忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第13話「依頼と魔法屋」

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 鉱山から鍛治屋に帰って来た少年達は、報酬の確認の為に規定の鉱石を机に並べた。

「久しぶりに見るのぅ。ほれ、武具を作ってやるから何か欲しいのかこの中から選んでくれ。」
 ガンケルは1枚の用紙を渡した。
 用紙にはこの様に書いてあった。

・刀 マグネタイト10
 銀貨20枚。
 帝国産のスタンダードな武器。切れ味抜群低価格。
 
・太刀 マグネタイト15
 銀貨50枚。
 刀身の長い反りが特徴の曲刀。背中で担ぐほど大きい。

・ロングソード マグネタイト20
 銀貨25枚。
 世界共通のスタンダードな武器。切るより叩き斬るほうが切れる。

・ショートソード マグネタイト5
 銀貨15枚。
 低燃費低価格でお届けできる刃物初心者向けの武器。

・防具総合 マグネタイト30
 各防具銀貨10枚。
 別々で頭防具(5)、胸防具(5)、腕防具左右(5)、足防具左右(5)。
 腕の良い鍛治師の作る一般的な防具達、初心者にはもってこいの一品。

 と、こんな具合で商品名とマグネタイトの数、金額と説明文が書いてあった。

「金額は気にするな。今日は選んだら帰ってくれ。できるまでに1週間以上はかかるからな。」
 マグネタイトを手作業で観察しているガンケルはそう言った。

「主人よ、主人は防具を依頼してはどうでしょう? 少し、心細いというか、胸と腕と足だけでも。」
 今の少年の防具は今は亡きアグルガスの私物を使っておりアグルガスが着けていた以上にボロボロになっており、ほとんど、防具として機能しないほどだった。

 コクリ、と少年はコルディスの提案を受けた。

「1人1つじゃぞ? 3つ作るならもっと依頼こなしてもらうことになるんじゃが?」
「その心配は無用。我ら3人我が主人のために使わせてもらおう。」
「嬢ちゃんは武器はいらないのかい?」
「私は刀剣より杖ですから。」
 エスティは自信満々に杖を見せびらかす。

「エルフにしては杖とは珍しいのぅ。」
「そうなの?」
「エルフは本来、人族を毛嫌いして死角から攻撃のできる弓を愛用すると聞いておるんじゃが、嬢ちゃんは人族に理解がある様じゃな。」
「えぇ、私は魔法使いで利用出来る物はして行くタイプだから。」
「エルフの魔法使いねぇ。なら、すぐ近くにある魔法屋を紹介してやる。」
 ガンケルはもう1枚紙を取り出し何か、書き始めた。

「魔法屋!? なにそれ!?」
 エスティの目の色が変わり、飛び跳ね大喜びした。

「魔法屋は魔法使いに有益な物資を販売する所じゃ。杖に魔導書、水晶なんかも売っておるぞ。ほれ、紹介状じゃ。」
 ガンケルはエスティに1枚の紹介状を渡した。

「それじゃ、防具3点で良いんじゃな?」
 ガンケルの問いに3人は笑顔で頷いた。
 天ノ鍛治屋を出た3人はガンケルから紹介してもらった魔法屋に行くことになった。

「えっと、この曲がり角を右に曲がった3軒目。お、ここだな。」
 紹介状に書かれた通りに道を進み魔法屋に着いた。
 看板には『箒星ノ魔法ホウキボシノマホウ』、と書かれてあった。

「きっと、可愛い品物に、綺麗なお姉さんの店なんだろうな!」
 少年とコルディスは店の前で待ち、エスティは期待を膨らませて魔法屋に入って行った。
 そして、その期待はことごとく打ち砕かれた。

「あぁ? なんなのさ、あんたら?」
 エスティ見るなり、鬼の形相で睨みつける女性が1人いた。

「ここは、一見さんお断りなんだよ! 紹介状とかがなけりゃ帰りな!」
 威圧、女性の放つオーラは凄まじかった。
 よほど新規の客が嫌いなのかわからないが、その顔が物語っていた。

「あ、あの、これ。」
 エスティは恐る恐る紹介状を女性に渡す。

「紹介状あるじゃないか。チッ、ガンケルからか。」
 女性の舌打ちに更に恐怖が重なった。

「まぁ、いい。私はカルネって言うんだい。エルフの嬢ちゃん。今日はなんの様だ?」
「私の杖を新調しようかと。」
「杖? あんたエルフだろ? 弓とかじゃないのかい?」
「えぇ、私は魔法使いなので!」
 カルネの問いに調子を戻す様に元気に答える。

「なるほど、じゃ今からテストするから待ってなさい。」
「は、はい!」
 カルネは店の奥に入って行き、何やらゴソゴソと物音を立てて数本の杖を持って来た。

「この中から1本選びな。1番高価な物を当てられたらこの店の客として正式に認めようじゃないか。」
 カルネはエスティを試す様にニヤけた。
 なぜならば、このテストを合格した物はここ数年いなかったからだ。
 そして、数本の杖どれもが輝いていた。

「ぜ、全部高そう。」
「持って見てもいいぞ?」
 エスティは1本持ち上げた。
 それは、ただの木を杖にした様な平凡な色の杖だった。

「すごい、この杖魔力が流れて生きてるみたい。」
「ほぅ。」
 そして、エスティは次の杖を持った。
 金に輝く杖を。

「高価そうだけど、さっきとは違う。私が持ってるのと同じ感じ。」
 エスティは次々に杖を持ち換え、最終的にエスティが選んだのは。

「私、これだと思う。」
 そう言って最初に持った平凡な杖だった。

「本当にそれでいいのかい?」
「えぇ、もちろんよ!」
 自信満々にエスティは答える。

「フッフハハッ、フハハハハッ!」
 カルネは腹を抱えて笑った。

「正解だ! 正解だよ! あんたは本物の魔法使いに、いや、魔導師になれるわ!」
「本当!? やったー!!」
 エスティは魔法屋のテストに合格し、見事に客としてカルネから認めてもらうことができた。

「その杖は数百年前に存在した世界樹ユグドラシルの原木を使った杖なのさ。」
「そんな一級品の品物がこの店に。」
「しかも、それが最後の一本よ。」
「本当!? 凄いわ。でも、この杖高いんじゃない?」
「一本で白金貨300枚ね。」
「白金貨300枚!?」
 銅貨、銀貨、金貨、と並ぶ上で金貨よりも更に高価のある白金貨。
 世界中で持ってる人は手で数えるほどしかいないと言われている。

「まぁ、テストだから買わないけど魅力的ね。」
 エスティは世界樹の杖ユグドラシルを元に戻した。

「何言ってんのよ。それは合格祝いであげるわ。」
「え? でも、お金。」
「出世払いでいいわよ。ツケてあげる。」
「本当!? ありがとう!!」
 エスティは世界樹の杖ユグドラシルを大事に抱えカルネに頭を下げ、『箒星ノ魔法』を出た。

「あの子、いつか強くなるわ絶対。」
 去り際のエスティの背中を見たカルネは後に語った。

 店の前で待っていた少年達と合流した彼女は満遍の笑みを浮かべていた。

「少女よ、何か嬉しい事でもあったのか?」
「別に。」
 ニヤけた顔でエスティ達は宿に帰ろうとした。
 その時だった。
 後ろから駆け足でこちらに向かってくる音が聞こえたのは。

「主人よ、何か来ます!」
「わかってる。」
 相手に悟られぬ様念話で話す。
 段々と足音が大きくなり、近づいている。
 そして、タッ、という足音と共に少しの間が空いた。

「成敗!!」
 上から刀を振り下ろす者が1人。
 少年はギリギリの所で受け流した。
 そして、そこには顔を黒い布で覆った青年が刀を構えて着地していた。

「お前ら! 人族ではないな!!」
 いきなり斬りかかったと思えば、突然の発言で少年達一同唖然とした。

「何を根拠に言ってんのよ!」
 青年の主張にエスティが返す。

「俺は見たんだ。あのグレートシュタイン鉱山でワイバーン2匹を瞬殺で仕留めた奴らだ。お前らは人間じゃねぇ。だからこの『疾風のイツキ』が始末する!」
 イツキは刀を少年に向け斬りかかる。

「【刀技】! 〈抜刀・風華滅裂ふうかめつれつ〉!!」
 イツキの技は鋭い風の斬撃を刀と共に乗せる技だった。

(【太刀技】〈曲刀・刹那〉)
 少年はイツキの技に技を加え跳ね返した。

「痛った! やはり、お前ら人間じゃないな!!」
 その瞬間、イツキの顔を覆っていた布がハラリ、と地面に落ちた。

「え!? お、女?」
 エスティが声を上げるほど、イツキの顔は女性と間違えるほど整っていた。
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