12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

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最終章 軌跡の終着点

第15話 巡る因果の果てに(後編)

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8-15

 〈制魂解放〉をで開放する。レテレノを討った時と同じ、強化能力自体を強化する事による限界を超えたスキル行使だ。
 違う事を挙げるとすれば、出力が向上している事と、そして、あのピシリという魂にヒビが入る音が聞こえていない事。

 前方、スズの姿をしたディアスを睥睨へいげいする。

 スズの姿をしているだけでスズでは無い。なら、武技にこだわる必要もない。
 ここは当初の予定通り、あの魔法の準備を始める。

 刀を右へ動かすと、金属同士がぶつかった甲高い音がした。
 元の位置にディアスの姿はない。
 膝の力を抜き、沈み込む。
 頭上を何かが通り過ぎた。
 刀で左上をガードしつつ、立ち上がりながら後方を蹴り抜く。

「くっ……!」

 手応え有り。

 脚を引き戻し、刀で受けた剣を押さえつけ、逆脚で後ろ回し蹴り。

 足裏でガードされた。そのまま伸び上がり宙で一回転して距離を取られる。

「……亜光速が、見えているのか? いや、たとえ見えていても肉体に頼る人間に反応できる筈がない。どういう仕掛けだ?」
「さぁね?」

 実際、入り以外は殆ど見えていないし、入りを見てから反応できる速さではない。単純に、そこに来るだろうと予測して先に動いているだけだ。

(スズの動きは、ブラフじゃない可能性が高そうね。正直助かったわ)
「……ちっ、憎き魔王の使徒め。この人間の心に細工をしていたかっ!」

 どうやら心を読もうとしたらしいが、あの三柱によって対策済み。とは言え、バレるのは時間の問題だろう。

 さて、向こうが態々作ってくれた時間で多少準備は進んだ。しかし神相手に隠蔽しながらだ。まだ時間は掛かる。
 その前に仕留められたならそれで良いが、そう簡単にはいかないだろう。

 正面に空間断絶による障壁を作り、{虚無イネイン]を背後に放つ。そのまま体を捻って刀を薙いだ。
 刀はディアスの右の剣による袈裟斬りを払い除ける。
 すぐさま一歩後退し、弾かれた勢いで回転するディアスの、左手の剣を避ける。
 同時に先程放ち、避けられたらしい[虚無]を制御。遅れて来た右の剣を柔らかく受け止めて勢いを殺し、ディアスの動きを止める。
 制御した[虚無]は地面スレスレを通ってアッパーカットのようにディアスを背後から襲った。
 これは光によって相殺されダメージにはならなかったが、意識を逸らすには十分。受け止めた剣を軸にして跳び、後頭部へ膝蹴りを叩き込む。

「っ!?」

 足を出して踏ん張ろうとしたディアスがフラついた。更に狼狽した気配を感じる。なるほど、これまで物理的な肉体を持たなかった為に脳震盪で驚いたのか。

 これは好機。
 雷を発生させ、一部は雷撃、一部は筋肉を刺激するものとして使う。
 中空に足場を作り、蹴る。

 ――川上流『建御雷』

 距離が短い為に十分な加速ではないが、そこは転生によって得た膂力で補う。
 核を目掛けて振るった一刀はしかし、[女神の守護セア・フィーアカス]によって防がれてしまった。

(まずっ……!)

 その隙を見逃してはくれない。
 ついていた手で地面を押し、体を捻りながら跳び上がっての蹴り。頬に首が捥げそうな程の衝撃を受け、吹き飛ぶ。

「ガハッ!」

 何度か地面で跳ねながらも態勢を立て直せたのは、脳震盪と雷による痺れで十分な威力を込められなかったからだろう。
 そもそも本来の速度を出されていたら、ディアスの選択が剣撃でも避けきれず死んでいた。

 地についた左手とその周囲に、大量の血が流れ落ちる。
 顔の左下、四分の一程が抉り取られていた。『吸血族』でも、【真相】以上でなければ死ねる損傷率だ。ただの体術だろうと、まともには絶対に受けられない。

 流れ落ちた血を〈吸血〉で操作し、前方と左側をガード。残りを準備中の魔法の補助に使う。
 まず前に広げた血に数度の衝撃。それから左側で連続した打撃音が聞こえた。
 『鎌鼬』による追撃と、本命の双剣による乱撃だ。

 ディアス相手では、この血も目隠しにはならない。急いで顔を治しながら『鎌鼬』を防いだ血を操作し、現在盾にしている血とでディアスを封じ込める。
 [空間固定]の付与によって転移は封じてあるが、時間稼ぎにもならないか。
 血の結界の内から急激な魔力の高まりを感じ、追撃を諦める。

 〈神聖魔法〉の詠唱をしながら距離を取ると、私が一瞬前までいた場所を剣閃が走った。[邪穿つ輝剣アテナス・ブレイク]だ。
 その軌跡に合わせて結界が裂け、中からディアスが出てくる。

「なるほどな。我の動き、というよりは、この身体の癖を読んでおるというわけか。大したものだ。我が動く前には既に動いているのだから」
(ちっ、もうバレた。もう少し隠して置きたかったのだけれど……)

 詠唱した魔法は発動を保留し、出方を伺う。

 ディアスが徐ろに左腕を頭上に掲げた。
 背筋に悪寒がはしる。

 例の準備には、まだもう少し時間が要る。隠蔽を解けば、もう数秒で完成できるのだが、それでは当てられない可能性が高い。どうにか時間を稼――ピキ……。

(くっ、もう限界が見え始めたわ……。不意打ちは諦めるしかないかしら?)

