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第三章 怨恨
忘れ得ぬ名前(修史side)②
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「別に構わないけど。それよりいくらだった? お金払うよ。」
「いや、今日は俺が奢る」
財布を取り出した俺に、「奢る」と口にしてニヤっと意味深な笑みを浮かべている。社長室で食べてもいいかと聞いてくるのも珍しいのに、昼飯まで奢ってくれるとは。
何か聞かれたくない話でもあるのだろうか。
じゃあ遠慮なく奢ってもらうよ──と笑みで返し、打ち合わせテーブルに移動して椅子に腰を下ろすと、真壁が袋の中から紙に包まれたサンドイッチを取り出した。
「ローストビーフとてりたま、どっちがいい?」
「俺にわざわざ聞く必要あるか? お前はいつもてりたま一択だろ? 俺はローストビーフでいいよ」
「そうか? じゃあ俺はてりたまで」
そう言って顔を綻ばせる真壁を見て、つられて笑いながらサンドイッチを受け取る。ソフトバゲットにローストビーフやトマト、チーズにアボカドや野菜などが挟まれた具だくさんのサンドイッチだ。二人で少し遅めの昼食を食べ始めたところで、真壁が俺の表情を窺うようにチラッと視線を向けた。
「なあ修史、アポイントの依頼が入ったんだ……」
いつもは話もそこそこに好物のてりたまサンドにかじりついているというのに、今日はどうしたのかまだひと口しか食べていない。少々のことでは動じない性格だし、何があっても冷静に対処する人間だというのに、やはり何かあるようだ。いつもとは違う真壁の様子に、俺は心配になり顔を覗きこんだ。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
アポイントで何か手違いでもあったのだろうか。それとも俺に伝え忘れていたことがあるのだろうか。そんな考えが頭をよぎりながら真壁の顔を見つめる。
「いや、実はな……」
「どうしたんだよ? アポイントだったらいつものようにお前の判断で俺のスケジュールを見て日程を決めてくれて構わないって言ってるだろ? もしかして何か俺に伝え忘れていたことでもあるのか?」
こんなにも話すのを躊躇しているところを見ると、何か重大なミスが発覚したのかもしれない。厄介な案件でなければいいが──とそんな覚悟をしつつ待っていると、真壁が思いもよらなかった人物の名前を口にした。
「そのアポイントの相手なんだが……、藤城バイオテックの藤城社長なんだ」
真壁の口から出てきた名前を聞いた瞬間、思わず手に力が入り、俺は持っていたサンドイッチを握りしめてしまった。サンドイッチを包んでいた紙がクシャっと音を立てる。
「はぁ? 藤城バイオテック?」
俺が眉間に皺を寄せて鋭い視線を向けたことで、真壁は俺の心情を理解するように苦々しい表情で頷いた。
「いったい俺に何の用なんだ?」
「もうすぐ五十嵐前社長の一周忌だろ? それで親族であるお前に挨拶をしたいそうだ」
「いったいどのツラ下げて挨拶に来るっていうんだ? よくぬけぬけと連絡してこれるよな? だいたい父が倒れたのだって親友だと思っていた藤城に裏切られたのが原因のひとつだろ!」
真壁は全く関係ないのに、つい怒りに任せて声を荒げてしまった。父が亡くなった後に聞いた許せない話を思い出し、胸の奥で沸々と苛立ちが湧き上がってくる。
「修史、お前の気持ちもわかるがちょっと落ち着けよ。外に聞こえるぞ」
「ああ……悪い。お前は関係ないのに……」
真壁に謝りつつ、自分を落ち着かせるように大きく息を吐く。
「悪いがそのアポイントはスケジュールの都合がつかないという理由で断ってくれないか。一周忌の挨拶なら、秘書のお前から俺に伝えておくという形で言ってくれていいから」
藤城には言いたいことは山ほどあるし、父に変わって文句のひとつでも言ってやりたいところだが、それよりも顔を合わせて話をすること自体が腹立たしい。あからさまに不機嫌な溜息をついてコーヒーを口に運ぶと、またしても真壁が言いづらそうに顔を歪めた。
