12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

文字の大きさ
104 / 145
第5章 時は隔てる

幕間⑤

しおりを挟む
 
「っと」

 転移を完了した矢先に感じたのは、規則的な床の揺れ。周囲の景色と併せて、思惑通りいった事を確認します。

 スズ達は……いませんね。探しに行きましょう。

 その窓の無い、幾つかのハンモックだけが吊るされた部屋を出て、日の当たる所を目指します。

「っ……!」

 そして薄暗い廊下を抜け、太陽の光の下に出ると、強い海風に煽られました。

 時刻は昼を少し過ぎた頃。降り注ぐ二つの陽光を反射した海面がキラキラと輝いて、少し眩しいくらいです。

 さて……いましたね。海の方を眺めながら雑談に花を咲かせているようです。
 私は床になっている木板をコツコツと鳴らさせてスズ達に近づいてきます。

 と、ブランがまず気づいたようです。こちらへ振り返りました。

「あ、姉様」
「うん? ほんとだ。お姉ちゃんおかえりー!」

 スズネが手を振ってきたので、こちらも軽く手を挙げて返事をしつつ、こちらへ来ようとしていた眷属二人を制します。
 私も海を見ながら話をしたいですからね。

「姉様、おかえり……!」
「「お帰りなさいませ、マスター」」
「えぇ、ただいま」

 挨拶を返し、抱きついて来たブランの頭を撫でてあげれば、なんとも心地よさそうな顔をしてくれます。天使すぎます。
 しかしこの子の甘え方も随分と積極的になりました。天使ですから大天使でもうどうしようもなく熾天使ですね。…………語彙力が死にましたが仕方ないんですはい。

「上手くいったみたいだね!」
「えぇ。目印が大きく移動した場合は実験出来てなかったけど、よかったわ」

 上手くいった、というのは持ち運び可能な目印の魔道具を[転移]先としてポータルにする実験の事です。
 私の魔力量の増加やスキルの成長、それから転移の魔道具の作り方をアルティカから学べた事を理由として出来る様になりました。

 試運転では停止している場合だけしか実験していなかったので、今のように移動する船の上に上手く[転移]できるかわからなかったんですよね。もしできなかったら、次の停泊地で待って、船が港にある間に[転移]して乗り込むつもりでした。

「それで、リリ達は元気にしてた?」

 スズの質問ですが、このデッキには他にも何人か人がいます。先に遮音の結界を張っておきましょう。念のためです。

「そうね。相変わらずだったわよ」
「ふーん……。じゃあ、レオン様の予想通りでいいのかな?」
「そうじゃないかしら? それとスズ、アルティカが私たちの関係ばらしちゃったから、人前ではレオンに様をつけちゃダメよ」

 はーい、とテキトウな返事をするスズですが、まぁ、気をつけてくれるでしょう。国際問題になりますからね。

 さて、今の会話からも分かるように私はリムリアへ帰っていました。その目的は、レオンや公爵家の騎士に稽古をつけるためです。

 では何故そうなったかと言われると、話は二週間前、グローリエス帝国での一件が全て終わった直後に遡ります。


◆◇◆
「それじゃ、リベルティアに行ってくるわ」
「ちょっと待ってアルジェちゃん。まだ一発で跳べないわよね?」
「そうね。適当なところまでは飛んで行くつもりよ」

 ローズに報告するのは、そこまで急がなくても良いですし。どうせ既に魔道具で連絡を受けてます。

「私も少し用があるから、連れてってあげる」
「…………いいの?」

 国際問題になりませんかね?

「大丈夫大丈夫。今回は女王としてじゃないから」

 なるほど。【調停者】として、ですか。

「それならお願いするわ」



「はい、到着っ!」

 ここは……いつかの隠し部屋じゃないですか。転移対策のしてある亜空間のはずですが、相変わらずめちゃくちゃですね。転移魔法は覚えたばかりですよ? この…………一応リベルティアの城の中なのでやめておきましょう。

「あら、賢明じゃない?」
「……。それより、さっきからジリジリ鳴ってるのは良いの?」
「呼び出す手間が省けるから良いのよ、たぶん」

 まぁ、それはそうですが……。と、来ましたね。全員勢揃いです。

「……やはり貴女でしたか。【調停者】アルティカ」
「久しぶりね、リベルティア王」

 ……雰囲気が変わりました。またもや誰コレ状態です――アタッ!?  くっ、今度は頭を…………!

「して、今日は一体どのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか」

 ん? アルティカに目配せをされました。あー、はいはい。

「その前に、先にローズへの報告をさせて貰っても良いでしょうか?」
「そうしてらっしゃい」
「ああ、わかった。なら、ローズ、お前の部屋で聞いて来なさい」
「わかりました、陛下」



「ふぅ、緊張したー」

 場所は変わって、いつものローズの部屋。屋台のおっちゃんことスプーファーはいません。

「……まぁ、それが普通よね」

 【調停者】というのはそういう存在ですから。

「それじゃ、報告よろしく!」
「軽い……。詳細はどうせもう聞いてると思うから、省くわよ」
「ええ」
「大体予定通りね。予定外と言えば、アルティカが私たちの関係を公言してしまったことくらい」

 ローズの反応は、やはりもう部下からの報告は受けていたようですね。

「やっぱり嘘じゃないのね……。今回来たのは再度クギを刺しにって所かしら」
「そうじゃない? まぁ、あの屋敷にはそのまま住むつもりだから安心なさい」
「それは是非お父様に言ってあげて。あとレオンおじさま」

 きっと安心するでしょうね。あの屋敷を下賜したのは、お礼という意味も勿論ありますが、戦力を引き留めるという政治的な理由も確かにありましたから。

「そ、それより、ほら、アルジェも公的に王女って事になったじゃない? だから、ほら」
「女王の孫娘ってだけで王女になった訳じゃないわよ。気にせずいらっしゃい」
「そうよね! うんうん、ほら、向こうはまだかかるだろうし、お茶でも飲みましょう!」

 全く、わかりやすいですね。
 まぁ、これで権力者関係で懸念することもほぼなくなりました。普通なら政治的要素が絡むようになってしまいますが、相手が相手ですから。これまで以上に立場に遠慮なく付き合えるのは確かです。
 そこだけは、感謝しても良いのかもしれません。

 それから暫く、取り留めのない話をして時間を潰しました。

「さて、そろそろ行きましょうか。お父様の執務室は、初めてよね。案内するわ」
「ええ、よろしく」

 ローズの案内でユリウス陛下の執務室に移動すると、王族の方々の他になぜかレオン様までいました。アルティカの姿はありません。

「お待たせしてしまいました。お父様」
「いや良い。ローズには後で話がある」
「わかりました。それで、何故レオンおじさまが?」

 社交シーズンらしいので、レオン様が王都に居ること自体は不思議ではありませんが、この部屋にいる理由は私も気になります。

「例の件で少し、な」

 例の件?

「……何か掴めたんですね?」
「ああ。あまり喜ばしくない情報だがな」

 なんの事でしょう? 
 可能性としては、リリが誘拐された件です。あの誘拐犯たちは誰かに依頼されたと言うような口ぶりでしたから、その調査をしていた筈です。

「ふむ、これは、巡り合わせというやつかもしれんな」
「陛下……?」
「レオンよ、彼女に指導を頼んでみるのはどうだ?」
「良いのですか? 彼女は……」
「大丈夫だ。寧ろ、このような事なら積極的に頼んで欲しいとおっしゃっていた」

 ユリウス陛下が敬語を使う相手という事はアルティカですね。まったく、勝手に何を言ってるんですかね? あのババアは。

「そうですね、なら頼んでみましょう。……というわけで、アルジェ、殿」
「今まで通りで良いわよ」

 私個人とは対等な関係で接するという約束でしたから。

「そうか。なら、アルジェ。うちの騎士たちに稽古をつけてやってくれないか?」
「……理由は?」
「ここ数年、大樹海でのスタンピードが頻発しているのは知っているか?」

 これには頷いて返事をします。

「その原因がわかった。大樹海の奥に棲む古代竜エンシェントドラゴン、レテレノだ」
「古代竜、ですか」

 やっかいな相手です。

「彼の者はかつて、先代が公爵に陞爵される理由となったスタンピードを起こした竜だ。その古代竜がまた、他の竜達を集めているらしいのだ」
「なるほど。それで戦力の増強を考えていると」
「そういう事だ」

 なるほどなるほど。これから暫く、移動時間が暇になるのでちょうど良いですね。

「私たちはこれから船旅になるわ。その間で良ければ、引き受けてあげる。ついでにあなたもね」

 彼もこっち方面はわかりやすいですね。

「バレていたか」
「当然」

◆◇◆

 それからざっくり打ち合わせをし、何箇所かを経由する自力での[転移]を使ってスズたちの元へ帰りました。アルティカは先に帰ったらしかったので……。
 どうせカッコつけてですよ、私を忘れて帰っていったの。なんて思ってたら案の定でしたから、とりあえず雷を数発食らってもらいました。

 まったく、彼女も相変わらずでしたね……はぁ。

 それはともかく、私がリベリアと船上を往復しているのはこんな経緯からですね。
 これなら私たちも鍛えておいた方が良いだろうという事で、次の目的地へ向かうことにもなりました。

 はてさて、どんな感じのところですかね。かなり楽しみです。





◆◇◆
「なかなか順調なようですね」

 何処までも広がっているように見えて、同時に一切の余裕も無いほど狭く見えるその真っ白な空間。人を嘲るような口調の声が響く。

「本当に、忌々しいくらい順調です」

 嘲りを含む声音やその言葉と裏腹に、そのモノの発する気配は楽しげだ。

「……このまま行けば、現地の時間で十年以内に目標を達成するでしょう」

 そのモノに返答する声は管理者と呼ばれる存在のもの。やや機械的なその声に混じっているのは、喜びと、そして寂しさだろうか。

「ククク……。十年、ですか」

 そんな管理者へと返ってきたのは、やはり侮蔑を孕んだ声音。

「何か、間違っていましたか?」

 管理者にとっては自らの上位存在である相手だ。強くは出られない。

 それでも、管理者はその声に混じる苛立ちを隠せなかった。

「いえいえ。ただ、もっと短くなるかもしれない、というだけですよ。……あぁ、そもそも永遠に叶わないかもしれませんね」

 白々しいまで言い回し。紳士姿のそのモノにとってどちらか本音かは聞くまでもなかった。

「また、何かなさったのですね」

 それ以外に態々そのモノが出向いてきた理由を、管理者は思いつかない。

「当然でしょう。トリックスターでもあるのがこの私ですから」

 これには納得せざるを得ない管理者。返答は短い。

「……そうですか」

 その様子に満足したそのモノは、最後に一つ、爆弾を落としていく。

「そうそう。そろそろ私も、器に挨拶しておこうと思っています。次の目的地の、例の場所でにしましょうか。その時はよろしくお願いしますね」
「なっ!? ちょ……」

 管理者の声を聞き遂げることはせず、そのモノは虚空へと消えた。


「……それにしても、管理者は随分感情豊かになりましたね。…………クククク」

 その言葉を聞く者はいない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...