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第二章 宿命
決められた結婚①
父から私の結婚が決まったと聞かされたのは、二十七歳の誕生日を迎えてから数日後のことだった。私の誕生日のお祝いで、前から楽しみにしていた高級焼肉店でのディナーの最中に、父が突然とんでもないことを口にしたのだ。
「彩花、お前の結婚が決まったんだ」
テーブルの上に並ぶ綺麗なサシの入ったピンク色の牛肉や、エビやホタテといった海鮮を堪能しながらこの上ない幸せな気分に浸っている中、ただの世間話のように口にした父の言葉を一瞬受け流してしまいそうになった私は、慌てて声を上げた。
「えっ、結婚? 決まったってどういうこと?」
全くの寝耳に水の話に、目を見開いて父の顔を見る。
口に運ぼうとしていたお肉が箸からするりと滑り、お皿の上にポトンと落ちてしまった。
そんな私の反応を見ても父は全く動じることはなく、普段と変わらない表情で笑みまで浮かべ、たくさん食べろと言わんばかりに次々と網の上に具材を置いている。
製薬業界では名を知られている藤城バイオテックの社長であり、昔から仕事で忙しい父だったけれど、幼い頃に母を亡くした一人娘の私のことはとても大切にしてくれて、毎年誕生日の前後にはこうしてレストランで必ずお祝いをしてくれていた。
脂を纏った霜降りのお肉が網の上でじゅうじゅうと音を立て始め、父が私のお皿に入れてくれるけれど、さっきまでの幸せな気分から一転し、なんだか一気に食欲が失せてしまった。
「その意味の通りだよ。この結婚は昔から決まっていた……いや、そう言うと語弊があるな。親友との約束だったと言った方が正しいかな」
あたかも当然のように話をしているけれど、そんな話があったなんて私は今まで一度も聞いたことはないし、そもそも父と結婚の話をするのだって今日が初めてだ。
昔から決まっていたって……。
もしかして……まさか政略結婚ってこと?
突然こんなことを言い出した父の発言の意図を汲み取りつつも、私はきっぱりと拒むように首を大きく横に振った。
「そんな約束があったなんて私はひと言も聞いてないし! 事前に私に何の相談もなく決めるなんて酷くない? 私は結婚なんてしないからね!」
勝手に結婚を決められたという腹立たしさと、信じていた父から裏切られたような気持ちで、つい口調がきつくなってしまう。そんな私を見て、父は窺うような視線を向けてきた。
「もしかして付き合っている男性がいたのか? そんな素振りは全くなかっただろう? 母さんにも一応確認したんだがな。だから話を進めたんだが……」
全く悪びれる様子もなく、知らなかったとでも言いたげに少し首を傾げているところを見ると、どうやら父は私が結婚を嫌がる理由を、付き合っている男性がいるからだと思っているようだ。
娘に色気がないとでも言いたいのか、「そんな素振りは全くなかった」という断定した言葉と、事前に祖母にまで確認していたことには腹が立つけれど、確かに父の言う通り、私には付き合っている男性はいない。
だからと言っていきなり結婚と言われても、何も聞かされてもいないうえに心の準備だってあるというのに、そんなの絶対に受け入れられるわけがない。
「彩花、お前の結婚が決まったんだ」
テーブルの上に並ぶ綺麗なサシの入ったピンク色の牛肉や、エビやホタテといった海鮮を堪能しながらこの上ない幸せな気分に浸っている中、ただの世間話のように口にした父の言葉を一瞬受け流してしまいそうになった私は、慌てて声を上げた。
「えっ、結婚? 決まったってどういうこと?」
全くの寝耳に水の話に、目を見開いて父の顔を見る。
口に運ぼうとしていたお肉が箸からするりと滑り、お皿の上にポトンと落ちてしまった。
そんな私の反応を見ても父は全く動じることはなく、普段と変わらない表情で笑みまで浮かべ、たくさん食べろと言わんばかりに次々と網の上に具材を置いている。
製薬業界では名を知られている藤城バイオテックの社長であり、昔から仕事で忙しい父だったけれど、幼い頃に母を亡くした一人娘の私のことはとても大切にしてくれて、毎年誕生日の前後にはこうしてレストランで必ずお祝いをしてくれていた。
脂を纏った霜降りのお肉が網の上でじゅうじゅうと音を立て始め、父が私のお皿に入れてくれるけれど、さっきまでの幸せな気分から一転し、なんだか一気に食欲が失せてしまった。
「その意味の通りだよ。この結婚は昔から決まっていた……いや、そう言うと語弊があるな。親友との約束だったと言った方が正しいかな」
あたかも当然のように話をしているけれど、そんな話があったなんて私は今まで一度も聞いたことはないし、そもそも父と結婚の話をするのだって今日が初めてだ。
昔から決まっていたって……。
もしかして……まさか政略結婚ってこと?
突然こんなことを言い出した父の発言の意図を汲み取りつつも、私はきっぱりと拒むように首を大きく横に振った。
「そんな約束があったなんて私はひと言も聞いてないし! 事前に私に何の相談もなく決めるなんて酷くない? 私は結婚なんてしないからね!」
勝手に結婚を決められたという腹立たしさと、信じていた父から裏切られたような気持ちで、つい口調がきつくなってしまう。そんな私を見て、父は窺うような視線を向けてきた。
「もしかして付き合っている男性がいたのか? そんな素振りは全くなかっただろう? 母さんにも一応確認したんだがな。だから話を進めたんだが……」
全く悪びれる様子もなく、知らなかったとでも言いたげに少し首を傾げているところを見ると、どうやら父は私が結婚を嫌がる理由を、付き合っている男性がいるからだと思っているようだ。
娘に色気がないとでも言いたいのか、「そんな素振りは全くなかった」という断定した言葉と、事前に祖母にまで確認していたことには腹が立つけれど、確かに父の言う通り、私には付き合っている男性はいない。
だからと言っていきなり結婚と言われても、何も聞かされてもいないうえに心の準備だってあるというのに、そんなの絶対に受け入れられるわけがない。
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