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第3章 二つの輝き
第9話 秘密のお話
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3-9
「な、なんとか生きてた…」
爆発が収まって、土煙がもうもうと捲き上る中、翼をはためかせて宙へと留まります。
いや、魔力が殆どないので、この僅かな浮力でさえ無いと落ちそうなんです。
結界は完全に破壊され、全身ボロボロ。自然回復する魔力を使って徐々に再生はしてますが、普段に比べたらめちゃくちゃ遅い!
というか、これ、なんか色々想定外の反応が起きて破壊力増し増しになっちゃいました。
爆発する直前、結界を強化する術式の気配を感じましたが、ソレがなかったら訓練場は木っ端微塵。城との境にある保険の結界で耐えられるかどうかってとこでしたね。
外で撃ったら王都どころか隣の都市――馬車で半日少々なので、だいたい二十キロ先ですね――くらいなら被害が出てます。
誰ですか! 戦略級の魔法とか言ったの!
あ、私ですか。はい、ごめんなさい。
うん、今度から指向性をつけて、広いところで使いましょう。お姉さんとの約束ですよ?
――さて、巫山戯るのはここまでにしておきましょう。
どうやら死にはしなかったようで――ほんと化け物ですか――アリエル殿の魔力が見えます。気配も感じるので、ダミーではありません。
しかし、動きは無いです。
そろそろ飛ぶのも辛いので、警戒しながらゆっくり降りましょう。
「っ……!」
降りるのと同時に、膝をついてしまいました。刀を支えに何とか立ちます。
土煙がだんだん晴れてきましたね。
まだ、動きはありません。スキル無しに感じている気配は、魔力も含まれるので、魔力以外の気配のみを感知しようとしたらスキルを使わねばなりません。外部に働きかけるスキルは魔力か気力の元となる力を使うので辛いのですが、念のために〈気配察知〉を使っておきま――
「私の勝ちですね」
首元の冷たい感触と共にそんな声が後ろから聞こえました。
「……完敗よ」
いや、ほんと。
「アレ受けて生きてる上にまだ動けるとか、化け物なの?」
「いえ。本気で死ぬかと思いました。切れなかったら死んでましたね」
つまり直撃じゃなかったから生きてたと。
アレ、マジで切っちゃったんですね。
いや、余波だけでも十分死ねると思うんですが?
「剣で斬られたのは何年かぶりでしたが、ここまでダメージを受けたのは十年ぶりくらいですね」
そういうアリエル殿の体は確かにボロボロです。私よりはマシですが。
「でも、まだ剣術には先があるでしょう?」
「わかりますか?」
「それはね」
「手加減してた訳ではありませんよ? 私、スロースターターなので。最後のスキルも、代償が大き過ぎるますし」
「じゃなかったらブチ切れてるわよ。ああ、〈制魂解放〉は知ってるわ。どこまで解ってるから分からないから言うけど、アレは魂の限界を超えるからね。短時間なら回復するけど、長時間は使っちゃダメよ?」
「……想像以上の代償でした。体が一週間くらい動かなくなるくらいだと……」
「……使ったことあるのね。下手したら、スキルのレベルが下がったり使えなくなったり、あと覚えられなくなったりするわよ?」
「ほんとですか……?」
「ええ。スキルは魂に刻まれるからね。覚えるのには魂の力を使うし」
「……お詳しいですね」
あ、ヤバ……。
ご、誤魔化さなくては!
「え、えっと、それは……」
あぁ、なにも浮かばない!
「……まあ、いいでしょう。久し振りに〈制魂解放〉のレベルが上がりましたし。思った通り良い経験になりました」
「えっ、ちょ「とりあえず、ここをでましょうか。あ、自動で修復されるはずなので、壊したことはお気になさらず」
そう言って先に訓練場を出て行くアリエル殿。その足取りはわりとしっかりしてます。
いや、それより重大なことが!
待ってください、アリエル殿ー!
◆◇◆
その重大な事を伝えようとアリエル殿を追いかければ、既に王族の皆さん勢ぞろいでした。
なにやらお疲れのようですね。
「いやはや、まさかアリエルとあそこまでやりあえるとは思わなんだ」
「というか、最後のアレはなに? ヤバすぎるって」
ミカエル様が特にげっそりしてます。
「ん? ああミカエルか。あの最後の魔法の時に私たち全員で結界の強化をしたんだが、一瞬で大量の魔力を使ったのでな。魔力の多い精霊種の私たちや『人族』の父上は兎も角、『猫人族』のミカエルには辛かったようだ」
獣人は基本魔力が少ないですからね。
『狐人族』のように例外は居ますが、『猫人族』はマシな方と言ったくらいです。様々な血が入って、例外的に、比較的魔力の高いミカエル様でなければ、確実にぶっ倒れてるくらいには魔力を使ったようですね。
「私も気になりますね。あのような魔法は記憶にありません。私が相殺した分を抜いても、国家級には届きませんが、それに近しい威力を感じました」
「なっ!?
それは、最早伝説上のものだぞ!?」
陛下が本気で驚いてますねー。当然ですか、国家級とはこの世界において、複数国家の連合による大規模な戦争を決定づける、或いは小国を壊滅させ得る規模を指しますから。
んー、言ってもいいですかね。この国と戦う気もありませんし。
もし、何かあったとしても、範囲を絞ればまだ威力は上がります。宰相さんのレベルから判断しても、この国の戦力では王都を守り切れません。(その後生き残ったアリエル殿に斬り殺されそうですが)
それに、この規模の国なら魔導の深淵を知っているようです。機密事項のようですが。世界のバランスを崩す事もないでしょう。そもそも世界最大の大国が強化されても大して変わらないはずです。
というか、さっきのアレで今更感が……。
「教えてもいいけど、ここでいいの? 魔導関係よ?」
うん、それだけで皆さんの目つきが変わりました。
周囲にいた兵隊さんたちはキョトンとしてますけど。
「……そうね。“あの部屋”に行きましょう。誰か、ヴェルデを読んでちょうだい。“あの部屋”で通じるから」
ローラ様ですらこの様子です。
どうやら思った以上の機密事項だったようですね。
◆◇◆
ユリウス様を先頭に、玉座の間に来ました。
そして、玉座の左方の壁で何やら操作を行うユリウス様。
すると、壁の模様に沿って、隠し扉が内側に開きました。
ブランは目をキラッキラさせてます。意外とこういうのが好きなようですね。
「ここは?」
手近にいたローズに聞きます。
「国家機密みたいな事を話し合う隠し部屋よ。ここのことを知ってるのは王族と元帥、それから宰相だけ。扉を閉めれば空間的に独立する亜空間だから、決められたものを使う以外内側から外側への通信は不可能。盗聴なんて出来ないわ」
出入り口は他にもあって、その辺りの様子を見れる仕掛けで確認して任意の場所からも出れるそうです。
さらに、どの出入り口もどこかの部屋の中にあり、扉を開いている間その部屋に出入りする扉が開かないのだとか。
外からの緊急時は各自の執務室に報告が行くため、そこへ入ったものがいたらわかるようになっているとのこと。
便利ですね~。
なんて思ってたら、その隠し会議室にダークエルフの男性が入ってきました。宰相のヴェルデ殿ですね。
「揃ったな。アレの話を聞く前に、紹介を済ませておこう。この者が宰相のヴェルデだ」
「ヴェルデ・フォン=アルヴィスです」
「アルジュエロ・グラシアです。よろしくお願いします、ヴェルデ殿」
「王にこの部屋へ案内されるほどの方です。ヴェルデで構いませんよ。口調も砕けていただいて」
おや、意外と物腰の柔らかい人です。
「わかったわ。よろしくね。私のこともアルジェでいいわ」
ん?
なにやらアリエル殿が膨れています。
「ええと……?」
「アルジュエロ殿、ヴェルデと私とで態度が違うではないですか」
あー、そういえば。
「えっと、アレはその場の勢いで仕方なくというか……」
「……まぁ、それは仕方ないです」
あ、頰がしぼみました。
「ですが! 私も“殿”などつけず、アリエルと読んでください! あと、アルジェって呼ばせてください!」
「わかったわよ。アリエル」
「はい!」
……なんか、可愛い方ですね。
「……アリエルさん、緩んだ?」
確かに。
「あ~、それはね~。ほら、私たちって~、こんなんでしょ~? ずっとお堅いのは嫌だし~? だから~、他に人がいない時は友達くらいのつもりでって、お願いしたの~」
とはアイリス様の言です。
態度だけで敬語は使うらしいですが。
ちなみにアリエルのフルネームは『アリエル・ダ=ソーディア』です。
「それで、そろそろ私が呼ばれた理由をお聞きしても?」
「うむ……。まずは見せようか。ジュリウス、[思念伝達]してあげなさい」
特殊属性の中の“無属性”に分類される魔法ですね。他には私もよく使う[浄化]などがあり、別名“生活魔法”というんですが、[思念伝達]って生活の中で使うんですかね?