「いや、今日は俺が奢る」
財布を取り出した俺に、「奢る」と口にしてニヤっと意味深な笑みを浮かべている。社長室で食べてもいいかと聞いてくるのも珍しいのに、昼飯まで奢ってくれるとは。
何か聞かれたくない話でもあるのだろうか。
じゃあ遠慮なく奢ってもらうよ──と笑みで返し、打ち合わせテーブルに移動して椅子に腰を下ろすと、真壁が袋の中から紙に包まれたサンドイッチを取り出した。
「ローストビーフとてりたま、どっちがいい?」
「俺にわざわざ聞く必要あるか? お前はいつもてりたま一択だろ? 俺はローストビーフでいいよ」
「そうか? じゃあ俺はてりたまで」
そう言って顔を綻ばせる真壁を見て、つられて笑いながらサンドイッチを受け取る。ソフトバゲットにローストビーフやトマト、チーズにアボカドや野菜などが挟まれた具だくさんのサンドイッチだ。二人で少し遅めの昼食を食べ始めたところで、真壁が俺の表情を窺うようにチラッと視線を向けた。
「なあ修史、アポイントの依頼が入ったんだ……」
いつもは話もそこそこに好物のてりたまサンドにかじりついているというのに、今日はどうしたのかまだひと口しか食べていない。少々のことでは動じない性格だし、何があっても冷静に対処する人間だというのに、やはり何かあるようだ。いつもとは違う真壁の様子に、俺は心配になり顔を覗きこんだ。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
アポイントで何か手違いでもあったのだろうか。それとも俺に伝え忘れていたことがあるのだろうか。そんな考えが頭をよぎりながら真壁の顔を見つめる。
「いや、実はな……」
「どうしたんだよ? アポイントだったらいつものようにお前の判断で俺のスケジュールを見て日程を決めてくれて構わないって言ってるだろ? もしかして何か俺に伝え忘れていたことでもあるのか?」
こんなにも話すのを躊躇しているところを見ると、何か重大なミスが発覚したのかもしれない。厄介な案件でなければいいが──とそんな覚悟をしつつ待っていると、真壁が思いもよらなかった人物の名前を口にした。
「そのアポイントの相手なんだが……、藤城バイオテックの藤城社長なんだ」
真壁の口から出てきた名前を聞いた瞬間、思わず手に力が入り、俺は持っていたサンドイッチを握りしめてしまった。サンドイッチを包んでいた紙がクシャっと音を立てる。
「はぁ? 藤城バイオテック?」
俺が眉間に皺を寄せて鋭い視線を向けたことで、真壁は俺の心情を理解するように苦々しい表情で頷いた。
「いったい俺に何の用なんだ?」
「もうすぐ五十嵐前社長の一周忌だろ? それで親族であるお前に挨拶をしたいそうだ」
「いったいどのツラ下げて挨拶に来るっていうんだ? よくぬけぬけと連絡してこれるよな? だいたい父が倒れたのだって親友だと思っていた藤城に裏切られたのが原因のひとつだろ!」
真壁は全く関係ないのに、つい怒りに任せて声を荒げてしまった。父が亡くなった後に聞いた許せない話を思い出し、胸の奥で沸々と苛立ちが湧き上がってくる。
「修史、お前の気持ちもわかるがちょっと落ち着けよ。外に聞こえるぞ」
「ああ……悪い。お前は関係ないのに……」
真壁に謝りつつ、自分を落ち着かせるように大きく息を吐く。
「悪いがそのアポイントはスケジュールの都合がつかないという理由で断ってくれないか。一周忌の挨拶なら、秘書のお前から俺に伝えておくという形で言ってくれていいから」
藤城には言いたいことは山ほどあるし、父に変わって文句のひとつでも言ってやりたいところだが、それよりも顔を合わせて話をすること自体が腹立たしい。あからさまに不機嫌な溜息をついてコーヒーを口に運ぶと、またしても真壁が言いづらそうに顔を歪めた。
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