黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

執筆活動

確かに、授業中に何か一生懸命書いていることがあり、他の授業では教師に注意されている事もあると聞いたが、まさかこんなものを世に出していたとは驚いた。
いくつかに目を通すと、軽い文体で読みやすく、親近感も湧きなかなか面白く書けている。
これで中身が赤の他人の話ならもっと良かっただろう。

「あの…まぁ…はい、確かに思いつく生徒はいますが、このコラムが何か…?」
「本誌で大変人気が出ておりまして、今度我が書房で書き下ろしを数本足して書籍化したいと考えております。」
「本になるって?コレが?!中身俺で読者がいたと?」
「作者の文才もあるのでしょうが、とにかく食べ物の描写がリアルでなにより生徒とデイビッド殿…失礼、主人公とのやり取りが面白いと評判でして、しかし実話を謳う以上本人の許可なしと言うのは頂けない所でして、今後の掲載も含め何卒ご了承頂けないかと…」

編集長は汗を拭きながらデイビッドの出方を伺っている。

「名前伏せてんのにしっかり身バレしてるのか…」
「その…特徴も書き込まれておりますので…他におりませんでしょう?商会を営む傍ら教職業と外交までこなす令息など…」
「黒髪に褐色肌のデブって書いてある時点でバレバレか…」
「デブとは書いてないでしょう!?」
「“腹の出た”って文もあるし、そもそも豚モチーフのイラストが添えてありゃ一発でわかるだろ。」

文章をローラが書いているならイラストを描いたのはミランダだろうか。
よく特徴を捉えわかりやすく描いてある。
特に食べ物の絵は簡素だが食欲をそそり、見る者を引き付ける。それだけでも読者は多かっただろう。

「もぉぉ…ホントこういうの勘弁して欲しいんですよ!第三者が他人の話書くなら本人の了承と許可取ってからにしてって作者には何度もお願いしてるのに!いい大人まで登場人物に無許可で本出して後から揉めるケースが後を絶たなくてですねぇ…」
「今回のは学生相手なんで多目に見てやってくれよ。」
「では!よろしいのですか!?
「もう人目についたなら今更どうこう言っても遅いだろ。それに、よく書けてんじゃねぇの?人気が出るのもわかる。ゴシップに好き勝手書かれるのには慣れてたが、こういうのは初めてだな。俺は気にしないから、好きにやってくれってに伝えてくれよ。」
「ありがとうございます!そう言って頂けて本当に安心致しました!ではコチラに了承のサインと…あの…それと、出来ればでよろしいのですが…是非一筆お言葉添えを頂けるとありがたいのですが…」
「一筆?」
「読んだ感想でも、作者への激励でも、何でも構いません。ノンフィクションと言うのは本人のコメントが入ると、より一層信憑性と面白味が増すんです!」
「まぁ…なんか考えとく…」
「ぜひぜひよろしくお願いします!!」

そう言って編集長は手土産を置いてペコペコしながら帰って行った。


これ以上何か来ては困ると思い、デイビッドが学園へ戻ると、また門番に引き止められた。

「そこの馬!止まれ!」
「出て行った人間の顔くらい覚えとけよ。融通の利かねぇ奴め…」

出て行く時は無視するくせに、入る時だけ居丈高に止めにかかってくるこの若手の門番はデイビッドを目の敵にしている。

「怪しい物を持ち込んだりはしていないな!?」
「怪しいってなんだよ。手荷物検査でもするってのか?」
「危険な物が無いか我々には確認する義務がある!そこへ並べろ!」

門番が指差したのは地面で、本来ならあり得ない対応だ。
しかし、デイビッドは何も言わずに持っていた荷物と包みをそこへ並べた。

「これは何だ?」
「クッションだよ。まさか開けて中のワタまで出せなんて言うんじゃねぇよな!?」 
「おい、その手に持っている瓶はなんだ?」
「これは出先でもらった魔石だよ。まさかこれも地面に置けってのか?」
「魔石だと?貴様に魔力が無いことは周知の事、魔石など何に使う!?」
「随分な言いがかりだなぁ…」
「この箱は?肉の塊?ふざけてるのか?!」
「何がだよ。表の搬入の食材にもそうやって文句つけんのか?」
「ここは裏門だ!肉がどこに必要だと言うのだ!」
「使うとこはどこにでもあるだろうよ。」

今にも食材の箱を蹴り飛ばしそうな勢いの門番に、デイビッドがどうしようか考えていると、後ろから声がした。

「騎士科の野営訓練に、衛生兵の食料管理実践、炊き出しの仮想訓練等、こちら側にも食材の運搬は数え切れん程ある。ましてやこの先は領地経営科。加工や流通の試験にも使われる事もあるだろう。教員が教材を運ぶ事が、何故許可されないのか、理由を教えて頂きたい。」
「コールマン卿…」

そこには、全身フルプレートのコールマンが腕組みをして立っていた。

「こ、これはコールマン卿!お仕事お疲れ様です!」
「挨拶はいい。数時間前ここを通った馬車には声すら掛けず、何故学園の教員である彼にのみこのような対応を?」
「そんな!私は門番として学園の安全を考えて…」
「先程の馬車は軍備用の模造武器を大量に積んでいたが、そちらは見向きもしなかったな…クッションに食材に魔石が何故危険か、私にも分かるよう説明してもらいたい。」
「い…いいえ、必要な物と分かれば問題ありません。では私はこれで仕事に戻ります。」

そそくさと逃げるように門の詰め所へ飛び込んだ門番を、コールマンが苦々しい顔で追っていた。

「なんだあの門番は!最近若いのが入ったと聞いていたが、あれは酷い!しっかりと抗議しましょう!」
「うるさくなきゃ別にいいさ。それよりありがとう、来てくれて助かった。」
「デイビッド殿は謂れ無いことで絡まれる事が多いと聞きましたが、まさかここまでとは…何かあれば騎士科をお呼び下さい!直ぐに対処に向かいます!」
「そりゃ頼もしいねぇ…」
「あれだけ大量の高級卵を毎日食べさせて頂いていたのです!このくらいなんて事ありません!」
「部屋の管理に鳥の世話もしてもらったんだから、こっちとしちゃ当然だよ。デカいから食い切れないしな。今朝のもだいぶ余ってっから、良ければまた持ってってくれよ。」
「で…ではお言葉に甘えて…」

にこにこするコールマンに大砂鳥の卵を5~6個と先日仕込んだベーコンを渡すと、デイビッドは不機嫌なムスタを小屋へ戻し、荷物を部屋へ放り込んで竈門の火と鍋を見た。
既に消えそうな程細くなった炭火の上で、何度も油の吹きこぼれた跡の残る鍋の中、指先でつつくだけで崩れる程柔らかな肉が出来上がっていた。
(上手くいった!これなら何にでも合うだろうな…)
卵はどうだろうか?表面はかなり熱くなっているので、多少なり熱は入っているはずだ。

台所で卵を割ってみると、それはもう半熟のトロリとした仕上がりで、黄身の色が濃く大きい分、余計に美味しそうに見えた。
取り出すと崩れてしまうので、食べる直前までこのままにしておくことにして、サラダとトマトスープを作り、大きなバゲットを焼きながら、デイビッドは誰か来るのを待った。


その頃…特待生組のヴィオラは、相変わらず注目の的で、生徒からも妖精からも目を付けられ、常に姿勢を崩す事なく淑女として学生生活を送っていた。

「アリス様の苦労が少しわかりました…」
「あら、知らなくても良い余計な苦労ですよ?王族が見られ手本になるべく振る舞うなど当たり前ですし、幼少の頃からそう教えられて来たのですから。」
「大変ですね…アデラではむしろ庶民と変わらない対応が求められて、貴族の習慣は人前では捨てよと教えられるんですよ。」
「羨ましい…」

アリスティアはつい先日まで公務で城にいたが、ヴィオラが戻ったと聞いて直ぐに学園へ戻って来ていた。
ディアナはずっと学園に居て、出られる授業が無い時は残りのクラスメイトやテオやセルジオ達と自習をしながら過ごしていたそうだ。

「何度も聖霊教の集まりに来ないかと言われて少し疲れました。私は余所者なのでなんとか口実を付けて断っておりましたが、あの勢いでは断れない者も大勢いたでしょうね。」
「宗教活動は個人の自由ですが、勧誘となると学園の許可が必要です。勝手に行っているのであれば注意しませんと。」
「それが、生徒会長自ら声を掛けているそうで…」
「全く、このままでは女神信教の二の舞です!学び舎に何をしに来ているのだか。」
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