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最終章 軌跡の終着点
第4話 境界の門へ(後編)
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8-4
スズネたちは降り注ぐ海水と海水が反射した陽光に目を細める。
「早速、この私の力が必要になったか。血の契りを結びし人の子らよ」
落ち着いた声が響く。
「早速って、もう二年も経ってるよ、ミズナさん」
「ふふふ……。悠久を生きる身からすれば、二年など一瞬よ。お主ならわかるであろう? 土の代理者よ」
ミズナこと、水龍ミルズネアシアはアルティカへと顔を向けてそう言った。
アルティカは一つ頷いて返す。
「土の代理者?」
首を傾げ、疑問の声を上げたのはブランだ。
「えぇ。【調停者】の中にはね、ミズナ様を始めとして世界の属性のバランスを保つ役割を持った方々がいるの。でも今は土属性の担当が不在でね。【管理者】セフィロス様とその眷属である私が代理をしてるのよ」
『始まりの吸血族』と呼ばれる『吸血族』の始祖や、鬼神の系譜の頂点、『鬼神族』の長、一部の龍がコレに当たる。
スズネとブランはなんとなく理解しただけだったが、詳しい事は、きっと長姉に聞けば良いと思って視線をミズナに戻した。
「お主らもその内分かるようになる」
「そか。私たちも寿命無いみたいなものだもんね」
「そういうことだ。……して、そろそろ本題を聞いても良いだろうか?」
ミズナの問いに、スズネは気を引き締め直して口を開く。その表情はあの闘技大会の決勝を思わせる程に真剣だ。
「うん。この星の裏側にある、もう一つの大陸に連れてって欲しいんだ」
ミズナは何故スズネ達がその大陸の事を知っているのかと驚き、目を見開いた。
そして再びアルティカを見る。
「私ではありませんよ。アルジェちゃん、この子達の姉から聞かされていたようです」
「……彼女か。なるほど。あのお方の加護を受ける彼女ならば、知っていてもおかしくはないのであろう……」
彼は、アルティカがスズネとブランの契約者であるアルジェを姉と言ったことには気を止めなかった。『吸血族』の上位者たちが『血の盟約』を結ぶ時、多くの場合多種族を家族として迎えるためだと知っていたからだ。
「……彼女が、彼の地に……あの大陸の門を超えた先に居るのだな?」
「うん」
スズネが頷いた。
その目は真っ直ぐとミズナを見据えている。
ミズナは目を瞑り考える。
あの恩人は、なぜ、彼の地にいるのか。
目の前の少女たち、なぜ、危険を冒してまで、姉だというあの恩人のもとへ行こうとしているのか。
時間にするとほんの数秒。スキルによって思考を加速しての思考。
あの大陸は、禁断の地。
いくら水を司る【調停者】である水龍ミルズネアシアと言えど、容易に近づいて良い場所ではない。
いや、寧ろ【調停者】という立場だからこそ、世界のバランスを乱しかねないその行為は戒められるべきものなのだ。
本当に彼女たちを連れて行って良いのだろうか、とミズナは自問する。
ミズナの考え込む様子に気がついたアルティカが口を開いた。
「私からも、お願いいたします。あの子の、そしてこの子たちの祖母を名乗る者として、放って置くことなどできませんから」
それを聞いてミズナの脳裏に過った存在がいた。
彼にも子はいる。
その多くはもう遠に寿命を終えているが、その子や孫もいる。しかしその竜たちでは無い。
絶対強者である竜種にとって、家族という認識は薄いものだ。概念を知識として理解している、と言う方が正しいかもしれない。
それでも、全くないわけでは無いのだ。
ふと思い出したその存在、同じ竜種とは言え、自身とは元となる種族の異なる、しかし娘のように思っていた一体の古代竜。
ミズナはゆっくりと目を開けた。
「……良かろう。だが、連れて行くだけだ。そこから先は、お主たちの成すべきこと」
「うん、ありがとう!」
スズネが顔を輝かせ、ブランがホッと息をつく。少し不安になっていたのだ。
「そういえば、まだ私たちの名前を教えてなかったね。私はスズネ。スズネ・グラシア!」
「わ、私、は、ブラン・グラシア」
未だ人見知りをしているブランも、最愛の姉から与えられたその名だけはハッキリと言った。
もちろん、ミズナは初めて会った時に確認していたのだが、そんな無粋な事は言わない。
「グラシア……か。良い名だ」
「でしょ!」
その繋がりの証を褒められて、嬉しく無い者はその場にいなかった。スズネは自慢げに笑みを浮かべ、ブランもどこか誇らしげだ。
「……私も姓、変えようかしら?」
「お祖母様が変えるのは、良くない」
「だねー」
「じょ、冗談よ? もちろん」
目を逸らしながらそう言い訳するアルティカに、三人は笑う。
入江に三つの笑い声が響く。
「では、行こうか。角の辺りに乗りなさい」
「わかった」
スズネたち三人は気を引き締めてミズナの頭に乗る。
姉を取り戻すために。
これから先に待ち受けているのが、神の試練と言うに相応しいものだとわかっていても、彼女たちに引ける理由など、ある筈がないのだ。
彼女たちを後押しするように、強い風が吹いた。
離れて行く長閑な海岸を見て、スズネは思う。
(次は、お姉ちゃんも一緒に来よう。大丈夫。必ず来れるから)
前へ戻した視線の先には、入道雲が見えた。
スズネたちは降り注ぐ海水と海水が反射した陽光に目を細める。
「早速、この私の力が必要になったか。血の契りを結びし人の子らよ」
落ち着いた声が響く。
「早速って、もう二年も経ってるよ、ミズナさん」
「ふふふ……。悠久を生きる身からすれば、二年など一瞬よ。お主ならわかるであろう? 土の代理者よ」
ミズナこと、水龍ミルズネアシアはアルティカへと顔を向けてそう言った。
アルティカは一つ頷いて返す。
「土の代理者?」
首を傾げ、疑問の声を上げたのはブランだ。
「えぇ。【調停者】の中にはね、ミズナ様を始めとして世界の属性のバランスを保つ役割を持った方々がいるの。でも今は土属性の担当が不在でね。【管理者】セフィロス様とその眷属である私が代理をしてるのよ」
『始まりの吸血族』と呼ばれる『吸血族』の始祖や、鬼神の系譜の頂点、『鬼神族』の長、一部の龍がコレに当たる。
スズネとブランはなんとなく理解しただけだったが、詳しい事は、きっと長姉に聞けば良いと思って視線をミズナに戻した。
「お主らもその内分かるようになる」
「そか。私たちも寿命無いみたいなものだもんね」
「そういうことだ。……して、そろそろ本題を聞いても良いだろうか?」
ミズナの問いに、スズネは気を引き締め直して口を開く。その表情はあの闘技大会の決勝を思わせる程に真剣だ。
「うん。この星の裏側にある、もう一つの大陸に連れてって欲しいんだ」
ミズナは何故スズネ達がその大陸の事を知っているのかと驚き、目を見開いた。
そして再びアルティカを見る。
「私ではありませんよ。アルジェちゃん、この子達の姉から聞かされていたようです」
「……彼女か。なるほど。あのお方の加護を受ける彼女ならば、知っていてもおかしくはないのであろう……」
彼は、アルティカがスズネとブランの契約者であるアルジェを姉と言ったことには気を止めなかった。『吸血族』の上位者たちが『血の盟約』を結ぶ時、多くの場合多種族を家族として迎えるためだと知っていたからだ。
「……彼女が、彼の地に……あの大陸の門を超えた先に居るのだな?」
「うん」
スズネが頷いた。
その目は真っ直ぐとミズナを見据えている。
ミズナは目を瞑り考える。
あの恩人は、なぜ、彼の地にいるのか。
目の前の少女たち、なぜ、危険を冒してまで、姉だというあの恩人のもとへ行こうとしているのか。
時間にするとほんの数秒。スキルによって思考を加速しての思考。
あの大陸は、禁断の地。
いくら水を司る【調停者】である水龍ミルズネアシアと言えど、容易に近づいて良い場所ではない。
いや、寧ろ【調停者】という立場だからこそ、世界のバランスを乱しかねないその行為は戒められるべきものなのだ。
本当に彼女たちを連れて行って良いのだろうか、とミズナは自問する。
ミズナの考え込む様子に気がついたアルティカが口を開いた。
「私からも、お願いいたします。あの子の、そしてこの子たちの祖母を名乗る者として、放って置くことなどできませんから」
それを聞いてミズナの脳裏に過った存在がいた。
彼にも子はいる。
その多くはもう遠に寿命を終えているが、その子や孫もいる。しかしその竜たちでは無い。
絶対強者である竜種にとって、家族という認識は薄いものだ。概念を知識として理解している、と言う方が正しいかもしれない。
それでも、全くないわけでは無いのだ。
ふと思い出したその存在、同じ竜種とは言え、自身とは元となる種族の異なる、しかし娘のように思っていた一体の古代竜。
ミズナはゆっくりと目を開けた。
「……良かろう。だが、連れて行くだけだ。そこから先は、お主たちの成すべきこと」
「うん、ありがとう!」
スズネが顔を輝かせ、ブランがホッと息をつく。少し不安になっていたのだ。
「そういえば、まだ私たちの名前を教えてなかったね。私はスズネ。スズネ・グラシア!」
「わ、私、は、ブラン・グラシア」
未だ人見知りをしているブランも、最愛の姉から与えられたその名だけはハッキリと言った。
もちろん、ミズナは初めて会った時に確認していたのだが、そんな無粋な事は言わない。
「グラシア……か。良い名だ」
「でしょ!」
その繋がりの証を褒められて、嬉しく無い者はその場にいなかった。スズネは自慢げに笑みを浮かべ、ブランもどこか誇らしげだ。
「……私も姓、変えようかしら?」
「お祖母様が変えるのは、良くない」
「だねー」
「じょ、冗談よ? もちろん」
目を逸らしながらそう言い訳するアルティカに、三人は笑う。
入江に三つの笑い声が響く。
「では、行こうか。角の辺りに乗りなさい」
「わかった」
スズネたち三人は気を引き締めてミズナの頭に乗る。
姉を取り戻すために。
これから先に待ち受けているのが、神の試練と言うに相応しいものだとわかっていても、彼女たちに引ける理由など、ある筈がないのだ。
彼女たちを後押しするように、強い風が吹いた。
離れて行く長閑な海岸を見て、スズネは思う。
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前へ戻した視線の先には、入道雲が見えた。
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