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第三章 怨恨
忘れ得ぬ名前(修史side)①
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会議を終えて社長室に戻ってきた俺は、手にしていた会議資料を机の上に置くと、椅子に深く座り、大きく息を吐いた。先ほどまでの張りつめていた空気から解放され、やっとひと息つく。
今日の午前中は毎月恒例の経営会議だった。年間計画の進捗確認から、主力医薬品の実績状況、新規事業への展開、そしてリスクマネジメントなど、議題はいつもながら山ほどある。
「主力製品が順調とは言え、来年後発品が出てくれば売り上げもかなり下がってくるだろうし、早めに何か新たな手を打たないとな……」
会議の内容を思い返しながらパソコンに向かい、メールを開こうとして、ふと机の上のカレンダーが目に入った。
「そういえばもうすぐ父さんの一周忌か……」
一年前の七月、IGS製薬の社長だった父が心筋梗塞で倒れ、この世を去った。
それは突然の出来事だった。
特に持病があったわけではなく、毎年必ず人間ドックは受けていたし、本人も仕事柄健康管理には十分気をつけていた。それだけに父の訃報は俺にとってはもちろんのこと、社内外の誰にとっても衝撃だった。
まさかこんなに早く亡くなるとは思ってもいなかったので、俺の中ではまだ信じられない気持ちもあり、ある日突然長い出張から帰ってくるような、そんな気がしてしまう。
だが、後日聞いた話によると、母が三年前に癌で他界したことで、父は今まで以上に仕事に打ち込んでいたようだ。もしかしたら、「母の死」という悲しみを仕事で紛らわせていたのかもしれない。今さら悔やんだところでどうすることもできないが、俺が実家を出ることなく一緒に生活していたら、父は心筋梗塞なんか起こすことなく、まだ元気に仕事をしていただろうかと、ふと考えてしまう。
医者は過労やストレスが原因だったのだろうと言っていたが、おそらくその通りだったのだろう。というのも、こうして父の仕事を引き継いだ今、俺はその大変さを嫌というほど実感している。この一年は休む暇もないほどに、とにかく忙しかった。
俺は大学を卒業後、父の会社であるIGS製薬に入社し、最初の四年間は医療情報担当者、いわゆるMRとして現場を経験した。その後、MRから経営戦略部を経て、グループ会社のOTC部門、薬局やドラッグストアなどで購入できる一般用医薬品を扱うIGSメディカルヘルスケアの社長へと就任した。社長業を経験していたとはいえ、IGS製薬本体の経営は、想像以上に重く、責任の大きいものだった。
「修史、ちょっといいか?」
父のことを思い出していると、社長室のドアがノックされ、秘書の真壁が入ってきた。
真壁は俺の大学時代の友人であり、同期でもある。
俺がIGS製薬の社長に就任することが決まったとき、当時MRだった真壁を秘書として引き抜いた。最初は慣れない秘書業務に戸惑っていたようだが、MRを経験していただけあって業務内容や医薬品についてもよくわかっているし、何よりも仕事ができるやつだ。
すぐに持ち前の順応力と頭の回転の速さで、頼りになる有能な秘書になってくれた。
「遅くなって悪いな。これから昼飯に行くか?」
時計を見ると既に12時半を過ぎている。
出かけようと椅子から立ち上がったところで、真壁が紙袋を差し出した。
「いや、コーヒーとサンドイッチを買って来たんだ。お前のもあるからここで食べていいか?」
真壁は他の社員がいるときには俺にきちんと敬語を使って話すが、こうして二人のときは学生時代と同じように友人として接してくれる。会社で毎日気を張っている俺としては、真壁とのこの時間が唯一ほっとできる瞬間でもあった。
今日の午前中は毎月恒例の経営会議だった。年間計画の進捗確認から、主力医薬品の実績状況、新規事業への展開、そしてリスクマネジメントなど、議題はいつもながら山ほどある。
「主力製品が順調とは言え、来年後発品が出てくれば売り上げもかなり下がってくるだろうし、早めに何か新たな手を打たないとな……」
会議の内容を思い返しながらパソコンに向かい、メールを開こうとして、ふと机の上のカレンダーが目に入った。
「そういえばもうすぐ父さんの一周忌か……」
一年前の七月、IGS製薬の社長だった父が心筋梗塞で倒れ、この世を去った。
それは突然の出来事だった。
特に持病があったわけではなく、毎年必ず人間ドックは受けていたし、本人も仕事柄健康管理には十分気をつけていた。それだけに父の訃報は俺にとってはもちろんのこと、社内外の誰にとっても衝撃だった。
まさかこんなに早く亡くなるとは思ってもいなかったので、俺の中ではまだ信じられない気持ちもあり、ある日突然長い出張から帰ってくるような、そんな気がしてしまう。
だが、後日聞いた話によると、母が三年前に癌で他界したことで、父は今まで以上に仕事に打ち込んでいたようだ。もしかしたら、「母の死」という悲しみを仕事で紛らわせていたのかもしれない。今さら悔やんだところでどうすることもできないが、俺が実家を出ることなく一緒に生活していたら、父は心筋梗塞なんか起こすことなく、まだ元気に仕事をしていただろうかと、ふと考えてしまう。
医者は過労やストレスが原因だったのだろうと言っていたが、おそらくその通りだったのだろう。というのも、こうして父の仕事を引き継いだ今、俺はその大変さを嫌というほど実感している。この一年は休む暇もないほどに、とにかく忙しかった。
俺は大学を卒業後、父の会社であるIGS製薬に入社し、最初の四年間は医療情報担当者、いわゆるMRとして現場を経験した。その後、MRから経営戦略部を経て、グループ会社のOTC部門、薬局やドラッグストアなどで購入できる一般用医薬品を扱うIGSメディカルヘルスケアの社長へと就任した。社長業を経験していたとはいえ、IGS製薬本体の経営は、想像以上に重く、責任の大きいものだった。
「修史、ちょっといいか?」
父のことを思い出していると、社長室のドアがノックされ、秘書の真壁が入ってきた。
真壁は俺の大学時代の友人であり、同期でもある。
俺がIGS製薬の社長に就任することが決まったとき、当時MRだった真壁を秘書として引き抜いた。最初は慣れない秘書業務に戸惑っていたようだが、MRを経験していただけあって業務内容や医薬品についてもよくわかっているし、何よりも仕事ができるやつだ。
すぐに持ち前の順応力と頭の回転の速さで、頼りになる有能な秘書になってくれた。
「遅くなって悪いな。これから昼飯に行くか?」
時計を見ると既に12時半を過ぎている。
出かけようと椅子から立ち上がったところで、真壁が紙袋を差し出した。
「いや、コーヒーとサンドイッチを買って来たんだ。お前のもあるからここで食べていいか?」
真壁は他の社員がいるときには俺にきちんと敬語を使って話すが、こうして二人のときは学生時代と同じように友人として接してくれる。会社で毎日気を張っている俺としては、真壁とのこの時間が唯一ほっとできる瞬間でもあった。
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