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第8話 モブサブの家探し!
⑧
セフィアに案内されたのは、教会からさほど離れていない所にあるこぢんまりとした建物だった。
都会のコンビニくらいだろうか。小さい以外にこれといった特徴はなく、店名らしき看板が出ているだけだ。たぶん不動産のみを扱う店舗なんだろうな。日本の不動産もこんな感じだったし。
「こんにちは」
「はいはい。あー、お待ちしてましたよ、セフィアさん。そちらが件の?」
「アルゴスです。よろしくお願いします」
カウンター越しに出迎えてくれたのは三十は超えていそうな男だ。奥にもう数人居るが、それぞれの作業を続けたまま。目が合った人は笑みを浮かべてお辞儀をしてくれたが、こちらに寄ってくることはない。隅の方にいる用心棒らしき傭兵も、特には反応を示さなかった。
やはり、元貴族という肩書きは盾になるようなものではなさそうだな。
「一応、昨日うかがった条件に合致する物件は探してあります。確認ですが、静かで商店からもさほど離れておらず、鍛冶の行える工房がある、或いは工房の作れるだけの土地がある建物、で良ろしかったでしょうか?」
「はい。間違いありません」
昨日宿に向かう道すがら、セフィアに答えたのと同じ内容だ。
「ありがとうございます。他に何か付け加えたい条件はありますか?」
他に、か。考えていた条件は今ので全てだが、一応もう少し考えてみるか。
風呂トイレ別だとか、洗濯機置き場が中にあるだとか、そういった条件はこの世界じゃ考えなくて良いだろう。少なくともこの地域だと、下水ではなく魔道具を利用した処理を行うようだから、改装するのに大規模な工事が必要ということはない。
大工の職も育ててたし、それくらいなら問題なく自分でできる。
とすると、日当たりだとか、もっと立地的な条件だよな。
うーむ、ぱっと思いつくのはどれも、最悪は魔道具でどうにかできるな。優先度はかなり低い条件だから、それで優先したい条件の物件が弾かれる方が怖い。
「……あ、そうだ。できればですけど、彼女の店とあまり離れすぎない場所の方がいいですね。馬車で少し行けばという距離ならいいですけど、湖の反対側みたいな場所だと大変なので」
まだ商品を卸すことになるかは分からないが、長旅を共にした仲だ。気まずい関係でもないし、せっかく同じ街に住んでいるのにまったく顔を合わせないようなところに済むのも寂しい。
「そうですね! 私もその方が嬉しいです! ……あっ、えっと、お店的に助かるので!」
セフィアも悪いようには思っていないみたいだな。若干の不安はあったから、こうして口に出してもらえたのは助かる。
おじさんと呼ばれても言い返せない歳になると、やはりその辺りは気になってしまう。いや、そうか、今はまだ二十四歳か。
「なるほどなるほど。そういうことでしたら、この三つは除外した方が良さそうですね。では残りの物件を見ていきましょう。今日は、ここまではどうやって?」
「徒歩です」
「それなら大丈夫ですね。表に馬車を用意させてますから、そちらで行きましょう」
そこまでしてくれるんだな。この対応が一般的なのかどうなのか。
まあ、暇があれば聞いてみよう。
商人の男は五つくらいの物件を見繕ってくれていた。思ったより多くて驚いたが、これだけ大きくて職人も集まりやすい街だ。こんなものなのかもしれない。
その中で今日回るのは、オススメの三つだけ。馬車を使うとはいえ、やはり移動に時間がかかる。
「まずはこちらですね。元は数人の職人が共同で管理していた小規模工房です。彼らは今は中街の方にもっと大きな工房を構えてますから、設備で何かあればすぐに確認できます」
中街というのは、この街を囲う二重の市壁の一番内側にあるエリアを指すらしい。つまりは湖や大迷宮の周囲で、余裕のある住人や一定以上のランクの傭兵が多いってことだ。
前の持ち主たちはそれなりに成功してるってことだから、それにあやかりたいならいいのかもな。
ああ、あとはまともな鍛冶設備な可能性が高いか。
建物の外観は、工房用の建物だからか、一階部分は全部レンガで作ってあるようだった。赤くなってるのは、何かしら混ぜてあるからだろう。
さすがに若干古くなってるが、気にするほどではない。大きな入り口からは素材やら何やらの出し入れもしやすそうだ。セフィアの幌馬車くらいなら問題なく入れられるだろうし。
「住居は二階部分ですね。工房の奥に入り口があります」
そっちは木造だな。屋根は例に漏れず急な三角屋根。
窓が多いから、いくつも個室があるのかもしれない。
「それでは中をご案内します」
模擬戦ができそうなくらい広い庭を通り、工房内に入る。中は思ったより新しいから、途中で設備の新調をしたのかもしれない。
広さは、数人で作業するには困らないくらい。マスターエルダスの工房に比べたらだいぶ狭いが、空気は似ている。
ただ、一人で使うには広すぎるな。
右奥にあった扉を開けるのに商人は体重をかけていたから、なかなか重いんだろう。
その先には小さな部屋が一つあって、木製の扉が行く手を塞いでいた。二重になっているのは、騒音対策か。
「勝手口はないんですか?」
入り口がここしかないなら、客人が来たときに大変だ。彼であの様子だと、セフィアは開けられないかもしれない。
「えー、たしかあったはずです。あとで確認しましょうか」
「助かります」
あるならまあいいか。
木戸の先にあった階段を上り、居住エリアに入る。思った通りいくつもの部屋に分かれているようで、廊下にはマンションのような感覚で扉が並んでいるのが見えた。
中はどれも同じ造りみたいだが、いかんせん一つ一つが狭い。もしここにするなら、壁をぶち抜いてもいいかもしれないな。
「ここは元々共用スペースとして使われていたようです。食事をしたりくつろいだりするのにはちょうどいい広さではないでしょうか」
「まあ、たしかに」
「人間なら男性でも六人くらいはゆったりできそうですね」
家具を置いたらもう少し狭くはなるが、それでも十分広い。広すぎる気もするが、大は小を兼ねるというしな。
「そちらがキッチンです。勝手口もキッチンにあるので、確認しましょう」
これはまた、ずいぶん立派なキッチンだ。コンロが四口もある。
動力源の魔石がセットしてないから使えないが、スイッチに書いてある表示を見るに、なかなかの火力が出そうだな。
まともな料理なんてもう何年もしてなかったから、使いこなせるかは怪しいが。
勝手口は、これか。開けると、階段があると。そこまで急ではないし、広さもある。手すりは、職人たちが自分で付けたのか? そんな感じの跡があるな。
「お風呂とトイレはそちらです。……だいたいこんなところですかね。日当たりも良いですし、五分ほど歩けば市場があります。セフィアさんのお店からは、馬車なら十分くらいですね。いかがでしょうか」
悪くない。気になるところはいくつかあるが、買い取りなら以前の持ち主のように自分で手を加えたらいい。
幸い生産系のことなら色々とできるサブキャラだ。そこらの職人に頼るより良い物が作れるとは思う。
「ちなみに、値段は?」
「即金なら、五千二百万ユグですね。分割だともう少し高くなりますが」
……やはりか。商用施設でもあるし、そんな気はしていたが、高い。パン一つが百ユグの街でこの値段はなかなかだ。
エルダスにもらったアルゴスの給料だと当然足りない。サブキャラに持たせていたお金もあるから、買えはするんだが、そうするとその後の生活費がかなり不安だ。
まだ月にどれくらいかかるかは分からないから、よけいに。
「一応キープしてください。他も見てみたいです」
「分かりました。では、次にいきましょう。次はセフィアさんのお店から一番遠いところですね」
それから残りの二件と、追加でもう一件回ったが、イマイチ決め手に欠ける場所ばかりだった。
はじめの家は高すぎるし、次の家は安いが、色々と遠い。三件目は悪くないんだが、買い物をするのに大通りを経由する必要があった。
極めつけとしては、これらは街にやってきてすぐの若い男が一人でいきなり買うとなると、かなり目立ちそうな物件ばかりってことだ。
見学中もチラチラ好奇心に満ちた視線を感じたし、中には嫉妬にも似た雰囲気を感じるものがあった。
正直、それだけで条件を妥協した家を選びたくなる。
トータルで一番良かったのは、四つ目、今いるところ。
工房がないって理由でオススメには入らなかったらしいが、商店街が近くて、静かで、男一人で住んでもギリギリ気にされなさそうだ。セフィアの店が少し遠いのだけが難点か。
「うーん……」
「お気に召しませんでしたか?」
「ああ、いや、どこも悪くなかったんですが、もう一歩足りないというか……」
せっかく選んでくれた商人には申し訳ないが、決めきれない。
いや、なにも今すぐ決めなくてもいいのか。
もう少し街に馴染んだら最初の三件でも良さそうだし、しばらく金策に走るのもありな気がしてきたな……。
「ちなみにですが、予約だけしておいて後日買うということは可能ですか?」
「あー、そうですね。頭金だけはいただくことになりますが、一応可能です」
ふむ。
「それなら、最初の――」
「おっと、失礼」
商人が落としてしまった書類を拾って、返すときに見えた面へ何気なく目を向ける。ずいぶん安い。これまで見てきた所とは零の数が一つ違う。
いや、それ以上に、簡素な地図に示された場所に覚えがあった。
「すみません。やっぱり、ここを見てから決めてもいいですか?」
「え? あー、そこですか」
なんだ?
嫌そう、とは違うな。困っている?
売りたくて、かつ条件に合う物件には違いないだろうし、だから今も資料を携帯しているんだとは思うが。
「正直、そこを買ってくださるなら助かるんですが、でも、その……、勧めませんよ?」
どういうことだ?
しっかりは見られなかったが、そんなおかしな所はなかったように思う。
……いや、まさかな。
「とりあえず、見るだけ見てもいいですか?」
「まあいいですけど、本当に勧めませんからね?」
「ありがとうございます。セフィアも、悪いな。あと一カ所付き合ってくれ」
「大丈夫ですよ。今日は暇ですからね」
本当にありがたい。
しかし、どんな事情があるのやら。事故物件は勘弁願いたい。この世界の事故物件だと、本物のアンデッドや呪いが出てきそうだからな。
セフィアに案内されたのは、教会からさほど離れていない所にあるこぢんまりとした建物だった。
都会のコンビニくらいだろうか。小さい以外にこれといった特徴はなく、店名らしき看板が出ているだけだ。たぶん不動産のみを扱う店舗なんだろうな。日本の不動産もこんな感じだったし。
「こんにちは」
「はいはい。あー、お待ちしてましたよ、セフィアさん。そちらが件の?」
「アルゴスです。よろしくお願いします」
カウンター越しに出迎えてくれたのは三十は超えていそうな男だ。奥にもう数人居るが、それぞれの作業を続けたまま。目が合った人は笑みを浮かべてお辞儀をしてくれたが、こちらに寄ってくることはない。隅の方にいる用心棒らしき傭兵も、特には反応を示さなかった。
やはり、元貴族という肩書きは盾になるようなものではなさそうだな。
「一応、昨日うかがった条件に合致する物件は探してあります。確認ですが、静かで商店からもさほど離れておらず、鍛冶の行える工房がある、或いは工房の作れるだけの土地がある建物、で良ろしかったでしょうか?」
「はい。間違いありません」
昨日宿に向かう道すがら、セフィアに答えたのと同じ内容だ。
「ありがとうございます。他に何か付け加えたい条件はありますか?」
他に、か。考えていた条件は今ので全てだが、一応もう少し考えてみるか。
風呂トイレ別だとか、洗濯機置き場が中にあるだとか、そういった条件はこの世界じゃ考えなくて良いだろう。少なくともこの地域だと、下水ではなく魔道具を利用した処理を行うようだから、改装するのに大規模な工事が必要ということはない。
大工の職も育ててたし、それくらいなら問題なく自分でできる。
とすると、日当たりだとか、もっと立地的な条件だよな。
うーむ、ぱっと思いつくのはどれも、最悪は魔道具でどうにかできるな。優先度はかなり低い条件だから、それで優先したい条件の物件が弾かれる方が怖い。
「……あ、そうだ。できればですけど、彼女の店とあまり離れすぎない場所の方がいいですね。馬車で少し行けばという距離ならいいですけど、湖の反対側みたいな場所だと大変なので」
まだ商品を卸すことになるかは分からないが、長旅を共にした仲だ。気まずい関係でもないし、せっかく同じ街に住んでいるのにまったく顔を合わせないようなところに済むのも寂しい。
「そうですね! 私もその方が嬉しいです! ……あっ、えっと、お店的に助かるので!」
セフィアも悪いようには思っていないみたいだな。若干の不安はあったから、こうして口に出してもらえたのは助かる。
おじさんと呼ばれても言い返せない歳になると、やはりその辺りは気になってしまう。いや、そうか、今はまだ二十四歳か。
「なるほどなるほど。そういうことでしたら、この三つは除外した方が良さそうですね。では残りの物件を見ていきましょう。今日は、ここまではどうやって?」
「徒歩です」
「それなら大丈夫ですね。表に馬車を用意させてますから、そちらで行きましょう」
そこまでしてくれるんだな。この対応が一般的なのかどうなのか。
まあ、暇があれば聞いてみよう。
商人の男は五つくらいの物件を見繕ってくれていた。思ったより多くて驚いたが、これだけ大きくて職人も集まりやすい街だ。こんなものなのかもしれない。
その中で今日回るのは、オススメの三つだけ。馬車を使うとはいえ、やはり移動に時間がかかる。
「まずはこちらですね。元は数人の職人が共同で管理していた小規模工房です。彼らは今は中街の方にもっと大きな工房を構えてますから、設備で何かあればすぐに確認できます」
中街というのは、この街を囲う二重の市壁の一番内側にあるエリアを指すらしい。つまりは湖や大迷宮の周囲で、余裕のある住人や一定以上のランクの傭兵が多いってことだ。
前の持ち主たちはそれなりに成功してるってことだから、それにあやかりたいならいいのかもな。
ああ、あとはまともな鍛冶設備な可能性が高いか。
建物の外観は、工房用の建物だからか、一階部分は全部レンガで作ってあるようだった。赤くなってるのは、何かしら混ぜてあるからだろう。
さすがに若干古くなってるが、気にするほどではない。大きな入り口からは素材やら何やらの出し入れもしやすそうだ。セフィアの幌馬車くらいなら問題なく入れられるだろうし。
「住居は二階部分ですね。工房の奥に入り口があります」
そっちは木造だな。屋根は例に漏れず急な三角屋根。
窓が多いから、いくつも個室があるのかもしれない。
「それでは中をご案内します」
模擬戦ができそうなくらい広い庭を通り、工房内に入る。中は思ったより新しいから、途中で設備の新調をしたのかもしれない。
広さは、数人で作業するには困らないくらい。マスターエルダスの工房に比べたらだいぶ狭いが、空気は似ている。
ただ、一人で使うには広すぎるな。
右奥にあった扉を開けるのに商人は体重をかけていたから、なかなか重いんだろう。
その先には小さな部屋が一つあって、木製の扉が行く手を塞いでいた。二重になっているのは、騒音対策か。
「勝手口はないんですか?」
入り口がここしかないなら、客人が来たときに大変だ。彼であの様子だと、セフィアは開けられないかもしれない。
「えー、たしかあったはずです。あとで確認しましょうか」
「助かります」
あるならまあいいか。
木戸の先にあった階段を上り、居住エリアに入る。思った通りいくつもの部屋に分かれているようで、廊下にはマンションのような感覚で扉が並んでいるのが見えた。
中はどれも同じ造りみたいだが、いかんせん一つ一つが狭い。もしここにするなら、壁をぶち抜いてもいいかもしれないな。
「ここは元々共用スペースとして使われていたようです。食事をしたりくつろいだりするのにはちょうどいい広さではないでしょうか」
「まあ、たしかに」
「人間なら男性でも六人くらいはゆったりできそうですね」
家具を置いたらもう少し狭くはなるが、それでも十分広い。広すぎる気もするが、大は小を兼ねるというしな。
「そちらがキッチンです。勝手口もキッチンにあるので、確認しましょう」
これはまた、ずいぶん立派なキッチンだ。コンロが四口もある。
動力源の魔石がセットしてないから使えないが、スイッチに書いてある表示を見るに、なかなかの火力が出そうだな。
