黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

飛んで火に入る

結局2色のソースを半々で食べたヴィオラが授業に行くと、デイビッドは温室へ荷物を抱えて向かって行った。
例の門番に地面に置かされたので心配だったが、紙の包みを剝がし、中が汚れていないことを確認すると温室のドアを行儀悪く足で開ける。

「デイビッド ソレナァニ?」
「アリー、約束のもん持ってきたぞ!?」
「ワァー! フカフカダ!フカフカ!イッパイフカフカ!!」

色とりどりのクッションにアリーが感動していると、リディアがお茶を持って現れた。

「先日は大変お世話になりました 本日はベルダが留守なので何かあればワタシに… 」
「めちゃくちゃ喋ってる!?」
「皆さんに内緒で こっそり外に出ましたの 人の話をたくさん聞くと 早く言葉も上達すると聞いて 」
「並の努力じゃこうはならねぇよ!すげぇな…目的があると魔物だろうと人間だろうと頑張るんだな…」
「まだまだ難しいです 自分の気持ちをどう言葉にして伝えたらよいかそれが悩みで… 」
「それは全人類の尽きない悩みだから自己流でいいと思う…」

アリーは早速自分の巣にクッションを敷き詰め、その上に寝そべった。

「フカフカ キモチイイ…」
「気に入ってくれて良かった。」
「ニンゲンハ イイナ ステキナモノ タクサンモッテル」
「俺達からしてみればアリーの方が羨ましいこともあるさ。みんな無い物ねだりなんだよ。」
「デモ コノフカフカハ アリーノ!」
「ああ、そうだよ。乱暴にするとすぐ破けるからな?棘やささくれには気をつけろよ?」 
「ワカッタ!」


のんびりとした午後。
久しぶりに人に多く会ったのでひと休みしていると、外からエリックの声がした。

「デイビッド様ぁぁーー!!」
「ん?」
「デイビッド様!大変です!!」
「どしたぁ!?」
「旦那様が…旦那様が学園に来ています!!」
「なんだとっ!?」

自由気ままな流れ雲、神出鬼没のジェイムズがまさか学園を訪れるとは!
この絶好の機会を逃したら、次またいつ会えるかもわからない厄介者が目と鼻の先に現れたとあっては、何を置いても動かないわけにはいかない。

「よし、とっ捕まえるぞ!!」
「既に学園長にお願いして拘束だけさせてもらってます!」
「でかした!すぐ首根っこ押さえて商会の方に連れてく!」
「馬車の用意してきます!」
「頼んだ!」

大急ぎで学園長室へ向かい部屋へ入ると、椅子に束縛魔法で縛り付けられたジェイムスの姿があった。

「おお、デイビッドじゃないか!久しいなぁ、しばらく見ない内にまた一段と険しい顔する様になって…なぁ、所でエリックが出会い頭にいきなり魔法を放って来たんだ。酷いと思わないか?」

「学園長、大変ご迷惑おかけしました。」
「いやなんの!しかし落ち着きの無さは変わらんなぁ。要件が済んだら速攻で帰ろうとするとは…ギリギリでエリック先生が間に合いましたな。」
「ご面倒を…しかしここにはなんの用があったんでしょう?」
「ワシの契約しているオンディーヌを貸して欲しいとかなんとか…精霊が嫌がったので断ると直ぐに興味を失って出て行こうとしましてな。相変わらず自己中心的な男だ。他者の心が理解できない内は何をするにしても三流と、何度教えたことか…」
「天才にはそれが許されるそうですから、人の気持ちなど考える必要などないのでしょう…」
「その様な理不尽が罷り通る世の中ではないでしょう。人に寄り添えなければ何事も上手くは行きません。」

「だから私は苦手な分野は人を雇って回しているんだよ!やる事が山積みで自分の時間すら足りないのに!上は私が回しているんだからいいだろう?最初の歯車の動力なんて小さくていいんだよ!」

天才発明家にして類稀なる商才の持ち主であり、貴族としても一目置かれた社交界のカリスマ的存在だったジェイムズは、デュロック領でも屈指の成功者だ。
その代わり人を振り回すことこの上ない厄介者でもあり、巻き込まれた者達は皆一様に苦労をさせられる。
しかし報酬も良いことからあまり表立って悪い噂が立たず、そのせいで自分は万人に受け入れられて居ると本人が勘違いしたまま人生の約半分を過ごしてしまった、まるで大きな子供の様な人物だ。

「しかし、オンディーヌになんの用だったんでしょうね。」
「何でも自領の泉を聖域にして欲しいとか何とか…」
「なんだそりゃ!?思い切り流行りに乗ろうとしてんじゃねぇかよ。孤高の領は国の影響なんて受けねぇんじゃなかったのか!?」

「カトレアさんと過ごす屋敷の泉に妖精が来たら楽しいねって言われたんだよ!たまたまこっちに用があったからアルフ先生に聞きに来たらこれだもの!そうだお前、エリックにどんな教育してるんだ?出会い頭に「うわ、出た!」って言われてこっちが驚いた。あんなに作法と所作の完璧だったエリックがこの1年ちょいであんなに変わるなんて…いきなり縛り上げられてため息つかれるなんて思わなかったぞ!」

「学園長先生、本当にお騒がせ致しました。コレはコチラで引き取ります。」
「うむ。迷惑かけられた分、しっかりと搾り取ってやりなさい。」
「では、失礼します。」

台車に椅子ごと父親を乗せると、ガタガタ揺れるのもお構い無しに廊下を進み、エリックの待つ馬車停めまで運んだ。

「アバババ!舌を噛む!そんな乱暴な!」
「じゃ黙ってろ!!」

デイビッドは容赦無く実父を縛ったままに横倒しで放り込み、急いで商会へ向かった。

「痛っ!いったぁ!なんて扱いだ!こんな酷い扱いは今まで受けたことが無い!しかも荷馬車なんて!痛い痛い!床が硬くて骨が軋む!」

「猿轡でもさせとけばよかったですかね?」
「騒ぐだけなら構いやしねぇよ。抵抗したら2~3発殴って言う事聞かせるからいい。」

「こわっ!実の息子が父親にかけていい台詞じゃないだろう!?相変わらず口の悪さは治らない奴め。困ったものだ。エリックも悪い影響を受けたものだな…」

商会に着くと、また椅子ごと引きずり降ろされ、今度は担ぎ上げられて狭い部屋へ連れて行かれるジェイムズ。
ようやく拘束が解かれたと思ったら、今度はドアに格子が掛けられ、目の前に書類の山とペンとインク、そして機嫌の悪い顔をした息子と呆れ顔のロドム会頭、ドアの前にはエリックが立ち塞がり、ジェイムズを見下ろしていた。

「これは…?」
「この1年でテメーが人に押しつけまくった挙句、何の音沙汰もないまま宙ぶらりんにしやがった承認待ち案件と提出用書類と決済の許可と各事業の同意書だ!散々逃げ回りやがって!こっちはどんだけ苦労させられた事か!コレ全部、何がなんでも今日中に終わらせろ!!」
「そんな!!」
「こう申してはなんですが会長殿、商人としてこれはあまりにも無責任極まる悪質な対応ですぞ?デイビッド殿がいらっしゃらなければ、どこからも早々に手を引かれていたでしょう案件ばかり…少々放任が過ぎましたなぁ。こればかりは庇え切れません。」
「ロドム…だったらこれから少しずつやるから、今日の所は急ぎの物だけ…」
「こちら全て、早急に当主印と商会長の承認が必要な書類でございます。」
「こ…こんなに…?」
「遊び歩いてたツケだ!城にいた頃は定期的に部屋に行けば良かったものの、いきなり根無し草になりやがって!手紙一枚まともに届きやしねぇ!」

そこからデイビッドとエリックは、ジェイムズにびっちり張り付き、書類が出来上がる先から各方面へ渡していった。

「なぁ、ひと休みくらい…」
「後にしろ!休みなく働かされる下の人間の気持ちが少しは分かったか?!」
「そんな…息抜きも無しに人間がまともに働けると思っているのか?」
「親父が勝手に放り出した仕事を押し付けられた奴は、みんな寝る間も惜しんで成果を出してた。明確な指示も計画内容も曖昧なまま碌な引き継ぎもなく事業を押し付けられて、ただ親父を信じて我武者羅に働いて体を壊した奴もいる。その責任、ここで取ってもらうぞクソ親父!!」

こうしてジェイムズは、約1年半の間に溜め込んだ書類の山を片付けるのに専念させられ、見張りについたデイビッドの代わりにエリックが外へ出て差し入れなどを用意していた。
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