【完結・アルファ版】絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~

嘉神かろ

文字の大きさ
18 / 30

第18話 モブサブのオークション打ち上げ!


 オークション会場を出たのは、日もすっかり暮れて、居酒屋の賑わい始めた頃だった。オークション自体は夕方になる少し前には終わっていたが、売り上げの受け取りやら何やらがあってこの時間になった。

 俺とセフィアは温かいを通り越して熱くなった懐を抱えながら、とりあえず近場の店に入る。店内は迷宮帰りの傭兵やら、オークション会場で見た顔やらで煩いくらいに盛り上がっていた。個室が空いていたのは幸いだ。

「凄かったな……」
「ですね……」

 適当に注文を済ませた後の第一声だ。
 本当に、凄かったとしか言えない。まさか、ここまでの値が付くとは。想定していたよりゼロが一つ二つ多いくらいだ。

「ナイフが千八百二十万の、剣が、六億か……」

 正確には六億と、五千八百万。胃に穴が空きそうだ。
 会社としてならもっと大きな額も扱ったことがあるが、今回はほとんど個人でだからな。初のアニメ化が決まった作家とか、突然成功した個人事業主はみんなこんな気持ちだったんだろうか。

「あの、やっぱり私の取り分、もっと少なくてもいいですよ?」
「いや! そこは変えられない。変えちゃならない。口頭とはいえ契約だからな」

 あと、これ以上俺の取り分が増えるとストレスでハゲそうだ。

「まあ、なんだ。喜ぶべきことではあるんだし、素直に喜んでおこう」
「そう、ですね。じゃあ、このまま祝賀会ってことにします?」
「祝賀会か……」

 実際、金策って観点で見れば、大成功だ。自分でも言ったが喜ぶべきことには違いない。

「そうだな。するか、祝賀会」

 なら酒もほしい。最近は飲んでいなかったから控えめにするにしても、祝い事を素面でっていうのも味気ないしな。

 再度店員さんを呼んで注文を追加すれば、お酒はすぐに出てくる。こういう居酒屋の良いところだ。

「それじゃあ、改めて、オークションお疲れ様」
「はい、お疲れ様です!」

 グラスを合わせて口を付ければ、焼けるような感覚が喉を通り過ぎていった。思っていたより強いが、けっこう美味い。何の酒かも分からないままに頼んだが、当たりだった。
 セフィアも同じように果実酒を口に含む。一口で顔が赤くなるほど弱くはないようだな。一安心だ。

「それにしても、私の取り分だけで二億弱ですか。これならお店がもう一軒用意できますね。あっ、それならアルゴスさんの武器をうちで売れます!」
「はは、気持ちだけ受け取っておくよ」

 何があるか分からんしな。
 それに、まだ若い彼女が街に来ていきなり二店舗目を開くってなると、要らない嫉妬を向けられそうだ。俺の武器を売るためだけに他人から悪意を向けられて足を引っ張られるなんてことになったらいけない。

「そうですか……」

 なんでそんなに落胆としているのかはしらないが、危機回避ともしもの時への備えの方が重要だと思う。彼女の夢を、俺が邪魔しちゃいけない。話を変えよう。

「しかし、本当に凄かったな。あの額を即金で支払ったっていうんだから。あの剣を買ったのも貴族か?」
「代表者の名前的に、たぶん傭兵ですね。この街トップの、という但し書きは付きますが」

 なるほど、傭兵か。ミラディストップレベルとなると、そんなに稼げるんだな。ゲーム時代はなんだかんだ、職人してる方が稼げたんだが。
 もしメインの体で転生してたら、確実に傭兵の道を選んでたな。そして超目立ってた。

 ふぅ、危ない危ない。アルゴスを作っておいて良かった。

「ちなみにどういう連中なんだ?」
「傭兵としては考えられないくらいに品行方正な人たちで、世間からの評判も良いですよ。勇者パーティだなんて呼ばれることもあります」

 勇者か。そらまた大層な。
 ていうか勇者って言葉があるのか。ユグクロにそんな称号無かったと思うんだが。

 俺たちプレイヤー、つまりはユグクロの主人公も、一部聖命会関係者から『聖命樹の使徒』だなんて呼ばれることがあったくらいで、勇者と呼ばれることは無かった。設定上でも、闇の力から世界を守るため、聖命の樹が外の世界から呼び寄せた存在、みたいな説明だったと思う。

「勇者っていうのは彼らのリーダーが持つ二つ名ですね。金髪碧眼の凄腕の剣士で、おとぎ話の勇者のようだからと付けられたんだそうです」

 あ、そういえば、どこかの本棚を調べたときに勇者がどうたらっておとぎ話が読めた気がするな。それが元か。

 しかし金髪碧眼の剣士ね。大迷宮の最高到達点もたしか、五十階層くらいだって話だった。もしかして、あいつか?

