16 / 70
第六章 怨敵
予期せぬ提案(修史side)①
しおりを挟む
瞬く間に日にちが過ぎ、藤城とのアポイントの日がやってきた。
この一週間、俺は忙しく業務を遂行しながらも、藤城に会ったら何て言おうかと頭の中でシミュレーションを繰り返していた。
「修史、わかっていると思うが、冷静に対応しろよ。相手は憎むべき人物だが、その前に同業者であり、藤城バイオテックの社長なんだからな。失礼な態度は取るなよ?」
出かけ際、社長室で支度をしていると、よほど心配だったのか真壁が念を押すように忠告してきた。
「わかってはいるが、藤城を目の前にしたらどうなるかはわからないな。とりあえず冷静に対応するように努力はするよ」
「まあ、お前のことだから心配はしてないが、とにかく感情的にはなるなよ。お前は五十嵐修史である前に、IGS製薬の社長なんだからな」
真壁の言葉に、「わかった。行ってくる」と右手をあげ、専属の運転手が待つ地下の駐車場へと降りる。そして車に乗り込むと、気持ちを落ち着かせるように静かに目を閉じた。
藤城から指定された場所は、銀座にほど近い場所にある高級料亭だった。
歴史を感じさせる老舗の門構えに、緑に囲まれた風情のある建物。美しく整えられた日本庭園には、しなやかに錦鯉が泳いでいる。わざわざこのような仰々しい場所を予約したということは、やはり父の謝罪も兼ねているのだろう。
玄関先で出迎えてくれた仲居に案内されながら、藤城が待つ場所へと進んでいく。もうすぐ顔を合わせると思うと、全身に緊張が走る。
そして部屋の前に着き、仲居が声をかけて扉を開けると、父を裏切った男の顔が視界に入ってきた。
「お世話になっております。 本日はありがとうございます」
一瞬、目が合ったあと、視線を遮るようにすぐに頭を下げる。この瞬間まで自分がどんな感情になるのだろうかと思案していたが、思ったよりも冷静でいることに、少し安堵している俺がいた。
「こちらこそ、本日は急なお願いにもかかわらずお越しいただき、ありがとうございます。貴重なお時間を割いてくださり、感謝しております」
藤城は柔和な笑みを浮かべて丁寧に挨拶すると、座敷に座るよう促してきた。言われるがまま席に着いたものの、何の会話も思い浮かばず、気まずい空気が流れる。
そんな空気を打ち消すように、藤城が少し打ち解けた口調で俺に尋ねてきた。
「五十嵐社長、最初はビールで良いかな?」
「はい」
これからこんな時間が二時間くらい続くのだろうか。
早くこの場から立ち去りたい。
藤城は俺の返事ににっこりと頷くと、扉の外に待機していた仲居に瓶ビールを二本注文して姿勢を正した。
「本当は今日はアルコールは止めておこうかと思ったんだが、父上の一周忌でもあるし、息子である君と一緒に雅史を偲ぶのもいいかなと思って、この席を用意させてもらったんだ。少しだけ私に付き合ってくれないかな?」
はぁ? 俺と一緒に父を偲ぶ?
父を裏切ったことへの謝罪はしないのか?
藤城の言葉に、自然と眉間に皺が入る。
てっきり謝罪をするのかと思っていたら、どうやら藤城は俺の前で父の親友を装うつもりらしい。おそらく俺が何も知らないと思っているのだろう。
「それと、ささやかではあるんだが、これは雅史の一周忌の香典とお線香でね。御仏前にお供えしていただけると有り難いんだが」
「恐れ入ります。ありがとうございます」
少し苛立ちを感じた俺は、形式的に頭を下げてお礼を述べた。すると扉の向こうから仲居の声がして、注文したビールが運ばれてきた。
この一週間、俺は忙しく業務を遂行しながらも、藤城に会ったら何て言おうかと頭の中でシミュレーションを繰り返していた。
「修史、わかっていると思うが、冷静に対応しろよ。相手は憎むべき人物だが、その前に同業者であり、藤城バイオテックの社長なんだからな。失礼な態度は取るなよ?」
出かけ際、社長室で支度をしていると、よほど心配だったのか真壁が念を押すように忠告してきた。
「わかってはいるが、藤城を目の前にしたらどうなるかはわからないな。とりあえず冷静に対応するように努力はするよ」
「まあ、お前のことだから心配はしてないが、とにかく感情的にはなるなよ。お前は五十嵐修史である前に、IGS製薬の社長なんだからな」
真壁の言葉に、「わかった。行ってくる」と右手をあげ、専属の運転手が待つ地下の駐車場へと降りる。そして車に乗り込むと、気持ちを落ち着かせるように静かに目を閉じた。
藤城から指定された場所は、銀座にほど近い場所にある高級料亭だった。
歴史を感じさせる老舗の門構えに、緑に囲まれた風情のある建物。美しく整えられた日本庭園には、しなやかに錦鯉が泳いでいる。わざわざこのような仰々しい場所を予約したということは、やはり父の謝罪も兼ねているのだろう。
玄関先で出迎えてくれた仲居に案内されながら、藤城が待つ場所へと進んでいく。もうすぐ顔を合わせると思うと、全身に緊張が走る。
そして部屋の前に着き、仲居が声をかけて扉を開けると、父を裏切った男の顔が視界に入ってきた。
「お世話になっております。 本日はありがとうございます」
一瞬、目が合ったあと、視線を遮るようにすぐに頭を下げる。この瞬間まで自分がどんな感情になるのだろうかと思案していたが、思ったよりも冷静でいることに、少し安堵している俺がいた。
「こちらこそ、本日は急なお願いにもかかわらずお越しいただき、ありがとうございます。貴重なお時間を割いてくださり、感謝しております」
藤城は柔和な笑みを浮かべて丁寧に挨拶すると、座敷に座るよう促してきた。言われるがまま席に着いたものの、何の会話も思い浮かばず、気まずい空気が流れる。
そんな空気を打ち消すように、藤城が少し打ち解けた口調で俺に尋ねてきた。
「五十嵐社長、最初はビールで良いかな?」
「はい」
これからこんな時間が二時間くらい続くのだろうか。
早くこの場から立ち去りたい。
藤城は俺の返事ににっこりと頷くと、扉の外に待機していた仲居に瓶ビールを二本注文して姿勢を正した。
「本当は今日はアルコールは止めておこうかと思ったんだが、父上の一周忌でもあるし、息子である君と一緒に雅史を偲ぶのもいいかなと思って、この席を用意させてもらったんだ。少しだけ私に付き合ってくれないかな?」
はぁ? 俺と一緒に父を偲ぶ?
父を裏切ったことへの謝罪はしないのか?
藤城の言葉に、自然と眉間に皺が入る。
てっきり謝罪をするのかと思っていたら、どうやら藤城は俺の前で父の親友を装うつもりらしい。おそらく俺が何も知らないと思っているのだろう。
「それと、ささやかではあるんだが、これは雅史の一周忌の香典とお線香でね。御仏前にお供えしていただけると有り難いんだが」
「恐れ入ります。ありがとうございます」
少し苛立ちを感じた俺は、形式的に頭を下げてお礼を述べた。すると扉の向こうから仲居の声がして、注文したビールが運ばれてきた。
375
あなたにおすすめの小説
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです
春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。
ここは通過点のはずだった。
誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。
触れない客。
身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。
「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」
突然の身請け話。
値札のついた自分と向き合う三日間。
選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、
通過点は終わりになる。
これは救いではなく対等な恋の話。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
花咲くように 微笑んで 【書籍化】
葉月 まい
恋愛
初恋の先輩、春樹の結婚式に
出席した菜乃花は
ひょんなことから颯真と知り合う
胸に抱えた挫折と失恋
仕事への葛藤
互いの悩みを打ち明け
心を通わせていくが
二人の関係は平行線のまま
ある日菜乃花は別のドクターと出かけることになり、そこで思わぬ事態となる…
✼•• ┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈••✼
鈴原 菜乃花(24歳)…図書館司書
宮瀬 颯真(28歳)…救急科専攻医
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる