12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

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第3章 二つの輝き

幕間③

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「法王様! 勇者さまが帰還されましたが、様子がおかしいのです!」

 慌てたように報告する聖騎士に、法王カリオストルは眉根を寄せる。

「わかった。行こう」




 法王が【勇者】の『帰還用魔法陣』のある部屋に行くと、なるほど。【勇者】が頭をおさえ、苦しそうに蹲っている。

 その部屋にいるのは法王と【勇者】の他、供につけた聖騎士二人と彼らの長である騎士団長、それから【勇者】専属にした侍女アリスのみだ。

「あ、法王様! どうか……! 勇者さまの様子がおかしいのです! [精神浄化リフレツシユ]を掛けてもおさまらず、どころか法王様が勇者さまにお与えになった腕輪が砕け散ってしまいました! 【魔王】めに精神攻撃をされたに違いありません!」
「おい、侍女でありながら法王様に無礼だぞ!」

 常になく取り乱し、捲したてるアリス。
 法王にすがり寄ろうとしたところを、側に控えていた騎士団長に遮られる。

「改造で耐久度が落ちていたようだな。侍女程度の[精神浄化]にも耐えられないとは。いや、それだけ【勇者】の加護が強力だったのか……。どちらにせよ、もうひと押しのようだな」

 わかった。任せなさい。
 その言葉を期待していたアリスと、そして彼女へ心配げな視線を向けていた騎士は、訳がわからず一瞬思考を停止してしまう。

「ふむ……。その侍女と【勇者】は仲が良かったそうだな?」
「はい」

 こんな時に何を言っているのか。
 アリス達には理解が及ばない。

「その侍女を殺せ」
「御意に」

 騎士に、立場でも実力でも上の上司を止めることは叶わなかった。

 騎士団長の剣が侍女の細い首を切りとばす。

 その歪な球体は、宙を舞い、勇者と騎士の間に落ちた。

 アリスだったものの目は、もはや何も見ていない。困惑した表情のまま、時を止めてしまった。

「……ア、リス?」

 か細い声を漏らしたのは、勇者だったのか、騎士だったのか。

「う、ぁ、あ……。あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 騎士は、剣を抜いた。 
 自らの最愛を奪った、元上司へと。

 そして、一歩を踏み出す……ことは叶わなかった。

 彼の腹からは、よく見慣れた剣が生えていた。

「なぜ、だ……」

 首だけを傾けた騎士の視線の先、剣を握る仕事仲間は、黙して語らない。

 代わりに答えたのは、哀れに思ったのか、現実を教えて絶望させたかったのか、法王だった。

「何も知らなかったのはお主だけだった、ということだ。端から余らに【勇者】を敬う気持ちなどない。ただ道具として利用するのみよ。そこの者は監視役として余が選んだものだ」

 もう、その目に光は無かった。

 同僚を手にかけた無口の騎士は剣の血糊を拭き、鞘に収めた。
 騎士団長は再び法王のそばに控える。

 そして、騎士が倒れ伏した時、勇者の何かが砕ける音がした。

「間違いなく、【勇者】は隷属状態になりました」
「うむ。何も知らぬ者達に勘付かれぬようにせねばな。【勇者】よ、人前ではこれまで通り振る舞うのだ」

 【勇者】は無言で頷く。
 その顔に色はない。

 その事に満足した三人は気づかなかった。
 いつのまにか、二人の死体が消えていた事に。











◆◇◆
「姉様!」

 突然倒れた姉を、ブランは焦って支える。
 そしてその原因らしき人物へ殺気を向けた。

「落ち着いて、ブランちゃん。強制的に眠ってもらっただけだから」

 これだけ魔力量が一気に増えるなんて、どんな無茶をしたのかしら? 圧が強すぎよ…! なんてぶつくさ言いながらも、優しげに、そして哀しげに王女は友人を眺める。

「……スプーファー、客間に運んであげて」
「はい、わかりました」

 スプーファーと呼ばれたその男に運ばれるアルジェを、ブランもまた見つめる。
 その顔には、ローズにははっきりと分からないが、悔しさが浮かんでいるような気がした。

 




「それで、ブランちゃんはアルジェからどこまで聞いてるの?」

 アルジェの眠る横でローズが問う。

「……なにも」
「一週間前、何があったかも?」
「うん…」

 しゅんっとするブランを見て、ローズは思わす盛大にため息を漏らしてしまった。

「まったく、どれだけ焦ってたのよ……」
「ローズ様は聞いてるの?」
「少しだけね。戻ったら話を聞かせてもらうって言ったのに、聞かなきゃ答えないんだから」

 もう、とローズは頬を膨らませる。

「私が知ってることだけでも、教えてあげる」
「……うん。お願い、します」

 コテンとお辞儀をするブランをみてローズは思った。

「……この子、持って帰っちゃダメかしら?」
「ダメです。姫様。お気持ちはわかりますが」
「あなたがわかっちゃダメでしょ」
「えー。姫様ひどくないですか?」

 何を言っているのだこの諜報員は。
 男がやったら犯罪臭十割増しである。ロリコンなのだろうか?

「んっん。それでだけど……」



「ってことみたいよ?」
「姉さまの、前の世界での妹……。……新しいお姉ちゃん?」

 ブランはコテンっと首を傾げた。

「……ねえ、やっぱりお持ち帰りしちゃダメかしら?」
「…………いいんじゃないですか?」

「……ブランちゃんも泊まっていきなさい。宿は引き払っとくから」
「? うん。わかった」

 ローズはコメントを控えることにしたようだ。
 いや、実行の責任をスプーファーになすりつけられると思ったのかもしれない。
 ともかく、ブランのお持ち帰り……ではなく今夜の宿が王城に決まった。

 ブランは待つ。“最愛”の目覚めるその時を。






 

 そして、アルジェが次に目を覚ましたのは二日後だった。

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