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第6章 アーカウラの深き場所
第13話 黒い紳士
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6-13
♰♰♰
「…………ふぅ」
どうやら完全に沈黙したようです。
「二人とも、お疲れ様」
「お疲れー」
「お疲れ様」
ようやく、ですね。
次の階層へと続く階段が出てくる様子はありませんし、これで終わりでしょうね。
「姉様、最後の、聞いていい?」
「うん? あぁ、[精神攻撃]で核へ直接ダメージを与えられるじゃない?」
「うん」
「あの粘体、どうも戦闘経験が少ないみたいだったから。認識できない相手からいきなり核を攻撃されれば、驚いてあぁなるんじゃないかと思ったのよ」
あの私の腕を貪り喰らうところなんかですね。戦闘経験の薄さを感じたのは。
「さてと。もう何もなさ――!?」
突然現れた異様な気配に飛び退ってブランを後ろに庇い、その気配の出所を睨みます。
その場所はこの不自然な部屋の入り口付近。明らかに逃す気はありませんね。
その力量は、読み切る事ができません。しかし先程の始祖粘体皇が可愛く思えるくらいに格上ということは確かです。
冷や汗が頬を伝い、真っ平らな地面を濡らします。
やがてその何もない空間から滲み出るように、ソイツは姿を現しました。
あえて自分の存在を示すかのように気配を洩れさせているソイツは、真っ黒な紳士然とした男。
服装が黒いとか、そんなレベルではなく、漆黒の闇が人型を取っていると言うべきでしょうか。
あの神話関係でそんな存在に心当たりがあります。
もしソイツなら、消耗している今、いえ、全快状態でも逃げられるか怪しいでしょう。
ハッキリ言って、大ピンチです。
こうしてソイツを睨んでいる間にも、ソイツの周りの空間が捻じ曲がり、正常となりを繰り返しながら広がっています。異様な光景です。
闇と光、自然と不自然が混ざり合った空間。まさに混沌。
「ラスボス撃破、おめでとう。と言えば良いですかな? 器よ」
ソイツの口が動きます。
「では、これより裏ボス戦を始めましょう」
ソイツがそう言った瞬間、空間への混沌の浸食が早まり私たちを飲み込みます。
上も下も右も左もわからない。
隣にいるのは誰。
握っているモノは何。握ってるのは左手右手どっち。
ここはどこで迷宮内で地下で地上で私はオレはぼくは美味しクてマズくてタノシくテ悲しくテにクくて愛シくテ……………………。
…………ダレ?
「…………クックック。お遊びはこれくらいにしておきましょうか」
「――っ!! ハァハァハァ…………」
今のは、いったい……。
何にせよ、ソイツが本気なら今ので終わっていました。
他の二人も同様だったようで満身創痍です。
「おや、三人とも立ったままですか。感心です」
黒い紳士は心から感心した、といった様子で腕を組んで頷いています。
「……あなたのような存在が、いったい何のようかしら?」
震えそうになる脚に力を込め、背筋を伸ばし、真っ直ぐと見つめ返して聞きます。強がりです。
「私の事をご存知でしたか。なに、ただ少し、挨拶をしておこうと思っただけですよ」
「……挨拶をするっていう態度には思えないんだけど?」
「おっとこれは失礼。私とした事が」
絶対わかってやってたと思いますが、ソイツはそういう存在ですから。下手な事は言えませんし、流すしかありません。
次の瞬間辺りを包む異様な気配が消え、空間への何かの浸食が止まります。
「っ…………」
そこで緊張の糸が切れたらしく、ブランが崩れ落ちます。
幸いスズが支えてくれました。
飛んで行きたい所ですが、ここは任せます。
「さて、それでは改めまして、『始まりの迷宮』攻略おめでとうございます。報酬をお渡ししましょう」
そう言って目の前の黒い紳士が指を鳴らします。
その動作は自然で、気取ったところはありません。
チリンっ
【〈物質錬成〉が進化します。
成功しました。
〈無形の祖〉を獲得しました。
権限レベルが上昇しました。】
「〈無形の祖〉…………」
他に神話級のアイテムもありましたが、そちらはおまけにしか思えないですね。コレは。
先程とは違った汗が流れます。
ひとまず、相応のエネルギーさえあれば作れないモノはないと言って良いスキルとだけ。
二人も何か獲得したようです。
ブランは耳をピクリとさせ、スズは何かを考え込んでいる様子。
「更にこちらは、私から」
権限レベルがあがった事による差異を確認していたら、再び指が鳴らされました。
チリンっ
【〈空間魔導〉と〈時魔導〉がレベルMaxになりました。
〈光魔導〉と〈闇魔導〉を統合し、進化します。
成功しました。
〈這い寄る混沌〉を獲得しました。】
今のは……!?
「クックック……どうやら気づいたようですね。このように、魂のエネルギーを強制的に注ぎ込む事が出来れば、スキルを強化する事も可能です」
黒い紳士はとても愉快そうに、嘲りを含んだ笑い声をあげます。
この技法はまさに、理外の術ですね……。
尤も、失敗すれば良くてスキルの永久消滅。最悪魂が破壊されて死ぬという事ですが。
「もう一つのソレはオマケです。それではご機嫌よう。もう二度と、顔を合わせない事を願いますよ」
それだけ言って、ソイツは姿を消しました。まるで絵具が大量の水に溶け、薄れていくように。
♰♰♰
「…………ふぅ」
どうやら完全に沈黙したようです。
「二人とも、お疲れ様」
「お疲れー」
「お疲れ様」
ようやく、ですね。
次の階層へと続く階段が出てくる様子はありませんし、これで終わりでしょうね。
「姉様、最後の、聞いていい?」
「うん? あぁ、[精神攻撃]で核へ直接ダメージを与えられるじゃない?」
「うん」
「あの粘体、どうも戦闘経験が少ないみたいだったから。認識できない相手からいきなり核を攻撃されれば、驚いてあぁなるんじゃないかと思ったのよ」
あの私の腕を貪り喰らうところなんかですね。戦闘経験の薄さを感じたのは。
「さてと。もう何もなさ――!?」
突然現れた異様な気配に飛び退ってブランを後ろに庇い、その気配の出所を睨みます。
その場所はこの不自然な部屋の入り口付近。明らかに逃す気はありませんね。
その力量は、読み切る事ができません。しかし先程の始祖粘体皇が可愛く思えるくらいに格上ということは確かです。
冷や汗が頬を伝い、真っ平らな地面を濡らします。
やがてその何もない空間から滲み出るように、ソイツは姿を現しました。
あえて自分の存在を示すかのように気配を洩れさせているソイツは、真っ黒な紳士然とした男。
服装が黒いとか、そんなレベルではなく、漆黒の闇が人型を取っていると言うべきでしょうか。
あの神話関係でそんな存在に心当たりがあります。
もしソイツなら、消耗している今、いえ、全快状態でも逃げられるか怪しいでしょう。
ハッキリ言って、大ピンチです。
こうしてソイツを睨んでいる間にも、ソイツの周りの空間が捻じ曲がり、正常となりを繰り返しながら広がっています。異様な光景です。
闇と光、自然と不自然が混ざり合った空間。まさに混沌。
「ラスボス撃破、おめでとう。と言えば良いですかな? 器よ」
ソイツの口が動きます。
「では、これより裏ボス戦を始めましょう」
ソイツがそう言った瞬間、空間への混沌の浸食が早まり私たちを飲み込みます。
上も下も右も左もわからない。
隣にいるのは誰。
握っているモノは何。握ってるのは左手右手どっち。
ここはどこで迷宮内で地下で地上で私はオレはぼくは美味しクてマズくてタノシくテ悲しくテにクくて愛シくテ……………………。
…………ダレ?
「…………クックック。お遊びはこれくらいにしておきましょうか」
「――っ!! ハァハァハァ…………」
今のは、いったい……。
何にせよ、ソイツが本気なら今ので終わっていました。
他の二人も同様だったようで満身創痍です。
「おや、三人とも立ったままですか。感心です」
黒い紳士は心から感心した、といった様子で腕を組んで頷いています。
「……あなたのような存在が、いったい何のようかしら?」
震えそうになる脚に力を込め、背筋を伸ばし、真っ直ぐと見つめ返して聞きます。強がりです。
「私の事をご存知でしたか。なに、ただ少し、挨拶をしておこうと思っただけですよ」
「……挨拶をするっていう態度には思えないんだけど?」
「おっとこれは失礼。私とした事が」
絶対わかってやってたと思いますが、ソイツはそういう存在ですから。下手な事は言えませんし、流すしかありません。
次の瞬間辺りを包む異様な気配が消え、空間への何かの浸食が止まります。
「っ…………」
そこで緊張の糸が切れたらしく、ブランが崩れ落ちます。
幸いスズが支えてくれました。
飛んで行きたい所ですが、ここは任せます。
「さて、それでは改めまして、『始まりの迷宮』攻略おめでとうございます。報酬をお渡ししましょう」
そう言って目の前の黒い紳士が指を鳴らします。
その動作は自然で、気取ったところはありません。
チリンっ
【〈物質錬成〉が進化します。
成功しました。
〈無形の祖〉を獲得しました。
権限レベルが上昇しました。】
「〈無形の祖〉…………」
他に神話級のアイテムもありましたが、そちらはおまけにしか思えないですね。コレは。
先程とは違った汗が流れます。
ひとまず、相応のエネルギーさえあれば作れないモノはないと言って良いスキルとだけ。
二人も何か獲得したようです。
ブランは耳をピクリとさせ、スズは何かを考え込んでいる様子。
「更にこちらは、私から」
権限レベルがあがった事による差異を確認していたら、再び指が鳴らされました。
チリンっ
【〈空間魔導〉と〈時魔導〉がレベルMaxになりました。
〈光魔導〉と〈闇魔導〉を統合し、進化します。
成功しました。
〈這い寄る混沌〉を獲得しました。】
今のは……!?
「クックック……どうやら気づいたようですね。このように、魂のエネルギーを強制的に注ぎ込む事が出来れば、スキルを強化する事も可能です」
黒い紳士はとても愉快そうに、嘲りを含んだ笑い声をあげます。
この技法はまさに、理外の術ですね……。
尤も、失敗すれば良くてスキルの永久消滅。最悪魂が破壊されて死ぬという事ですが。
「もう一つのソレはオマケです。それではご機嫌よう。もう二度と、顔を合わせない事を願いますよ」
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