 思考していると、視線の先でディアスが腕を振り下ろしていく。
 それを認識した瞬間、全力で左へ跳んだ。
 スカートの裾を光線が掠め、焦がす。

 光線は一発で終わらない。
 二発、三発と巨大な直径の光線が放たれる。
 『雷光の型』も使って避けるが、いつまでもこうしていられるわけではない。
 秒間五発ほどの連射だ。休む暇なんて無い。

(近づけないっ!)

 だんだん掠る事が増えてきた。
 極光がドレスを焦がし、肉を抉る。同時に傷が焼け塞がれてしまう為に、再生の手間が増える。

 それに気付けたのは、奇跡としか言いようがない。誰かに呼ばれた気がして、そちらを見ると、すぐ眼前まで剣が迫っていた。

「っ!?」

 どうにか体を捻って避ける。

「ふっ」

 しかしバランスを崩してしまった。演算系スキルによって引き伸ばされた時間感覚の中、光が、もう避けきれない距離まで来ているのを確認する。
 不意打ちしてきたディアスは、既に定位置に戻っていた。

(ピンチ……? いえ、これはチャンスよ!)

 発動させないまま保持していた〈神聖魔法〉、[破壊ディアリプトラ]を発動。同時に、〈縮地〉も使って全力で光に飛び込む。

 破壊の概念が光線にぶつかった。

 私の体がダメージを負うことは無く、そして目の前には、スズの姿をしたディアス。

 ――ピシピシッ

 大剣状態にした『シュブ=ニグラス』を上段から叩き付けた。

「ぐぅっ……」

 交差した双剣で防がれたが、これでいい。更に力を込め、押さえつける。

 スズの顔で苦悶の表情を浮かべるのだから、力を抜きそうになるが、間違えるな。これはスズじゃない。

 ディアスの背後に残っていた血を操作し、彼女を縛り上げ、必要が無くなった、〈空間魔導〉による隠蔽を解除してその分のリソースを血の鎖の固定に使う。

 またピキ、という音が聞こえた。

 気配を露わにしたその魔法の威力を悟ったらしい。ディアスが初めて焦りの表情を見せた。

「終わりよ」
「こんなものっ!!」

 隠蔽にリソースを割かなくて良くなった分、魔法は急速に完成へと向かう。その姿は、死のふちを超え、今まさに死に逝こうとしている恒星。内部では重力崩壊が起きている。

 私の見つめる先でディアスが拘束を解こうと足掻く。血の鎖がギチギチと音をたて、固定した空間に亀裂が入っている。思ったよりも保たないかもしれない。

(早く、早く早く早くっ!)

 血鎖を制御する感覚が、ギリギリ間に合わないだろうことを告げる。

(スズっ……!)

 どうにか魔法の構築、現象の再現を早めようと手段を探す。

(……ダメッ! これじゃあ焼石に水……!  せめてもう少し、スキルの出力があれば……!)

 『理外のスキル』の範疇に収まったとは言え、魔法関係のスキルの劣化は激しい。嘆いても仕方ないとわかりつつ、それでも恨み言を言わずにはいられない。

 その時だった。

 ディアスの、スズの身体の胸の辺りから、見覚えのある鎖が飛び出し、血の鎖を補強するように絡み付いた。

(お姉ちゃん、ほら、やっちゃって!)

 スズの声が聞こえた気がした。

 瞑目し、左手を胸に当てる。

 そして目を見開き、右手の刀を頭上に掲げた。

(任せなさい、スズ!)
「くそっ! そんな魔法! 我を、舐めるなっ!!」

 刀の切っ先をディアスへ向けるように、ゆっくりと振り下ろす。

「[破滅齎すカタストロフィツク・極超ノヴァ・新星の審判トライビユーナル]」

 あらゆる物を破壊し、周囲に暴虐を撒き散らす光が、ディアス目掛けて放たれた。

 空間そのものを抉り取るように、審判という正義を騙った暴力が怨敵を襲う。

「――っ!」

 ディアスが何かを叫んだ。
 もう一つの光が生まれ、暴虐の光とぶつかる。
 あの一瞬で、私が時間を掛けて構築した魔法に対抗する魔法を放てるのだから、感心する他ない。
 それでも、対抗できるだけ。拮抗はしない。
 徐々に、暴虐が押し込んでいく。

 ――ピシピシピシッ

「……あれは、スズじゃない」

 自分に再度言い聞かせながら、暴虐の行く末を見守る。

 そして、暴虐が、ディアスを飲み込んだ。




 ――辺りから音が消える。
 一瞬、視界が明滅した。
 
 視線の先には、双剣を盾にするディアスの背中。こうしている間にも、どんどん傷が塞がっていっている。

「ふ、ふふふ、耐えたぞ……。冷や冷やしたが、たかが人間の魔法。我を滅ぼせるはずが無いのだ!」

 ディアスの声が、彼女が再び余裕に満ちた事を教える。

「そうね」

 だから、声に出した。

「っ!?」

 スズの身体を奪い、ブランを傷つけ、そして、私がスズを手にかけなければならないような状況にしたこいつには、もっと絶望を感じて欲しいから。

 手に、背の肉を貫く感触を感じる。
 核も貫いた。

 あぁ、ディアスが絶望しているのがわかる。刀を通じて伝わる震えが、今まさに、彼女が絶望しているのだと告げる。

 今、ディアスがどんな顔をしているのかはわからない。

 でも、それでいい。
 
 私は刀を捻って核を完全に破壊し、ゆっくりと引き抜いてから、閉じていた目蓋を開いた。
 
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