132 / 145
最終章 軌跡の終着点
第3話 境界の門へ(前編)
しおりを挟む
8-3
「スズ、ブラン! 頼んだわ――」
「アルジェちゃん!?」
部屋の中が白い光に包まれ、先程までスズネたち五人の前にいたアルジュエロが姿を消す。
仕様人たちを束ねるセバンとイーサとは言え、突然起きた事態にただただ呆然とするしかない。
「なんで転移先の情報が一切読み取れないのっ!?」
このような事態に慣れているはずのアルティカでさえ狼狽えるばかりだ。
いや、【調停者】である彼女だからこその部分も大きいだろう。『世界の記憶』へのアクセス権限を持つ彼女が、何もわからないのだから。
「お祖母ちゃん、落ち着いて」
「ん。姉様は、大丈夫」
そんな中、最愛の長姉が消え去って一番取り乱す筈の二人がそんな言葉を口にする。
「お、落ち着いてって――っ!」
アルティカは抗議しようと二人の方を見て、気がついた。
二人の目には、何かを覚悟したような、強烈な意志が宿っている事に。
アルティカは続けようとした言葉を飲み込んで問う。
「二人は、何か知ってるのね?」
「うん」
スズネがハッキリと肯定した。
「すぅ……はぁ…………。教えてちょうだい」
「今姉様は、副王様の所にいる」
ブランが静かに言った。
「……っ!?」
「なっ!?」
イーサが目を見開き、セバンが驚きの声を上げたのも無理は無いだろう。この世界において、『副王』と呼ばれるオー=タイトゥースは、創造主。最高神であるのだから。
対して、アルティカは納得していた。
世界の【管理者】であるセフィロスと深い関わりを持つ【調停者】なのは、彼女がどこの国を治めているかを考えれば自明だろう。
世界を管理する、その為に必要な能力として、アルティカは非常に高い空間系の知覚能力を持っている。度々彼女が行う遠見もその能力によるものだ。
そんなアルティカでさえ、アルジェの転移先を把握ができない場所。魔法の行使者。それが空間系の権能も持つ最高神であるならば、と納得する他なかったのだ。
「なるほどね……。それで、何を頼まれてるの?」
「ちょっと届け物をね」
スズネの言葉はいつも通りの軽い調子だ。しかしその口調や表情は、研ぎ澄まされた刃物のような空気を纏っている。
「……どこから行けるの?」
「お祖母ちゃん……ありがとう」
アルティカの意思を感じたスズネは、そのまま顔を仕様人二人の方へと向けた。
「セバンさん、イーサさん、ちょっと席を外してもらっていい?」
有無を言わせない強い口調だ。
未だ衝撃から立ち直れていない二人ではあったが、すぐに礼をしてその場を後にした。主人のことではあるが、スズネの気遣いを無下にできなかったのだ。
「それで、どこから行けるかだったよね。場所は、普通の人は誰も知らない三つ目の大陸。お祖母ちゃんなら、知ってるよね?」
「えぇ、存在だけはね」
「そこの中心にある門から行けるんだって」
「そこまではどうやって? 転移は無理よ?」
ここで初めてスズネは口角を少し上げ、自身ありげに言う。
「大丈夫、当てがあるから」
その様子にアルティカは、心配すべき事はないと判断して冷めてかけた紅茶を口に含む。
「門がどんな形をしてるかわからないのはちょっと不安だけどね」
「ん、大丈夫。さっき見えた」
「あら、ブランちゃんはあの光の中でも見えるのね?」
「うん。魔眼」
凡ゆる力を視覚的に見る事が出来るブランの魔眼には、他の者には光にしか見えなかった次元を超える力の塊が、扉の形として映っていたのだ。
「なら大丈夫だね。……それじゃ、明日の朝、朝食を食べたら出発しよっか」
「うん」
「私も食事が終わったらすぐに来るわ」
それぞれ挨拶の言葉を口にした後、アルティカは転移で帰り、スズネとブランは寝室へと向かった。
◆◇◆
翌日、スズネ、ブラン、アルティカの三人は薄暗い『竜魔大樹海』の奥深くにいた。
高層ビルのような木々に囲まれたそこは、不思議なことに、本来より多くの光を必要とする筈の植物までもが群生している。
「少し離れた所に転移したわ。ここから歩いて行きましょう」
「うん」
スズネとブランはいつもの装備。アルティカも、普段のローブではなく深緑色の竜革を使った部分鎧を身につけている。その下の淡い緑色をしたシャツや焦げ茶色のパンツは、世界樹から採った繊維で織った物だ。
そこは樹海の最深部という危険地帯であるにも関わらず、穏やかな空気に満ちていた。
時々Sランク相当の魔物と遭遇するも、戦闘にはならない。
いくらその魔物たちが比較的穏やかな気質だと言っても、同時に警戒心強い彼らが、すぐ側を通るスズネたちになんのリアクションも取らないのは不自然な事であった。
しかしスズネたちはその事を気に留めない。
理由を知っているからだ。
やがて、スズネたちの目に木々の隙間から陽光を反射する水面が見えた。
「ん、着いた」
「だねー」
木々の隙間を抜けると、そこにあったのは大きな入江だ。
透き通った水が砂の浜辺に寄せては返す。
左右を見れば、大きく湾曲した海岸線には多くの魔物たちが身を休ませており、水浴びをしているモノもいる。
水中から顔を出すのは、水竜たち。首長竜のようであったり、蛇のようであったり、姿形は様々だ。
草むらや花畑も点々とするそこは、さながらリゾート地のようであり、非常にのんびりとしている。
「さて、すぐ近くにはいないみたいだね」
「うん……どうやって呼ぼう?」
辺りを見渡していたスズネの言葉に、ブランが首を傾げながら答えた。
「海に向けて、軽く魔力を放出すればいいはずよ」
「おっけー」
三人は砂浜へと降りていく。
波の届かない辺りでブランとアルティカは止まり、スズネだけが波打ち際まで進んだ。
そして魔力を放出すると、すぐに二人の元へ戻る。
「こんな感じでよかった?」
「えぇ」
しばらくして、三人は近づいてくる巨大な気配に気がついた。
海面が盛り上がる。
打ち上げられた海水の雨が三人を濡らす。
そしてその存在が姿を現した。
蛇のように長い体、深い青に輝く鱗、枝分かれした象牙色の二本角。
大樹海の主にして、水を司る【調停者】、『水龍ミルズネアシア』が。
「スズ、ブラン! 頼んだわ――」
「アルジェちゃん!?」
部屋の中が白い光に包まれ、先程までスズネたち五人の前にいたアルジュエロが姿を消す。
仕様人たちを束ねるセバンとイーサとは言え、突然起きた事態にただただ呆然とするしかない。
「なんで転移先の情報が一切読み取れないのっ!?」
このような事態に慣れているはずのアルティカでさえ狼狽えるばかりだ。
いや、【調停者】である彼女だからこその部分も大きいだろう。『世界の記憶』へのアクセス権限を持つ彼女が、何もわからないのだから。
「お祖母ちゃん、落ち着いて」
「ん。姉様は、大丈夫」
そんな中、最愛の長姉が消え去って一番取り乱す筈の二人がそんな言葉を口にする。
「お、落ち着いてって――っ!」
アルティカは抗議しようと二人の方を見て、気がついた。
二人の目には、何かを覚悟したような、強烈な意志が宿っている事に。
アルティカは続けようとした言葉を飲み込んで問う。
「二人は、何か知ってるのね?」
「うん」
スズネがハッキリと肯定した。
「すぅ……はぁ…………。教えてちょうだい」
「今姉様は、副王様の所にいる」
ブランが静かに言った。
「……っ!?」
「なっ!?」
イーサが目を見開き、セバンが驚きの声を上げたのも無理は無いだろう。この世界において、『副王』と呼ばれるオー=タイトゥースは、創造主。最高神であるのだから。
対して、アルティカは納得していた。
世界の【管理者】であるセフィロスと深い関わりを持つ【調停者】なのは、彼女がどこの国を治めているかを考えれば自明だろう。
世界を管理する、その為に必要な能力として、アルティカは非常に高い空間系の知覚能力を持っている。度々彼女が行う遠見もその能力によるものだ。
そんなアルティカでさえ、アルジェの転移先を把握ができない場所。魔法の行使者。それが空間系の権能も持つ最高神であるならば、と納得する他なかったのだ。
「なるほどね……。それで、何を頼まれてるの?」
「ちょっと届け物をね」
スズネの言葉はいつも通りの軽い調子だ。しかしその口調や表情は、研ぎ澄まされた刃物のような空気を纏っている。
「……どこから行けるの?」
「お祖母ちゃん……ありがとう」
アルティカの意思を感じたスズネは、そのまま顔を仕様人二人の方へと向けた。
「セバンさん、イーサさん、ちょっと席を外してもらっていい?」
有無を言わせない強い口調だ。
未だ衝撃から立ち直れていない二人ではあったが、すぐに礼をしてその場を後にした。主人のことではあるが、スズネの気遣いを無下にできなかったのだ。
「それで、どこから行けるかだったよね。場所は、普通の人は誰も知らない三つ目の大陸。お祖母ちゃんなら、知ってるよね?」
「えぇ、存在だけはね」
「そこの中心にある門から行けるんだって」
「そこまではどうやって? 転移は無理よ?」
ここで初めてスズネは口角を少し上げ、自身ありげに言う。
「大丈夫、当てがあるから」
その様子にアルティカは、心配すべき事はないと判断して冷めてかけた紅茶を口に含む。
「門がどんな形をしてるかわからないのはちょっと不安だけどね」
「ん、大丈夫。さっき見えた」
「あら、ブランちゃんはあの光の中でも見えるのね?」
「うん。魔眼」
凡ゆる力を視覚的に見る事が出来るブランの魔眼には、他の者には光にしか見えなかった次元を超える力の塊が、扉の形として映っていたのだ。
「なら大丈夫だね。……それじゃ、明日の朝、朝食を食べたら出発しよっか」
「うん」
「私も食事が終わったらすぐに来るわ」
それぞれ挨拶の言葉を口にした後、アルティカは転移で帰り、スズネとブランは寝室へと向かった。
◆◇◆
翌日、スズネ、ブラン、アルティカの三人は薄暗い『竜魔大樹海』の奥深くにいた。
高層ビルのような木々に囲まれたそこは、不思議なことに、本来より多くの光を必要とする筈の植物までもが群生している。
「少し離れた所に転移したわ。ここから歩いて行きましょう」
「うん」
スズネとブランはいつもの装備。アルティカも、普段のローブではなく深緑色の竜革を使った部分鎧を身につけている。その下の淡い緑色をしたシャツや焦げ茶色のパンツは、世界樹から採った繊維で織った物だ。
そこは樹海の最深部という危険地帯であるにも関わらず、穏やかな空気に満ちていた。
時々Sランク相当の魔物と遭遇するも、戦闘にはならない。
いくらその魔物たちが比較的穏やかな気質だと言っても、同時に警戒心強い彼らが、すぐ側を通るスズネたちになんのリアクションも取らないのは不自然な事であった。
しかしスズネたちはその事を気に留めない。
理由を知っているからだ。
やがて、スズネたちの目に木々の隙間から陽光を反射する水面が見えた。
「ん、着いた」
「だねー」
木々の隙間を抜けると、そこにあったのは大きな入江だ。
透き通った水が砂の浜辺に寄せては返す。
左右を見れば、大きく湾曲した海岸線には多くの魔物たちが身を休ませており、水浴びをしているモノもいる。
水中から顔を出すのは、水竜たち。首長竜のようであったり、蛇のようであったり、姿形は様々だ。
草むらや花畑も点々とするそこは、さながらリゾート地のようであり、非常にのんびりとしている。
「さて、すぐ近くにはいないみたいだね」
「うん……どうやって呼ぼう?」
辺りを見渡していたスズネの言葉に、ブランが首を傾げながら答えた。
「海に向けて、軽く魔力を放出すればいいはずよ」
「おっけー」
三人は砂浜へと降りていく。
波の届かない辺りでブランとアルティカは止まり、スズネだけが波打ち際まで進んだ。
そして魔力を放出すると、すぐに二人の元へ戻る。
「こんな感じでよかった?」
「えぇ」
しばらくして、三人は近づいてくる巨大な気配に気がついた。
海面が盛り上がる。
打ち上げられた海水の雨が三人を濡らす。
そしてその存在が姿を現した。
蛇のように長い体、深い青に輝く鱗、枝分かれした象牙色の二本角。
大樹海の主にして、水を司る【調停者】、『水龍ミルズネアシア』が。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる