黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

世紀の発明

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音声も画像も乱れる事なく、まるで目の前で本人と話をしている様な気にさえなる。
更には魔力抵抗皆無のデイビッドにも扱える、本当に良くできた物だ。

【このまま商会の方へお渡ししてもいいかしら?】
「そりゃ助かる!会頭とすぐ話ができるのはありがたい!」 
【途中で気になって工房へお越しになってね、とてもそわそわしてらしたわ。】
「あれは商人の目って感じだったよね!親方に質問攻めして怒られてた!」
【細工の方はどう?アデラとキリフの民族模様は呼んでもらった専門家の方に指導を受けたから間違いないと思うけど、エルムには特別な意匠が無いから苦労したのよ。】
「無難だがこれでいい。実用品として贈るから特に何も言われないと思う。後はセルジオとテオに一度聞いてみよう。なんかいいヒントくれるかも知れねぇぞ?」
【わかったわ。それじゃ一旦切るから、数時間後再接続して不備がないか確認してくれる?】
「わかった。いやぁ、予想以上の出来で驚いた!これがあれば世界中どこにいても安心して旅ができる!ありがとうシェル!」
【アンタに言われると鳥肌が立つわ!!】

ブチンと乱暴に回線が切られると、魔道具はまたただの板に戻った。

「なるべく軽く、頑丈に!操作は簡単で尚且つ術式は模倣不可!や~苦労したのなんの!でも本当に良い物が出来たの!アタシ今最高の気分なんだからね!?」
「本当に良くやってくれたよ。こりゃコッチからもなんかしねぇとな…正確な報酬の割り出しは経理に任せるから、あとは無理言った分の手当も上乗せしとかねぇと…」
「そんなのいいよぉ~!元々ウチの借金だって見逃しちゃってるのに、これ以上甘えらんないって!」

ペンター家がボンド商会宛てに返せなかったエリザベスの支度金、金貨10枚は、結局デイビッドがグロッグマン商会がボンド商会に請求していた賭け取り金と帳尻を合わせて無効にしてしまった事で立ち消えた。

「あんなん契約金にもならねぇよ。特殊技術の資格持ちを専属の職人にするならその3倍出しても惜しくねぇ。」
「んもぉ~、またそうやって持ち上げてぇ~!だから頑張れちゃうんだよ!親方は優しいし、職人仲間もみんな気さくで親切だし、最高の仕事場だよ!」
「親方は偏屈で有名だし、職人は無愛想で口が悪いんで評判ガタガタのトコのはずなんだけどな…」

直向きで明るく、努力家でやる気に満ちたエリザベスが入ったおかげで、グロッグマン商会の魔道具工房にも変化が訪れている様だ。


「ところで…デイビッド様、お腹空きました…」
「そういやまだだったな!悪い、すぐ用意する!」

台所の肉の塊をチラチラ見ながら、ヴィオラは遂に我慢ができなくなったようだ。

茹でたジャガイモにスプーンでも崩れる程柔らかな肉を添えてサラダと一緒に出すと、ヴィオラはすかさずそれらをバゲットに挟み、リシュリュー風ソースをかけてサラダサンドにして大きな口を開けた。

「おお!いいねぇ、ヴィオラちゃんの食べっぷりってホントに見てて気持ちいいの!よ~しアタシも!」

2人が大きな口を開けてバゲットサンドを堪能していると、通信機の魔石が光り、ポロンポロンと音が鳴った。

「あ、通信来てる!デビィ、光ってる穴に魔石はめてみて。」
「こうか?」

石から手が離れると同時に画面いっぱいに映るシェルリアーナの顔。

【ちょっと!ここにいたら私お昼食べらんないじゃない!!】
「今更気づいたの?シェリーってばホント食いしん坊!後で何か持ってってあげるから、我慢しなよ~?」
【リズ!仕返しのつもり!?何美味しそうなもん食べてんのよ!!】
「ちょ~ホロホロお肉~!口の中でほどけてやわらか~いの!いいなぁ、シェリーはいつもこんなご馳走食べられて!」
「この肉は初挑戦だけどな。」
「大成功でしたね!」
「時間掛かるけどほったらかしでできるし、うまくいったな!」
【私にも食べさせなさいよ!!】
「あとでね~!」

エリザベスは通信をプチンと切ると、魔石を外してしまった。

「こうしとくと向こうがどんなに鳴らしても反応しないの。だから通信に使うなら必ず魔石を取り付けておく必要があるのよね。それも専用に術式を組んだものじゃなくちゃいけないから、この魔石は失くさないようにしないとなの。」
「…の割にはどっか転がっていきそうな…」
「一応下の引出しにしまえるようにしたんだけど、スペアもいるかな?となると、専用の保管箱も欲しいよね。直ぐに用意するよ!出来たら試作いくつか見繕って来るね!」

ペロリと大きなバゲットを食べ終わったリズは、バスケットにサンドイッチを詰めると、足取りも軽く工房へ帰って行った。

「仕事が早ぇな…」
「とっても活き活きしてました。お仕事がすごく楽しいんでしょうね。いいなぁリズ先輩…」
「ニャァン!」
「イヴもそう思う?」
「ニャァ~!」
「イヴはいいなぁ、なんにもしなくてもデイビッド様に可愛がられてて…」
「何しでかしても愛されるヴィオラ様には言われたくないと思いますが…?」
「ニャァァン」
「イヴが人間に戻らなかったら、デイビッド様がこのまま飼うのかしら…?」
「いや…たぶん引き取り手はいる…かな…?」
「そう言えばイヴはトイレとかってどうしてるの?どっかにしてるの?」
「一応妖精だからそういうのは必要ないんだと。」
「毛とかも抜けないし、飼うにはいいかも知れませんね。」
「仮にも元人間の先輩を飼う気でいると!?」
「既に呼び名付けてる時点で飼ってるつもりだったりしてな…ん……?呼び名…?!」
「「あっ!!」」

エリックとデイビッドは同時に振り返ったがもう遅い。
ヴィオラとイヴェットの周りの空間が淡く光り、2人の間には既に“契約”が成立してしまっていた。

「嘘だろ…いくら妖精ったって元は人間だぞ!?」
「今は完全にケット・シーに精神を持ってかれてるんでしょう…迂闊だったなぁ…」
「早いとこ家の方黙らせねぇとバレたら厄介だ…」
「なんかいい作戦でもあるんですか?」
「まぁな。って事で、お前、少し働いて来い!」
「僕が!?」 
「なんで?とか抜かすなよ!?居候の猫の方がまだマシなくらいなんもしてねぇんだからよ!!」
「心外な!ちゃんと働いてましたよ!?」
「じゃぁこの半月お前が何してたか言ってみろよ!」
「味見…」
「キリキリ働け!!」

その日の夕方、デイビッドはアリーの持って来た枝を細工し、枝の先に宝飾用の台座をねじ込むと、そこへジーナからもらった真珠を取り付けた。
台座の周りには、レヴィアタンの鱗が揺れてキラキラと輝き、一気に神々しい杖が出来上がる。

「新たな国宝でも生み出すつもりですか?」
「エリック!お前、これ持ってイヴェットの家行って一芝居打って来い。」
「一芝居…?」
「要は娘が見合いなんざしてる場合じゃねぇと思わせりゃいいんだ。精霊に仕える事になったとか適当な事言って諦めさせろ!」
「またむちゃくちゃな事を…」
「ところがそうでもねぇんだよ。」

デイビッドも今回は何の下調べもなく無茶を言い出したわけではない。
フルーラ伯爵家は、代々郊外の端にある聖域の管理者として妖精の恩恵を受けている。
契約した妖精や新たに迎えた精霊に、居心地の良い領域を提供し、機嫌を取る事で祝福を授かって来た訳だ。
その中で、妖精や精霊に気に入られた者達は家から離れ、妖精の導きに従い、俗世から切り離され妖精と同じ生活を送る事で、人でありながら妖精に近しい存在となって戻って来る事があると言う。
余程気に入られた者はそこで妖精と結ばれ、新たな妖精との繋がりを得て帰って来るのだとか…

簡単に言うと聖域に放り出されて、妖精のご機嫌取りをしてくる役目を担わされるのだ、
機嫌を損ねて四肢をバラバラにされたり、人の形をした何かにされて突き返される場合もあるので、そこは賭けらしい。

「メリュイジーヌは水霊の仲間だ。扱い難さはオンディーヌに次ぐらしい。」
「これ見て黙るかなぁ…」
「力のある妖精が相手なら話も聞くんだろ?ルーチェが手伝ってくれるそうだから、一緒に連れてけよ。」
「人の寿命縮めないで下さいよ!!」
「んな大袈裟な…」
「冗談抜きで!!」

そこでエリックは妖精の契約についてデイビッドに説明を始めた。
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