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第6章 アーカウラの深き場所
第2話 指名依頼
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7-2
開いてはいけない扉を開いてしまったような気もする私ですが、今日冒険者ギルドのマスターであるシュテンと面会する予定が有るのは変わりません。
という訳で、全員でギルドに来ています。
情報を求めてきているのか、普段より人の多いギルドロビーに入り、サブマスターのリオラさんのいるカウンターを目指します。
いくつか知った気配がありますが、声をかけるのは後にしておきましょうか。
「やっほーリオラさん。来たよ!」
「あ、スズネさん。それに皆さんも」
少し先を行っていたスズが先に声をかけました。
「それじゃあここお願いね。『戦乙女』と『幻影の従者達』の皆さん、こちらへどうぞ」
他の職員さんに受付業務を任せたリオラさんについてカウンターの内側へ入ります。ギルマスの執務室があるのは、この奥の階段を登った先ですから。
しかしここへ来るのはいつ以来ですかね。
以前シュテンに会った時は勝てる気がしない化け物に感じていましたが、今は私の方が強いんじゃないでしょうか。
そんな事を考えているうちに目的地へたどり着きました。
「ギルマス、アルジェさん達をお連れしました」
ノックをした後にそう言ったリオラさんは、返事を待たずにドアを開きます。そのリオラさんに続いて私たちもその部屋へ入りました。
建物の三階、ギルドの中で一番日当たりが良いこの部屋の漆喰の壁には、竜の頭骨や樹海を描いたらしき絵が飾ってあります。
「お、来たか!」
部屋に入って正面、高そうな執務机からそう声を上げた美丈夫がシュテン。二年前と全く同じ容姿をした『妖鬼族』です。
「と、失礼しました。まずは、下賤な身で貴女様に御足労いただいた事をお詫びします。アルジュエロ殿下」
……やはり人違いだったでしょうか?
「……殿下?」
「はい。貴女様はセフィロティア女王陛下の養孫と公的に認識されておりますので」
……あぁ、そういえば。
闘技大会でアルティカが暴露しちゃったんでした。
「公的な場でも無いんだし、良いわよ。前と同じで。ていうか気持ち悪いからやめて」
「き、気持ち悪い……。はぁ……。まぁその方が俺としても楽だから助かる」
そうですよね。
Sランクですから最低限の礼儀は身につけているとは言え、元は自由を好む冒険者です。彼の気質なら特に。
因みにリオラさんは横で笑うのを我慢してます。
「…………まぁいい。今回は指名依頼の為に呼んだんだ」
「指名依頼?」
スズが疑問の声を上げましたが、十中八九、アレでしょう。
「座って話そう」
シュテンがそう言って指差したのは、壁にかかっている絵を挟むように置かれた一対のソファ。茶色い革張りです。
その一つに私とスズ、ブランの三人が座り、対面にシュテンが座ります。
コスコルとアリスは私たちの後ろ、お茶を入れてくれたリオラさんはシュテンの後ろへそれぞれ立っているようです。
「さて、お前たちを呼んだのは、さっきも言ったように指名依頼を出す為だ」
そう言って順に私たち三人の顔を見ます。
「今回起きるはずのスタンピードを率いるのが、古代竜レテレノという事は知っているな?」
「えぇ」
あの日陛下達から聞きましたから。
「今回依頼するのは、レテレノの討伐だ」
「私たちだけで?」
「ああ」
やっぱりそうなりますよね。
「幸いレテレノは樹海の主ではない。とは言え、古代竜というユニーク個体なのは変わらない。レテレノがどの程度の存在かは判明していないが、少なくともSSランク。今この街にいる連中じゃ力不足だ」
樹海の主というのはアルティカと同じ【調停者】という噂がある存在です。そいつでないのは嬉しい話なのですが、あれだけ情報があってランク判別が出来ていない、ですか……。
「とすると、俺か、元帥閣下、宰相閣下、そしてお前らの誰かが行くことになる。だが俺はここの指揮を取らなきゃなんねぇし、閣下方は王都だ」
今回の相手は竜。空を飛ぶ相手も多い筈ですから、元帥として陛下を守らねばならないアリエルは、万一討ち漏らしが出た場合に備えているのです。
そして宰相のヴェルデは立場上、そもそも前線に出てはいけない人物になります。
「他にSランク以上はいないの?」
「いるにはいるが、ヤツらは他の辺境の街に行ってる」
まぁそうですよね。あのバカみたいに広い竜魔大樹海に接しているのは、リムリア公爵領だけではありませんから。
「となると、もうお前たちしか残らないってわけだ。一番ランクが高いのも『戦乙女』だしな」
余談ですが、世界で初めて『荒ぶる祖霊の社』を攻略した成果を以ってパーティランクがSSランクに上がっています。
更に、ブランとアリスはAランク、コスコルはSランクになりました。
目配せをして、ブランとスズに確認をとります。
二人の返事は、力の籠もった視線と頷き。
「……えぇ、わかったわ。どうせそれ以外にないんだし」
「助かる」
レテレノがどの程度の力を持っているのかはわかりませんが、あの迷宮を攻略した私たち三人なら何とかなるはずです。
それから詳細を詰め、ここでの用事を終えました。
さて、暫くはコンディションの管理に努めましょうかね。
「それじゃあ私たちは行くわ」
「あぁ」
私たちはギルマスの執務室を出て帰路に着きます。
執務室のある三階から二階に降り、そのまま一階へ歩みを進めていると、見知った気配を感じました。
階段の折り返し地点にある踊り場の角から、その気配の主が現れます。
「あら、叔父さんじゃない」
「もう、アルジェちゃんったら! 今の私はアンジェリカだって言ってるでしょう?」
はい。いつもお世話になってる裁縫師兼魔道具技師のゴリマッチョ美形漢女、アンジェリカさんです。
「叔父さんヤッホー!」
「もぅ、スズちゃんまで……」
今私とスズが言った様に、彼女は前世で私たちの叔父、つまりジジイの兄弟だった人になります。
「アンジェリカさん、こんにちは」
「こんにちは、ブランちゃん。ブランちゃんは今日も可愛いわねぇ~。ほら、二人も見習いなさい」
叔父さんまで転生していたと知って、初めは驚きましたね。
今でこそ普通に接してますが、昔は彼女に対して苦手意識をもっていました。四六時中私のお尻を狙ってきていたので……。今でも少し。
なのでこれはちょっとした意趣返しです。呼び方は改めません!
「うん?」
何やら叔父さんがこちらをじっと見つめてきます。
「…………指名依頼、受けたのね?」
「ええ、そうよ?」
何でしょう。叔父さんの雰囲気が変わりました。
「っ!? ちょ、叔父さん!?」
と思ったら突然のハグ。いったいどうしたんでしょう?
「…………アルジェちゃん、何があっても、我を失ったらダメよ?」
「え、えぇ」
私を離した後は、そのままスズとブランを纏めて抱きしめます。
「スズちゃん、ブランちゃん。……愛してるわ」
「ほぇ!? 叔父さん急にどうしたの!?」
スズは困惑の声を上げ、ブランも目を白黒させてます。
叔父さんの声は、どこか湿っぽいです。本当に、いったい何なのでしょう?
「……それじゃあね。…………あぁそうだ。明日あたり、一緒に何か食べに行きましょうか」
「ま、まぁ良いけど……。いったいどうしたのよ?」
「うんう。気にしないでちょうだい」
叔父さんはそのまま、一人で階段を登っていきます。
「あ、アルジェさん。すみませんがここからは一人で帰っていただいても良いですか? アンジェリカさんにお茶を出さないといけないので」
「え? えぇ、大丈夫よ。ここまでありがとう、リオラさん」
「じゃあねー」
「ん、ありがと」
そうしてリオラさんも、階段を急ぎ足で登って行くのでした。
◆◇◆
「アンジェリカさん!」
「あら、リオラちゃんじゃない。どうしたの?」
後ろからかけられた声にアンジェリカは振り返って答える。
「いえ、お茶を出さなければと思いまして。ギルマスはそういうのダメですから」
「お気遣いありがとねん」
そのまま二人は並んで三階を目指す。
「…………言ってないんですか? 〈予知〉スキルの事」
三階までの階段の折り返し地点に差し掛かった頃、リオラがそう声を発した。
「えぇ。まず、私からは伝えられないもの」
「そう言えばそうでしたね。でも、アルジェさんとスズネさんなら鑑定できますよね?」
「……教えたところで、どうにもならないわ」
そう言うアンジェリカの声は、どこか弱々しい。
「で、でも! ……いえ、すみません。過ぎた真似をしました」
「うふふ、良いのよリオラちゃん。ありがとうね」
その後執務室に着くまで、二人が何かを話すということは無かった。
開いてはいけない扉を開いてしまったような気もする私ですが、今日冒険者ギルドのマスターであるシュテンと面会する予定が有るのは変わりません。
という訳で、全員でギルドに来ています。
情報を求めてきているのか、普段より人の多いギルドロビーに入り、サブマスターのリオラさんのいるカウンターを目指します。
いくつか知った気配がありますが、声をかけるのは後にしておきましょうか。
「やっほーリオラさん。来たよ!」
「あ、スズネさん。それに皆さんも」
少し先を行っていたスズが先に声をかけました。
「それじゃあここお願いね。『戦乙女』と『幻影の従者達』の皆さん、こちらへどうぞ」
他の職員さんに受付業務を任せたリオラさんについてカウンターの内側へ入ります。ギルマスの執務室があるのは、この奥の階段を登った先ですから。
しかしここへ来るのはいつ以来ですかね。
以前シュテンに会った時は勝てる気がしない化け物に感じていましたが、今は私の方が強いんじゃないでしょうか。
そんな事を考えているうちに目的地へたどり着きました。
「ギルマス、アルジェさん達をお連れしました」
ノックをした後にそう言ったリオラさんは、返事を待たずにドアを開きます。そのリオラさんに続いて私たちもその部屋へ入りました。
建物の三階、ギルドの中で一番日当たりが良いこの部屋の漆喰の壁には、竜の頭骨や樹海を描いたらしき絵が飾ってあります。
「お、来たか!」
部屋に入って正面、高そうな執務机からそう声を上げた美丈夫がシュテン。二年前と全く同じ容姿をした『妖鬼族』です。
「と、失礼しました。まずは、下賤な身で貴女様に御足労いただいた事をお詫びします。アルジュエロ殿下」
……やはり人違いだったでしょうか?
「……殿下?」
「はい。貴女様はセフィロティア女王陛下の養孫と公的に認識されておりますので」
……あぁ、そういえば。
闘技大会でアルティカが暴露しちゃったんでした。
「公的な場でも無いんだし、良いわよ。前と同じで。ていうか気持ち悪いからやめて」
「き、気持ち悪い……。はぁ……。まぁその方が俺としても楽だから助かる」
そうですよね。
Sランクですから最低限の礼儀は身につけているとは言え、元は自由を好む冒険者です。彼の気質なら特に。
因みにリオラさんは横で笑うのを我慢してます。
「…………まぁいい。今回は指名依頼の為に呼んだんだ」
「指名依頼?」
スズが疑問の声を上げましたが、十中八九、アレでしょう。
「座って話そう」
シュテンがそう言って指差したのは、壁にかかっている絵を挟むように置かれた一対のソファ。茶色い革張りです。
その一つに私とスズ、ブランの三人が座り、対面にシュテンが座ります。
コスコルとアリスは私たちの後ろ、お茶を入れてくれたリオラさんはシュテンの後ろへそれぞれ立っているようです。
「さて、お前たちを呼んだのは、さっきも言ったように指名依頼を出す為だ」
そう言って順に私たち三人の顔を見ます。
「今回起きるはずのスタンピードを率いるのが、古代竜レテレノという事は知っているな?」
「えぇ」
あの日陛下達から聞きましたから。
「今回依頼するのは、レテレノの討伐だ」
「私たちだけで?」
「ああ」
やっぱりそうなりますよね。
「幸いレテレノは樹海の主ではない。とは言え、古代竜というユニーク個体なのは変わらない。レテレノがどの程度の存在かは判明していないが、少なくともSSランク。今この街にいる連中じゃ力不足だ」
樹海の主というのはアルティカと同じ【調停者】という噂がある存在です。そいつでないのは嬉しい話なのですが、あれだけ情報があってランク判別が出来ていない、ですか……。
「とすると、俺か、元帥閣下、宰相閣下、そしてお前らの誰かが行くことになる。だが俺はここの指揮を取らなきゃなんねぇし、閣下方は王都だ」
今回の相手は竜。空を飛ぶ相手も多い筈ですから、元帥として陛下を守らねばならないアリエルは、万一討ち漏らしが出た場合に備えているのです。
そして宰相のヴェルデは立場上、そもそも前線に出てはいけない人物になります。
「他にSランク以上はいないの?」
