2 / 7
第二章 宿命
決められた結婚①
しおりを挟む
父から私の結婚が決まったと聞かされたのは、二十七歳の誕生日を迎えてから数日後のことだった。私の誕生日のお祝いで、前から楽しみにしていた高級焼肉店でのディナーの最中に、父が突然とんでもないことを口にしたのだ。
「彩花、お前の結婚が決まったんだ」
テーブルの上に並ぶ綺麗なサシの入ったピンク色の牛肉や、エビやホタテといった海鮮を堪能しながらこの上ない幸せな気分に浸っている中、ただの世間話のように口にした父の言葉を一瞬受け流してしまいそうになった私は、慌てて声を上げた。
「えっ、結婚? 決まったってどういうこと?」
全くの寝耳に水の話に、目を見開いて父の顔を見る。
口に運ぼうとしていたお肉が箸からするりと滑り、お皿の上にポトンと落ちてしまった。
そんな私の反応を見ても父は全く動じることはなく、普段と変わらない表情で笑みまで浮かべ、たくさん食べろと言わんばかりに次々と網の上に具材を置いている。
製薬業界では名を知られている藤城バイオテックの社長であり、昔から仕事で忙しい父だったけれど、幼い頃に母を亡くした一人娘の私のことはとても大切にしてくれて、毎年誕生日の前後にはこうしてレストランで必ずお祝いをしてくれていた。
脂を纏った霜降りのお肉が網の上でじゅうじゅうと音を立て始め、父が私のお皿に入れてくれるけれど、さっきまでの幸せな気分から一転し、なんだか一気に食欲が失せてしまった。
「その意味の通りだよ。この結婚は昔から決まっていた……いや、そう言うと語弊があるな。親友との約束だったと言った方が正しいかな」
あたかも当然のように話をしているけれど、そんな話があったなんて私は今まで一度も聞いたことはないし、そもそも父と結婚の話をするのだって今日が初めてだ。
昔から決まっていたって……。
もしかして……まさか政略結婚ってこと?
突然こんなことを言い出した父の発言の意図を汲み取りつつも、私はきっぱりと拒むように首を大きく横に振った。
「そんな約束があったなんて私はひと言も聞いてないし! 事前に私に何の相談もなく決めるなんて酷くない? 私は結婚なんてしないからね!」
勝手に結婚を決められたという腹立たしさと、信じていた父から裏切られたような気持ちで、つい口調がきつくなってしまう。そんな私を見て、父は窺うような視線を向けてきた。
「もしかして付き合っている男性がいたのか? そんな素振りは全くなかっただろう? 母さんにも一応確認したんだがな。だから話を進めたんだが……」
全く悪びれる様子もなく、知らなかったとでも言いたげに少し首を傾げているところを見ると、どうやら父は私が結婚を嫌がる理由を、付き合っている男性がいるからだと思っているようだ。
娘に色気がないとでも言いたいのか、「そんな素振りは全くなかった」という断定した言葉と、事前に祖母にまで確認していたことには腹が立つけれど、確かに父の言う通り、私には付き合っている男性はいない。
だからと言っていきなり結婚と言われても、何も聞かされてもいないうえに心の準備だってあるというのに、そんなの絶対に受け入れられるわけがない。
「彩花、お前の結婚が決まったんだ」
テーブルの上に並ぶ綺麗なサシの入ったピンク色の牛肉や、エビやホタテといった海鮮を堪能しながらこの上ない幸せな気分に浸っている中、ただの世間話のように口にした父の言葉を一瞬受け流してしまいそうになった私は、慌てて声を上げた。
「えっ、結婚? 決まったってどういうこと?」
全くの寝耳に水の話に、目を見開いて父の顔を見る。
口に運ぼうとしていたお肉が箸からするりと滑り、お皿の上にポトンと落ちてしまった。
そんな私の反応を見ても父は全く動じることはなく、普段と変わらない表情で笑みまで浮かべ、たくさん食べろと言わんばかりに次々と網の上に具材を置いている。
製薬業界では名を知られている藤城バイオテックの社長であり、昔から仕事で忙しい父だったけれど、幼い頃に母を亡くした一人娘の私のことはとても大切にしてくれて、毎年誕生日の前後にはこうしてレストランで必ずお祝いをしてくれていた。
脂を纏った霜降りのお肉が網の上でじゅうじゅうと音を立て始め、父が私のお皿に入れてくれるけれど、さっきまでの幸せな気分から一転し、なんだか一気に食欲が失せてしまった。
「その意味の通りだよ。この結婚は昔から決まっていた……いや、そう言うと語弊があるな。親友との約束だったと言った方が正しいかな」
あたかも当然のように話をしているけれど、そんな話があったなんて私は今まで一度も聞いたことはないし、そもそも父と結婚の話をするのだって今日が初めてだ。
昔から決まっていたって……。
もしかして……まさか政略結婚ってこと?
突然こんなことを言い出した父の発言の意図を汲み取りつつも、私はきっぱりと拒むように首を大きく横に振った。
「そんな約束があったなんて私はひと言も聞いてないし! 事前に私に何の相談もなく決めるなんて酷くない? 私は結婚なんてしないからね!」
勝手に結婚を決められたという腹立たしさと、信じていた父から裏切られたような気持ちで、つい口調がきつくなってしまう。そんな私を見て、父は窺うような視線を向けてきた。
「もしかして付き合っている男性がいたのか? そんな素振りは全くなかっただろう? 母さんにも一応確認したんだがな。だから話を進めたんだが……」
全く悪びれる様子もなく、知らなかったとでも言いたげに少し首を傾げているところを見ると、どうやら父は私が結婚を嫌がる理由を、付き合っている男性がいるからだと思っているようだ。
娘に色気がないとでも言いたいのか、「そんな素振りは全くなかった」という断定した言葉と、事前に祖母にまで確認していたことには腹が立つけれど、確かに父の言う通り、私には付き合っている男性はいない。
だからと言っていきなり結婚と言われても、何も聞かされてもいないうえに心の準備だってあるというのに、そんなの絶対に受け入れられるわけがない。
243
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました
上日月
恋愛
人情と江戸の風情が残る下町のたい焼き屋「小濱堂」の看板娘・小濱鈴子(こはまりんこ)。
ひょうきんな父と共に毎日美味しいたい焼きをつくりながら、しっかり者の5歳の弟・湊(みなと)になるべく母の不在を感じさせないよう、どんなときも明るい笑顔だけは絶やさずにいた。
実はその可愛らしい顔立ちから、弟が生まれる前まで"こはりん"と呼ばれる、そこそこ有名なキッズモデルだった鈴子。
でも、それは下町唯一の大衆演劇場だった、今はなき「柳生座」の御曹司。のちに日本の映画界を担う二枚目スターとなった、柳生拓真(やないたくま)の存在が大きく関係していた。
演技の道に進むことを選んだ湊の付き添い人として、一生関わらないと決めていた場所へもう一度戻ることになった鈴子。
そして、いきなり天才子役の片鱗を見せた湊は大役を掴み取る!!
ただ、その父親を演じるのが、後味の悪い別れをした元カレ・拓真だとは聞いてないっ!?
可愛い弟の夢を守るため「顔良し!欲なし?元気なし?」な天才俳優のお世話まで引き受ける羽目になる。
小濱 鈴子(こはま りんこ)30歳
たい焼き屋の看板娘
×
柳生 拓真(やない たくま)30歳
天才俳優
cupid👼
小濱 湊(こはま みなと)5歳
天才子役
※エブリスタ・ベリーズカフェにも掲載しています。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる