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第二章 宿命
決められた結婚②
「もう! わざわざおばあちゃんにまで確認したの? おばあちゃんもそんなことひと言も言わないんだから! 何か言ってくれてもいいのに……」
私の知らない間に話を進められていたことが許せず、不貞腐れるように口を尖らせる。
ただ、結婚相手に関しては父の会社のことを考えると、容易には決められないことはわかっていた。子どもの頃から、私の行動が会社に影響を及ぼすこともあるから気をつけるようにと厳しく言われてきたし、付き合う相手はよく見極めなさいとも言われてきた。
私は一人娘ということもあり、父の想いとしては、ゆくゆくは私の夫となる相手に会社を任せ、そしてその子どもへと受け継いでもらいたいと考えているのだろう。
だけどまだ大学を卒業してから五年しか経っていないのだ。私はもう少し自由でいたいし、それに──。
全く男性と付き合うこともなく結婚するのではなく、世間の女性たちが経験しているような恋人との甘くときめくような時間を過ごしてみたいという夢もある。
「確かにお父さんやおばあちゃんの思ってる通り、付き合っている人はいないけど、でも私はまだやりたいことがいっぱいあるもん。それに約束か何か知らないけど、会ったこともない知らない人と結婚するなんて私は絶対に嫌だから!」
不機嫌な顔で絶対に嫌だと首を振る私に、父は驚くようなことを口にした。
「知らない人じゃない。彩花も会ったことがある人だ」
「えっ? 会ったことあるって……。相手って私が知ってる人なの?」
思わず目を瞠り、父に尋ね返す。
結婚には全く興味はないし、するつもりもないけれど、相手が誰なのかは少しだけ気になってしまう。
「相手はIGS製薬の社長、五十嵐修史くんだ」
父の言葉にまたしても驚き、衝撃を受けてしまった。
IGS製薬と言えば誰もが知っている日本でも有数の大手製薬会社であり、業界でも常にトップを争っている会社だ。同じ製薬業といっても、うちのような抗体やタンパク質などの生物由来の素材を基盤として医薬品の研究や開発をしているバイオ系の小さな会社とは違い、IGS製薬は化学合成技術を軸に病院で処方されるような低分子医薬品の研究や開発、そして製造や販売を手がけている会社だ。そんな名の知れた大企業の社長なので、確かに名前は知っているけれど、直接会ったことなんてないはずだ。
「修史くんは私の親友の五十嵐雅史の息子なんだ。昨年彩花も一緒に雅史の葬儀に行っただろう?」
お葬式──?と首を傾げ、あっ、と一年前の出来事を思い出した。
大切な親友が亡くなったということで、父に連れられて、IGS製薬の前社長のお葬式に出向いたことがある。
そういえば普段あまり動揺した姿などを見せない父が、娘の私でも心配してしまうほどにショックを受け、しばらくの間お酒の量が増えてしまうほど落ち込んでいた。
あまり記憶に残っていないけれど、親族席に座っていた若い男性がおそらく父の言う結婚相手だ。
だけど確かあのとき……。
なぜかその男性が私たちのことを鋭い視線で睨みつけていたのだ。あれは嫌っているというか、敵意を持っているというか、憎んでいるようなそんな目だったように思う。どうしてあんな風に睨んでいたのか理由はわからないけれど、あのときの様子から考えると、葬儀に参列していた私たちのことを快く思っていないのは確かだった。
だけどそんな私の記憶とは裏腹に、父はまるで自分の息子でも思うかのように頬を緩めた。
私の知らない間に話を進められていたことが許せず、不貞腐れるように口を尖らせる。
ただ、結婚相手に関しては父の会社のことを考えると、容易には決められないことはわかっていた。子どもの頃から、私の行動が会社に影響を及ぼすこともあるから気をつけるようにと厳しく言われてきたし、付き合う相手はよく見極めなさいとも言われてきた。
私は一人娘ということもあり、父の想いとしては、ゆくゆくは私の夫となる相手に会社を任せ、そしてその子どもへと受け継いでもらいたいと考えているのだろう。
だけどまだ大学を卒業してから五年しか経っていないのだ。私はもう少し自由でいたいし、それに──。
全く男性と付き合うこともなく結婚するのではなく、世間の女性たちが経験しているような恋人との甘くときめくような時間を過ごしてみたいという夢もある。
「確かにお父さんやおばあちゃんの思ってる通り、付き合っている人はいないけど、でも私はまだやりたいことがいっぱいあるもん。それに約束か何か知らないけど、会ったこともない知らない人と結婚するなんて私は絶対に嫌だから!」
不機嫌な顔で絶対に嫌だと首を振る私に、父は驚くようなことを口にした。
「知らない人じゃない。彩花も会ったことがある人だ」
「えっ? 会ったことあるって……。相手って私が知ってる人なの?」
思わず目を瞠り、父に尋ね返す。
結婚には全く興味はないし、するつもりもないけれど、相手が誰なのかは少しだけ気になってしまう。
「相手はIGS製薬の社長、五十嵐修史くんだ」
父の言葉にまたしても驚き、衝撃を受けてしまった。
IGS製薬と言えば誰もが知っている日本でも有数の大手製薬会社であり、業界でも常にトップを争っている会社だ。同じ製薬業といっても、うちのような抗体やタンパク質などの生物由来の素材を基盤として医薬品の研究や開発をしているバイオ系の小さな会社とは違い、IGS製薬は化学合成技術を軸に病院で処方されるような低分子医薬品の研究や開発、そして製造や販売を手がけている会社だ。そんな名の知れた大企業の社長なので、確かに名前は知っているけれど、直接会ったことなんてないはずだ。
「修史くんは私の親友の五十嵐雅史の息子なんだ。昨年彩花も一緒に雅史の葬儀に行っただろう?」
お葬式──?と首を傾げ、あっ、と一年前の出来事を思い出した。
大切な親友が亡くなったということで、父に連れられて、IGS製薬の前社長のお葬式に出向いたことがある。
そういえば普段あまり動揺した姿などを見せない父が、娘の私でも心配してしまうほどにショックを受け、しばらくの間お酒の量が増えてしまうほど落ち込んでいた。
あまり記憶に残っていないけれど、親族席に座っていた若い男性がおそらく父の言う結婚相手だ。
だけど確かあのとき……。
なぜかその男性が私たちのことを鋭い視線で睨みつけていたのだ。あれは嫌っているというか、敵意を持っているというか、憎んでいるようなそんな目だったように思う。どうしてあんな風に睨んでいたのか理由はわからないけれど、あのときの様子から考えると、葬儀に参列していた私たちのことを快く思っていないのは確かだった。
だけどそんな私の記憶とは裏腹に、父はまるで自分の息子でも思うかのように頬を緩めた。
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