「いるにはいるが、ヤツらは他の辺境の街に行ってる」
まぁそうですよね。あのバカみたいに広い竜魔大樹海に接しているのは、リムリア公爵領だけではありませんから。
「となると、もうお前たちしか残らないってわけだ。一番ランクが高いのも『戦乙女』だしな」
余談ですが、世界で初めて『荒ぶる祖霊の社』を攻略した成果を以ってパーティランクがSSランクに上がっています。
更に、ブランとアリスはAランク、コスコルはSランクになりました。
目配せをして、ブランとスズに確認をとります。
二人の返事は、力の籠もった視線と頷き。
「……えぇ、わかったわ。どうせそれ以外にないんだし」
「助かる」
レテレノがどの程度の力を持っているのかはわかりませんが、あの迷宮を攻略した私たち三人なら何とかなるはずです。
それから詳細を詰め、ここでの用事を終えました。
さて、暫くはコンディションの管理に努めましょうかね。
「それじゃあ私たちは行くわ」
「あぁ」
私たちはギルマスの執務室を出て帰路に着きます。
執務室のある三階から二階に降り、そのまま一階へ歩みを進めていると、見知った気配を感じました。
階段の折り返し地点にある踊り場の角から、その気配の主が現れます。
「あら、叔父さんじゃない」
「もう、アルジェちゃんったら! 今の私はアンジェリカだって言ってるでしょう?」
はい。いつもお世話になってる裁縫師兼魔道具技師のゴリマッチョ美形漢女、アンジェリカさんです。
「叔父さんヤッホー!」
「もぅ、スズちゃんまで……」
今私とスズが言った様に、彼女は前世で私たちの叔父、つまりジジイの兄弟だった人になります。
「アンジェリカさん、こんにちは」
「こんにちは、ブランちゃん。ブランちゃんは今日も可愛いわねぇ~。ほら、二人も見習いなさい」
叔父さんまで転生していたと知って、初めは驚きましたね。
今でこそ普通に接してますが、昔は彼女に対して苦手意識をもっていました。四六時中私のお尻を狙ってきていたので……。今でも少し。
なのでこれはちょっとした意趣返しです。呼び方は改めません!
「うん?」
何やら叔父さんがこちらをじっと見つめてきます。
「…………指名依頼、受けたのね?」
「ええ、そうよ?」
何でしょう。叔父さんの雰囲気が変わりました。
「っ!? ちょ、叔父さん!?」
と思ったら突然のハグ。いったいどうしたんでしょう?
「…………アルジェちゃん、何があっても、我を失ったらダメよ?」
「え、えぇ」
私を離した後は、そのままスズとブランを纏めて抱きしめます。
「スズちゃん、ブランちゃん。……愛してるわ」
「ほぇ!? 叔父さん急にどうしたの!?」
スズは困惑の声を上げ、ブランも目を白黒させてます。
叔父さんの声は、どこか湿っぽいです。本当に、いったい何なのでしょう?
「……それじゃあね。…………あぁそうだ。明日あたり、一緒に何か食べに行きましょうか」
「ま、まぁ良いけど……。いったいどうしたのよ?」
「うんう。気にしないでちょうだい」
叔父さんはそのまま、一人で階段を登っていきます。
「あ、アルジェさん。すみませんがここからは一人で帰っていただいても良いですか? アンジェリカさんにお茶を出さないといけないので」
「え? えぇ、大丈夫よ。ここまでありがとう、リオラさん」
「じゃあねー」
「ん、ありがと」
そうしてリオラさんも、階段を急ぎ足で登って行くのでした。
◆◇◆
「アンジェリカさん!」
「あら、リオラちゃんじゃない。どうしたの?」
後ろからかけられた声にアンジェリカは振り返って答える。
「いえ、お茶を出さなければと思いまして。ギルマスはそういうのダメですから」
「お気遣いありがとねん」
そのまま二人は並んで三階を目指す。
「…………言ってないんですか? 〈予知〉スキルの事」
三階までの階段の折り返し地点に差し掛かった頃、リオラがそう声を発した。
「えぇ。まず、私からは伝えられないもの」
「そう言えばそうでしたね。でも、アルジェさんとスズネさんなら鑑定できますよね?」
「……教えたところで、どうにもならないわ」
そう言うアンジェリカの声は、どこか弱々しい。
「で、でも! ……いえ、すみません。過ぎた真似をしました」
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