3 / 6
第三話 聖女の力
しおりを挟む
「急ぎましょう、カトレア様」
「命令しないでよ! 走ったら汗かいちゃうじゃない!」
アリシアは唇を噛みたくなるのを隠して、カトレアの気づかない程度に少しずつ足を早める。
姉より前を歩きたい妹は、それだけで無意識のうちに足を早めてくれた。
ようやく見えた闇の獣は、相変わらずこの世ものとは思えないような悍ましい色の体をうねらせ、暴れ回っていた。
今回の個体は細身の四足獣の姿をしていて、獰猛な牙も見える。
周囲の騎士たちが必死に矢を放っていたが、獣は鬱陶しそうにするばかりで、ダメージは与えられていない。
それでもどうにか被害を抑えられているのは、以前祈りを込めた大楯を上手く使っているからだ。
「あなた達っ、私が来たわよ!」
「おおっ、聖女様っ!」
先ほどまでの不機嫌な様子はどこにやったのか。意気揚々と声を上げたカトレアに、騎士たちが歓声をあげる。
得意気にする彼女へ、闇の獣が紫色の双眸を向けた。
「見てなさいっ!」
カトレアが杖を振るうと、青の光が淡く灯って闇の獣へ向かう。
蛍火のようなそれに獣はニタリと笑みを浮かべ、カタリナへ己の凶爪を振り下ろした。
――今っ!
爪が蛍火を切り裂く寸前、アリシアは自身の、メイザークの血に宿った力を行使する。
カトレアのそれとは比べ物にもならないほどの閃光が迸り、巨大な壁を形作った。
壁に触れた獣の爪はバチバチと一瞬ばかり拮抗したのち、砂となって崩れ去る。
――先の方だけ……。この獣、今までのよりずっと強い……。
「まだまだ行くわよ! それっ!」
今度はカトレアの声に合わせて、アリシアも術を発動する。生み出されたのは、天から伸びる青の柱だ。
それは獣を押し潰し、地面へと縫い止めた。
攻撃力と拘束力を併せ持ったこれをカトレアは好んで使おうとする。
たしかに威力は高く派手だが、効率という意味では優秀とは言い難い術。
分かっていても、アリシアは合わせなくてはならない。
――耐えられてる……。出力を上げる? いえ、それだと周りの人たちが……。
悩む間に獣は少しずつカトレアへ近づく。彼女は分かっていないようで、喜悦の笑みを浮かべながら獣に赤い視線を向けていた。
「カトレア! 離れなさい!」
「はぁっ? ちゃんと様をつけなさいよ! 命令までしてっ!」
苛立たしげな声と視線がアリシアに向いた。カトレアの視界から獣が消える。
その一瞬で、獣が動いた。
四足獣の俊敏な動きで太陽のような金髪は飛びかかり、無事な方の爪を向ける。
――合わせてる余裕はないっ……!
「きゃぁっ!」
急いで光の壁を生み出すが、僅かに遅かった。
爪の先がカトレアの杖を持った腕を掠める。
どうにかそれ以上を許しはしなかったが、怪我をさせてしまったことは確かだ。
――いえ、それよりも、今はあの獣を!
「もうっ、許さないっ!」
怒気を顕にしたカトレアに合わせて力を使い、獣を球状の結界に閉じ込める。
その球を徐々に縮めていくが、やはり抵抗が強く押し切れない。
――仕方ない。気づかれないように……。
結界のバチバチと光るのに合わせて、アリシアはもう一つ術を発動した。いくつもの光の矢を生み出す術だ。
隠蔽のために数は控えめ。しかし顔面を狙われては、獣もたまらない。
うめき声を上げて怯む獣。抵抗が確かに弱まって、球の収縮が早まる。
「これで、終わりよっ!」
やがて獣は、青い結界と共に潰えて消えた。周囲に満ちていた陰湿な空気も霧散して、森がいくらか明るくなったように感じさせる。
「うぉぉおおっ! さすが聖女カトレア様だ!」
「あの化け物を本当に滅却するなんて!」
騎士たちの歓声に胸を張るカトレアだが、その腕からはダラダラと黒ずんだ血が流れている。今に早く治せと喚くだろうから、傷は残らない。
しかし法衣も遠目に分かるほど染まっており、隠すことはできないだろう。
「命令しないでよ! 走ったら汗かいちゃうじゃない!」
アリシアは唇を噛みたくなるのを隠して、カトレアの気づかない程度に少しずつ足を早める。
姉より前を歩きたい妹は、それだけで無意識のうちに足を早めてくれた。
ようやく見えた闇の獣は、相変わらずこの世ものとは思えないような悍ましい色の体をうねらせ、暴れ回っていた。
今回の個体は細身の四足獣の姿をしていて、獰猛な牙も見える。
周囲の騎士たちが必死に矢を放っていたが、獣は鬱陶しそうにするばかりで、ダメージは与えられていない。
それでもどうにか被害を抑えられているのは、以前祈りを込めた大楯を上手く使っているからだ。
「あなた達っ、私が来たわよ!」
「おおっ、聖女様っ!」
先ほどまでの不機嫌な様子はどこにやったのか。意気揚々と声を上げたカトレアに、騎士たちが歓声をあげる。
得意気にする彼女へ、闇の獣が紫色の双眸を向けた。
「見てなさいっ!」
カトレアが杖を振るうと、青の光が淡く灯って闇の獣へ向かう。
蛍火のようなそれに獣はニタリと笑みを浮かべ、カタリナへ己の凶爪を振り下ろした。
――今っ!
爪が蛍火を切り裂く寸前、アリシアは自身の、メイザークの血に宿った力を行使する。
カトレアのそれとは比べ物にもならないほどの閃光が迸り、巨大な壁を形作った。
壁に触れた獣の爪はバチバチと一瞬ばかり拮抗したのち、砂となって崩れ去る。
――先の方だけ……。この獣、今までのよりずっと強い……。
「まだまだ行くわよ! それっ!」
今度はカトレアの声に合わせて、アリシアも術を発動する。生み出されたのは、天から伸びる青の柱だ。
それは獣を押し潰し、地面へと縫い止めた。
攻撃力と拘束力を併せ持ったこれをカトレアは好んで使おうとする。
たしかに威力は高く派手だが、効率という意味では優秀とは言い難い術。
分かっていても、アリシアは合わせなくてはならない。
――耐えられてる……。出力を上げる? いえ、それだと周りの人たちが……。
悩む間に獣は少しずつカトレアへ近づく。彼女は分かっていないようで、喜悦の笑みを浮かべながら獣に赤い視線を向けていた。
「カトレア! 離れなさい!」
「はぁっ? ちゃんと様をつけなさいよ! 命令までしてっ!」
苛立たしげな声と視線がアリシアに向いた。カトレアの視界から獣が消える。
その一瞬で、獣が動いた。
四足獣の俊敏な動きで太陽のような金髪は飛びかかり、無事な方の爪を向ける。
――合わせてる余裕はないっ……!
「きゃぁっ!」
急いで光の壁を生み出すが、僅かに遅かった。
爪の先がカトレアの杖を持った腕を掠める。
どうにかそれ以上を許しはしなかったが、怪我をさせてしまったことは確かだ。
――いえ、それよりも、今はあの獣を!
「もうっ、許さないっ!」
怒気を顕にしたカトレアに合わせて力を使い、獣を球状の結界に閉じ込める。
その球を徐々に縮めていくが、やはり抵抗が強く押し切れない。
――仕方ない。気づかれないように……。
結界のバチバチと光るのに合わせて、アリシアはもう一つ術を発動した。いくつもの光の矢を生み出す術だ。
隠蔽のために数は控えめ。しかし顔面を狙われては、獣もたまらない。
うめき声を上げて怯む獣。抵抗が確かに弱まって、球の収縮が早まる。
「これで、終わりよっ!」
やがて獣は、青い結界と共に潰えて消えた。周囲に満ちていた陰湿な空気も霧散して、森がいくらか明るくなったように感じさせる。
「うぉぉおおっ! さすが聖女カトレア様だ!」
「あの化け物を本当に滅却するなんて!」
騎士たちの歓声に胸を張るカトレアだが、その腕からはダラダラと黒ずんだ血が流れている。今に早く治せと喚くだろうから、傷は残らない。
しかし法衣も遠目に分かるほど染まっており、隠すことはできないだろう。
201
あなたにおすすめの小説
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
私が消えたその後で(完結)
毛蟹
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。
シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。
皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。
シビルの王都での生活は地獄そのものだった。
なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。
家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。
リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します
青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。
キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。
結界が消えた王国はいかに?
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる