柔らかな愛に触れるまで ~冷酷な御曹司は政略結婚から愛を知る~

上乃凛子

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第六章 怨敵

予期せぬ提案(修史side)①

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瞬く間に日にちが過ぎ、藤城とのアポイントの日がやってきた。

この一週間、俺は忙しく業務を遂行しながらも、藤城に会ったら何て言おうかと頭の中でシミュレーションを繰り返していた。

「修史、わかっていると思うが、冷静に対応しろよ。相手は憎むべき人物だが、その前に同業者であり、藤城バイオテックの社長なんだからな。失礼な態度は取るなよ?」

出かけ際、社長室で支度をしていると、よほど心配だったのか真壁が念を押すように忠告してきた。

「わかってはいるが、藤城を目の前にしたらどうなるかはわからないな。とりあえず冷静に対応するように努力はするよ」

「まあ、お前のことだから心配はしてないが、とにかく感情的にはなるなよ。お前は五十嵐修史である前に、IGS製薬の社長なんだからな」

真壁の言葉に、「わかった。行ってくる」と右手をあげ、専属の運転手が待つ地下の駐車場へと降りる。そして車に乗り込むと、気持ちを落ち着かせるように静かに目を閉じた。

藤城から指定された場所は、銀座にほど近い場所にある高級料亭だった。
歴史を感じさせる老舗の門構えに、緑に囲まれた風情のある建物。美しく整えられた日本庭園には、しなやかに錦鯉が泳いでいる。わざわざこのような仰々しい場所を予約したということは、やはり父の謝罪も兼ねているのだろう。

玄関先で出迎えてくれた仲居に案内されながら、藤城が待つ場所へと進んでいく。もうすぐ顔を合わせると思うと、全身に緊張が走る。
そして部屋の前に着き、仲居が声をかけて扉を開けると、父を裏切った男の顔が視界に入ってきた。

「お世話になっております。 本日はありがとうございます」

一瞬、目が合ったあと、視線を遮るようにすぐに頭を下げる。この瞬間まで自分がどんな感情になるのだろうかと思案していたが、思ったよりも冷静でいることに、少し安堵している俺がいた。

「こちらこそ、本日は急なお願いにもかかわらずお越しいただき、ありがとうございます。貴重なお時間を割いてくださり、感謝しております」

藤城は柔和な笑みを浮かべて丁寧に挨拶すると、座敷に座るよう促してきた。言われるがまま席に着いたものの、何の会話も思い浮かばず、気まずい空気が流れる。
そんな空気を打ち消すように、藤城が少し打ち解けた口調で俺に尋ねてきた。

「五十嵐社長、最初はビールで良いかな?」

「はい」

これからこんな時間が二時間くらい続くのだろうか。
早くこの場から立ち去りたい。
藤城は俺の返事ににっこりと頷くと、扉の外に待機していた仲居に瓶ビールを二本注文して姿勢を正した。

「本当は今日はアルコールは止めておこうかと思ったんだが、父上の一周忌でもあるし、息子である君と一緒に雅史を偲ぶのもいいかなと思って、この席を用意させてもらったんだ。少しだけ私に付き合ってくれないかな?」

はぁ? 俺と一緒に父を偲ぶ?
父を裏切ったことへの謝罪はしないのか?

藤城の言葉に、自然と眉間に皺が入る。
てっきり謝罪をするのかと思っていたら、どうやら藤城は俺の前で父の親友を装うつもりらしい。おそらく俺が何も知らないと思っているのだろう。

「それと、ささやかではあるんだが、これは雅史の一周忌の香典とお線香でね。御仏前にお供えしていただけると有り難いんだが」

「恐れ入ります。ありがとうございます」

少し苛立ちを感じた俺は、形式的に頭を下げてお礼を述べた。すると扉の向こうから仲居の声がして、注文したビールが運ばれてきた。
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