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第四章 覚悟
不安と希望④
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「彩花、いったいどうしたの? 何があったの?」
「もうね、紗絵と旅行に行けなくなるかもしれない……」
「旅行に行けない? どうして?」
「実はね……、結婚が、決まったの」
私の言葉に、紗絵はひと言「えっ?」と口にして、固まってしまった。目を見開いたまま、私の顔をじっと見つめて呆然としている。
「あ、あのね、紗絵……」
「けっ、結婚? 彩花、結婚ってどういうこと?」
いつもは悠々としていて余裕もあるし、すぐに反応してくれる紗絵だけれど、運ばれてきた生春巻きにも全く手をつけず、まるで信じられないものでも見ているかのような表情で驚いている。
「ちょっ、ちょっと待って。いったん落ち着かせて」
紗絵は制止するように両手を前に出すと大きく深呼吸をした。そして真剣な表情で私の顔を見る。
「ねぇ彩花、いつ彼氏ができたの?」
尋問のようなこの質問は傍から見たら失礼に聞こえるかもしれないけれど、これは決して失礼でも嫌味でもなく、本当にびっくりしているからこそ尋ねているのだ。
そう、私には今までそんな素振りは一切なかったのだから。
紗絵は私に彼氏がいないことも、今まで男性経験がないことも知っている。
初めてそのことを話したときには、「まだ一度も経験ないの? 嘘でしょ?」と笑われてしまうかと思ったけれど、紗絵は全く笑うことなく、「早いか遅いかなんて人と比べるものじゃないし、人それぞれなんだから。一度も付き合ったことがないとか、経験のないことは決して恥ずかしいことじゃないんだからね」と言ってくれて、本当に嬉しかった。
「彼氏なんてできてないよ……」
泣きそうな声で呟いた私に、紗絵の顔がまたしてもフリーズしてしまった。
「いったいどういうこと?」
少し首を傾げて私に問いかけつつ、自分もその答えを探すように視線をさまよわせている。そして、思い当たる理由を見つけたのか、はっとした表情を浮かべた。
「もしかして……、政略結婚……ってこと?」
私が無言のまま頷くと、紗絵はようやく全ての謎が解けたようにゆっくりと首を縦に振った。
「そっかぁ……。それで今日はずっと様子がおかしかったのか……」
「紗絵に何度も聞いてもらおうと思ったんだけど、何から話していいかわからなくて……」
「政略結婚が決まったなんてなかなか言えないよね……っていうか、普通私たちの周りで政略結婚の話なんてまず聞かないもん。それって小説やドラマの中だけの話だと思ってたし。実際にあるんだね……」
ある意味感心しているような表情で頷いている。
私も昨日まではそんなこと思いもしなかった。
「私ね、いつも頭の中から消えちゃってるんだけど、彩花って本当は社長令嬢のお嬢様なんだよね。あっ、これは嫌味とか意地悪とか全然そんな意味で言ってるんじゃないよ?」
「わかってる。紗絵がそんなつもりで言ってないことくらい」
全く気にしていないよ──と口元を緩めて微笑む。
悩みごとの理由がわかったことで、紗絵はやっと生春巻きに手を伸ばし、私と自分のお皿に取り分けてくれた。
「あー、彩花結婚しちゃうのかぁ……。寂しいなぁ……」
ぷりぷりの海老が入った具だくさんの生春巻きをスイートチリソースに浸らせたまま、紗絵が沈んだ表情で溜息をつく。
「もちろん、彩花の結婚はすっごく嬉しいんだよ。ほんとに心から嬉しいの。だって彩花のこと大好きだもん。だけど突然のことで、彩花が遠くに行っちゃう感じっていうか、もう一緒にあんな旅行もできないのかなって思うと、どうしても寂しくて……」
「私も同じだよ。兄弟や姉妹がいない私からしたら、紗絵ってお姉ちゃんみたいな存在だから、もし紗絵が突然結婚するって聞いたら、嬉しいけど寂しいって思っちゃう」
「えー、ちょっと待って。私がお姉ちゃん? 同い年なのに?」
「だって紗絵、しっかりしてるもん」
「そうだよね! どう見ても私が姉で、彩花は妹だよね!」
二人で顔を合わせてぷぷっと笑う。
