ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ

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第三話 聖女の力

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「急ぎましょう、カトレア様」
「命令しないでよ! 走ったら汗かいちゃうじゃない!」

 アリシアは唇を噛みたくなるのを隠して、カトレアの気づかない程度に少しずつ足を早める。
 姉より前を歩きたい妹は、それだけで無意識のうちに足を早めてくれた。

 ようやく見えた闇の獣は、相変わらずこの世ものとは思えないような悍ましい色の体をうねらせ、暴れ回っていた。
 今回の個体は細身の四足獣の姿をしていて、獰猛な牙も見える。

 周囲の騎士たちが必死に矢を放っていたが、獣は鬱陶しそうにするばかりで、ダメージは与えられていない。

 それでもどうにか被害を抑えられているのは、以前祈りを込めた大楯を上手く使っているからだ。

「あなた達っ、私が来たわよ!」
「おおっ、聖女様っ!」

 先ほどまでの不機嫌な様子はどこにやったのか。意気揚々と声を上げたカトレアに、騎士たちが歓声をあげる。

 得意気にする彼女へ、闇の獣が紫色の双眸を向けた。

「見てなさいっ!」

 カトレアが杖を振るうと、青の光が淡く灯って闇の獣へ向かう。
 蛍火のようなそれに獣はニタリと笑みを浮かべ、カタリナへ己の凶爪を振り下ろした。
 ――今っ!

 爪が蛍火を切り裂く寸前、アリシアは自身の、メイザークの血に宿った力を行使する。

 カトレアのそれとは比べ物にもならないほどの閃光が迸り、巨大な壁を形作った。
 壁に触れた獣の爪はバチバチと一瞬ばかり拮抗したのち、砂となって崩れ去る。
 ――先の方だけ……。この獣、今までのよりずっと強い……。

「まだまだ行くわよ! それっ!」

 今度はカトレアの声に合わせて、アリシアも術を発動する。生み出されたのは、天から伸びる青の柱だ。
 それは獣を押し潰し、地面へと縫い止めた。

 攻撃力と拘束力を併せ持ったこれをカトレアは好んで使おうとする。
 たしかに威力は高く派手だが、効率という意味では優秀とは言い難い術。

 分かっていても、アリシアは合わせなくてはならない。
 ――耐えられてる……。出力を上げる? いえ、それだと周りの人たちが……。

 悩む間に獣は少しずつカトレアへ近づく。彼女は分かっていないようで、喜悦の笑みを浮かべながら獣に赤い視線を向けていた。

「カトレア! 離れなさい!」
「はぁっ? ちゃんと様をつけなさいよ! 命令までしてっ!」

 苛立たしげな声と視線がアリシアに向いた。カトレアの視界から獣が消える。
 その一瞬で、獣が動いた。

 四足獣の俊敏な動きで太陽のような金髪は飛びかかり、無事な方の爪を向ける。
 ――合わせてる余裕はないっ……!

「きゃぁっ!」

 急いで光の壁を生み出すが、僅かに遅かった。
 爪の先がカトレアの杖を持った腕を掠める。

 どうにかそれ以上を許しはしなかったが、怪我をさせてしまったことは確かだ。
 ――いえ、それよりも、今はあの獣を!

「もうっ、許さないっ!」

 怒気を顕にしたカトレアに合わせて力を使い、獣を球状の結界に閉じ込める。
 その球を徐々に縮めていくが、やはり抵抗が強く押し切れない。
 ――仕方ない。気づかれないように……。

 結界のバチバチと光るのに合わせて、アリシアはもう一つ術を発動した。いくつもの光の矢を生み出す術だ。

 隠蔽のために数は控えめ。しかし顔面を狙われては、獣もたまらない。
 うめき声を上げて怯む獣。抵抗が確かに弱まって、球の収縮が早まる。

「これで、終わりよっ!」

 やがて獣は、青い結界と共に潰えて消えた。周囲に満ちていた陰湿な空気も霧散して、森がいくらか明るくなったように感じさせる。

「うぉぉおおっ! さすが聖女カトレア様だ!」
「あの化け物を本当に滅却するなんて!」

 騎士たちの歓声に胸を張るカトレアだが、その腕からはダラダラと黒ずんだ血が流れている。今に早く治せと喚くだろうから、傷は残らない。

 しかし法衣も遠目に分かるほど染まっており、隠すことはできないだろう。
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