「ああ。急な話だったのはあるが……」
「つまり、あのマスターエルダスにそれだけ腕を信頼されてるってことですね。凄いです!」
そうなる、のか?
エルダスの場合、世俗に若干疎いだけの可能性があるのがな。基本的には鍛治一筋の人間、いやドワーフだし。
「それじゃあ、その、明日にでも私がお店探しでお世話になった方を紹介しましょうか?」
「いいのか?」
助かるが、自分の店の用意なんかもあるだろうに。
「はい! どうせ使用人、じゃなくて従業員との合流は明後日ですし」
「なら、甘えさせてもらおう」
「任せてください!」
妙に張り切ってるのは、ワイバーンの時の恩返しだとでも思ってるんだろうか?
だったらどうして、もじもじしてたのかは気になるが……。
まあ、まだ大学生くらいの歳に見えるしな。勝手なイメージ、貴族令嬢なら誘う側に回ることも少なさそうだと思えば、誘い慣れてないだけな可能性が高そうだ。
アルゴスの見た目だと歳の近い異性ってことになるから、尚更に。
「何にせよ、今日はゆっくり休みたいところだな」
「長旅でしたからね。正直、へとへとです」
幌馬車での旅となると異性を誘うよりよほど慣れてないだろうしな。
俺も体力的には問題ないが、精神的には少し疲れた。体ばかり若返っても、心がついてこない。
昔よく読んでたラノベだと心が体に引っ張られるなんて話もあったから、そのうち馴染むのだろうか?
だとしたら若気の至りのような失敗には気をつけよう。この世界はたぶん、地球よりずっと命が軽い。
それから宿までは、どんな家が良いだとか、何を作るのが得意だとか、主にはセフィアの質問に答えるような雑談をして暇を潰した。もちろん一方的に話すようなことはしていない。
人混みを抜けるのに時間がかかると思っていたが、彼女のおかげで冗長には思わなかった。
俺自身、自分で思っているよりも楽しんでいたらしい。
「それでは、また明日の朝にフロント前で」
「ああ。また明日な」
宿の階段を上がり、それぞれの部屋に向かう。渡された鍵と同じ番号の扉を開けば、ベッドと小さなテーブルに、同じく小さな椅子があるだけの簡素な部屋があった。一応絨毯も敷かれている。
「また明日、か」
言葉そのままの意味で、お疲れ様です以外の挨拶を交わしたのはいつ以来だったか。
もう思い出すのも難しいが、はっきり自覚できるくらいに穏やかな表情をしているのは、この部屋の掃除が行き届いていたからだけではないだろう。
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜
自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。