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最終章 軌跡の終着点
第2話 急来
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8-2
スキルがある程度まともに使えるようになって、一年が経ちました。まだ完治してはいませんが、〈制魂解放〉さえ使わなければ戦闘も可能です。
今は寝る前ののんびりしたひと時。屋敷のリビングでそれぞれ好きなように過ごしています。
「あーっ! また負けたー!」
窓際のティーテーブルに座り、女中頭のイーサが入れてくれたハーブティーに癒されていると、そんな声が聞こえます。
「もう一回! もう一回お願い!」
「スズ姉様頑張って……!」
先程の声の主は、リビングの中央にあるソファに座るスズ。木製の机の上にあるチェス盤を挟んで向かいに座るのは、家令のセバンです。
どうやらまた負けたみたいですね。
ブランの仇をとるんだと意気込んでいましたが、これで三連敗です。
ムキになるスズを見て笑うのを堪えていると、ふと、視界の端の銀色に意識がいきました。
その銀色、左手の人差し指に嵌められた指輪を顔の前にもっていきます。
一見すれば、なんの変哲もない銀色の指輪。細身のそれには、なんの装飾もありません。
しかしこの指輪から感じる威圧感は愛剣やドレスに準じ、望めば物質に干渉しなくなる能力もあります。外して遠くに持って行ってもらったとしても、気が付けば私の指に収まっていました。
私はそんな指輪に向かってある事を念じます。
銀色から玉虫色へと変色した後、指輪は徐々に形を変えていきます。
やがて元の銀色に戻ったそれの形は、掌ほどの大きさの鍵。
四角い持ち手に不思議な文字のような模様が刻まれており、棒状に伸びた先には不規則な形で鍵となる突起がついています。
あの神関係で、銀色の鍵と言ったらもうアレしかありませんよね。あの神の下へ行くための扉を開く、あの鍵です。
まぁ今のところ、私の意思で行く予定はありません。暫くはただの空間系の補助効果を持った魔道具だと思っておけば良いでしょう。
「へぇ……それ、凄いわね」
「凄いというか凄すぎるというか……ってアルティカ!?」
「もぅ……いつかみたいにお祖母ちゃんって呼んでくれていいのよ?」
ほらやっぱり、あれで調子乗って……って今はそんな事どうでも良いです!
急に来るから、私の声で気づいたイーサとセバンがビックリしちゃってるじゃないですか!
イーサは慌ててお茶の用意に移り、セバンはチェスを放り出して側に控えています。
スズとブランもこちらへ歩いてきました。
「いつの間に、いえ、どうやって来たのよ!?」
「どうって……玄関から歩いてよ? 気配は消してたけど」
考え事をしていたとは言え、全く気がつきませんでした……。
とりあえず、鍵を指輪に戻しておきます。
「……はぁ。来るのはいいけど、何も言わずに入るのはやめてちょうだい。この屋敷の使用人たちは慣れてないんだから」
ローズやリリも急に来ていましたが、ちゃんと断ってから入ってましたからね。いきなり部屋の中に現れられても、もてなす用意というものがあります。
「それは、ごめんなさい。あなたたちしかいないと思ってたから……。そういえば、アリスちゃんとコスコルくんがいないわね?」
「二人なら、お姉ちゃんの代わりに西大陸に行ってるよ」
スズが〈ストレージ〉から椅子を二つ出しながら答えます。
て、スズ、あなたそれ食堂用のじゃないですか……。
「あ、物置にあった予備だから安心して!」
いえ、そういう事じゃなくて……。まぁいいでしょう。
心を読んでくることにはもう言及しません。
アルティカがティーテーブルを挟んで私の正面に座り、続いてスズ、ブランと並んびます。
「それで、何しに向こうへ?」
「ほら、お姉ちゃん、私のことで聖国滅しちゃったじゃん?」
「そういえばそうね。グッジョブ!」
……やばい事したつもりでしたが、二人とも軽いですね? それにグッジョブって、何を翻訳したらコレになるんです……?
「それで生き残った人たちが新しく国を興すみたいなんだけど、その統治の許可が欲しいって冒険者ギルド経由でお願いされたの。お姉ちゃんは今動けないから、二人が代理で行ってるってわけ」
「…………アルジェちゃん、何したの? 放置してたのよね? なんでアルジェちゃんに許可を求めちゃうような事になってるのよ?」
「……剣のスキルで眷属化した奴らを国中の人族至上主義者に嗾けただけよ。ええ……」
魔王とかって聞こえましたし、それですよね……。
「ちょっと待って、覗く。…………あぁ、うん。コレは怖がられるわね」
なんかアルティカがトオイメをしてますね。まぁ、私もしてると思いますが。
「うーん、でもまぁ、ちょうどいいかもしれないわね……」
「何がよ?」
「魂の修復が終わったらだけど、たぶん――」
チリンっ
【魂の修復が完了しました。
〈魂魄領域拡張〉がレベルMaxになりました。
条件を満たしました。
〈目覚め施す黒炎の王〉、〈黄衣纏う星嵐の王〉、〈怠惰なる地底の王〉、〈古都に眠る水生の王〉、〈這い寄る混沌〉を統合進化します。
成功しました。
〈原初なる万物の王〉を修得しました。 】
そんな『世界の声』が聞こえると同時に指輪が独りでに変形を始め、浮き上がります。
「スズ、ブラン! 頼んだわ――」
そして私の視界が白に塗りつぶされたのでした。
スキルがある程度まともに使えるようになって、一年が経ちました。まだ完治してはいませんが、〈制魂解放〉さえ使わなければ戦闘も可能です。
今は寝る前ののんびりしたひと時。屋敷のリビングでそれぞれ好きなように過ごしています。
「あーっ! また負けたー!」
窓際のティーテーブルに座り、女中頭のイーサが入れてくれたハーブティーに癒されていると、そんな声が聞こえます。
「もう一回! もう一回お願い!」
「スズ姉様頑張って……!」
先程の声の主は、リビングの中央にあるソファに座るスズ。木製の机の上にあるチェス盤を挟んで向かいに座るのは、家令のセバンです。
どうやらまた負けたみたいですね。
ブランの仇をとるんだと意気込んでいましたが、これで三連敗です。
ムキになるスズを見て笑うのを堪えていると、ふと、視界の端の銀色に意識がいきました。
その銀色、左手の人差し指に嵌められた指輪を顔の前にもっていきます。
一見すれば、なんの変哲もない銀色の指輪。細身のそれには、なんの装飾もありません。
しかしこの指輪から感じる威圧感は愛剣やドレスに準じ、望めば物質に干渉しなくなる能力もあります。外して遠くに持って行ってもらったとしても、気が付けば私の指に収まっていました。
私はそんな指輪に向かってある事を念じます。
銀色から玉虫色へと変色した後、指輪は徐々に形を変えていきます。
やがて元の銀色に戻ったそれの形は、掌ほどの大きさの鍵。
四角い持ち手に不思議な文字のような模様が刻まれており、棒状に伸びた先には不規則な形で鍵となる突起がついています。
あの神関係で、銀色の鍵と言ったらもうアレしかありませんよね。あの神の下へ行くための扉を開く、あの鍵です。
まぁ今のところ、私の意思で行く予定はありません。暫くはただの空間系の補助効果を持った魔道具だと思っておけば良いでしょう。
「へぇ……それ、凄いわね」
「凄いというか凄すぎるというか……ってアルティカ!?」
「もぅ……いつかみたいにお祖母ちゃんって呼んでくれていいのよ?」
ほらやっぱり、あれで調子乗って……って今はそんな事どうでも良いです!
急に来るから、私の声で気づいたイーサとセバンがビックリしちゃってるじゃないですか!
イーサは慌ててお茶の用意に移り、セバンはチェスを放り出して側に控えています。
スズとブランもこちらへ歩いてきました。
「いつの間に、いえ、どうやって来たのよ!?」
「どうって……玄関から歩いてよ? 気配は消してたけど」
考え事をしていたとは言え、全く気がつきませんでした……。
とりあえず、鍵を指輪に戻しておきます。
「……はぁ。来るのはいいけど、何も言わずに入るのはやめてちょうだい。この屋敷の使用人たちは慣れてないんだから」
ローズやリリも急に来ていましたが、ちゃんと断ってから入ってましたからね。いきなり部屋の中に現れられても、もてなす用意というものがあります。
「それは、ごめんなさい。あなたたちしかいないと思ってたから……。そういえば、アリスちゃんとコスコルくんがいないわね?」
「二人なら、お姉ちゃんの代わりに西大陸に行ってるよ」
スズが〈ストレージ〉から椅子を二つ出しながら答えます。
て、スズ、あなたそれ食堂用のじゃないですか……。
「あ、物置にあった予備だから安心して!」
いえ、そういう事じゃなくて……。まぁいいでしょう。
心を読んでくることにはもう言及しません。
アルティカがティーテーブルを挟んで私の正面に座り、続いてスズ、ブランと並んびます。
「それで、何しに向こうへ?」
「ほら、お姉ちゃん、私のことで聖国滅しちゃったじゃん?」
「そういえばそうね。グッジョブ!」
……やばい事したつもりでしたが、二人とも軽いですね? それにグッジョブって、何を翻訳したらコレになるんです……?
「それで生き残った人たちが新しく国を興すみたいなんだけど、その統治の許可が欲しいって冒険者ギルド経由でお願いされたの。お姉ちゃんは今動けないから、二人が代理で行ってるってわけ」
「…………アルジェちゃん、何したの? 放置してたのよね? なんでアルジェちゃんに許可を求めちゃうような事になってるのよ?」
「……剣のスキルで眷属化した奴らを国中の人族至上主義者に嗾けただけよ。ええ……」
魔王とかって聞こえましたし、それですよね……。
「ちょっと待って、覗く。…………あぁ、うん。コレは怖がられるわね」
なんかアルティカがトオイメをしてますね。まぁ、私もしてると思いますが。
「うーん、でもまぁ、ちょうどいいかもしれないわね……」
「何がよ?」
「魂の修復が終わったらだけど、たぶん――」
チリンっ
【魂の修復が完了しました。
〈魂魄領域拡張〉がレベルMaxになりました。
条件を満たしました。
〈目覚め施す黒炎の王〉、〈黄衣纏う星嵐の王〉、〈怠惰なる地底の王〉、〈古都に眠る水生の王〉、〈這い寄る混沌〉を統合進化します。
成功しました。
〈原初なる万物の王〉を修得しました。 】
そんな『世界の声』が聞こえると同時に指輪が独りでに変形を始め、浮き上がります。
「スズ、ブラン! 頼んだわ――」
そして私の視界が白に塗りつぶされたのでした。
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