大好きな友達が結婚するのは喜ばしくて嬉しいことだけど、なんだか遠くに行ってしまうような気持ちになるのは、二人とも一緒のようだ。
「もうね、紗絵と旅行に行けなくなるかもしれない……」
「旅行に行けない? どうして?」
「実はね……、結婚が、決まったの」
私の言葉に、紗絵はひと言「えっ?」と口にして、固まってしまった。目を見開いたまま、私の顔をじっと見つめて呆然としている。
「あ、あのね、紗絵……」
「けっ、結婚? 彩花、結婚ってどういうこと?」
いつもは悠々としていて余裕もあるし、すぐに反応してくれる紗絵だけれど、運ばれてきた生春巻きにも全く手をつけず、まるで信じられないものでも見ているかのような表情で驚いている。
「ちょっ、ちょっと待って。いったん落ち着かせて」
紗絵は制止するように両手を前に出すと大きく深呼吸をした。そして真剣な表情で私の顔を見る。
「ねぇ彩花、いつ彼氏ができたの?」
尋問のようなこの質問は傍から見たら失礼に聞こえるかもしれないけれど、これは決して失礼でも嫌味でもなく、本当にびっくりしているからこそ尋ねているのだ。
そう、私には今までそんな素振りは一切なかったのだから。
紗絵は私に彼氏がいないことも、今まで男性経験がないことも知っている。
初めてそのことを話したときには、「まだ一度も経験ないの? 嘘でしょ?」と笑われてしまうかと思ったけれど、紗絵は全く笑うことなく、「早いか遅いかなんて人と比べるものじゃないし、人それぞれなんだから。一度も付き合ったことがないとか、経験のないことは決して恥ずかしいことじゃないんだからね」と言ってくれて、本当に嬉しかった。
「彼氏なんてできてないよ……」
泣きそうな声で呟いた私に、紗絵の顔がまたしてもフリーズしてしまった。
「いったいどういうこと?」
少し首を傾げて私に問いかけつつ、自分もその答えを探すように視線をさまよわせている。そして、思い当たる理由を見つけたのか、はっとした表情を浮かべた。
「もしかして……、政略結婚……ってこと?」
私が無言のまま頷くと、紗絵はようやく全ての謎が解けたようにゆっくりと首を縦に振った。
「そっかぁ……。それで今日はずっと様子がおかしかったのか……」
「紗絵に何度も聞いてもらおうと思ったんだけど、何から話していいかわからなくて……」
「政略結婚が決まったなんてなかなか言えないよね……っていうか、普通私たちの周りで政略結婚の話なんてまず聞かないもん。それって小説やドラマの中だけの話だと思ってたし。実際にあるんだね……」
ある意味感心しているような表情で頷いている。
私も昨日まではそんなこと思いもしなかった。
「私ね、いつも頭の中から消えちゃってるんだけど、彩花って本当は社長令嬢のお嬢様なんだよね。あっ、これは嫌味とか意地悪とか全然そんな意味で言ってるんじゃないよ?」
「わかってる。紗絵がそんなつもりで言ってないことくらい」
全く気にしていないよ──と口元を緩めて微笑む。
悩みごとの理由がわかったことで、紗絵はやっと生春巻きに手を伸ばし、私と自分のお皿に取り分けてくれた。
「あー、彩花結婚しちゃうのかぁ……。寂しいなぁ……」
ぷりぷりの海老が入った具だくさんの生春巻きをスイートチリソースに浸らせたまま、紗絵が沈んだ表情で溜息をつく。
「もちろん、彩花の結婚はすっごく嬉しいんだよ。ほんとに心から嬉しいの。だって彩花のこと大好きだもん。だけど突然のことで、彩花が遠くに行っちゃう感じっていうか、もう一緒にあんな旅行もできないのかなって思うと、どうしても寂しくて……」
「私も同じだよ。兄弟や姉妹がいない私からしたら、紗絵ってお姉ちゃんみたいな存在だから、もし紗絵が突然結婚するって聞いたら、嬉しいけど寂しいって思っちゃう」
「えー、ちょっと待って。私がお姉ちゃん? 同い年なのに?」
「だって紗絵、しっかりしてるもん」
「そうだよね! どう見ても私が姉で、彩花は妹だよね!」
二人で顔を合わせてぷぷっと笑う。
大好きな友達が結婚するのは喜ばしくて嬉しいことだけど、なんだか遠くに行ってしまうような気持ちになるのは、二人とも一緒のようだ。
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