「なあ、その勇者パーティにはツバの広い帽子を被った男の攻撃魔法職はいるか?」
「ええ、いますね。といってもそんなに珍しくないとは思いますが」
「それもそうか」

 こんなことならもう少しよく見ておくべきだったな。見えない位置には他の仲間もいたようだし。

「どこかで見かけられたんですか?」
「ああ。迷宮の、あれはたしか四十一階層だったな」
「四じゅ――ああ、そうでした。あれがありましたね。なるほど……。でしたら、たぶん勇者パーティで間違いありませんね。戦闘で苦戦していないなら確定と考えて大丈夫です。そのレベルは他にいないはずなので」

 ほう。とすると、あれがトップか。
 なるほどな。これは、思っていたよりアルゴスの夢までは険しい道のりなのかもしれない。

 神話級の剣を作るための、伝説の金属。具体的な名前が一切無い、ぼんやりとした情報だが、アルゴスの夢を叶えるにはこれを頼りに素材を探さなければいけない。
 幸い、その金属があることは確定している。死ぬ直前に見たアプデ情報で、アルゴスに神話級の剣を作って貰う必要があることを示唆されていたからな。

 つまりは、伝説の金属とやらは、新しく追加された場所にある可能性が高い。

 だから新しい階層の追加されたらしい大迷宮に来た。
 自分で潜らないまでも、それこそ勇者のような傭兵がいるなら、代わりに採ってきてもらえるし、何かしらの情報は入ってくる可能性が高いと踏んだ。

 だが、トップが五十階層レベルでしかないなら話は別だ。
 遠すぎる。アプデ前の最高階層までですら、百階層もある。これは、ただ流れに身を任せるだけじゃ駄目なんじゃないだろうか。

 のんびり目立たず暮らしたいのに、アルゴスの夢を叶えるならそういうわけにはいかないかもしれない。難しい。

「あ、料理が来ましたね。ホーンラビットの唐揚げです」
「見た目は鶏とあまり変わらないんだな。美味そうだ」

 アルゴスの夢のために、どう動くべきか。
 俺自身が傭兵として迷宮の潜るのは無しだ。それが一番早いが、最下層を目指すなら、街の中央にある入り口のショートカット機能が無いとキツい。三十一階層から百数十階層分を降りるのに何年かかるかも分からないしな。

 そもそも能力的に辛いのもある。今の生産職のステータスとスキルでソロ攻略するとなると、運が良くても百階層当たりが限界だろう。そこから先は死を覚悟する必要がある。

「アルゴスさん? どうかしました?」
「ああ、いや。ちょっとな」

 考えるなら、職人として、職人らしくどうにかする道。例えば、必要なレベルの装備を作ることで、傭兵達により先へ進んでもらう道だ。
 勇者パーティにだけ任せるのは酷だろうから、もっと広く、街の傭兵の水準そのものを押し上げる必要があるとは思うが。

 そういう意味じゃ、ケインたちにも期待だな。あいつらは伸びしろが大きいように思えた。

 そう、だな。それでいこう。職人らしく、そして目立たず、アルゴスの夢を叶える。
 だったらセフィアの協力もいるな。いくら良い武器を作ったところで、傭兵達に使ってもらえなきゃ意味がない。

「なあ、セフィア。一つ、聞いてほしいことがあるんだ。俺の夢のことだ」
「夢、ですか?」

 彼女からすれば突然な話ではあるが、協力してもらうなら、話しておいた方がいいだろうから。
 その時になって協力してくれるかは分からないが、してもらえるように、十分な見返りを用意しよう。誠意を見せよう。

「俺の夢は、いつか、神話級の剣を作ることだ。そのために伝説に謳われるような金属が必要なんだが、今のままじゃ、到底叶いそうもない」
「それは、金銭的にですか? それとも、傭兵の水準的にですか?」

 さすが、話が早い。ここまでの話の流れで察したか。

「主には後者だな。目的の金属を得るには、今の傭兵達は弱すぎる」
「勇者パーティですら、ですか。なるほど。では、私は何をすればいいですか?」
「……いいのか?」

 まだ何も言っていないのに。
 どうして彼女は、こうも協力的なんだろうか。命を助けた借りならもう、十分すぎるほどに返してもらった。むしろ恩も受けている。
 もちろんですと頷く彼女の内心が、分からない。

「どうしてなんて聞かないでくださいね。私がただ、アルゴスさんのために何かしたいってだけなので。色々お世話になってますしね」

 彼女の浮かべる笑みには、黒いものは何も見えない。本当に、純粋に、善意で協力してくれようとしている。
 仕事を押しつけようだとか、どこかで裏切って恥をかかせようだとか、利益をだまし取ろうだなんて思惑が一切無い真っ白な笑顔だ。

 こんな相手、前世で死んだ頃にはまったくと言っていいほど出会わなくなっていた。眩しいくらいだ。彼女と、セフィアと巡り会えて良かった。心からそう思える。

「ありがとう、セフィア。今はまだ具体的に何かしてほしいってことは無いんだが、必要になればお願いしたい」
「ええ、任せてください!」

 夢を叶えてほしい相手が増えてしまったな。
 ついさっきまでは、頑張る若者の夢は応援したいっておじさんのそれでしかなかったのに、セフィアだからという理由で応援したくなってしまった。

 俺も彼女のために、できる限りのことをしよう。当然、目立たない範囲で。

感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜

自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)