「これは…………」
おー、驚いてますねー(他人事)。
「なるほど。わかりました」
「それじゃあ、どこで知ったかは別にして、あの魔法のこと、聞いてもいいかな?」
あ、ミカエル様元気になったみたいです。
「その前に、ヴェルデは魔導スキル、レベル5は超えてる?」
知ってますけどね。
「ええ。その様子だと、やはりアルジェも超えてるんですね?」
「じゃないと無理よ。あんなの」
「あ、やばいって自覚はあるんだね」
ミカエル様が茶々を入れてきます。
ローズではないので、返事しておきましょう。
「それはもちろん」
ともかく、これなら話は早いです。原子の種類なんかは入れず、“物質の元となる小さな粒子の一つ”と言って説明しましょう。
………
……
…
「うーむ。土属性はそこまで影響していたのか。これは研究が一気に進むな……」
「再現できそうか?」
「いえ、〈魔力操作〉の精度が足りません。そこまでエネルギーを溜める前に拡散させてしまうでしょう」
「そうですね。レベル8で、規模を下げてギリギリできるかどうかじゃないでしょうか?」
手応え的には9でもなかなか辛かったんですよね。
指向性を付けるなら、もう一つ上げてMAXにして、魔導スキルは……、土はベクトルを揃えるだけでいいのでそのままでもいいですね。風だけあと一か二あげるべきでしょう。
逆につけないならそれぞれ5で十分です。
「まあ、スキルレベル以前に諸々の制御のための演算能力がいりますからね。私みたいに特殊な体質じゃないと、廃人になりかねないです」
これがさらっと情報を出した一番大きな理由ですね。
「なるほど。それはやめておいた方が良さそうですね。参考までに、今の〈魔力操作〉のスキルレベルを聞いても?」
「ええ。今は、あ、上がってる。さっきはレベル9だったわ」
「「「!?」」」
色々いっぱいいっぱいで“声”に気付きませんでした。
「アルジェは、切り結んだ手応えですけど、刀帝に至ってますよね?」
「ええ」
「……道理でアリエルとやりあえた訳だ」
「レオン様には、感謝しなければなりませわね……」
「そうね……」
あれ? 思ったより驚かれてる?
まあいいですか。
「……姉様といると、感覚がおかしくなる」
はぅっ!?
ブランにそんな事言われたら、泣いちゃいます!
「……ブランちゃんを懐柔したら万事解決じゃないかしら~」
「……そのようだな」
「ええ、まったくもってその通りよ。姉さぐふっ」
なにやらローズに馬鹿にされた気がしたので、重力三倍の刑です。
「それは、重さを操っているんですか!?」
あら、ヴェルデが食いついた。
「重力よ。うーん、まぁ大地が持ってる物を引きつける力ってとこね」
「ほぅほぅ」
それから私は、私が許可するまで他者に話さない事を条件に契約して、講義をしました。
一応、研究をその方向へ促す程度は許可しましたよ。段階を踏むなら問題ないので。
たぶん、五十年くらいで一部くらいは公開する下地はできるんじゃないでしょうか?
しかし、ヴェルデの質問に答えていたらなぜか、万有引力の話に始まって第一宇宙速度や第二宇宙速度、さらには特殊相対性理論の解説まですることになりました。
一般相対性理論はメンドウなので省きましたが、その都度必要な知識を教えたのでかなり時間がかかりましたね。
地動説や地球(じゃないですけど)球体説については、魔法や魔物を利用して空を飛ぶこの世界、かなり一般的な話であったために助かりました。
聖書を盲信していた頃のヨーロッパで説くような事にならずに済んで良かったです。ほんと。
まったく。信仰については何も言いませんが、盲信はただの責任転嫁だというのに。
宗教は、神は、その一切の行動の責任を押し付けるためのものではない……、いや、そもそもその責任の押し付け自体無自覚なんでしょうね。
第一、現代において、広く信仰されている宗教ですら、その教典は神によって与えられたものという言い分が一切通用しなくなっています。
高校の世界史で習う範囲で論じるなら、キリスト教でしょう。
ニケーア公会議や、トリエント公会議など、何度もその教えは人々の欲望によって書き換えられてきました。
原初のソレが、神やイエスの言葉、教えを纏めたものであるという言い分を否定する気はありませんが、現代のソレはダメです。
信者達は、自分たちの神を信仰しているつもりで、その実、当時の権力者を信仰させられることになっているのです。
なぜなら、先に述べたように、今あるソレはその権力者に都合の良いよう改竄、あるいは意味を捉えたものなんですから。
もちろん、その全てが私利私欲とはいいませんが。
あちらで多発していたテロにしてもそうです。
その神が存在するとしても、なぜその神は自身の見守る民達がいくら傷つこうと何もしないのでしょう?
教えに従うなら、救いをくださるのでは?
それは、そのテロリストと化した元信者たちがその神の意志に反しているからなのでは?
無神論者の言うように、その神自体がいないのかもしれませんが、少なくとも一部の神は実在しましたから。
その神も、人々が何しようと関心は無いとのことでしたが。
ああ、ということは、実在する神を騙って原典が作られた宗教の教えもあるということですか。
となると、宗教にすがる“自分”と言うものが希薄な人は、もう何を信じていいやら、ですね。
信仰心の強くても、自分がある人には関係ない話ですが。
とりあえず、生物の根本的な本能――種の生存、繁栄――くらいは信じるべきですね。それは、紛れもなく神――運命や必然と言い換えてもいいかもしれません――によって定められた法であるのですから。
……増えすぎて滅亡に向かってるから数を減らそうとして諸々が起きているなんて可能性は考えずにおきたいですが。
…………ん?
どうして私はこんな事語ってるのでしょうか? 私の流派の成り立ちに関わる話ではあるのですが……。
まあ兎に角、私が権力者に捻じ曲げられ利用される形の宗教は大っ嫌い、ということですね。異論は認めます。
あ、ローズが潰れた。
「な、なんとか生きてた…」
爆発が収まって、土煙がもうもうと捲き上る中、翼をはためかせて宙へと留まります。
いや、魔力が殆どないので、この僅かな浮力でさえ無いと落ちそうなんです。
結界は完全に破壊され、全身ボロボロ。自然回復する魔力を使って徐々に再生はしてますが、普段に比べたらめちゃくちゃ遅い!
というか、これ、なんか色々想定外の反応が起きて破壊力増し増しになっちゃいました。
爆発する直前、結界を強化する術式の気配を感じましたが、ソレがなかったら訓練場は木っ端微塵。城との境にある保険の結界で耐えられるかどうかってとこでしたね。
外で撃ったら王都どころか隣の都市――馬車で半日少々なので、だいたい二十キロ先ですね――くらいなら被害が出てます。
誰ですか! 戦略級の魔法とか言ったの!
あ、私ですか。はい、ごめんなさい。
うん、今度から指向性をつけて、広いところで使いましょう。お姉さんとの約束ですよ?
――さて、巫山戯るのはここまでにしておきましょう。
どうやら死にはしなかったようで――ほんと化け物ですか――アリエル殿の魔力が見えます。気配も感じるので、ダミーではありません。
しかし、動きは無いです。
そろそろ飛ぶのも辛いので、警戒しながらゆっくり降りましょう。
「っ……!」
降りるのと同時に、膝をついてしまいました。刀を支えに何とか立ちます。
土煙がだんだん晴れてきましたね。
まだ、動きはありません。スキル無しに感じている気配は、魔力も含まれるので、魔力以外の気配のみを感知しようとしたらスキルを使わねばなりません。外部に働きかけるスキルは魔力か気力の元となる力を使うので辛いのですが、念のために〈気配察知〉を使っておきま――
「私の勝ちですね」
首元の冷たい感触と共にそんな声が後ろから聞こえました。
「……完敗よ」
いや、ほんと。
「アレ受けて生きてる上にまだ動けるとか、化け物なの?」
「いえ。本気で死ぬかと思いました。切れなかったら死んでましたね」
つまり直撃じゃなかったから生きてたと。
アレ、マジで切っちゃったんですね。
いや、余波だけでも十分死ねると思うんですが?
「剣で斬られたのは何年かぶりでしたが、ここまでダメージを受けたのは十年ぶりくらいですね」
そういうアリエル殿の体は確かにボロボロです。私よりはマシですが。
「でも、まだ剣術には先があるでしょう?」
「わかりますか?」
「それはね」
「手加減してた訳ではありませんよ? 私、スロースターターなので。最後のスキルも、代償が大き過ぎるますし」
「じゃなかったらブチ切れてるわよ。ああ、〈制魂解放〉は知ってるわ。どこまで解ってるから分からないから言うけど、アレは魂の限界を超えるからね。短時間なら回復するけど、長時間は使っちゃダメよ?」
「……想像以上の代償でした。体が一週間くらい動かなくなるくらいだと……」
「……使ったことあるのね。下手したら、スキルのレベルが下がったり使えなくなったり、あと覚えられなくなったりするわよ?」
「ほんとですか……?」
「ええ。スキルは魂に刻まれるからね。覚えるのには魂の力を使うし」
「……お詳しいですね」
あ、ヤバ……。
ご、誤魔化さなくては!
「え、えっと、それは……」
あぁ、なにも浮かばない!
「……まあ、いいでしょう。久し振りに〈制魂解放〉のレベルが上がりましたし。思った通り良い経験になりました」
「えっ、ちょ「とりあえず、ここをでましょうか。あ、自動で修復されるはずなので、壊したことはお気になさらず」
そう言って先に訓練場を出て行くアリエル殿。その足取りはわりとしっかりしてます。
いや、それより重大なことが!
待ってください、アリエル殿ー!
◆◇◆
その重大な事を伝えようとアリエル殿を追いかければ、既に王族の皆さん勢ぞろいでした。
なにやらお疲れのようですね。
「いやはや、まさかアリエルとあそこまでやりあえるとは思わなんだ」
「というか、最後のアレはなに? ヤバすぎるって」
ミカエル様が特にげっそりしてます。
「ん? ああミカエルか。あの最後の魔法の時に私たち全員で結界の強化をしたんだが、一瞬で大量の魔力を使ったのでな。魔力の多い精霊種の私たちや『人族』の父上は兎も角、『猫人族』のミカエルには辛かったようだ」
獣人は基本魔力が少ないですからね。
『狐人族』のように例外は居ますが、『猫人族』はマシな方と言ったくらいです。様々な血が入って、例外的に、比較的魔力の高いミカエル様でなければ、確実にぶっ倒れてるくらいには魔力を使ったようですね。
「私も気になりますね。あのような魔法は記憶にありません。私が相殺した分を抜いても、国家級には届きませんが、それに近しい威力を感じました」
「なっ!?
それは、最早伝説上のものだぞ!?」
陛下が本気で驚いてますねー。当然ですか、国家級とはこの世界において、複数国家の連合による大規模な戦争を決定づける、或いは小国を壊滅させ得る規模を指しますから。
んー、言ってもいいですかね。この国と戦う気もありませんし。
もし、何かあったとしても、範囲を絞ればまだ威力は上がります。宰相さんのレベルから判断しても、この国の戦力では王都を守り切れません。(その後生き残ったアリエル殿に斬り殺されそうですが)
それに、この規模の国なら魔導の深淵を知っているようです。機密事項のようですが。世界のバランスを崩す事もないでしょう。そもそも世界最大の大国が強化されても大して変わらないはずです。
というか、さっきのアレで今更感が……。
「教えてもいいけど、ここでいいの? 魔導関係よ?」
うん、それだけで皆さんの目つきが変わりました。
周囲にいた兵隊さんたちはキョトンとしてますけど。
「……そうね。“あの部屋”に行きましょう。誰か、ヴェルデを読んでちょうだい。“あの部屋”で通じるから」
ローラ様ですらこの様子です。
どうやら思った以上の機密事項だったようですね。
◆◇◆
ユリウス様を先頭に、玉座の間に来ました。
そして、玉座の左方の壁で何やら操作を行うユリウス様。
すると、壁の模様に沿って、隠し扉が内側に開きました。
ブランは目をキラッキラさせてます。意外とこういうのが好きなようですね。
「ここは?」
手近にいたローズに聞きます。
「国家機密みたいな事を話し合う隠し部屋よ。ここのことを知ってるのは王族と元帥、それから宰相だけ。扉を閉めれば空間的に独立する亜空間だから、決められたものを使う以外内側から外側への通信は不可能。盗聴なんて出来ないわ」
出入り口は他にもあって、その辺りの様子を見れる仕掛けで確認して任意の場所からも出れるそうです。
さらに、どの出入り口もどこかの部屋の中にあり、扉を開いている間その部屋に出入りする扉が開かないのだとか。
外からの緊急時は各自の執務室に報告が行くため、そこへ入ったものがいたらわかるようになっているとのこと。
便利ですね~。
なんて思ってたら、その隠し会議室にダークエルフの男性が入ってきました。宰相のヴェルデ殿ですね。
「揃ったな。アレの話を聞く前に、紹介を済ませておこう。この者が宰相のヴェルデだ」
「ヴェルデ・フォン=アルヴィスです」
「アルジュエロ・グラシアです。よろしくお願いします、ヴェルデ殿」
「王にこの部屋へ案内されるほどの方です。ヴェルデで構いませんよ。口調も砕けていただいて」
おや、意外と物腰の柔らかい人です。
「わかったわ。よろしくね。私のこともアルジェでいいわ」
ん?
なにやらアリエル殿が膨れています。
「ええと……?」
「アルジュエロ殿、ヴェルデと私とで態度が違うではないですか」
あー、そういえば。
「えっと、アレはその場の勢いで仕方なくというか……」
「……まぁ、それは仕方ないです」
あ、頰がしぼみました。
「ですが! 私も“殿”などつけず、アリエルと読んでください! あと、アルジェって呼ばせてください!」
「わかったわよ。アリエル」
「はい!」
……なんか、可愛い方ですね。
「……アリエルさん、緩んだ?」
確かに。
「あ~、それはね~。ほら、私たちって~、こんなんでしょ~? ずっとお堅いのは嫌だし~? だから~、他に人がいない時は友達くらいのつもりでって、お願いしたの~」
とはアイリス様の言です。
態度だけで敬語は使うらしいですが。
ちなみにアリエルのフルネームは『アリエル・ダ=ソーディア』です。
「それで、そろそろ私が呼ばれた理由をお聞きしても?」
「うむ……。まずは見せようか。ジュリウス、[思念伝達]してあげなさい」
特殊属性の中の“無属性”に分類される魔法ですね。他には私もよく使う[浄化]などがあり、別名“生活魔法”というんですが、[思念伝達]って生活の中で使うんですかね?
「これは…………」
おー、驚いてますねー(他人事)。
「なるほど。わかりました」
「それじゃあ、どこで知ったかは別にして、あの魔法のこと、聞いてもいいかな?」
あ、ミカエル様元気になったみたいです。
「その前に、ヴェルデは魔導スキル、レベル5は超えてる?」
知ってますけどね。
「ええ。その様子だと、やはりアルジェも超えてるんですね?」
「じゃないと無理よ。あんなの」
「あ、やばいって自覚はあるんだね」
ミカエル様が茶々を入れてきます。
ローズではないので、返事しておきましょう。
「それはもちろん」
ともかく、これなら話は早いです。原子の種類なんかは入れず、“物質の元となる小さな粒子の一つ”と言って説明しましょう。
………
……
…
「うーむ。土属性はそこまで影響していたのか。これは研究が一気に進むな……」
「再現できそうか?」
「いえ、〈魔力操作〉の精度が足りません。そこまでエネルギーを溜める前に拡散させてしまうでしょう」
「そうですね。レベル8で、規模を下げてギリギリできるかどうかじゃないでしょうか?」
手応え的には9でもなかなか辛かったんですよね。
指向性を付けるなら、もう一つ上げてMAXにして、魔導スキルは……、土はベクトルを揃えるだけでいいのでそのままでもいいですね。風だけあと一か二あげるべきでしょう。
逆につけないならそれぞれ5で十分です。
「まあ、スキルレベル以前に諸々の制御のための演算能力がいりますからね。私みたいに特殊な体質じゃないと、廃人になりかねないです」
これがさらっと情報を出した一番大きな理由ですね。
「なるほど。それはやめておいた方が良さそうですね。参考までに、今の〈魔力操作〉のスキルレベルを聞いても?」
「ええ。今は、あ、上がってる。さっきはレベル9だったわ」
「「「!?」」」
色々いっぱいいっぱいで“声”に気付きませんでした。
「アルジェは、切り結んだ手応えですけど、刀帝に至ってますよね?」
「ええ」
「……道理でアリエルとやりあえた訳だ」
「レオン様には、感謝しなければなりませわね……」
「そうね……」
あれ? 思ったより驚かれてる?