まともな料理なんてもう何年もしてなかったから、使いこなせるかは怪しいが。
勝手口は、これか。開けると、階段があると。そこまで急ではないし、広さもある。手すりは、職人たちが自分で付けたのか? そんな感じの跡があるな。
「お風呂とトイレはそちらです。……だいたいこんなところですかね。日当たりも良いですし、五分ほど歩けば市場があります。セフィアさんのお店からは、馬車なら十分くらいですね。いかがでしょうか」
悪くない。気になるところはいくつかあるが、買い取りなら以前の持ち主のように自分で手を加えたらいい。
幸い生産系のことなら色々とできるサブキャラだ。そこらの職人に頼るより良い物が作れるとは思う。
「ちなみに、値段は?」
「即金なら、五千二百万ユグですね。分割だともう少し高くなりますが」
……やはりか。商用施設でもあるし、そんな気はしていたが、高い。パン一つが百ユグの街でこの値段はなかなかだ。
エルダスにもらったアルゴスの給料だと当然足りない。サブキャラに持たせていたお金もあるから、買えはするんだが、そうするとその後の生活費がかなり不安だ。
まだ月にどれくらいかかるかは分からないから、よけいに。
「一応キープしてください。他も見てみたいです」
「分かりました。では、次にいきましょう。次はセフィアさんのお店から一番遠いところですね」
それから残りの二件と、追加でもう一件回ったが、イマイチ決め手に欠ける場所ばかりだった。
はじめの家は高すぎるし、次の家は安いが、色々と遠い。三件目は悪くないんだが、買い物をするのに大通りを経由する必要があった。
極めつけとしては、これらは街にやってきてすぐの若い男が一人でいきなり買うとなると、かなり目立ちそうな物件ばかりってことだ。
見学中もチラチラ好奇心に満ちた視線を感じたし、中には嫉妬にも似た雰囲気を感じるものがあった。
正直、それだけで条件を妥協した家を選びたくなる。
トータルで一番良かったのは、四つ目、今いるところ。
工房がないって理由でオススメには入らなかったらしいが、商店街が近くて、静かで、男一人で住んでもギリギリ気にされなさそうだ。セフィアの店が少し遠いのだけが難点か。
「うーん……」
「お気に召しませんでしたか?」
「ああ、いや、どこも悪くなかったんですが、もう一歩足りないというか……」
せっかく選んでくれた商人には申し訳ないが、決めきれない。
いや、なにも今すぐ決めなくてもいいのか。
もう少し街に馴染んだら最初の三件でも良さそうだし、しばらく金策に走るのもありな気がしてきたな……。
「ちなみにですが、予約だけしておいて後日買うということは可能ですか?」
「あー、そうですね。頭金だけはいただくことになりますが、一応可能です」
ふむ。
「それなら、最初の――」
「おっと、失礼」
商人が落としてしまった書類を拾って、返すときに見えた面へ何気なく目を向ける。ずいぶん安い。これまで見てきた所とは零の数が一つ違う。
いや、それ以上に、簡素な地図に示された場所に覚えがあった。
「すみません。やっぱり、ここを見てから決めてもいいですか?」
「え? あー、そこですか」
なんだ?
嫌そう、とは違うな。困っている?
売りたくて、かつ条件に合う物件には違いないだろうし、だから今も資料を携帯しているんだとは思うが。
「正直、そこを買ってくださるなら助かるんですが、でも、その……、勧めませんよ?」
どういうことだ?
しっかりは見られなかったが、そんなおかしな所はなかったように思う。
……いや、まさかな。
「とりあえず、見るだけ見てもいいですか?」
「まあいいですけど、本当に勧めませんからね?」
「ありがとうございます。セフィアも、悪いな。あと一カ所付き合ってくれ」
「大丈夫ですよ。今日は暇ですからね」
本当にありがたい。
しかし、どんな事情があるのやら。事故物件は勘弁願いたい。この世界の事故物件だと、本物のアンデッドや呪いが出てきそうだからな。
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(1話2500字程度、1章まで完結保証です)