まあいいですか。
「……姉様といると、感覚がおかしくなる」
はぅっ!?
ブランにそんな事言われたら、泣いちゃいます!
「……ブランちゃんを懐柔したら万事解決じゃないかしら~」
「……そのようだな」
「ええ、まったくもってその通りよ。姉さぐふっ」
なにやらローズに馬鹿にされた気がしたので、重力三倍の刑です。
「それは、重さを操っているんですか!?」
あら、ヴェルデが食いついた。
「重力よ。うーん、まぁ大地が持ってる物を引きつける力ってとこね」
「ほぅほぅ」
それから私は、私が許可するまで他者に話さない事を条件に契約して、講義をしました。
一応、研究をその方向へ促す程度は許可しましたよ。段階を踏むなら問題ないので。
たぶん、五十年くらいで一部くらいは公開する下地はできるんじゃないでしょうか?
しかし、ヴェルデの質問に答えていたらなぜか、万有引力の話に始まって第一宇宙速度や第二宇宙速度、さらには特殊相対性理論の解説まですることになりました。
一般相対性理論はメンドウなので省きましたが、その都度必要な知識を教えたのでかなり時間がかかりましたね。
地動説や地球(じゃないですけど)球体説については、魔法や魔物を利用して空を飛ぶこの世界、かなり一般的な話であったために助かりました。
聖書を盲信していた頃のヨーロッパで説くような事にならずに済んで良かったです。ほんと。
まったく。信仰については何も言いませんが、盲信はただの責任転嫁だというのに。
宗教は、神は、その一切の行動の責任を押し付けるためのものではない……、いや、そもそもその責任の押し付け自体無自覚なんでしょうね。
第一、現代において、広く信仰されている宗教ですら、その教典は神によって与えられたものという言い分が一切通用しなくなっています。
高校の世界史で習う範囲で論じるなら、キリスト教でしょう。
ニケーア公会議や、トリエント公会議など、何度もその教えは人々の欲望によって書き換えられてきました。
原初のソレが、神やイエスの言葉、教えを纏めたものであるという言い分を否定する気はありませんが、現代のソレはダメです。
信者達は、自分たちの神を信仰しているつもりで、その実、当時の権力者を信仰させられることになっているのです。
なぜなら、先に述べたように、今あるソレはその権力者に都合の良いよう改竄、あるいは意味を捉えたものなんですから。
もちろん、その全てが私利私欲とはいいませんが。
あちらで多発していたテロにしてもそうです。
その神が存在するとしても、なぜその神は自身の見守る民達がいくら傷つこうと何もしないのでしょう?
教えに従うなら、救いをくださるのでは?
それは、そのテロリストと化した元信者たちがその神の意志に反しているからなのでは?
無神論者の言うように、その神自体がいないのかもしれませんが、少なくとも一部の神は実在しましたから。
その神も、人々が何しようと関心は無いとのことでしたが。
ああ、ということは、実在する神を騙って原典が作られた宗教の教えもあるということですか。
となると、宗教にすがる“自分”と言うものが希薄な人は、もう何を信じていいやら、ですね。
信仰心の強くても、自分がある人には関係ない話ですが。
とりあえず、生物の根本的な本能――種の生存、繁栄――くらいは信じるべきですね。それは、紛れもなく神――運命や必然と言い換えてもいいかもしれません――によって定められた法であるのですから。
……増えすぎて滅亡に向かってるから数を減らそうとして諸々が起きているなんて可能性は考えずにおきたいですが。
…………ん?
どうして私はこんな事語ってるのでしょうか? 私の流派の成り立ちに関わる話ではあるのですが……。
まあ兎に角、私が権力者に捻じ曲げられ利用される形の宗教は大っ嫌い、ということですね。異論は認めます。
あ、ローズが潰れた。
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勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
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